思い出のオムレツケーキ
花屋の軒先にカーネーションが並ぶこの頃、
クロちゃんビルでは、ロシア妖怪を送り出していた。
お土産の包み紙に、沢山安守花の種を仕込んだ、山田パン屋のパンを
渡して、薄めた水神様の酒を飲ませてた。
「頑張って、ハゲ白熊に勝って、自由を勝ち取れよな。」
星明は、言って、龍の戦車に、乗り込むロシア妖怪に、言った。
「ありがとう、この恩は、忘れないよ。」
そう言って、ロシア妖怪達は、ロシアに、帰って行った。
それを見送って、
「やっと、帰ったね、ホッとしたよ。」
天鯉1号は、言った。
「大変、だったわね。
早く戦争終わると、いいのに。」
クロちゃんが、言うと、
「そうだね、ロシアは、兵隊が、足りなくて、女囚を戦地に、
送って、ロシア国内でも批判が高まっているらしいよ。」
星明が、言った。
「え!女の人も戦争に、行くの?」
クロちゃんが、驚くと、
「肉の壁で、弾除けなら女でもいいんだよ。
兵に武器を持たせないで、先に行かせて、敵に、撃たれている隙に、
強い兵が、敵を攻撃するらしいよ。」
「とんでもない国ね!人の命を何だと思っているのかしら!
何で、武器を持たせないの!?」
「武器が、もったいないからだよ。」
星明は、渋い顔で言った。
クロちゃんは、ゾッとした。
「人の命を何とも思ってないような国に、侵略されたら
侵略された国の人は、戦争の時は、肉の壁にされるよ。
国に、よって、人の命の値段は、変わるんだ。」
星明は、言った。
すると、ウクライナ妖怪達が、入って来た。
「クロちゃん、御世話になりました。
セマルグルもパンもお家草も安守花の種もありがとう!
コレで、必ずロシア妖怪を俺達の国から追い出すよ!」
ウクライナ妖怪がお礼を言って、セマルグルに、乗り込んで
ウクライナに、帰って行った。
「早く、戦争終わると、いいわね。」
クロちゃんは、呟いた。
クロちゃん達は、家に帰ると、何やらおばあちゃんン家から
沢山人が、出て行く気配がした。
「あ、今日は、櫻子ちゃんの旦那さんの三回忌だった。」
みっちゃんが、言った。
今日のおやつは、カスタードクリームのオムレットと、プリンだった。
プリンは昭和風の硬めの蒸しプリン。
「ほろ苦いキャラメルが、おいしいね、プリン。
このオムレットは、カスタードからキャラメルソースが、
トロリと出てきて、ほろ苦くて、美味しいわ。」
「どっちも、櫻子ちゃんの旦那さんの蒼一郎さんが、
よく作ってくれたんだ。
昔は、田舎じゃ生クリームなんて、手に入りにくかったんだ。
それに、今と違って卵は、高かったから高級菓子だったんだよ。」
みっちゃんは、言った。
「おばあちゃんの旦那さん、仏間の写真のあのイケメンの優しそうな
おじいちゃんね。どんな人だったの?」
「真面目で、優しい人だったよ。
もう60年以上前に、なるけど・・・。」
桜が、咲き始めた頃、蒼一郎さんは、綾小路家の料理人
として来たんだ。
蒼一郎が、台所に、案内され、夕食の準備をしていると、
「あら、貴方、新しい人?」
背中に、筍が沢山入った籠を背負った娘が、入って来た。
モンペ姿で、日に焼けては、いるが、うりざね顔の
大きな瞳に、長いまつ毛、鼻筋のとおった、なかなかの
美少女である、ここの女中だろうか?
