通学2
第一章.VRMMORPGのテスターに選ばれたって? 003.通学2
あの後会話はピタリと止まり、二人の間には沈黙が流れていた。
車内には今日のニュースがVRで流れていて、おは朝の星座占いがやっていた。
俺はボーっとそれを眺める。
『…………さ-、そして今日最も悪い運勢なのはごめんなさーい。蠍座の貴方。些細なことで感情的になって大失敗!心に余裕をもって周囲の声に耳を傾けましょう。
でも、大丈夫!そんな蠍座のツキを回復させるラッキーアイテムは…………。』
沈黙のせいか、ボーっとしているせいか、やけに大きく聞こえる。
でも、気まずいとか言う訳じゃ無い。
むしろ心地いい。
二人でいる時は大抵こんな感じだ。
そして、そんな時によく表れる奴もいる。
駅を三つほど通過し、四駅目。『阿久津駅』
見知った男が乗ってきた。
一言で言えばイケメンだ。
金色の髪に、水色の瞳。制服は着崩し、右耳には三つのピアスを付けている。イヤホンを左耳に嵌め、ベルトからは銀色のチェーン。
見た目完全にチャラ男である。
「チース。 真、それに橘さん」
良く通る声だ。
もともとそう言う声質と言うのもあるが、周りが静かだったことが一番の理由だろう。
こいつが入ってきた瞬間、車内が静まり返ったのだ。
あちこちから息を呑む音が聞こえてきた。
女学生らしき集団からは黄色い声。
「やっば、メッチャイケメンじゃね?」
「写メトロ写メ」
「あ~、ナンパされたーい」
などなど、男なら一度は言われたい言葉のオンパレードだ。羨ましス。
チャラい恰好のせいで社会人の一部には眉を寄せる者もいるが、大半は驚きの目だ。
俺はそんな見た目別次元の男に挨拶を返した。
「おはよ、西園寺」
橘は可憐に無視。
「…………。」
まぁ、いつもの事だ。
西園寺は(橘と反対側の)俺の横に来た。
女子から非難の声が上がる。
「何であいつ?」
「釣り合ってない」
「目が腐る」
「デブス×イケメン…………。いいかも…………。」
最後のやつは聞かなかったことにしよう。うん、それがいい。
俺は記憶を抹消し、西園寺を見た。
いつも通りだ。
「また徹夜か?」
別に隈がある訳ではない。
髪がボサボサナわけでもない。(毛先あたりがくせ毛ではあるが)
昨日の制服を着てる訳でもない。
ガムを噛んでいた。ミント味のきつい奴だ。
右手には『モンスターエナジー』と描かれたキンキンのジュースを持参。
軽快な音楽がイヤホンから聞こえる。
「いやー、ついついハマチャっちゃってさー。まいったわー。ああ、昨日話した《ドキバキメモリアル💛フル》な」
「聞いてねえよ」
こいつ、…………白昼堂々何て危ない言葉ならべてんだ!後ろにいたOLが耳でもぶっ壊れたような顔してるぞ
これだからオープン変態は困る。
ちなみに《ドキバキメモリアル💛フル》とは、どこにでもいる普通の主人公がドSな女生徒たちに調教されるという、新時代のVRMMOだ。
エロゲーのVR化はちょっと前まで条例で禁止されていた。
それが変わったのは、記憶に新しいエロゲー裁判。
再審に次ぐ再審で、とうとう裁判官の心を折り、批判悲鳴の上がる中、エロゲー法案が採択されたのだ(俗名です)
《ドキバキメモリアル💛フル》は、その裁判で勝訴を勝ち取った、《ランブルス》と言うゲームメーカの代表作。その上、史上初めてエロゲーのVR作品として広く世間を騒がせ、一般市民でもその名を知るに至ったのだ。
そんな状況下でのあの発言である。
心臓が止まるかと思った。
体中から嫌な汗が流れる。
「あぁー、周りからの視線がいたい―」
「それがたまらねーんだよな?」
「ホント・お前・黙れ・今・すぐに」
気づいた人間もいるかもしれないが、こいつはドMだ。
それも人に迷惑をかけるタイプの…………てか、俺に迷惑をかけるタイプの。
見ろ!このいたたまれない周りの空気。
「ひそひそひそ」
「いやねー、ああゆうのが事件とか起こすのよ」
「怖いわー」
「ひそひそひそ」
「あいつ等、オープンすぎんだろ」
完全に共犯扱いだ。
勘弁してくれ。
俺は溜息を吐きながらも、この状況に慣れてきた自分に恐怖を感じるのだった。