第9話
長らく投稿をせず申し訳ございません…。
途中、第三者視点入ります。
2017.11.4 仕事→約束 に訂正しました。
「そうか…。
魔法院ってのは、まあ魔法について全般を扱う施設の名称だ。
さっきも言った通り、魔法は貴族にとって途轍もなく重要なこと。
だから、魔法院の長ともなれば地位は王族の次くらいに強いもので、他の人間とは別格と言っても過言ではないくらいだ。
ーーそんな強固な権力を持つ存在が、魔法院長ベルナール・レインゼルスだ。」
さっきからずっと思っている事だけど。
ーーセド、貴方は一体何を抱えているの?
でも…どれだけ気になっていたとしても、そんな不躾なことを聞いてはいけない。
それは私自身、前世のことを詮索されたら「そんなこと言わせんなよ」って気分が悪くなるから。
「ベルナールのモンになった後、手前がどう扱われるのかは俺は知らん。
だがな、一つだけ言えるのは…アイツを信用し過ぎるな、って事だ。
これだけは、しっかり心に刻んでおけ。」
セドはベルナールの事が、嫌い…?
どうやらそうみたいだ。
ベルナールを信用するな…
ってことは、それ以外の人なら信用してもいいの?
ねぇ。
私、もう何がなにやら、さっぱりわかんなくなってきたよ。
出来損ないの私は人を信じる資格なんて無いのだーーと。
私はいつからか、そう思うようになっていた。
これは今でも暗示のように、根強く心に絡まって縛り付けている。
ところがあの日、私はノーラおばさんを信じてみたくなってしまったーー否、事実信用してしまった。
私を見つめる、あの真っ直ぐで綺麗な瞳が自然と私をそうさせたんだろう、と思う。
皆が私に向ける、蔑みを含む淀んだ瞳では無かったから。
そして、本当にノーラおばさんは優しい人だったし、数日間生活していた中で引きこもりで無口な私を怒るような気配は微塵も感じられなかった。
ーーまあ、あのまま続けていたらいつか堪忍袋の緒が切れていたのかもしれないけど。
でも、幾ら相手が良い人だろうが私は私。
転生して幼女になったとしても、それは決して変わることのない事実ーーならば、信じる資格がないのだって同じこと。
私がノーラおばさんの家に行った、行ってしまったから、セドに脅される なんて怖い思いをさせる羽目になった。
幸せなおばさんに恐怖心を与えてしまったーー
確かな根拠は無かったとしても、過去の経験から考えるときっと正しいのだろう。
ーー全て私の所為なのだ、と。
そして、今世ルーナも中々に厄介な体なのだ。
大判の貴族をも凌駕する魔力量は、きっと大勢の妬みを買うだろうし、疎まれた挙句に扱き使われるのがオチ。
才能や人間関係において望まれるものを「持たなさすぎた」皆川奏と、人の価値を決めるような魔力を「持ちすぎた」ルーナ。
どちらにしろ、立場にそぐわないスペックの欠陥品だ。
「持ちすぎた」のはいい事だと、そう思うかもしれないけど、例えていうなら…そう、車のエンジンのオーバーヒートのようなものだろうか。
熱があまり出ないほどガソリンが少なくても動かないし、逆に熱され過ぎても動かないーー
いずれにせよ不良品には変わりない。
奏の場合、まあどこへ行こうと、引きこもり根暗役立たず…見方なんていなくて孤立ルートは見え見えだ。
でも、もしルーナがこの魔力に見合うお家に生まれていたのなら。
性格に多少問題があったとしても、「私」という存在を認めてくれる人はいたんじゃなかろうかーー
一切何も持たないより、何かを持っていた方が認められやすい…気がする。
あぁもう、ベルナールの元でこっぴどい扱いをされる位なら、私がこの世に生を受けた意味なんて存在しない…きっとそう。
だけど、だからといって私は自ら死を望む事はしないって、それだけは昔から決めている。
こんな私だって人の子なんだ、幾ら私が周りから必要とされてなくたって、いつかは愛されてみたいな…なんて夢を見る。
だから私は、車に轢かれたあの瞬間、咄嗟に神へ来世での幸せを祈ってしまった。
元々、神への信仰心など微塵もないけど都合の悪い時だけ神頼み、という典型的日本人な私のことだ。
その願いが届いて叶えてもらったのかは、今でも分からない。
だけど、己の持ち合わせた物が人より劣るものだと言うなら。
真面目に勉強をして、言う事をちゃんと聞いて、通知簿で最高評価ばっかり付くように努力していればいつかは私もーー
所詮は夢だ絵空事だと、そう理解してはいるんだけど、一向に止まろうとしない私の情動を果たしてどう始末すれば良いのだろうか。
ゴミ箱にポイと投げ捨てたいよ…可能なら。
ーー愛されたいだ何だって、結局の所、私はただ愛に飢えただけの餓鬼だってこと、か。
そんな下らない感情は生きていくには邪魔でしかないのに?
あぁ、私は前世で一切合切何も学習してないんだね。
信じては、裏切られて。
懲りずにまた信じたら、やっぱり裏切られる。
それの永遠リピート。
…私、は。
もうこんな思いなんてしたくない。
『じゃあ信じなきゃ良いじゃない』
でも私、誰かに愛されたいの。
私のことを気にしてくれる人が…
『そんなの貴女なんて人間には到底無理ね』
ああっ、私なんてわたしなんてワタシナンテ……
ーーもう、いやだ。
プツリ、と何か糸が切れたような音を耳にした、それを最後に私の意識は闇に吸い込まれていった。
「おいっ、どうした!?」
ーーねぇ…セド。
貴方も私と同じ…?
『そんな訳ないじゃない、馬鹿ね』
*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*
「魔法院ってのはーー」
心に傷を負った男は、幾ら歳を重ねようと、彼の心の時計が針を進めることは無かった。
口調は淡々と義務的に、だが悲しさを醸し出しつう語る姿は実に悲愴的で、捨てられた子犬のような「必要とされたい」願望を匂わせる。
対する語られている側の少女、彼女もまた深い傷を持つ。
幾度に渡る酷な仕打ちで「自分に生きる価値など無い」とまで思い詰めてしまったが、同時に「愛されたい」といった相反する気持ちをも同時に抱く彼女。
前世を踏まえた精神年齢を考えても、まだまだ子供と言えるであろう、そんな成長途上な心にとっては、理性と本能の不一致など自然な事と言えるであろう。
そんな少女は男のふとした言葉に、はたまた熟考へと誘われる。
前世の酷な環境が作り出した「自分は出来損ないだ」という、固く彼女を縛り付ける鎖と、ノーラの存在により新たに湧き出た、それから解き放たれようとする力のせめぎあいが、彼女を苦しませる。
そして遂に、体の年齢に見合わぬ長期かつ高度な思考で、負荷が掛かりすぎた思考回路がプツリとショートしてしまった。
本能がそうさせたのか、急にバタリと後ろへ倒れる少女。
無論、彼女の意識はそこにない。
そんな少女の様子を見た男は、激しく動揺する。
なぜなら、それにより自身の「約束」を全う出来ない可能性が出来てしまったからだ。
その「約束」とはーー