「綾小路蒼一郎と、言うんだ、よろしく頼むよ。」
すると、娘は、じっと、蒼一郎を覗き込んで、
「まあ!やたら綺麗な顔の料理人だと、思ったら
貴方ね、東京で成功した、分家の叔父さんが、芸者に産ませた子。
母親が、亡くなった後、分家の叔父さんが、引き取ったけど、
本妻に、いびられて、中学出た後、すぐ、家を出て、料理人に
なったらけど、
美形が、仇になって、行く先々で、女性問題を起こして、クビに
なって、家に、来るって聞いていたけど。」
「やたら詳しいね、でも、俺は、一度も誘惑した事なんて
ないからな。」
蒼一郎は、驚いて言った、着た早々トラブルは、ごめんである。
すると、
「お嬢様!また、何て恰好ですか!?」
ばあやが、怖い顔をして、怒った。
「新鮮な筍を沢山採って来ただけじゃない。
じゃ、貴方コレ頼むわよ。
私は、櫻子、この家の娘よ。」
櫻子は、蒼一郎に、筍の籠を渡した。
「あれが、美人で、才色兼備の櫻子お嬢様ですか。」
蒼一郎は、ポカンとして、言った。
「お嬢様は、ちょっと、変わってらっしゃいますが、
ここでの事は、外では、話さないように。
お嬢様の縁談に、触りますから。」
ばあやは、ため息をついた。
筍の入った籠は、ずっしりと重く、ずいぶん力持ちの
お嬢様だと、驚いた。
「三時に、友達が、来るから お茶と、お菓子を
用意しておいてね。」
すると、いつの間にか綺麗な着物に着替えた櫻子が、
立っていた。
「え!もう着替えたのですか?」
蒼一郎は、驚いて見た、汚れを落として綺麗な着物姿の
櫻子は、うっとりするほど美しかった。
「じゃ、頼んだわよ。」
そういって、櫻子は、行ってしまった。
そして、美しいバイオリンの調べが流れた。
「櫻子お嬢様よ、本当にお上手でしょう。
ピアノもお琴もお上手で、お茶もお花も免許皆伝。
学校の成績も一番で、体育も一番、
お裁縫も得意なんだけど、武芸もたしなまれて、
気が強くて、凄いじゃじゃ馬なのよ。」
若い女中さん、おみつが、教えてくれた。
・・・大変なお嬢様だな・・・お友達は、可愛い女の子
だろうからお茶菓子は、洋菓子と、紅茶が、いいだろうか。
蒼一郎は、そう思って、お菓子を作り始めた。
「お嬢様が、お茶と、お菓子は、蒼一郎さんが、持って
来て欲しいそうです。」
おみつが、言った。
「え?俺が?」
・・・又、若い女の子の話のネタにされるのか・・・。
渋々蒼一郎は、紅茶と、お菓子を持って、櫻子の部屋に、
行った。
ドアをノックして、
「どうぞ。」
「失礼します。」
中に入ると、クセの強い顔をした若者と、人の良さそうな
目の細い若者が、何やら作っていた。
可愛い女の子の友達を呼んでいるとばかり思っていた
蒼一郎は、肩透かしを喰らった。
「あ、私の子分の六郎、通称、六、
こっちは、八作、通称八よ。
ほら新しく来た料理人の蒼一郎さん。」
櫻子は、六と、八に紹介した。
「こりゃ男前だ!」
「女どもが、騒ぐはずだな。」
・・・もう、噂になってるのか・・・。
「なんか珍しい菓子だな。」
「これ何て言うの?」
櫻子が尋ねた。
「オムレツケーキといいます、中にカスタードクリームと、
キャラメルソースが、入ってます。」
蒼一郎が、説明してるのも最後まで聞かずに、三人は、
オムレツケーキをパクついた。
「美味しい!ケーキが、ふわふわで、カスタードクリーム
が、美味しいわ!キャラメルソースもほろ苦くて、
貴方、腕がいいわね!?」
櫻子は、大絶賛である!
「ありがとうございます。」
「そうだ、コレ、私でも作れる?」
櫻子は目を輝かせた。
「はい、よろしければ教えましょうか?」
「じゃ、よろしく頼むわ。」
櫻子は、ニッコリ笑った。
・・・オムレツケーキを作りたいなんて、じゃじゃ馬だけど、
やっぱり女の子だな。
「コレ、お祭りの縁日の屋台で、売ったら売れるわよ!」
「縁日の屋台?お嬢様が!?」
蒼一郎が、驚いていると、
「私は、作るだけよ。売るのは、六と、八よ。
親が、煩いもの。」
と櫻子は、笑った。
お祭りの日の朝、櫻子は、オムレツケーキを沢山作った。
「今日は、頑張って売ってね。」
リヤカーに、乗せて、八に、言った。
「姫さん任せて下さい。」
八は、人のいい笑顔で、笑った。
「六さんは、もう屋台で準備ですか?」
蒼一郎が、尋ねると、
「六は、クワガタと、カブトムシを売るのよ。
罠を仕掛けていたんで、取りに行ったわ。」
「クワガタと、カブトムシも売るんですか?」
「結構いい値で、売れるのよ。」
櫻子は、楽しそうに言った。
昼頃、櫻子は、弁当を作って、
「蒼一郎さん、お昼の用意は、終わったでしょう?
