又べえ
街が、桜で薄紅色に染まる頃、クロちゃ
んは、小学生になった。
ピカピカの青いランドセルは、大好きな
スヌーピーバージョンだ。
新しい友達も出来て、学校は楽しい。
外人と、絡んでくる馬鹿がいたが、
早口の英語で、威嚇したら、ビビッて
滑稽だった。
それでも、乱暴してくるヤツを
「クロちゃん喧嘩は嫌いよ!」
といって、反撃してやっける。
日頃から、兄ちゃん達と格闘している
クロちゃんの敵ではない。
喧嘩は嫌いだが、勝つのは気持ちがいい!
いい気分で家に帰り着いた。
すると、おばあちゃんの家の前で妖怪が、
2匹言い争っていた。
「お前なんぞ知らん!さっさっと出ていけ
!」
怒鳴っているのは、源太親方。
最近みっちゃんが、スカウトしてきた庭師の
妖怪で、腕が良く、よく働くので、おばあちゃん
の家の庭は、手入れしなくてもよくなった。
が、顔が怖いのが難点だ。
「な、親方、今度はちゃんと修行する!
この通り!」
ペコペコと、頭を下げる間抜けな顔の妖怪に
見覚えはなかった。
「信じられるか!」
と、怒鳴って、その妖怪を殴って戸をしめて
中に入ってしまった。
「親方~~。」
その妖怪は、半泣きで親方をよんだ。
「どうしたの?」
その姿が哀れで、可哀想になったクロちゃん
は、妖怪に話かけた。
「誰だ?」
「クロちゃん、このお家の隣のお家の子よ。」
妖怪は、目を輝かせていった。
「俺は、又べえ。源太親方の弟子だ。
親方は、又べえの方が才能があるんで、疎ま
しくなって、追い出すんだ。」
又べえは悲しそうに言った。
「それは可哀想ね。」
クロちゃんが気の毒そうに言った。
「そうだ、クロちゃん!又べえをクロちゃんの
家の庭師にしてくれ!
又べえは、庭師だ!庭の手入れをできないのは
寂しい。
又べえを庭師にしたら、庭掃除しなくてよく
なるぞ!な、いいだろう?」
「クロちゃんは、わからないわ。ママに聞いて
みないと。」
「じゃ、ママに聞いてくれ!又べえ行く所がな
い。な、たのむ。」
又べえが涙を浮かべた。
クロちゃんは、可哀想になった。
「ただいま~。」
「クロちゃん、お帰りなさい。」
ママと、おばあちゃんが迎えた。
二人は、桜餅を沢山作っていた。桜の香りが
鼻をくすぐった。
「おやつは桜餅!美味しそう!」
「手を洗って食べるのよ。」
ママが笑った、が桜餅作りで疲れきっているよう
だ。
不器用なママは、今日もおばあちゃんに、しごか
れたようだ。
「桜餅は、お家でも作れるのね、おばあちゃん
凄いね!」
クロちゃんが驚いたように言った。
「おばあちゃんは、色々作れるのよ!生きている
うちにママに伝授するわね。」
え!ママはげっそりした。
「ママあのね、庭師の妖怪がいてね、家の庭師に
なりたいらしいのいいかしら?」
クロちゃんが尋ねると、
「いいんじゃない。」
ママが何も考えずに返事すると、
「やった!やった!」
又べえは、大喜びで庭に走って行った。
「奥さん、妖怪でしょう?そんなに簡単に決めてい
いの?」
おばあちゃんが言った。
「え、でも、おばあちゃん家も庭師の妖怪いて、庭
の手入れしてくれて、助かってるんでしょう。」
「あれは、みっちゃんが連れ来たのよ。
悪いものだったら、どうするの?」
おばあちゃんに言われて、ママは急に心配になった。
「お庭見てくる!」
クロちゃんが、心配になって庭に行った。
庭では、又べえが枯れ葉を集めていた。
「あら、綺麗になっている」
クロちゃんが驚いていると、
「まあ、綺麗に掃除してくれたのね。」
