又べえの瓢箪
空は、五月晴れ、良い日よりが続いている。
うらかかで暖かい午後、庭に又べえはいた。
端午の節句草も枯れてきているので、新しい花を咲かせた
方がいいなと、又べえは考えていた。
端午の節句草が大評判で、テレビ局も取材が来て、
万福商店街は、大にぎわいになった。
次の花を万福商店街の皆も待っている!皆の期待も
高まっている。
端午の節句草にも負けない季節の花、6月って特にあんまり
思い浮かばない。
何かないかな・・・又べえは、子ガッパと遊んでいるクロ
ちゃんに尋ねた。
「クロちゃん、6月って、何か行事あるかな?新しい花を
咲かせたいんだ。」
クロちゃんは、子ガッパを膝に乗せて考えた。
「そうね、行事は思い浮かばないけど、6月の花嫁は、
June brideって言って幸せになれるらしいわよ。」
クロちゃんが言うと、
「それだ!次はそれにする!待っててくれ!」
又べえは、走って行った。
「え!又べえどうしたの!」
どうしたんだろう?おかしな事しないといいけど。
クロちゃんは、不安になった。
又べえは、願いを込めて唐草模様の小箱をひらいた。
中には種が出来ていた、それを土に植えて水をかけた。
肥料は、どうしょう?ふと、山田パン屋のおっちゃん
が浮かんだ・・・そうだ!いい事考えた!
又べえは、ちょっと悪い笑みを浮かべた。
クロちゃんが、宿題をしていると、又べえが、青い
瓢箪を持ってきた。
「クロちゃん、コレ痩せるドリンクだ。
山田パン屋のおっちゃんは、肥り過ぎなんで飲ませ
てやってくれ。」
「コレ痩せ薬?」
クロちゃんが尋ねると、
「そうだ、1本で1キロ痩せる、考えて飲むように
言ってくれ。」
又べえは、クロちゃんに青い瓢箪を10個渡した。
「又べえ、おっちゃんの心配してくれていたの、
優しいのね。おっちゃん喜ぶわ。」
クロちゃんは、宿題が終わると、みっちゃんと、
万福商店街に向かった。
「おっちゃん今日は!」
「いらっしゃいクロちゃん、ドーナッツ食べるかい?」
「ありがとう!今日はいい物持って来たの!家の
又べえが作った痩せるドリンク!これ1本飲むと、1キロ
痩せるんですって!」
そう言って、クロちゃんは背負ったスヌーピーのリュク
サックを降ろして、青い瓢箪を出した。
「そうかい!助かるよ!そうだ体重計に乗って、飲んで
みよう。」
おっちゃんは、青い瓢箪を持って家の中に入っていった。
福ちゃんと、みっちゃんと一緒にドーナッツを食べ
始めた。
「おっちゃん、職業病で糖尿病だし、コレステロールも
高くなって心配してたの。これで痩せたら安心よ。」
福ちゃんが、言った。
「又べえも気が利いた物作るようになったね。」
みっちゃんが言った。
「又べえも優しいところがあるのよ。」
クロちゃんは嬉しそうに言った。
すると、山田パン屋のおっちゃんがバタバタ!と
凄い勢いで走ってきた!ゲッソリ痩せて・・・。
「クロちゃん!これは何なんだい!」
山田パン屋のおっちゃんは、凄い勢いでクロちゃんに
言った!
「クロちゃん!10本飲んだら本当に10キロ痩せたよ!」
おっちゃんは、興奮していた。
庭では、又べえが新しい花の試作を作っていた。
妖力を注いで作った新作の瓢箪の木は、青い瓢箪の中に、
赤い瓢箪が10個なった。
それを捥いで、新作の花にかけた。・・・すると、
見る見るうちに花が開いて中から、花嫁と、花婿が
幸せそうに腕を組んでいる。
花嫁は、美代ちゃん、花婿はクロちゃんに似ている。
可愛いなあ、クロちゃん喜ぶかな。
更に隣の花壇に、赤い瓢箪の液をかけた。
見る見るうちに、花が咲いた、赤いカーネーション
だ。
もうすぐ母の日だ、ママに虫を駆除するカーネーシ
ョンをプレゼントしょう。
又べえにもママが出来た、嬉しいと一人にんまり
していた。
青い瓢箪は、人から栄養を取るのである、つまり
脂質と糖質を奪うのである。
そして、奪った栄養は、赤い瓢箪へ送られるのである。
赤い瓢箪の液は、新しい花のいい肥料である、
お腹が空いたら、又べえも飲んでお腹を満たそう。
山田パン屋のおっちゃんは、肥りすぎだから、
少々栄養を分けて貰っても大丈夫だろう。
そんな事を考えていた。
すると、向こうからクロちゃんと、みっちゃんが、
やって来た。
「又べえ!瓢箪20個あるかしら?山田パン屋のおっ
ちゃんが、あと20キロ痩せたいんですって!」
クロちゃんが聞いた。
「20個!?そんなに痩せてどうするんだ!?