六と、八にお弁当を届けるからついて来て。」
「はい、解りました。」
櫻子に、ついて神社に行くと、沢山の屋台が出て、沢山の人が、
往き来していた。
そして、ひときわ人だかりが出来ている屋台が、あった。
『オムレツケーキ』の屋台である。
「すいません、もう売り切れです。」
八が、すまなそうに、謝っていた。
「八、大盛況ね、もう売り切れたの?お弁当持って来たの。
アンタ達が、食べている間に、蒼一郎さんに、店番
させようと、思ったけど、すぐ戻って、作ってくるわ。
コレ、六と交代しながら食べてね。」
櫻子は、お弁当を渡して、慌てて家へ、帰った。
バタバタと、オムレツケーキを作って、リヤカーに、
乗せて、蒼一郎に、運ばせた。
そして、オムレツケーキは、ドンドン売れていった。
隣の六のカブトムシと、クワガタの店も大繁盛で、
ある。
「大繁盛ですね、何でも買って貰えるお嬢様なのに、何で、
お金儲けするんですか?」
蒼一郎が、不思議そうに聞くと、
「お金は、あれば、あるほどいいわ。
お金が、あれば大抵の事は、解決するのよ。
本当は、私もお店に、立ちたいけど、親が煩いの。」
櫻子は、残念そうに、言った。
周りは、綺麗な着物姿なのに、作務衣とモンペ姿で、
商売に、勤しむ櫻子を理解に、苦しんだ。
道行く人が、振り返る美貌なのに・・・。
すると、
「お前達、誰に許可を貰って、ここで商売している!」
チンピラが3人やって来た。
「神社に、許可は、貰ってますが。」
八が、言うと、
「ここは、岡野組のシマだ、シャバ代を払ってもらわない
となあ。」
三人は、八に、絡んだ。
「何で、アンタ達にシャバ代払わないといけないの?」
櫻子は、ほっかむりをして言った。
「お嬢ちゃんは、ひっこんでな!」
「汚い手で、触るんじゃないわよ!」
櫻子を払おうと、するその手を掴んで、櫻子は、チンピラを
投げ飛ばした。
「何しやがる!このアマ!」
他の二人のチンピラも襲い掛かってきたが、次々と、
投げ飛ばした。
「ち、畜生!覚えていろ!」
チンピラは、捨て台詞を言って、逃げて行った。
蒼一郎は、あまりの事に、唖然とした。
「流石、姫さん!強いのう!」
六と、八は、大絶賛だ!
すると、
「お前が、家の若いもんを可愛がってくれたねーちゃんか?」
さっきのチンピラが、ちょっとヤバそうな男を連れて来た。
「そうよ、アンタが、こいつらの親分?
教育が、なって無いわね。」
櫻子が、言うと、
「大変だ!猪が、こっちに来る!?」
大きな叫び声がした。
ド、ドドッー!!!猪が、恐ろしい勢いで、走って来た!
皆は、右往左往と、逃げ回った。
すると、櫻子は、屋台の下から薙刀を取り出した。
そして、ブン!と、一振り!猪に、向かって、走り出した!
そして、ふいに、横に避けて、ジャンプして!猪の頭蓋骨を
強かに、叩いた!すると、猪は、ヨタヨタと、した所を
櫻子は、心臓を一突きした!
「ブオォオオ!」
悲鳴を上げて、猪は、絶命した。
「わ~!」「ヒュ~ッ!」
周りは、拍手喝采で、ある!米兵も口笛を鳴らして、
大喜びで、ある。
「This is a thug and an American,
When they do something wrong, they have it to make them pay.