ママが喜んだ。
「よかったわね、取り越し苦労だったわね。」
おばあちゃんも嬉しそうである。
クロちゃんもホッとしたが、親方が怒って
いたのが気になる。
ママは、桜餅を皿に乗せてきて、
「お掃除終わったら、食べてね。え~と
なんていう名前?」
「ママ、又べえよ。」
「又べえ、食べてね。」
又べえは、掃除を途中でやめて喜んで桜餅を
ほおばった。
「ママは優しいなあ、この家気に入った!」
なんとなく、クロちゃんは不安になった。
次の朝庭を見てクロちゃんは驚いた!お寺
や神社のような見事な枯山水の庭に、なって
いたのである。
「凄いわ!又べえ大したものだわ。」
おばあちゃんが関心していた。
又べえは、玉砂利の模様を描いていた。
「おはようクロちゃん、立派な庭になっただろう?」
自慢げに又べえは、言った。
確かに見事ではあるが、洋風のこの家には似合わない
と思うのだが。
ママも複雑な表情を浮かべていた。
ここまで見事だとやり直せとは言いにくい。
気にはなるが、遅刻するのでクロちゃんは学校に行く
事にした。
気になって庭の中を通ると、玉砂利は踏むとザクザク
する、転んだら痛いだろうな。と思った。
すると、ヒラヒラと蝶々が飛んで花にとまったとたん、
花がパックンと、蝶々を食べてしまった。
・・・みっちゃんに相談しょう。
クロちゃんは思った。
学校から戻ると、香ばしい香りがした。
ママとおばあちゃんは、苺パイを作って
いた。
「クロちゃんお帰りなさい、おやつよ。」
ママがまた、ゲッソリとして言った。
今日もしごかれたのね。
テーブルでは、可愛い花柄の皿の苺パイを
お政さん、お梅ちゃん、蛍ちゃんが食べて
いる。
家のお手伝いをしてくれている妖怪達だ。
もちろん、ママやおばあちゃんには見えて
いないが、おやつを用意する事にしている。
お政さんは、女中さんの妖怪で、二十代後半
くらいで、家中の家事をそれとなくこなして
くれている。
お梅ちゃんは、15歳くらいで、お掃除をして
いる。
蛍ちゃんは、8歳くらいで主にクラリスの子守
をしてくれている。
年齢は見た目の話だが、本当の年齢は謎である。
「美味しいね。」
「苺のいい匂い、クリーム美味しい。」
「カスタードクリームと、生クリームと苺、
サクサクパイのハーモニー!最高よね。」
キャッキャッと楽しそうだ。
「クロちゃん、悪いけど、みっちゃん達にも
苺パイ持って行ってくれる?」
おばあちゃんは、苺パイの乗ったお皿をクロ
ちゃんに渡した。
渡り廊下を通ってクロちゃんは、おばあちゃ
んのお家に行った。
庭に行くと、縁側でみっちゃんが日向ぼっこを
していた。
「あ、クロちゃんお帰り!わあ!苺パイだあ!皆
食べなよ!」
庭では、親方が一生懸命松の木の剪定をしていた。
「ここのキリがついたら貰うよ!」
親方は、真面目で働き者だ。
石は綺麗に苔むして、芝生が植えられいる。
所々に四季折々の花も植えられていた。
綺麗な庭だと思う。
裏では、菜園の世話をゴンベエがせっせとしている。
ゴンベエは、大根の妖怪だ。
何だか姿もどことなく大根っぽい。
縁側の奥の部屋では、歳さんが薬を調合していた。
歳さんは、人間だった頃は医者だった妖怪だ。
見た目は、四十くらいの落ち着いた先生という感じ
である。
縁側で、歳さんが入れてくれたお茶を四人で飲んで
いた。
「あのね、みっちゃん家に又べえて言う庭師の
妖怪が住む事になったんだけど。」
「又べえだと!!、すぐ追い出せ!あいつは
ろくな事をせんぞ!」
親方が怖い顔で怒鳴った!
