思いでの桜
桜も終わり、藤が咲き始めた。
クロちゃんのお家の庭にカッパ池ができた。
隔離の桜の大樹からついて来た、カッパの家族の住処
である。
カッパ池は、与作が獲ってくる鰻池、吾作が獲って
くるヤマメ池、お富が獲ってくるニジマス池、
桜魚の桜魚池、広い泳ぐスペースと分けられている。
何だかお家みたいね、とクロちゃんは、思った。
毎日、カッパが新鮮な魚を取ってきてくれるので、
おばあちゃんもご満悦だ。
ママは、毎日魚を捌くハメになって、大変なのだけど。
鰻は、かば焼きをいつも貰っているお礼に、うな八さん
にあげている。
すごく良い国産鰻で、かば焼きになって返ってくる、
おかげで、クロちゃんは朝昼晩と、鰻を1切れづつ
食べられる。美味しいばかりだ。
「ヤマメやニジマスは、綺麗な水にしか住まないの。
だから、お魚屋さんでも殆どみないの。」
おばあちゃんが言った。
そうなんだ、確かにカッパ池の水は綺麗ね。
池の水は透き通って中まで、綺麗に見えた。
しかも、美味しい!ほのかに甘く、軟らかい。
大黒のおっちゃんのコネで、水神様の水を引く事が
できたらしい。
「クロちゃん、俺達を受け入れてくれて、ありがとう。
ガマ吉には、酷い目にあったよ。
珍しい魚を遠くに取りに行かされたのに、取ってきたら、
神様が食い飽きたから、お前の女房を丸焼きにして出す。
だもんな、長年、沢山魚を収めたのにね。」
与作は、しみじみ言った。
「あいつ気に入らないと、丸焼きにして、喰っちゃうん
だよ。
エビやカニや、魚の妖怪の仲間が、こき使われて、
喰われたり、お供えの料理にされてね。
あそこにいる限りは、従わないと、いけないからな。
その点、ここはいいね。珍しいおやつは出てくる、
新鮮な胡瓜もくれる!いいところだ!」
吾作もうれしそうだ。
「胡瓜は、ゴンベエが作ってくれるの、
無農薬で、美味しいのよ。」
クロちゃんが言った。
そして、エビやカニや魚、確かに美味しそうね。
と思ってしまった。
「クロちゃんのお家は、静かで、広いお庭があって
良い所だね、これで安心して子供産めるよ。
ありがとね。」
お富が、言った。
「早く生まれるといいね。」
クロちゃんがそう言って、お富のお腹を撫でた。
庭の隅に、親方が鳥小屋を作ってくれて、桜鳥の
雛を飼う事にした。
小梅ちゃんと、蛍ちゃんがお世話をしてくれている。
「あ、クロちゃん!この鳥、羽根も綺麗ね、髪飾り
作ったら綺麗ね。」
小梅ちゃんが言った。
「可愛いね、すごく、美味しいいんだって!楽しみ。」
蛍ちゃんも笑った。二人とも楽しそうだ。
庭の花壇では又べえが、変な花?を咲かせている。
茎の上に、金太郎がクマに乗っている、こっちの
は、茎の上に鎧兜が、こっちは、刀、やり・・・。
この間の小箱で種を出したらしいが、謎のセンス
である。
「フン♪フフン~♪端午の節句草が綺麗に咲いたな。」
又べえが言った。
「ああ、もうすぐ子供の日ね、それでか。この花
面白いから万福商店街のお店に飾ったらどうかしら?」
クロちゃんが言うと、
「よし、親方にリヤカーを借りよう。」
又べえも賛成した。
「あ、クロちゃん!」
おばあちゃんの家に行くと、みっちゃんが走って来た。
「遊びに行く?」
「ううん、親方に用事があるの。」
クロちゃんは、言った。
おばあちゃんの家の庭では、親方が花の手入れをして
いた。
「今日は、親方!」
「おや、クロちゃん何の用だい?」
「又べえの作った、端午の節句草を万福商店街のお店
に飾ってもらおうと、思うの。
花を運ぶのにリアカー貸して欲しいの。」
クロちゃんが言うと、
「端午の節句草を?」
親方が尋ねた。
ふと、見ると同じ端午の節句草が花壇に植わっている。
又べえの端午の節句草は、漫画っぽいが、親方の
端午の節句草は、人間国宝が作った人形のように
立派な出来である。
「あ、親方も端午の節句草育てていたのね。」
クロちゃんが言うと、
「又べえのと違って立派だろう!万福商店街に持って
行くなら、こっちにした方がいいぞ。」
親方は、言った。
「そんな事ない!又べえの花、可愛い!な、クロちゃん
。」
又べえは、クロちゃんに訴えるように見た。
え〜、どうしろと言うの、う~ん、考えた。
「どっちも、いいと思うわ!そうだ!2つ持って行って
選んでもらえばいいわ!」
クロちゃんがそう言うと、親方は、不機嫌そうに、
「ふん、仕方ない!じゃ鉢に植えるから手伝え!」
そう言うと、水神様の信玄袋から植木鉢を取り出した。
「お前ら土のまま持って行く気か?植え替える、
手伝え!又べえ!」
親方が怒鳴った。
「わかった!」
又べえが、嬉しそうに返事をした。
4人は、端午の節句草をリヤカーに乗せて、お世話に
なっているお店に配った。
うな八のひいじっちゃんは、親方の花を選んで、
「本当に、花だ!不思議だね!いいのかい?