死んでしまうぞ!」
又べえが慌てて聞くと、
「痩せると、コレステロールと、血糖値下がるんです
って。
山田パン屋のおっちゃん、明日検査があるらしいの。
で、どうしても痩せたいんだって。」
検査の前だけ痩せても意味ないと思うのだが、又べ
えの常識からすると、栄養を好んで取られる!
信じがたい事だが、まあいい本人がいいなら、
いいか。
「わかった!あと20個な。」
又べえは、青い瓢箪をもいでクロちゃんに渡した。
「ありがとう、あれコレ新しい花!?え、美代ちゃん
そっくり!」
クロちゃんは、嬉しそうに言った。
[ジューンブライド草だ!」
得意げに又べえがが言った。
「こっちは、クロちゃんそっくりだね。でも又べえ、
これ着物着ている。
ジューンブライドは、普通洋装だよ。」
みっちゃんは、言った。
「え!そうなのか!?知らなかった!」
又べえはしょげてしまった。
「でも、これも可愛いわね。」
クロちゃんは慰めた。
「ありがとう、でも、作り直す。」
又べえは力のない声で言った。
「あ、山田パン屋のおっちゃんから菓子パン貰ったの
一緒に食べよう!」
クロちゃんは、又べえを家に連れて行った。
「あ!クロちゃん、痩せるドリンクがあるの?」
おばちゃんが聞いた。もう、知っている!なんて
耳に入るのが早いのかしら。
「又べえが作ったの、何か?」
クロちゃんが尋ねると、
「万福商店街で大評判よ!山田パン屋の御主人が
いきなり痩せたって!おばあちゃんも欲しいわ。」
おばあちゃんは、言った。
「ママも欲しいわ!」
ママも目を輝かせた。
「ママは、十分細いわ。」
「痩せたいの!」
ママは言った。
「ママもばあちゃんも痩せてる!それ以上痩せたら
しぬぞ!」
又べえは、驚いて言った!
「ママ、おあばあちゃん、又べえが、ママもおばちゃん
も十分細いから、それ以上痩せたら死ぬって言ってるわ
。」
クロちゃんが言うと、
「大丈夫死なないわ!あと少しだけ痩せたいの!」
と、二人は言った。
二人の勢いに押されて、クロちゃんと、又べえは、青い
瓢箪を渡す事になった。
・・・女の人は、そんなに痩せたいのかしら?
「あと何本いるんだ?」
又べえは、聞いた。
「又べえが、あと何本いるか?だって。」
クロちゃんが聞くと、
「あるだけ欲しいわ!100本くらいある?」
おばあちゃんは、答えた。
「100!?」
クロちゃんと、又べえは、顔を見合わせた。
「そんなに、どうするの!?」
クロちゃんが驚いて叫ぶと!
「欲しい人が多いの、売って欲しいんですって。」
おばあちゃんが答えると、
「また、1万円で売るの?」
恐々クロちゃんが尋ねると、
「そうよ、知人にはタダでいいけど、お金持ちに
は、高く売ろうと思って。」
おばあちゃんが答えると、
「そんなにお金どうするの?」
「もちろん、クロちゃん神社の奉納品置き場の建設費用
にあてるのよ!維持費もかかるし。」
おばあちゃんは、言いきった。
「奉納品置き場って、神社の物置があるじゃない。」
クロちゃんが言うと、
「入りきれなくなっているのよ、ほら、『ありがとう
クロちゃん』で、感動した全国の人達から、色々と、
届くのよ。」
・・・え?あの番組かあ。段々大事になってきている
・・・。クロちゃんは、眩暈がしてきた。
・・・と、いう事は!
「あの、こけしと、二ポポ人形の餌は、ひょっとして
おばあちゃんのアイディアなの?」
クロちゃんが尋ねると
「そうよ!いいでしょう。」
おばあちゃんは、答えた。
・・・凄すぎて、何も言えない・・・。
「すげーな!ばーちゃん。もう瓢箪渡すしかないな。」
又べえは、引きまくっていた。
それから、又べえは大忙しだ!
虫を駆除するカーネーションをクロちゃん神社の
花壇に母の日のだからと植えたら、おばあちゃんが、
大量に作って売ると言い出した。
親方が、
「世話になっているんだから、大量に作るぞ!」
と、虫を駆除するカーネーションを作りまくった。
虫を駆除するカーネーションは、母の日にバカ売れ
で大変だった。
母の日を過ぎても注文が殺到した!