「あいつの育てる草木はな食虫植物なんじゃ。
・・・というか、スズメや、猫も食ったな。」
苺パイを食べながら、親方は言った。
「自分で、肥料を確保しているから自然の摂理には
反していないが、人間は襲わないのか?」
歳さんが聞くと、
「さあな、知らんだけかもしれんし、もともと
あいつは、昔の死刑上の首切りの場所の近くに
生えていた、たんぽぽでな、根をはって血を吸って
二百年生きぬいて妖怪になったらしい。」
血吸いたんぽぽだったのね。
「だから、考えや、感覚がずれてるんじゃ。
ま、おかしな事をせん内に退治しといた方が、
いいかもな。」
親方は言った。
何も退治しなくても。
「みっちゃんはどう思う?」
「悪さしたら、すぐ退治しょう。」
パイを食べながら、みっちゃんは言った。
「大黒天のおっちゃんは、何ていうかしら。」
クロちゃんが呟くと、
「悪さしたら、すぐ退治してやるよ。」
いつの間にか、大黒天のおっちゃんは、皆と
一緒に苺パイを食べていた。
「神様なんだから改心させられないの?」
「おっちゃんは、お金持ちにしたり、豊かに
する神様だから専門外だ。うまいなコレ。」
おっちゃんは、苺パイを飲み込んで答えた。
クロちゃんは、複雑な気持ちで、家に帰った。
庭を見ると、又べえが石楠花に水をやっていた。
「あ、クロちゃん!石楠花が綺麗に咲いたぞ!
ママにやってくれ!苺パイ旨かった!桜餅も
旨かった!お礼だ!」
そう言って切った石楠花を渡した。
「ありがとう。」
そんなに悪い妖怪に見えないけど。
「まあ綺麗!」
ママは、喜んで花瓶にかざった。
すると、石楠花から長い舌が、がシュール!と
出て、近くを飛んでいたハエを捕まえて
パックンと食べてしまった。
「え?」
ママと、おばあちゃんの目は点になった。
また、近くをゴキブリがゴソゴソしてるのを
長い舌で捕まえて、パックンと食べてしまった。
「・・・凄いわ!悪い虫食べてくれるのね!」
ママは、喜んだ!
「まあ!、綺麗な上に害虫駆除してくれるなんて!
凄いお花ね!クロちゃん、家にも欲しいわ!」
おばあちゃんも嬉しそうに言った!
「もっと、家中に置いとくといいわね!」
二人とも大絶賛である!
え、いいの?
「沢山育てられるなら、売り出してもいいわね。」
おばあちゃんは楽しそうに、算段しだした。
「あのね、ママ、おばあちゃん、実はね。」
クロちゃんは、又べえの事を心配そうに話した。
すると、おばあちゃんが
「大丈夫、虫食べてくれると助かるし、庭に来た
すずめ食べられても、困らないし。
猫は、野良猫でしょう?植木におしっこすると、
枯れちゃうから、別にいいんじゃない?」
「もし、飼い猫だったら?」
クロちゃんは心配そうに聞いた。
「運が悪かったのね、大丈夫、猫飼ってないから。
金魚とかは、そばに置かない方がいいわね。」
クロちゃんの心配なんぞどこ吹く風である。
「もし、人を襲ったら?」
「クロちゃんの神様と、みっちゃんが退治して
くれるんじゃない?」
素晴らしいポジティブな思考の持ち主である。
凄い人だ、だから成功するのね。
「玉砂利をどけやがれです!転んで怪我したじゃ
ないですか!」
庭の方からチョコの怒鳴り声が、聞こえた。
どうやらキャッチボールをしてコケて、怪我をした
らしい。
「元の芝生の庭の方がいいよな、もどせよ。
寝転んだりできないだろ!」
セヒも怒っている!
「この庭は、親方も誉めていた、お寺の庭を再現した
んだぞ!」
又べえもひかない!
「さっきその花!蝶々食べてました!家を化け物屋敷に
するきですか!!所詮妖怪ですね!出ていけ!」
チョコ兄ちゃんは、又べえが使っていたほうきを取り
上げ、又べえをバンバンたたいた!
すると、松の木は、チョコを捕まえて、
パクンと食べた。
「あー!チョコ食いやがったな、このやろ!」
セヒ兄ちゃんは、あわてて、ほうきで松の木を
バンバン叩いた!
「又べえ!なんて事しやがる!」突然、源太親方が
現れ、巨大なハサミで松の木の根元をジョッキン!
と切った!中からチョコがポロリと出てきた!
「もう、許さん!こうしてやる!」
親方は、又べえが植えた草木を切り始めた!
