11話
今日は長居さんが、たくさん時間をとってくれた。
ひさしぶりに沢山樹里と会話が出来そうで、わくわくしている。
「仕事はほとんど片付けてきたから、今日は好きなだけ話せるよ。夕飯の時までだけどね」
「ありがとうございます。いっぱい、はなします」
いつもは樹里の好きなことばかり聞いていたけど、今日は嫌いなものを中心に聞いてみた。
樹里から出てきたのは、生き物のことばっかりだった。
ネズミは、テレビで見る分には好き。実際に出会ったら逃げる。カエルはかわいいけど、カタツムリは怖い。
ムカデを見ると鳥肌が立つ。ゴキブリなんかは、想像したくない。
鳥が好き、爬虫類が苦手。ワニは怖すぎる。
魚が好き。見るのも食べるのも。
パンダもコアラも好き。ダチョウは鳥だけど微妙。
好きな食べものは寿司。 好きなネタは、うに、あなご、えんがわ。
嫌いな食べ物は、ナス。スカスカしてて食べてるのかどうか良くわからない。
洋食にパセリがついてきたら、つい食べてしまう。 それらを一方的に教えてくれたけど、それもまた楽しかった
「あと……、樹里に聞きたいことがあるんだけど」
嫌いなものの話が一段落したところで、僕は口をはさんだ。
「昨日、僕が言ったこと、聞いてた?」
ちょっと、結構、かなり恥ずかしいけど、確認のため聞いてみた。
「聞いてないよ」
長居さんの口を借りて、樹里は言った。
その言葉をきいて、正直ホッとした。自分の気持ちを好きな人に全部伝えるって、よくわからないけど、とても恥ずかしい。
この気持ちは、やっぱりこのまま隠してしまおう。
「聞いてるけどね」
長居さんの口からもう一言、別の答えが出た。
一体どっちなんだろう。
「さっきのからは、長居さんの台詞になるからね」
長居さんは言った。
「だって樹里ちゃん、めちゃくちゃ挙動不審になってるし、顔がみるみる赤くなってるよ。一体何を言ったの?」
「すみません。あまり言いたくないです」
「まあ聞かずともだいたい想像はつくし、当たってると思うけど」
「わかるんですか?すごい」
「うん。私も聞きたかったなぁ。それともまたここで言っちゃう?」
長居さんは、ニヤニヤしている隠そうともせず、僕をからかう。流石に無理だ。人が居るところであの台詞を言うなんて、想像しただけで冷や汗が出る。
「ちなみに、今樹里ちゃん、顔を手で覆って臥せっちゃったからね。ああ、こりゃ、予想よりもすごいこと言ってるな」
やっぱりあの言葉は、樹里が聞いても恥ずかしいものだったんだなぁ。
今度から、不用意につぶやかないように気をつけよう。
でも僕の気持ちを全部知ってもらったとおもったら、なんか心がスッキリした。
「まあ、間違いが起こるはずなんかないし、私は別にいいんだけど」
長居さんの言う、間違いってなんだろう。やっぱりに恋には正解とか間違いとかあるのだろうか。