(これは、チンピラやアメリカ人が、悪さをした時、成敗する為に
、持ってるのよ)」
と、叫んだ。
「Oh! Scary!!」
米兵も怯んだ。
櫻子は、さっきのチンピラ共を睨んで、
「で、何の用だったかしら?」
「いえ、いいです。」
チンピラは、すごすごと、逃げだした。
すると、
「すまんのう、姫さん、近くの畑に、出た猪なんじゃが、
儂が仕留め損ねて、ここまで逃げて来てしもうた。」
猟師が、鉄砲を持って、慌てて、走ってきた。
「あ、仁平おじさんが、追ってたの?
じゃあ、バラすの手伝って、明日は、ここで、牡丹鍋売るから。」
「え?牡丹鍋・・・売るんですか?」
蒼一郎が、唖然と、していると、
「もちろんよ!明日、この猪の牡丹鍋を売ります!
よろしくね!」
櫻子が、叫ぶと、大歓声が、沸いた!
「・・・そんなに簡単に、猪って、倒せるんですか?」
蒼一郎が、尋ねると、
「とんでもない!姫さんは、慣れてるから旨く急所を攻撃して、
心臓を一突きだからな達人じゃなきゃ無理だ。
真似しちゃいかん、猪に、出会ったら、すぐ木に、登るんじゃぞ。」
仁平は、言った。
「姫さんは、もっと、でかい猪を倒した事もあるぞ。」
八が、言うと、
「いらない事言わないの!さ、リヤカーで仁平おじさんの家に、
運ぶの手伝って!」
櫻子は、言った。
蒼一郎は、猪を運ばされて、解体を手伝わされた。
櫻子の慣れた手つきに、驚いた。
「お嬢様、こういうの平気なんですか?」
「山で、鹿や猪に、何回か遭遇して、倒した後、解体を
手伝ったもの。」
涼しい顔をして、解体している。
「それから猪を倒したのは、私じゃないって事に、してね。」
「え!じゃ、誰が倒した事にするんです?」
「通りがかりの見知らぬ、強い娘さんよ。」
・・・それ、相当無理なんじゃないだろうか・・・。
蒼一郎は、あきれ果てた。
すると、屋台を片付けた、六と、八が、やって来た。
「姫さん、手伝うぞ!」
「あ、六、コレ家まで運んで。」
六と、櫻子が、リヤカーの方へ、行った時。
「姫さんのやらかした事は、内緒になあ。
儂と、六は、家が貧乏で、高校なんて行けなかったんだが、
口止め料に、殿さんが高校の学費を出してくれてるんじゃ。」
八は、コソッと、言った。
「お嬢様が、作務衣とモンペ姿で、ほっかむりをしているのは、
変装なんですか?」
蒼一郎が、聞くと、
「そうじゃ、昔は、この辺りのお殿様だった綾小路家のお嬢様が、
猪を打倒す達人じゃ縁談に、障るからな。
姫さんは、頭が、良くて、面倒見もいいし、あのとおり豪気で、
商売の才まである。
亡くなった大殿さんも、殿さんも姫さんが、男だったらと、
嘆いているからな。」
八は、言った。
「確かに、女にしておくには、凄すぎですね。」
蒼一郎は、ひきつりながら言った。
翌日神社の、「オムレツケーキ」の屋台で、売られた牡丹鍋は、
大盛況だった。
「神様が、神社に届けてくれた賜り物の猪だ!
