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プロローグ2

帝王大学 第三講義室 


休み時間


俺がさりげなく寝たふりをしていると、彼女がやってきた。


「真君」


それはとても透明度が高く、涼やかで、凡人すら光の共感を幻視せるようなうような声。

その声は大して大きくは無かったが、ざわついた講義室の中に不思議なほどよく響き、一瞬で教室が静まり返った。




(やっぱ来たか…………。)




何となく予感はしていた。来るんじゃないかと?

でも、やっぱ来るわけないよなーと楽観していた。

来なければいいなー、と期待していた。


勿論かわいい子に声を掛けられるのは嬉しいし、今も内心ドキドキだが、それは俺の平穏な学園生活をアクセル全開でぶち壊している。


周りからは嫉妬、怒り、好気、殺意と言った感情が容赦なく俺に突き付けられている。夜道を歩いていたら後ろからぶすりと刺されそうだ。


だれだ?などと考えることは無かった。だって、俺の事を下の名前で呼ぶ女子何てこの学園には二人しかいない。



橘か、優先輩だ。



(この声は優先輩だよなー…………。橘なら、どれだけ楽だったか…………。)


青島 優。

我が帝王大学が誇る三大美女の一人。

モデル顔負けの美顔に、学年トップの頭脳、優れた運動神経を持つ。さらにそのスペックを鼻に掛けない穏やかな性格で、老若男女、性別学年問わず皆から好かれている天上人だ。

勿論そんな完璧美人だ。告白する人間は後を絶たない。でも、彼女はその全てを一刀でねじ伏せ、未だ彼氏の一人も作らないという身も心も潔白な天使なのだ。



さて、もう一度今の状況を鑑みてみよう。



そんな人気の天子様が、なぜか下学年の教室に来て、そしてさらになぜか目立たない男児に声をかけている。



異常だ。



あり得ない事態だ。




そしてさらにあり得ないのが、その男児が俺だと言うことだ。





「真くん? もしかして寝てる。」



一向に目覚めない俺に優先輩も痺れを切らしてきたのだろう。

普通の人間では気づかないような僅かな苛立ちを俺は感じ取った。


(でも、ここで起きたら狸寝入りした意味が…………。)


俺は当初通り寝ていて気づきませんでした!作戦を続行することを決断。

さもぐっすり寝てますようと言ったオーラを出しておく。


しかし完璧超人に凡人の策など通じるはずが無かった。


優先輩は誰にも聞こえないように溜息を吐くと、髪をすっと耳に掛け、俺の耳元で囁いた。


「これ以上寝たふりを続けると大変なことになるよ」


(大変な事ってなんだよ!)

と思うが、演技を貫く。


「そうね、その…………とても、ひどい事よ。例えば、―――――」


言葉に絶妙なトーンを付け、恐怖をあおる優先輩。まさに職人技だ。

しかし、残念かな。今の俺は並大抵の事では屈しない。気分は正に修行僧のそれだ。



「―――――今ここで私が”真君の事が大好きです!”と公表するとか?」


(死ぬわ!)


