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第8話

「石から手を離せっ!」


原因不明の光に戸惑っている私へ、セドの声が浴びせられ、反射的に手を勢いよく引く。


シュウゥゥゥゥ…


さっきの光が出た時とは違って少し情けない雰囲気の音が出る。


ああ駄目、さっきまで桁違いに明るい光を直視していたせいで視界が真っ黒。

太陽を見続けた時と同じ原理で。


ーーだから、私には見えていなかった。

凝然として立ち尽くしている子分たち、そしてこちらを睨みつけているセドの姿が。

私の目がようやく元に戻った、数秒後にはすっかりその影が跡形もなく消えていた。


やっと視界が正常に戻り、強ばっていた体から力仕事を抜いた、その後ーー突然私は強烈にむせた。

それこそ口を塞がれている今では呼吸が出来ないくらいに。


上手く息が吸えない苦しさ故に涙目気味でヒューヒューと呼吸していた私を一瞥したセドは、邪魔だったそれを抜き、部屋の隅にある箱へポイと放ったーーすると、それが見事に箱の中へ入る。

よく命中するよね、そんなの。


「ボスと…話をしてくる」


「「畏まりました」」


ああ、生まれ変わったばっかりなのにまた死ぬのかと思った。

何でこのタイミングで私はむせたんだろ?

不思議なこともあるものだね。


ところであの光は、私が触れたら現れて手を離したら消えたーーならやっぱり原因は私、なの?


もしそうなら、このタイミングでボスに会いに行ったセドは、私のことについて話しているはず…。


「ぁの…セドは、私のことをボスに…?

さっきのは、おかしい?」


「貴様、不敬だぞ!

セドさんを呼び捨てにするなど、たかが商品の分際で許された事ではない。」


しまった。

心の中ではずっとセド呼びだったから、さんを付けるのをすっかり忘れていたよ。


「まぁまぁ、良いじゃないの。

平民育ちで、尚且つノーマルな話し方も覚束無いようなこの子は敬語に慣れていない可能性が高いよ。」


覚束無い、か…。

これでも私は全力で頑張ったんだけどな。


というかこの人「ノーマル」って言ったけど、現代日本と同じような英日混ぜ混ぜの話し方で通じるのか、この世界。


「フン、そうか。

ならばせめて、セドさんの前で決してお名前を呼ばないようにしろ。

その不敬極まりない言葉遣いは特別に黙認してーー」


「いや、あの…そろそろ質問に答えてやってはどうです?」


うんうん、良く言ってくれたよ貴方。

グダグダと良く分からないこと言われても困る。


「あぁそうだね。

一つ、君の推測通り、セドさんはボスに君の処置を確認しに行った。

二つ、そうだね、さっきみたいなのが魔力測定で起こるのは異例中の異例だ。

それこそ王ぞーー」


「やめろ、そこまでだ」


突然セドがドアからドンと現れた。

普通に出てきただけなんだろうが、気配というか何というか、とにかく存在感が凄い。


そして、セドを一瞥した子分たちは、すぐに表情一つ変えることなく腰を折る。


「「セドさん、申し訳ございません」」


いや何でこんなにぴっちり揃うの?


ここまでのものなら、こんな犯罪組織じゃなくもっと光の当たる場所で働くことだって出来るはず。

軍みたいな組織に所属するも良し、セドの意思を汲んでの行動が出来るんだから、偉い人の秘書とかの道だってあるはずだ。


全く、セドといい子分たちといいつくづく不思議なグループだよね、ここは。


「いや、構わない。

粗方コレが話しかけたのだろう?」


「仰せの通り、ソレの質問に対する返答をしておりました。

ですが、余計な事まで話していたのは私共の落ち度です。」


「まあ、それはそうだな…だが、今回は不問とする。

次からは組織からハネられないよう、くれぐれも気をつけろ。」


「「はい、ご忠告痛み入ります。」」


そんな子分たちの姿を見て軽く頷くセド。

頭を上げたのを確認してから、おもむろに口を開く。


「ところで…ソレを売る客についてだがーー」


私が唾を飲み込むゴクリという音が部屋に響き渡り、初めてこの部屋を気味悪いほどの静寂が満たしていることに気がついた。


果たして、私はどんな人に売られるんだろう?

