節分
梅のつぼみも膨らみ始め、春の兆しを感じる頃、クロちゃん神社
では、節分の用意をしていた。
神社の花壇には、又べえが作った節分草を親方と又べえが
植えていた。
お多福が鬼に豆を投げている可愛い花だ。
「今度の花も可愛いわね。」
クロちゃんが目を細めると、横には親方が咲かせた能役者の
ような立派な節分草を親方が植えていた。
「こっちも見事ね、みんな喜ぶわね。」
クロちゃんが言うと、
「節分には、イベントで鬼に豆をまいて退治するんだってな
楽しみじゃな。」
親方が言った。
「頑張るわ。・・・最近、歳さん帰って来ないわね。」
「中国の悪い風邪の患者を診てるんじゃよ。
治療法を調べているらしい、ほら1月の終わりに
外国の豪華客船で、クラスターが発生して大変じゃった
からな。」
親方が心配そうに言った。
「悪い風邪は、他に病気を持っている人がかかると、死んじゃう
事もあるって言ってたものね。」
ふと、周りを見るとマスクをしている人が増えてきた。
「クロちゃん、亀ちゃんが新作のお菓子を食べに来いって
言ってるよ。」
みっちゃんが言った。
「あ、そうだった、じゃ親方またね。」
クロちゃん達は、亀屋万年堂へ向かった。
「いらっしゃい、クロちゃん!」
亀ちゃんが愛想よく迎えた。
早速、新作のお菓子が運ばれてきた。
「最中の皮に求肥と、つぶ餡と苺を挟んだんだ。」
一口食べると、サクッと香ばしい最中の香りがして、
求肥と、白餡の甘さと、甘酸っぱい苺のハーモニーが口いっぱい
に広がった。
「美味しい!サクサクの最中と餡の甘さと、求肥がモチっとして
甘酸っぱい苺が合うわ!」
クロちゃんが言った。
「そうだ、クロちゃん、最近、歳さん見ないね。
病院に泊まりっきり?」
亀ちゃんが尋ねた。
「うん、中国の悪い風邪の治療法を調べているんだって。」
クロちゃんが言うと、
「大変だね、そうだ、これ歳さんに持って行ってくれ。
栗最中と、栗大福、歳さん好物なんだ。」
亀ちゃんに菓子の袋を渡された。
「わかったわ、届けてくるわね。」
クロちゃんは、言った。
神威病院に着くと、受付でクロちゃんは、歳さんを
呼びだして貰った。
が、受付のお姉さんは電話の受話器をクロちゃん
に渡した。
「クロちゃん、わざわざありがとう。
この風邪は、お年寄りが、かかると重症化したり、死んだり
するから直接会うのはやめとくよ。
おあばあちゃんがいるかね、用心しないとね。
私の事は、心配しないように、みんなに言ってくれ。」
「わかったわ、歳さん、早く治療法見つかると
いいわね。」
クロちゃんが言った。
・・・そんなに怖い風邪だったのか・・・。
家に帰ると、おばあちゃんが、ぜんざいを作って
くれていた。
「ほら、暖まるわよ。」
お椀を貰って、クロちゃんは、ぜんざいを食べた。
小豆の香りと、優しい甘さが体を温めた。
「美味しいわ、・・・歳さんね、中国の悪い風邪の
治療法が見つかるまで、帰らなって。
お年寄りが、かかると重症化したり、死んだり
するから直接会うのはやめとくって、電話で話した
だけだったの。」
クロちゃんが心配そうに言うと、
「私に気を使ったのね、家は、クロちゃんの水が蛇口から
出てくるから、よく飲むから心配ないのにね。
ほら、私は日ごろの行いがいいからご加護は、たっぷり
受けれるのにね。」
おばあちゃんが笑った。
「神威病院は、元々歳さんの家だから心配しなくて
いいんじゃない。」
みっちゃんが、言った。
すると、クラリスを肩車して、たろべえがやって来た。
「クラリスご機嫌ね、ママは?」
「ママは、薙刀の稽古だよ、大黒様から薙刀を貰った
んだよ。」
「え!大黒のおっちゃん何でママに薙刀?」
「この間のクロちゃん神社の騒ぎで、ママもみんなを
守らなきゃって、思ったらしいの。」
おばあちゃんが言った。
・・・それで、薙刀の稽古か、ママ頑張るな。
「この家の人は勇敢だね、ママもか弱そうなのに。」
たろべえが言った。
「妖怪又来るかしら・・・それより、中国の悪い風邪が
心配ね、歳さんは、治療法を調べているから、ずっと
家に帰ってないし。」
クロちゃんが心配そうに言うと、
「あ、じゃ星明に聞いてみたら?何か知っているかも
しれないよ。」
たろべえが言った。
佐藤古本屋の二階では、星明が書類にうずもれていた。
「今日は、星明。どうしたの?この書類と、コピーの
山。」
クロちゃんが聞くと、
「歳さんに頼まれて、中国の悪い風邪の資料を集めて
いるんだよ。
全部和訳しないといけないんで、大変だよ。
専門用語が多くてさあ。」
「大変ね、ワクチンできないの?」
「ワクチンは、時間がかかるんだよ。
副作用とか調べたりするから、10年くらいかかるもの
なんだよ。
今は、手っ取り早く、今ある薬で効くのを調べているんだよ。
神威病院だけなら、毎日クロちゃんの水を飲ませておけば、
治るらしいんだけど、遠くには持っていけないし。」
星明が言った。
「無症状者と、軽症者は、ペンペン号で、運ぶまでに
沢山、クロちゃんの水を飲ませて治しているらしいよ。」
みっちゃんが言った。
「ねえ、クロちゃんの水を飲ませて治るなら、歳さん
どうやって調べているの?」
クロちゃんは、不思議に思った。
「重症化しない患者には、色々薬を使って治療
しているんだよ。
このままだと、医療崩壊するって心配していた。」
みっちゃんが言った。
「俺も頑張って、治療薬を探すよ、だからそんなに
心配しくていいよ。」
星明は、そう言ってクロちゃんの頭を撫でた。
「それより、節分の豆まきイベントで、頑張って厄払い
してくれよ。
クロちゃんがやると、効果があるからね。」
星明が言った。
「頑張るわ、星明。」
クロちゃんは、笑った。
すると、背の高い妖怪が入って来た。
「やあ、星明久しぶりだな。
あ、みっちゃんもいたのかい。」
「あ、流帰って来たのか?