俺の覚悟は一瞬で崩れ去り、しぶしぶと白旗を上げるしかない。


「で、何の用ですか?」


俺はさも今起きました感を出して、のそのそと起き上がった。

彼女は満面の笑みを浮かべ、


「うん、昨日と同じ用事があるからちょっと私についてきて。授業はすっぽかして大丈夫だから」







第零章 000.プライドと過ち


「は、放しなさい、貴方達!」


 自身を取り囲む男達に向かって、怒り心頭にその女性は言った。


 恐ろしく魅惑的な女性だ。

 夕日に燃える桃色の髪に、うっすらと涙の浮かんだ同色の瞳。豊満な胸は赤い学生服で覆い、男の理想を詰め込んだような姿をしている。


「つれねぇこと言うなよ! ちょっとカラオケ付き合ってくれって言ってるだけだろ?」

「そうそ、こいつお前に振られて傷心なんだよ! そんくらいのサービスしてくれてもイイだろ」


 その女性の周りを取り囲むのは、いかにもガラの悪そうな五人組だ。

 へらへらと軽薄な笑みを浮かべ女性の左手と右手を五分刈りの二人が抑え、前方に三人が陣取っている。

 右から順に茶髪、金髪、赤髪と、サーカスのようなド派手な髪色。


 どうやら男たちの話を聞く限り、振られた腹いせに絡んでいるようだ。

 六人がいるのは人の気配が全くしない広場の中央。監視カメラや警備ロボットもいない。

 この時代、東京には、ほぼ全域に警備ロボットが徘徊してるという事実を鑑みれば、ここはまさに現代のダークスポット言ったところか。


「―――やれやれ、参ったよ。 すげー、めんどくさいい場面に出くわしてしまった」


 その広場の向こう側から、こっそりと事態を見ていた男は溜息を吐いた。



 短い漆黒の髪を汗で濡らし、パソコンをいじるキモデブなお兄さんだ。

 髪と同じ黒い瞳に、女性と同じ(とは思えないけど)赤い制服。大柄な体を隠す様に縮こまらせ、しかし高速にパソコンを動かす。

 こんな状況で何してんだ?二チャンネルにでも呟いてるのか?と思うことだろうが、そんなクズではない。

 しかし、理由はどうあれ、彼のやってるうちに事態は進行していた。


「放しなさいって言ってるのよ!」


 あの女性が右手を振り払い、パァン!!と中央の男の頬を叩いたのだ。


「いい加減にしなさい! 警察呼ぶわよ!」

「あぁ?――――――」


 明らかに逆効果だった。

 叩かれた男は一瞬何が起こったのか分からない、という風に目を瞬かせ、次いで顔を真っ赤に染め上げる。

 先程までのにやついた笑みはそこにはない。

 額に青筋を立て、金髪をかき上げ、


「痛って!! ―――――優しく言ってりゃ、調子に乗りやがって!」


 周りの男達も不穏な空気を出し始め、


「もうこれカラオケくらいじゃ済まさないよ。 責任取ってもらわないとさあ」

「そうそう例えばその体とかでさ」

「大丈夫、大丈夫。 俺らこう見えても紳士だから。泣くまではやらねえよ」


 一転。下心満載の下衆な笑みを浮かべる五人。

 捕食者のように目を鋭くし、嫌がる女性の腕を再び握り、持ち上げる。

 そこには先程までの手心など微塵もない。

 ただ本能のままに…………

 骨のきしむ音が聞こえそうである。


「ゃ、ぁ。」


 あまりの痛さに顔をしかめ、小さく、息を切るように悲鳴を吐露した時。


『こちら公安科、警備ロボットです。 こちら公安科、警備ロボットです。』


 聞きなれた機械音声が広場に響いた。

 男たちは驚いて後ろを振り向く。そして、さっと顔を青ざめた。


「ど、どうしてこんなところに!」


 彼らの瞳に映るのは、CMなどで御馴染み日本警察のシンボル、ポリス君。

 50年ほど前、取り入れられて、急速に普及した警備ロボットだ。

 役割はそこらにいる警察と同じ。

 巡回と補導


「くっそ、やべーぞ! ずらかんぞ!」

「っち、憶えとけよ、くそアマ!」

「せいぜい夜道には気よ付けんだな!」


 中心三人が思い思いの捨て台詞を吐き、しかし、脱兎のごとく逃げ出した。





 勿論これは偶然などではない。

 原因があり、当然の帰結として起こった必然だ。

 勘の良い人はもう気付いてる人も多いだろう?

 この原因は、

 と言うより。彼がやった事は、

 はたしてハッキングだった。


 まず、近場の防犯カメラを乗っ取り、最も近い警備ロボを探索・発見。その後、そのまま警備システムに侵入し、その警備ロボを乗っ取り、ここまで運んできたのだ。


 しかし、口で言うほど簡単なことではない。

 並のハッカーならば、その強固なセキュリティーに阻まれ、警備ロボを特定することすら出来ないだろう。

 いかんば可能だとして、物の数十秒でこの全ての仕事を終えるなど出来ようはずが無い。


 つまりそれは男の天才的なハッキング技術の証明に他ならなかった。


「ミッションコンプリート! ま、俺に掛かればこんなもん朝飯前だけどな」


 鼻息荒く、得意げに頬を吊り上げる。

 そこには隠し切れない達成感が見え隠れする。

 まるで難ゲーをクリアした時のような


 そう…………

 もし、女性を助けるだけならば、ハッキングをする必要など無かったのだ。

 ただ警察に連絡し、場所を伝え、すぐ来るよう趣を言えばいい。

 しかし、男はハッキングを選んだ。

 それはハッカーとしての本能。


 ―――もしもこの状況を己がハッキング技術一つで乗り越えることが出来たら?


 その命題に抗えなかった結果。

 決して褒められたことでは無い。

 が、結果的に見れば彼の行動は正しかったと言えよう。

 警察に連絡するよりも明らかに早く事態を収拾させたのだから。


 さらに今回の様なことは初めてでは無く、今まで幾度と無く彼は同じように成功させていた。

 救われた人間も10や20ではない。

 しかし、事今回に限っては大きなミスがあったと言わざる得ないかもしれない。


 そのミスに気付かぬまま、彼は意気揚々と帰宅の岐路に着いた。



 その後姿を、かの女性の双眸が射抜いているとも知らずに。






「見つけた…………。アイスピッグ様」


 彼女の言葉は誰にも届くことなく虚空へと消えていった

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