おばあちゃんと提携していた、万福商店街の花屋さん
「フラワー鈴木」さんは、大儲けした。
「ママね、カーネーションの花束初めてもらったわ。」
ママは、虫を駆除するカーネーションの花束を嬉し
そうに眺めていた。
「又べえは、母の日にママにプレゼント出来て嬉しい
、又べえにもママが出来た。」
と、嬉しそうにしていたのには、何か言いかったが、
ま、頑張っているからいいか。
そして、青い瓢箪は、もっと売れた!世の中痩せたい
人が多いのだ。
又べえは、山と、なっている赤い瓢箪を見て、
「こんなに、栄養取って大丈夫なのか?よくばーちゃ
んン家に来る、風船みたいに太っているばーちゃんが、
あんなにしぼんでる!死ぬぞ!みんな死ぬぞ!」
と騒いている。
しかも、赤い瓢箪も安全性の認可がおり、病人の流動
食や、栄養食、ヴィーガン食に使われる事となった。
でも売値が青い瓢箪の1/10なのは、又べえを悩ました。
「栄養取られる方が、高く売れるのは、何でなんだ??
?」
又べえの常識では理解できないようだ。
それでも、ジューンブライド草を完成させて、又べえは、
家族に披露していた。
ドレスを来た美代ちゃんとタキシードのクロちゃんの花
だ。
「まあ、可愛い!」
おばあちゃん、ママ、パパ、お手伝いさん達は言った。
「そ、そうね。」
クロちゃんは、照れた。
「何、この花!」
振り向くと、美代ちゃんが立っていた。
「あ、美代ちゃん、どうしたの?」
クロちゃんが尋ねた。
「鰻を届けに来たの、呼んでも返事がないから、庭に
いるかと思って、庭から来たの。
何で花婿はクロちゃんなの!
こんなの『クロちゃん神社』に植えないでね!」
美代ちゃんが、言った。
「ダメ?こんなに咲いたのに・・・。」
又べえは、しょげた。
「大丈夫!儂がジューンブライド草を咲かせて
おいた。」
と、親方がビスクドールのように綺麗な花嫁、
花婿の花の鉢植えを見せた。
「まあ、綺麗!」
「まあ、素敵ねえ!」
と、大絶賛である。
・・・又べえは、クロちゃんと顔を見合わせて、
悲しそうな顔をした。
「じゃ、これクロちゃん草にしょう!」
セヒは、叫ぶと!
「おい!又べえ!美代ちゃんを皆切ってくれ!」
セピが言うと、
「あ、そうか。それならいいな。」
又べえは美代ちゃんの花を全部切ると、集めて、
美代ちゃんに渡した。
「やる!水につけるといいぞ!悪かったな。」
が、はたから見ると、美代ちゃんの花が独りでに
集まって、美代ちゃんに寄って行くように、
見えた。
「きゃ~!」
美代ちゃんは、悲鳴を上げた!
「大丈夫!又べえは、悪気はないの優しいの。」
クロちゃんは言った。
「ごめんね、アタシ冷やかされるのが嫌なの。」
美代ちゃんが謝ると、頭上の鰻のかば焼きの神様
も頭?を下げた。
「クロちゃんには、もっと可愛い子が花嫁さんに
なってくれます!元気出して!兄ちゃんが、
もっと可愛い子紹介しますよ!」
チョコ兄ちゃんが言った。
「クロちゃん、お向かいの家のよっちゃん!
お前より1つ下の子いたろ!あの可愛い子な!
クロちゃん大好きって言ったぞ!」
セヒが言った。
あ、あの目の大きい可愛い子かあ。
でも、美代ちゃんの方がいいの・・・何でかしら。
ちょっと、切ない気持ちになった。
それから、親方の作ったジューンブライド草が、
『クロちゃん神社』の花壇に植えられ、万福
商店街の店に飾られ、大人気だった。
そして、もっと人気が、クロちゃん草だった。
花壇のクロちゃん草の隣にかわいい花嫁人形を
刺して行く人が増えた。
「へえ、可愛い花嫁さん」
クロちゃんと、みっちゃんは、目を細めた。
「ね、クロちゃん、あれ!見て!」
みっちゃんが売店を指さすと、
『クロちゃんに、花嫁人形をあげて!貴方の恋が
実ります』
と、書いてあって、花嫁人形が売られている・・・。
1つ3000円!結構高い!が、よく売れている。
「きゃ~恋が実るわ!」
「彼は、これで私の物だわ!」
等と、女の子の声が聞こえた。
恋の為なら、3000円くらい安いもんだろう。
実ればの話だが。
『クロちゃんの痩せるドリンク!必ず1キロ痩せる!』
1本10000円!・・・太った、おっちゃん、おばちゃん、
女性、皆たかって買っている!凄い!
「流石櫻子ちゃん!凄いね!観光客が沢山お金落として
いくね!」
みっちゃんが言った。
・・・流石おばあちゃん、何て商売が旨いのかしら。
クロちゃんは、立派な奉納小屋を見ながら、只々
圧倒されるのだった。