御利益間違いなしだ!」
八は、元気よく売っていた。
「よく売れてるわね~。」
櫻子が、嬉しそうに言うと、
「お嬢様は、商売上手ですね。」
蒼一郎が、言うと、
「私には、目標があるの。
家を出て自活するつもりよ、自由に生きるの。
六や八も東京へ、行く為に、お金を貯めているの。」
櫻子は、目をキラキラさせて言った。
・・・夢か・・・俺も立派な料理人を目指していて、
自分の店を持つのが夢だったな。」
蒼一郎は、ぼんやり考えた。
それから蒼一郎は、櫻子に、突き合わされて、野山を
色々な食材を集めたり、獣を狩ったり、屋台を出すのを
手伝わされたりと、大忙しだった。
正月に、なると、櫻子が、着物を持って来た。
「私が、縫ったの着てみて。」
「こんな立派な大島の着物頂けません。」
総一郎が、慌てて言うと、
「この着物の反物は、分家の叔父様、貴方のお父様が、
送ってきたの。
ほら私の着ている着物の反物も送ってきたの。
だから気にしないで、貰って、櫻子は、桜色の美しい
友禅の桜の花が舞っていている着物を嬉しそうに、
見せた。
叔父様に、お礼の手紙でも書いておいて。」
櫻子は、そう言って着物を渡した。
着物は、丁寧に縫われていた、じゃじゃ馬の櫻子からは、
想像できないが、裁縫の腕も相当良かった。
思わず笑みが、こぼれたが・・・。
「・・・お嬢様とも、もうすぐお別れだ。」
蒼一郎は、4月から又、東京で働く事に、なった。
父の紹介で、小料理屋で、雇ってもらえる事に、なったのだ。
もう一度、料理人の修行して、夢だった自分の店を持とう
と、蒼一郎は、密かに心に誓っているのだった。
そして、花のつぼみの膨らみにも春色の深まりが感じられる
三月の終わりに、蒼一郎は、綾小路本家を後にして、東京に、
降り立った。
蒼一郎は、父から紹介された、小料理屋の戸を開いた。
「ごめんください。」
蒼一郎が、呼ぶと、
「はい、ただいま!」
出て来た人物を見て、蒼一郎は、仰天した!?
「お嬢様!何で、ここにいるんですか!?」
驚く蒼一郎に、ニッコリ微笑んで、
「ここは、私のお店なの。女将の櫻子です。」
「たしか、綾小路家本家で、お別れしましたよね。」
「あの後、車で、駅に先回りして、1本早い汽車に乗ったのよ。
この店は、分家の叔父に、用意してもらったの。」
「何で、父が、貴方にそこまでするんですか!?」
「叔父様が、商売が、旨くいってない時に、父にお金を
借りに来たんだけど、父に断られてね。
困ってらしたので、大金を貸したのよ。」
「何で、そんな大金を持ってるんですか!?」
「今まで、屋台で、儲けたお金を株取引で、成功している
姉の旦那様に、預けたら吃驚するほど、大儲けしたのよ。
叔父様も商売を持ち直して、貸したお金も利子付きで、
返って来て、このお店を持つ事も出来て、叔父様に、
たっぷり恩を売れたと、いう訳。
叔父様は、もう、私の手先よ、ほっほっほっ!」
櫻子は、高笑いをした。
あまりの事に、蒼一郎は、唖然と、してしまった。
「何で、黙っていたんですか!」
「吃驚させようと、思って。」
「心臓が、飛び出るかと思いました!何でこんな事をしたんです!
女学校を出てるんだから教師とかできるでしょう?」
「父様が、連れ戻しに、来たら速攻クビになるじゃない。
それに、貴方、自分の店を持つのが、夢って言ってたじゃない。
結婚して、二人で、この店をやっていきましょう。」
櫻子は、さらりと、プロポーズした。
「あの、お嬢様、俺は、とてもお嬢様を幸せに、する自信なんて、
ありませんが。」
蒼一郎が、困惑していると、
「この綾小路櫻子をみくびらないで!誰が、貴方に幸せにして
くれって言ったの?
美貌、知力、体力、人望、金運、時の運、全てを兼ね備えた
綾小路櫻子が、貴方を幸せにしてあげる!
