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第7話

「おら、着いたぞ」


男に首根っこをガシッと掴まれ、荷台の床にうつ伏せになっている状態から強制的に起き上がらせられる。


私が今いるここは、建物の影でどこか薄暗いという奇妙な場所。

周りのどこを見ても、通りに面していそうな日光が当たる道は無い。

どうやらここは普通ならたどり着けないような、かなり奥まったところなんだろう。


荷台の正面にある、そんな馬鹿げた立地の古びたアパートのようなものが、男のアジトなのだろう。

思わず「築何年なの!?」って聞きそうになるほどの、本当にボロボロな建物で、大事な隠れ家として使うにはどうかと思うんだけどね。


このアパートがどれだけ汚いのか分かりやすいように具体例にしてみよう。

一般にGと呼称されることが多い黒光りのヤツが、そこかしこにうじゃうじゃと居そうな…そんなイメージ。


いや、果たしてこの世界にGなるものは存在するのか?

まあどちらにせよ、私はヤツを普通に素手で叩ける人間なので、特に問題は無いんだけど。


「よいせっ」


男が私を荷物のように担いで、えっちらおっちら歩き出す。

これがまた結構揺れるもので、酔ってしまいそうだ。

車酔いならぬ、担ぎ酔い…?

…うん、しょうもないことを考えるのはよそうか私よ。


「セドさん!おかえりなさい!」


荷台が留まる音を聞きつけたのか、出迎えがこちらに寄ってくる。

そして、どうやら私を担いでいる男はセドというらしい。


「あぁ、ただいま帰った。」


ああ、男ーーセドは出迎えの彼より立場が上の人間なのだろうか、出迎えに敬語を使われている。

…それを考えると、セドが発する言葉は、謎の貫禄を醸し出しているような気がしてきた。


ところが、セドはどうやれ孤高の存在のような畏まった存在では無いようで、2人は他愛もない世間話をしながら建物の脇へ向かっている。


「ところでセドさん、今回の獲物はえらく上玉じゃないですか!

流石セドさん自ら狩りに行かれただけありますね…と言いたいところですが、こんなのが完全な一般市民とは到底思えないです。

しかし、お貴族様のお忍びなら我々はとっくに護衛に不敬罪で捕えられていることでしょう。

それなら、どこかのお貴族様のご落胤だったりするんじゃないですか?」


「いや、それは無いはずだ。

こんな顔立ちの貴族は見たことが無いし、共にいた母親もコレと似ていなかったぞ。

だが、念の為に魔力も調べてから出荷先を決める。

魔力持ちを一般の客に売るのは組織のルールに違反するからな。」


セド、勝手に勘違いしないでもらいたい。

ただ一緒にいただけで、ノーラおばさんを「(かなで)の母親」なんて穢れた存在にしないで。

あの人は私みたいな出来損ないを産んだりしないんだから。


でも、「出荷」か…

それじゃあ私はここから別のどこかに売られるってことだね。


ーー痛い思いをするのは慣れているけど、やっぱり、いざとなると嫌なんだよなぁ。

でも、これもきっと勝手に孤児院を抜け出してしまった報い…だよね。

そう思うことにしよう。


一歩一歩カツカツと金属音を立てながら、アパート脇にある螺旋階段をずんずん上っていく。

うわっなんてこった、階段で上下の動きが増えたことで、私にかけられる衝撃が更に大きくなったんだけど。

ぶんぶんと振り回されて、やっぱり少し気分が悪い。


「ところで、コイツを買い取れそうな客は?」


「そうですねぇ、こんな容姿した幼女なら、多少値が張ったとしても一定数のお客様はいると思いますよ?」


「なら良いんだがな。

でも最近、ボスから圧力を掛けられてるもんで、なるべく早く金にしたい。

何人か候補を見繕って声を掛けておいてくれないか?

もし魔力持ちだったことも視野に入れて、だ。」


「承知しました!」


そう言ってからセドに深々と頭を下げ、一緒に上っていた階段をドタドタと忙しく降り、周囲の建物に紛れて消えていく子分。


すると、話し相手がいなくなってすっかり黙り込んだセド。

その状態で数歩進んだところで、一つのドアの前に立ち止まる。


「この部屋だーーと言っても、手前が覚える必要は爪の先ほども無いんだがな。」


何で、意味が全くないって分かってるのに私に言うんだろ?