何か情報はあったかい?」
「誰?」
クロちゃんが聞くと、
「ああ、流は便利屋でね、世界中回って色々と、探して来て
くれたり、情報を集めたりしてくれるんだよ。
流、コレが噂のクロちゃんだよ。」
流は、クロちゃんを見て
「俺は、流だ、よろしくな。
なるほど、なかなかいい福顔をしているな。
神様達が可愛がる訳だ。」
流は、笑った。
「クロちゃんよ、よろしくね。
クロちゃん、そんなに神様ウケがいいの??」
「ああ、凄く可愛いよ。それに、凄く性格も良さそうだ。」
「え、そ、そうでもないわ・・・。」
クロちゃんは、照れた。
「欲しい物があれば、探してきたり、情報を集めてあげるよ。
遠慮なく言ってくれ。」
流が言うと、
「でも、クロちゃんは、お金ないからお礼できないわ。」
クロちゃんが申し訳なさそう言った。
「そんな物は、いらないよ。
その代わりに、俺をクロちゃんの眷属にして欲しい。」
「え!それでいいの?タダ働きよ。」
クロちゃんが驚くと、
「クロちゃんは、色んな神様からご加護貰っているからね。
クロちゃんの為に働くと、ランクを上げてくれるしね。」
「そうなんだ。でも何で神様は、クロちゃんをそんなに
可愛がるのかしら???」
「可愛い猫や犬を可愛がるに、理由はないさ。
役得だよ。」
星明が言った。
「クロちゃんは、ニャンコなんだ。」
ちょっと腑に落ちないクロちゃんだ。
「流、中国はどうだった?何かわかったか?」
星明が聞くと、
「中国は、あの中国風邪が蔓延しているよ。
原因は、細菌研究所からウィルスが漏れたらしい。
管理が、考えられないくらいにズサンなんだよ。
これから春節で、沢山の中国人が故郷に帰ったり、
旅行したりするから世界中に蔓延するな。」
流は、言った。
「昔流行った、スペイン風邪みたいだな。」
星明が、言った。
「スペイン風邪?」
クロちゃんが聞いた。
「スペイン風邪ていうのは、1918年から1920年に流行した
A型インフルエンザで、感染者数は世界で6億人、死亡者数
は2000万人から4000万人と言われてるんだよ。
日本では感染者数が2380万人、当時の日本人口が5473万人
なのでおよそ人口の半数以上が感染、死亡者が22万人から
38万人と言われているだ。
収束するのに、3年かかったんだよ。
とても怖い風邪だったんだ、それに似ているんだよ。
スペイン風邪って、言うけど発生は、アメリカでね、
イメージが悪くなるからアメリカが、弱かった
スペインの名前を付けたんだよ。」
星明が言った。
「え、そんな事してもいいの?」
「アメリカみたいな強い国は、よくやる事だよ。
中国も中国風邪なんて呼ばせないよ。」
「なんだかズルいわね。」
クロちゃんは、言った。
「そうだね、ズルいね。
しかし、困ったな、蔓延するのは目に見えているな。
急いで薬探さないと、悪いけどクロちゃん、又ね。」
星明は、又調べ始めた。
クロちゃんは、不安な気持ちになった。
クロちゃん神社の事務所では、豆まきイベントの
打合せをしていた。
「福の神は、クロちゃん、みっちゃん、福ちゃんだよ。」
みっちゃんが言った。
「鬼は、誰がするの?」
クロちゃんが聞くと、
「お政さんが鬼だけど・・・女の人に豆ぶつけるのは
どうかな?」
たろべえが言うと、
「俺がやるよ、鬼なんだ。」
流が言った。
「流、鬼だったの!?」
クロちゃんは、ちょっと驚いた。
「ほら!」
流は、鬼になった。目がギラギラとして、スルドイ牙
なかなか怖い鬼だ。
「こわっ!」
クロちゃんは、思わず叫んだ。
「本当に、チビリそうなくらい怖いです。」
チョコが震えて言った。
「本当に怖いぞ、夢に出てきそうだ。」
セピが引きつりながら言った。
クロちゃん達がビビッていると、
「当日は、力いっぱい脅かしてやるよ!」
流れは、楽しそうに言った。
節分の当日は、とてもいいお天気になった。
クロちゃん、みっちゃん、福ちゃんは、お揃いの羽織袴を
着ていた。
着物は青海波、羽織には龍、それに見た事がない妖怪?