私と、結婚したら、10倍楽しい人生よ。
だから黙って、私に、ついて来てね。」
櫻子は、ドヤ顔で、ほほ笑んだ。
「・・・負けました、でも、お嬢様、俺のどこを好きになったん
ですか?」
「そりゃ、こんな男前の割には、すれてなくて、真面目で、
山で獣狩っても、畑で、食物を作っても、屋台の準備させても
黙ってコツコツ尽くしてくれたじゃない。」
櫻子は、素晴らしく美しく微笑んだ。
そして、何か言いたそうな蒼一郎の口を自分の唇で、塞いだ。
「・・・と、いう訳だったの、後は、みっちゃんの力もあって、
店は、大儲けで、支店も沢山出来て、大きな会社に、なったんだよ。
でも、みっちゃんが、こっちに来たから櫻子ちゃんの実家は、
傾いたんだ、ね、蒼一郎さん。」
見ると、いつも間にか、大島の着物姿の白皙の美青年が、
オムレットケーキを食べていた。
「う~ん、美味いな櫻子さん、又腕を上げたな。」
・・・なんとなく蒼一郎さん、目線の話だと、思ったら
いつも間にか本人が、話していたのか・・・。
「あの・・・おばあちゃんに、会わなくていいの?」
「もう、会ったよ、でも、櫻子さんには、俺は見えないみたい
なんだ。
そろそろ帰らないとね、櫻子さんは、まだ、当分こちらには、
来そうにないしね。」
蒼一郎が、立ち上がると、
「法事終わったわ、疲れた。」
そう言いながらおばあちゃんと、六爺ちゃん、八爺ちゃんが、
入って来た。
「オムレツケーキと、プリンか、蒼一郎さんに、初めて
食べさせて貰った時、あんまり美味いんで、吃驚したな。」
3人は、座ってオムレツケーキを食べ始めた。
「蒼一郎さんは、姫さんと、いて、10倍楽しい人生だった
かもしれんが、10倍苦労もあったろうなあ。」
六爺ちゃんが、言った。
「男より強い姫さんが、嫁さんだからな、
昔、店で、暴れた2mぐらいの巨漢の米兵を投げ飛ばした時は、
他の米兵が、腰抜かしていたな。
ま、猪や熊に、比べたら大した事は、ないんだろうが。」
八爺ちゃんは、笑った。
「煩いわね!いざとなったら女は、強いのよ!
知ってる?ウクライナでは、小さい軍服が、足りないの。
何でだと、思う?
女性の志願兵が、想定外に、多いからなのよ。
しかも、普通の主婦も多いのよ。」
おばあちゃんが、言うと、
「え!ウクライナの女の人って、勇ましいのね。」
クロちゃんが、驚くと、
「ロシア兵が、悪逆非道だからよ、乱暴されて、拷問されて、
略奪されて、なぶり殺しされるのよ!
子供を守る為よ、守る者があると、女は、強いのよ。」
「あ、そうか、ママもそうだもんね。」
クロちゃんが、ふと、蒼一郎を見ると、
「櫻子さん、相変わらずだな。
俺を厄介者あつかいして、使用人みたいに、使っていた、
父も、父の本妻も、ひれ伏していたらな。
俺にまで、ペコペコしてして、何とも言えない気分だった。
楽しく暮らしているみたいで、良かった。
又、お盆に、様子を見に来るよ。」
そう言って、蒼一郎は、櫻子を抱きしめて、消えてしまった。
「さようなら。」
クロちゃんが、呟くと、
「どうしたの?」
「今、おばあちゃんの旦那さんが、来ていたの。
凄く、イケメンだった。」
クロちゃんが、言うと、
「どこ!どこ!貴方!」
おばあちゃんが、探し回ると、
「法事の間、ずっと、櫻子ちゃんの後に、いたらしいよ。
みっちゃんと、クロちゃんは、下っ端の福の神だから
見えたんだよ。」
みっちゃんは、言った。
「何か、言ってた?」
「おばあちゃんは、当分、こっちに来ないって、
楽しそうに、暮らしていたんで、安心したって言ってた。
又、お盆に、来るって。」
クロちゃんが、そう言うと、
「・・・見えなくてもいいから今度見かけたら
教えてね。」
おばあちゃんは、少し寂しそうに、言った。
・・・おばあちゃん、寂しいんだな。
「ま、クヨクヨしても仕方ないわ、今夜もお御馳走
沢山作って、お酒飲んで、ぱあっと、騒ぎましょう。」
おばあちゃんは、笑った。
すると、大皿に盛ってある、メロンと、カステラを見つけて
「お、旨そうなメロンと、カステラもあるな。」
六爺ちゃんが、言うと、
「あ、それ、おばあちゃんの長男さんの鬼嫁さんの
お土産です。
おばあちゃんの事を『よろしくお願いします』だそうです。」
チョコが、言った。
「まったく、あの鬼嫁は、いつも余計な事を!」
おばあちゃんは、きまり悪そうに言った。
・・・最強のおばあちゃんにも苦手な人は、いるんだな。
クロちゃんは、思わず顔がほころんだ。