草木もおとなしく切られは、しなかった!
長い舌で親方に襲いかかる!親方は、ヒラリと
よけては、ハサミで切った!
木の枝も襲いかかったが、瞬く間に切られて
しまった!
そして又べえが、植えた全ての草木が斬り
倒されてしまった!
「さあ、次は又べえ!お前の番だ!」
親方の目がギラリと光った!
滅茶苦茶怖い!又べえは身体中の血の気
がひいた。
「ちょんぎってやる!」
親方がきりかかった!
「ひぇ~!」
又べえは悲鳴をあげた。
「待って!今のはチョコ兄ちゃんが悪いわ!
退治したら、可哀想よ!」
クロちゃんが叫んだ!親方がピタリと止まった。
「だかな、クロちゃん、コイツはまた同じ事を
するぞ!取り返しがつかない事になったら
どうする?」
と、親方が尋ねた。
「でも~。」
又べえは、つぶらな瞳で助けてくれと訴えている。
クロちゃんが困っていると、
「どうしたの!庭が滅茶苦茶じゃない!」
ママが叫んだ!
「あら~凄いわね!妖怪が喧嘩でもしたの?」
おばあちゃんが言った。
「あ、おばちゃん!チョコ兄ちゃんがキャッチボ
ールしていてコケたら、下が玉砂利だったんで
ケガしたの。
で、又べえに玉砂利どけろって言ったら、
又べえが嫌って言ったの
で、「出ていけ!」てチョコ兄ちゃんが
又べえをほうきで叩いたの。
そしたら、松の木が怒ってチョコ兄ちゃんを
食べたの。
それを見た親方が怒って、草木を切り倒したの
・・・で、怒って又べえを退治するって
いうの。」
泣きそうなクロちゃんを見て、おばちゃんは、
言った。
「親方、チョコちゃんにも非があるみたいだから
今回は、大目に見てくれないかしら。」
「又べえ、ここは子供が多いからケガしないように、
芝生を敷き詰めた、洋風の庭にしてくれない?
それから、あなたの草木に虫より大きな動物を
獲らないようにしてくれない!」
おばあちゃんは、話しかけた。
「できないなら、退治するわよ!どうするの!」
おばちゃんがドスのきいた声で怒鳴ってた!
こわ~!
「わかった、言う通りにするから助けてくれ!」
又べえは、あわてて親方に言った。
親方は、チィッと舌打ちして、
「大奥さんがそう言うなら、仕方がない!
もう悪さするんじゃないぞ!」
と、又べえを離した。
又べえはクロちゃんにしがみ付いて
「ありがとう、クロちゃん!又べえはクロちゃんに
一生ついていくぞ!」
・・・それは、ちょっと、嫌だわとクロちゃんは
思った。
「さ、又べえ庭直すぞ!」
二人は、庭を直し始めた。
庭がかたずけ始められたのを見て、おばあちゃんは、
やれやれと言った。
「あ、おばあちゃん、ありがとう収まったわ。」
クロちゃんがお礼を言うと、
「いいのよ、クロちゃん。
あの石楠花売り出そうと思っていたから、又べえ
退治されなくてよかったわ。」
え・・・?
「綺麗で、虫まで退治してくれる花なんて、1本1万でも
欲しい人いるわね!」
・・・流石だ、商魂逞しい。
「また、儲かるわね。櫻子ちゃん。」
みっちゃんが笑った。
「たんまり儲けさせてやるぞ。」
大黒のおっちゃんも笑った。
その後、庭は芝生を敷き詰めた洋風のお洒落な庭に
なった。
「住む人が心地いいと思わせる庭を造るのが、
庭師だ!わかったか!又べえ!」
と親方は言い聞かせ、又べえをビシバシ修行
させた。
害虫退治する石楠花は、大評判で
おばあちゃんは、大儲けをした。
「馬鹿と妖怪は使い様よ!」
ホッホッ!とおばあちゃんは、高笑いをした。
凄い言われようだが、妖怪達もただ苦笑いをしていた。
今回は、おばあちゃんの一人勝ちのような気がする。
でも、あの花1本1万円って、ぼったくりなんじゃない
かしら?と思うけど、おばあちゃんに言えない
クロちゃんだった。