12話
正直に言えば、体は苦しい。
日によって手足の感覚があったり、無かったりする。
一日中耳鳴りが聞こえる日がある。
酷い日には起き上がることが出来ずに、ずっと臥せっている。
寝返りを打つことすらしんどい日があった。さすがにもうだめかな、と思った。
でも、楽しかった。
夜になれば、次の日が来ることを、待ち望んだ。
次の日には何を話せるんだろう。
次の日には何を知れるんだろう。
あんなに好きだった本は、天板が無い本棚でうっすらホコリを被っていた。
もう本を読む時間が、全部惜しい。
物語の主人公は、本の中じゃなかった。
僕の人生の主人公は、僕だった。
「有希くん、明日、ご両親が面会に来てくださるって」
それは、唐突だった。
長居さんから、海外にいる両親から手紙が届いたという話を伝えられた明日面会をしたという内容。今日帰国して、明日僕のところへやってくるのだ。
そこに僕の意思をはさむことは出来ない。
僕には、お母さんとお父さんと、今話をしたいという気持ちがまったく湧いてこなかった。
両親が嫌いなわけではない。
ただ、長い間顔を合わせなさすぎて、長い間、会話をしてなくて、いままでずっと、気持ちを通じ合わせたことがなくて、
明日ここに来て僕と会うという話に、なんの感慨もないんだ。
それでも、お世話になっている。
僕には、今までの多大な治療費がかかっているん。
樹里もそうだと思うが、実際どれだけ重いのか樹里は話したがらなのでわからないんだ。
両親には、感謝しなくちゃいけないって、頭ではわかってる。
でも、どうしても湧いてくれない、ありがとうって気持ちが。
一体僕はどうしたらいいんだろうか。
両親を悲しませたくはないから、上手に、来てくれて嬉しいって、演じなくちゃいけないのだろう。
そのことを想像しても、なぜか心が痛む。
親に、本音で接することが出来ないことに。
ほんとうに、どうすればいいんだろう。
よくわからなくなったから、明日用事ができて来れなくなったらいいな、とか思った。
「お父さんも、すっごい久しぶりだね!楽しみだね」
ここに長居さんがいるから、頼まなくても当然のごとく樹里の通訳をしてくれる。
樹里は嬉しそうだ。それを見ると、僕も嬉しくなる。
それだけで僕の両親は、樹里にとってやっぱり価値があるのだと、認められるようになった。
両親が海外に言ってるのは、各地で寄付と支援を募るためだ。そして大学で僕の病気について講演を行っているからだ。
そしてそのお金の大半が、僕の治療費になっている。
僕がみんなの負担になってると思うと、心が苦しくなる。がんばって元気ならなくちゃって思うけど、思ったとおりにいかないから腹も立ってくる。
。
現実では、少しずつ、少しずつ僕の病は重くなってきた。
僕は足手まといのお荷物だ。僕が居なければ、僕の周りの人はもう少しずつ幸せになれた。
そのこと頭をめぐると、僕は感情的になる。悔しさと冷や汗と、怒りと悲しみとで。
だから、両親のことなんか何も考えたくなかった。
何も知りたくなかった。