お店に飾ったら、皆喜ぶよ!ありがとう!」
うな八のひいじっちゃんは、お礼を言った。
そして、お土産に鰻の蒲焼きを焼いてくれた。
親方は、自慢気である。
鶴屋千年堂のにいゃんは、又べえの花を選んで、
「へえ〜!滅茶苦茶かわいいなあ!本当にいい
の?試作の苺大福食べていく?シュー皮に
苺、餅、餡、生クリームを挟んでみたんだ!
妖怪も食べてよ。」
クロちゃん達は、もう和菓子なのか洋菓子なのか
、わからない苺大福シューを食べた。
「美味しい!兄ちゃん流石だわ!親方も又べえも
美味しいって!」
鶴屋の兄ちゃんは、お土産に、苺大福シューを
くれた。
今度は、又べえがしたり顔である。
亀屋万年堂のおっちゃんは、親方の花を選んで、
「すごいね、とても花には、見えないよ。
ありがとう!お客さん驚くだろうな!
そうだ!亀屋の桜カステラを持って行きな。」
桜カステラをくれた。
親方は、得意げである。
山田のおっちゃんは、又べえの花を選んで、
「可愛いなあ!子供達が見ると喜ぶよ。
クロちゃん、不思議な子だね。あ、さっき焼けた
クリームパンを持っておいき、妖怪の分のもな。」
又べえは、ドヤ顔をした。
福ちゃんも、端午の節句草が気に入ったようだ。
「この金太郎、クロちゃんに似てる!アタシ大好
き!」
福ちゃんが笑った。
・・・金太郎って微妙、似てるかな?端午の節句草
をじっと見てしまった。
こんな感じで、どちらの花もそれなりに
需要があり、全部無くなり、リヤカーは、
お土産で一杯になった。
「皆喜んでくれて、良かったね。2つとも大人気
だったね。」
クロちゃんと、みっちゃんは笑った。
親方はフン!と、ちょっと不機嫌だが、
又べえはごきげんである。
翌日の夕方には、万福商店街の端午の節句草の事
をニュースで紹介され、テレビやSNSで大評判
となった。
万福商店街は、沢山の人が訪れた。
「凄い人ね、端午の節句草大人気ね。」
みっちゃんと、万福商店街を歩いていると、
60半ばぐらいのやつれたおっちゃんが、
「坊や、この辺に宝満神社があったよね、どっちかな?」
クロちゃんに尋ねると、
「あ、わからないのね、案内してあげる。」
クロちゃんは、そう言っておっちゃんと歩き始めた。
おっちゃんの生気の無さが気になったのである。
「おっちゃん、宝満神社初めて?」
クロちゃんが尋ねると、
「いいや、大学がこっちでね、よく春には、宝満神社に
桜を見に来たんだ。
この辺りは変わったね、ニュースで万腹商店街が出ていた
のを見て懐かしくなったんだよ。」
おっちゃんは、言った。
歩いている内に宝満神社に、着いた。
「確かこっちの方だった。あ、あった!」
歩いて行くと、大きな桜の木が見えた。
「大きくなっているな、でも桜は、もう終わっているね。」
おっちゃんは、残念そうに言った。
「昔、ここでよく女房とデートしたよ。」
「デート!いいな!おっちゃん、奥さんは?」
クロちゃんが尋ねると、
「女房は、津波で流されちゃっんだよ。家も、家族も、
経営していた工場もね。」
おっちゃんが答えると、
「・・・おっちゃん!死んだらダメよ!おっちゃんを
小さな女の子が待っているわ!」
クロちゃんが叫んだ!あれ?何でそう思うだろ??
「確かに、5歳の孫もいたが流されちゃったよ。」
おっちゃんが震えながら答えた。
「生きてるわ!おっちゃんを待っているの!」
クロちゃんが言った。
「ありがとう、でも、もういいよ。疲れた。」
おっちゃんは、生気なく言った。
クロちゃんは、何と言ったらいいか困ってしまった。
すると、みっちゃんが、
「クロちゃん、ほら、桜咲かせてあげたら?」
と、囁いた。
あ、そう言えば、花を咲かせる事できるんたった!
「おっちゃん元気出して!桜咲かせてあげるから!」
クロちゃんが、構えると手に突然!打ち出の小槌が
あらわれた!
「え!」
おっちゃんが驚いていると、
「桜!悪いけど、頑張ってもう一回咲いて!」
打ち出の小槌を振ると、たちまち蕾が出て、膨らんで、
満開の花が咲いた!