男の人か、女の人か。

若年か、中年か、高齢か。

ーーまぁどれであろうとも、私の境遇が良くなることは無いんだけど。


「安全面を考えて魔法院にする。

明日の早朝、ベルナールに引渡しにいくことが決まった」


あれ、なんだかセドが微妙に苦しそうな顔をして…?

それに、周囲に散らばる子分ズもどこか複雑そうな顔をしている、気がする。


「私がソレをベルナール様にお届けします。

セドさんは、どうか此方にいらっしゃって下さい。」


「いや、俺の手で届けるように、というボスのご指示だ。

それに、心配されなくともベルナールとは10年ほど前にケリをつけてあるから問題はない。」


いや、ベルナールって誰?

子分は様付なのに、どうしてセドは呼び捨ててるの?


ーーそれに、

どうしてそんな今にも泣き出しそうな表情でベルナールの名を呼ぶの?セド。


「おらおら、お前達、そんな神経質そうな顔して突っ立って無いで、明日は早いんだから早く寝てしっかり休め。」


「「畏まりました。」」


いつもはハッキリとしていた返事が、今のはどことなく去ることへの名残惜しさが感じられた。

それほどまでに心配なことなのか、セドがベルナールと会うことが?


それから暫くは、ドタドタでは無いものの足音が聞こえていたけど、5分ほどすると部屋を静寂が包んだ。


さっきまでは少し狭いくらいかな、なんて思っていたこの部屋も、今では尋常じゃないほど広い空間に感じる。


物音や気配から子分が寝静まったのを察したのか、セドが口をのっそりと開いて語り出す。


「手前は、明日の早朝にこの辺境の街から王都にある魔術院へ向かうんだ。

そこの長であるベルナールに手前を引き渡せば、後は金を貰って俺はすぐに帰る。

これが明日の予定だ。」


私がわざわざ「はい」なんて返事するはずも無く、こっくりと頷くだけ。


「さっきアイツらが口を滑らしかけていたが、やはりこの際言っておこうと思う。


手前の魔力は多いーーそりゃあもう化け物クラスで、な。

平民なのに有り得ない…いや、貴族であってもこんなのは早々いない、なんていう具合なんだ。

つまり手前は、魔力が人生を決めるようなこの国で、あまりにも莫大な量を持っているってこと。

ここまでは分かるか?」


まあ大体はね。

でもあまりにも前世(にほん)とは価値観が違い過ぎて、これ以上になるとちょっと危ういかもーー

だけども取り敢えず、軽く首を縦に振る。


「それで、本来なら魔力が有ろうが無かろうが関係なしに組織の顧客に売る予定だった。

魔力持ちは一般に、体力や筋力が持たない人間に比べて弱いと言われていて、力仕事には向かないが、その代わりに魔力を定期的に搾り取ることが出来るーーそんな有用性が認められて、最近なら腐るほど客がいるからな。

だが、手前みたいに異常や量の魔力持ちとなると、1度暴走させちまえば、もう後の祭りだ。」


後の…祭り、か。

私ってそんなに危険なんだね。


「魔法の種別によって多少は変わるが、どれであったとしてもパターンは一緒だ。

街一つが消えて騒ぎが起り、警備隊側に寝返った顧客が組織の存在をばらす。

あとは俺達が揃って仲良く捕まり豚箱行き、からの処刑で人生がジエンドーーこんな風にな。」


ここまで語ると一旦そこで切り、大きく深呼吸してから再び話しだす。


「そうなるのを防ぐために、俺は手前を魔法院に擦り付ける…と、そういう訳だ。

分かったか?」


「魔法院、って…?」


これは純粋な疑問。

魔法を扱うところなんだろうな、という想像は粗方付くけど詳しくは分からないんだよ。


だけど、その質問を聞いたセドは元々の苦しそうな顔を更に歪めて私を見つめた。


いや、お願い、そんな顔しないで。

私に失望した時の母さんみたいな、そんな顔を。

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