表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使とすごした10月4日  作者: 直木 新
13/28

13話

 お昼ごろ、部屋のノックが2回鳴った。

「どうぞ」

 僕はそう促した。


 病室に、ぞろぞろと五人の大人たちが入ってきた。


 お医者の先生と、看護師の長居さんと、もうひとり男の看護師さん。その後ろに、大人の男の人と、女の人。


 後ろの二人に、見覚えはなかった。

 ただ、状況から言えば、この人達が僕のお父さんとお母さんだ、おそらくは。

 どうやら、顔を合わせない期間が長かったので、僕は彼らの顔を忘れてしまっているようだ。


「久しぶり、お母さん、お父さん」

 僕は笑顔で、言った。


「有希くん、がんばってるね、えらいね」

 お母さんと思われる人もまた、笑顔でそう言った。


 お父さんと、お母さんがベッドの横にしゃがみこみ、先生が二人の横に立っている。看護師さんたちは後ろでその様子を見ている。


 しばらくの間沈黙が続いたが、まず、お父さんが口を開いた。


「病気を治す方法がないか、いろんなところを探して回ったんだ」

 お父さんは続けた。

「結果は……誰もわからなかった。どんな偉いお医者様も、大学の先生も。僕たちは、死力を尽くしている。……だけど、結果が出ないんじゃ意味がない」


 お父さんは、とても悔しそうだ。

 お母さんは、とても悲しそうだ。


「そうなんだ」

 僕は言った。他になんて言えばいいのか、よくわからなかった。しょうがないよとなぐさめるのもおかしいし、もっと頑張ってとも言えない。


 僕は、その次に誰かが話すのを待った。


「僕は、無力だ。ほんとうに」

 お医者さんは、小さな声でそう言った。独り言のようだったけど、病室が静かになっていたので声が響いた。


 取り繕うように、お医者さんは続けた。

「今日、これから今後のことを、お父さんとお母さんと相談することにしたんだ。この前の、手術の経過と結果を話して」

 お医者さんさらに続けて言った。


「そして、もしかしたら……本当にもしかしたらなんだけど、君を治す方法が、あるのかもしれない」

 言葉の内容とは違う、それは今までの先生から聞いたことのない、弱気な声だった。

「それを今日、有希君のお父さんとお母さんに、話すつもりなんだ」


「そして、最終的に、君に決めてもらう」

 一呼吸置いて、先生は言った。

「手術を受けるか、受けないかを」


 その後、大人たちの間で話が続いた後、やがて先生と男の看護師さんが退室した。


 そして、看護師の長居さんと、お母さんと、お父さんが部屋に残った。

 まず、お父さんが僕に話しかけた。


「樹里ちゃんのことが、わかったんだって?」

「うん」


「海外で、そのことを聞いたよ。驚いたし、嬉しかった」

「……ずっと一緒にいるのに、さみしそうなふたりを見ているのは、本当につらかったから」

お母さんが言った。

「そう」

 僕は言った。

「でも、また見えなくなった」

 そして、僕はそう続けた。


「ううん、樹里がいるってわかってくれて、よかったよ。本当によかった」

 お母さんは僕と、その後誰もいないところを見て、そう言った。


 その後は、とりとめのない話がつづいた。

 僕はずっと二人の話を聞いていた。僕からは、何を話していいか、わからなかった。


「二人共、つかれているでしょ? せめて今日はゆっくり休んでよ」

 頃合いをみて、僕はそう言った。

「ああ、ありがとう。そうだね。有希くんも疲れただろうし、また明日、ゆっくり話そう」

 彼らは部屋から出ていった。


 正直に言うならば、この人達と一緒にいるのは気まずいし、どんなことを話したらいいかわからないので、悪いとは思うけど出来ればこのまま、また海外に行ってしまってほしかった。


 ただ、僕は、そばに居てほしかった。

 できれば、ずっと家族が、そばに居てほしかった。


 その言葉を、口には出さず呑み込んだ。そんなこと、彼らに言うことなど出来ない。


 お父さんとお母さんは僕のために頑張っている。そしてずっと樹里がそばについていたんじゃないか。


 気づかなかった僕が全面的に悪い。


 でも、長い期間をかけて広がってしまった、この心の隙間を、埋めるあわせることは、まだ出来ていない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