やっぱり、子分がいなくなって無言な雰囲気なのが寂しかったのか。

いやまずセドは誘拐なんてことを仕出かしている立派な犯罪者なんだよ、寂しいとかそんな可愛らしい感情があるはず無いよね。


セドが慣れた様子でノブを捻ると、ガチャっと軽快な音が鳴る。


…いや、鍵くらい閉めとかないと、泥棒に入られるよ。

只でさえ犯罪組織のアジトなんだから。


「「セドさん、おかえりなさいませ!」」


部屋の中に待機していたのだろう、綺麗に整列した4人の男達が一斉にセドに向かって頭を垂れる。


「あぁ、暫く留守にしてしまって悪かったな。」


「そんな、滅相もございませんっ!

…セドさん、ソレはどう致しましょう?」


「取り敢えず、魔力測定の準備を頼む。

諸々の身支度はその後だ。」


「畏まりました。」


さっきの子分より、こっちの方がセドを敬ってる?

じゃあ、さっきのはそこそこ偉いのだろうかーーなんて、呑気に考えていた次の瞬間。


ドンッ!


心臓に、体に、…心に。

重たい衝撃が走る。


180cm以上はあるだろう、そこそこ高い身長を持つセドに担がれていた状態から突然床に落とされる。

ーーまるで、どうでもいい荷物を下ろす時のように。

ああ、理性はこれから売られる立場なんだと分かっていても、どうやら本能は人間として扱って欲しいみたい。

自ら進んでした事なのに…つくづく阿呆な人間だよ、私は。

ああもう、下らない思考に浸るのはやめにしよう。


急に降ろされたもんだから、突然の衝撃に驚き過ぎて心臓が止まっちゃうかと思った…。

ドクドクドクとうるさく鳴り響く鼓動に合わせたかのように、体がじんじんと痛む。


やっぱり不意打ちはキツいなぁ。

父にしろ母にしろライア先生にしろ、言動とか手を振りあげる動作とか何かしら前兆はあったからね。


「そこに転がって待っておけ」


はいはい、分かってるって。

まさかこの体勢逃げれる訳無いでしょうに、ねえ?





*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*





あれから、なんと私は半日ほどあの体勢で待たされる羽目になった。

市場に出かけたのは朝ごはんのすぐ後、細かく言うならば早朝だったはずなのに、今やすっかり日が暮れて、窓から見える外は真っ暗。


そんなに魔力の検査の準備に時間がかかるっていうの?

まあ、魔力は平民にとってはかなり珍しいものらしいから、その辺の店には売ってないんだろうけど。


でも、どっちにしろこの体に魔力があるのを私は分かってるんだし、そんな焦らさずとっとと始めて、適当なとこに売り飛ばしてくれたらいいのに。


「ほら、この石に手を置け」


というか、またまた石なんだね。

魔力を取る手段は石しか無いの?


でも、ライア先生が持っていたその辺に転がっていそうな見た目の雑魚石とは一味違って、私の目の前に差し出されているこれは、綺麗に透き通っていて僅かにだがキラキラと光ってさえいる。


この違いって、一体何?


…いやでも、例え見た目は違えど私はまた苦しい思いをするんでしょう、きっと。

前世のことを考えれば些細なことだしトラウマとまでは行かないけど、持ち合わせの気力を全部一息に抜かれるあの感じは、暴力とはまた違っていて、結構キツかったんだよね。


「おい手前、早くしろ!」


手を置くのを躊躇っていたのがバレて、少し怒り気味なセドに催促されてしまう。


はぁ…仕方ない。


せめて吸われる強さが弱くなれば良いな、と石に優しくそっと手を載せたーー刹那。


リイィィィィン!


金属同士を打ち合わせたような硬い音が鳴っ他と同時に、視界の全面が真っ白に染まり、何もかもが見えなくなる。


「うわあっ!コ、コイツーー」


不思議なことに、石に触れたのに前みたいな強烈な苦しさは襲ってこない。

ーーいや、それどころか苦痛が皆無…?


私から魔力が吸われている訳じゃない…のかな。

じゃあ、未だに私の視界を潰すこの光は一体何なの?

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