「え、え!!これは、一体どうなってるんだ!」
おっちゃんが驚いていると、
「この間、桜の大樹の神様に、花咲か爺の力を貰ったの。
本当に花が満開だあ。」
クロちゃんも、みっちゃんも桜を見入った。
「わあ!綺麗!クロちゃん凄いね!」
「うん、凄いね。」
二人で喜んでピョンピョン跳ねた。
おっちゃんは、呆然としていたが、ようやく口を開いた。
「坊やは、神様のお使いかい?こんな不思議な力!」
「いえ、普通の子よ。」
「そうか、神様のお使いかい、ありがとう、それなら
信じるよ、もう一回頑張ってみるよ。
融資をもう一回、銀行に頼んでみるよ。」
おっちゃんは、そう言った。
人の話は全然聞いてないが、とりあえず自殺は、思い
とどまってくれて、クロちゃんは安心した。
みっちゃんが、
「会社を建て直すのに、お金いるよね、ほら、ガマ吉から
取り上げたお宝があったよね。」
そう言った。
「そっか!おっちゃん!お金ならあるわ!」
クロちゃんは叫んで、おっちゃんを万福商店街の方に
引っ張って行った。
七宝商店は古物商で、店内は高価な骨董品が並んで
いた。
そこに、クロちゃんが、おっちゃんを連れてきた。
「七宝商店のおっちゃん!お宝買って欲しいの!」
クロちゃんが言った。
「今日は、クロちゃん元気だね。どれを売りたいんだい
。」
七宝商店のおっちゃんが尋ねた。
「今から、出すわ!」
クロちゃんは、打出の小槌を出して、
「ガマ吉のお宝出てこい!」
そう言うと、打出の小槌から、店一杯お宝が出て来た。
余りの事に、おっちゃん二人は、呆然とした。
「いくらになるかしら?このおっちゃん、津波で、家
も、家族も、工場も流されて困っているの。
なるべく高く買って。」
クロちゃんが言うと、七宝商店のおっちゃんは、金の
置物を見て驚いた!
「これは、純金じゃないか!こっちの鳥は、本物の
宝石だ!」
しかも、鳥の置物は、さえずり、生きているように
動く。他のお宝も動物がついているものは、動いたり
、鳴いたりするのだ。
「クロちゃん、コレどうしたんだい?」
七宝商店のおっちゃんが尋ねた。
「ガマ吉っていう悪い妖怪のよ。悪さが過ぎるんで
退治したとき貰ったの。」
おとぎ話のような話だが、目の前で不思議な事を
するクロちゃんの言う事を信じない訳には、
いかなかった。
噂では、神様が憑いて、妖怪を従えいるらしい。
「クロちゃん、今このお宝を買い取るは、無理だ。
価値が途方もない、五十億は下らないと思う。
お客さんをあたって、売りさばけたら、この人に送金す
るよ。」
そう言って、
「そういう訳で、振り込み口座を教えてください。
とりあえず5億振り込みます。」
「5億!ありがたいよ。クロちゃんありがとう。
社員もまた戻ってくる事ができるよ。
でも、それ以上は貰いすぎだよ。」
おっちゃんがお礼を言うと、
「お金残ったら、他の人の為に使ってあげて。
おっちゃんは、それができる人でしょう?」
クロちゃんは、笑った。
おっちゃんは、明るい顔で故郷へ帰っていった。
すると、おっちゃんを見送るクロちゃんの頭を
誰かがなでた。
「え、大黒のおっちゃん!いたの?」
「頑張ったな、クロちゃん、あのおっちゃんは、
幸せになれるよ。」
大黒のおっちゃんが言った。
そうなりますように、クロちゃんは思った。
それから、半年後クロちゃんは、テレビを見て
いると、万福商店街が映った。
「あ、端午の節句草だわ!へ~。」
と、見ていたら、
あの宝満神社に連れて行った、おっちゃんが映った。
あのお金で、水産加工の工場を再建したらしい。
あの時と違って、見違えるように、生き生きしている。
「うちの工場が再建できたのは、クロちゃんの
おかげです!クロちゃんは不思議な子で、
咲き終わった桜の木を満開に咲かせてくれたり、
再建の資金に、打ち出の小槌でお宝を出してくれたんだ。
そのお金は、なんと100億!になったんだ!
こうして、沢山の人を雇う事ができたよ。
あのお金で、他の地元の会社も再建する事ができたんだ。
みんな助かったよ!
ありがとう!クロちゃん!
ほら、孫も見つかったよ!あの時死ななくて
良かったよ!本当に感謝してるよ!
春になったら、また、思いでの桜を見に宝満神社に行
くよ。この子を連れてね。」
傍らには、小さな女の子が笑っていた。
おっちゃん、良かったね。クロちゃんは嬉しくなった。
でも、100億!ってガマ吉どんだけ金持ちだったんだろう。
すると、アナウンサーが、
「万福商店街の不思議な少年クロちゃん!この子の
不思議な物語を来週から再現ドラマにした、
『ありがとうクロちゃん』が始まります。
クロちゃんが、人々を幸せにしていきます!
貴方もクロちゃんに会えると、幸せになれるかも!」
と締めくくった。
・・・なんか、おかしな事になっている。
いつの間にか、人を幸せにする不思議な少年?
ちょっと、嫌な予感がするクロちゃんだった。