「これは、アマビエ様よ。
悪い病から守ってくださると言われているの。」
おばあちゃんが言った。
「今日の厄払いにピッタリね、ありがとう!」
クロちゃんがお礼を言うと、
「はい、クロちゃん。」
みっちゃんが、豆の入った升を渡した。
「あれ、コレ大豆じゃないの?」
クロちゃんは、輝く豆を見て言った。
「隔離世の豆だよ、本当の厄払いをして、病を払うんだよ。」
みっちゃんは、言った。
「さあ、行くよクロちゃん。」
福ちゃんは、言った。
舞台にあがると、歓声がわいた。
すると、流がろどろおどろしく、出て来た。
目は、血走りランランと輝き、口は耳まで裂けて、牙をむいて
いる。
流石のクロちゃんもビビった。
すると、体が浮き、クロちゃん神社のあちらこちらに、
黒い靄のような物が見えた。
「あれは何?」
クロちゃんが言うと、
「あれは、中国風邪のウィルスだよ、あちらこちらのに
見えるだろう、あれを払うんだよ、その隔離世の豆でね。
俺が病の役をやるからね、頼んだよ、クロちゃん。」
流が言った。
すると、流は空を飛びながら黒い靄の方へ行った。
すると、クロちゃん達は、いつの間にかキント雲に乗って
いた。
そして、凄い勢いで、流の方へ向かって行った。
黒い靄の所で流が勇ましく踊った。
「鬼は外!福は内!」
クロちゃん達が豆をが投げるち、豆はキラキラと輝き、
黒い靄を払った。
「わぁ!靄が張れたわ。」
クロちゃんが驚いていると、
「この調子で、クロちゃん神社と、万福商店街を浄化
するよ。」
みっちゃんが言った。
みんなでクロちゃん神社と、万福商店街の豆まきを
すると、黒い靄が晴れて空気まで清々しくなった。
最後に、クロちゃん神社の舞台の上に、みんなは、
降り立った。
すると、クロちゃんがフワリ、フワリと舞い出した。
体が自然と動くので驚いていると、
隣で、みっちゃんと、福ちゃんも同じ舞を踊っていた。
フワリ、フワリと、踊っていると、神社の花々が綺麗
に咲き出して、甘やかな香りを放った。
その何とも不思議で、綺麗な光景に人々は、魅入って
いた。
踊り終わると、クロちゃんは、放心状態になった。
周りの凄い拍手にぼ~っとしてしまった。
「クロちゃん、大丈夫?トランス状態になったんだね。
ほら、大黒様がご機嫌で踊っている。
クロちゃん神社と、万福商店街の浄化が終わって
スッキリしたんだね。」
みっちゃんが言うと、
「そうだったんだ・・・。
あ、豆まだ少しあるね、神威病院もお祓いに行こう。」
クロちゃんが言った。
「あ、そうだね、コレ終わったら行こうね。
この小さな豆袋を観客に蒔いたら終わりだよ。」
みっちゃんは、大きな豆袋の入った升をクロちゃんに
渡した。
クロちゃん達は、それを観客に蒔いた。
「鬼は外福は内!」
観客は、嬉しそうにそれを拾った。
神威病院に着くと、この間は見えなかった黒い靄が
院内あちらこちに見えた。
クロちゃんは、受付のお姉さんに、
「中国風邪を追い払うから、ここで豆蒔きしていい?」
尋ねた。
それからクロちゃん達は、病院中を祓って回った。
「中国風邪の他に、インフルエンザもいたね。」
みっちゃんが言った。
そして、黒い靄がかかっている病室に近づくと、
「クロちゃん、そこは、祓わなくていいよ。」
歳さんが言った。
「え、どうして?」
「そこの患者は、体力があるから薬で治療するよ。
この辺りは浄化しても他は蔓延するよ、
治療薬を試したいんだ、早く治療薬を見つけないとね。」
歳さんは、言った。
「蔓延するの?」
「時間の問題だよ、昔流行ったスペイン風邪みたいに
収束するのに3年くらいかかるかもしれない。」
「妖怪より厄介ね。」
クロちゃんは、複雑な気持ちになった。
「そうなんだ、厄介なんだよ。
でも、クロちゃん達が祓ってくれて、随分綺麗になったよ。
ありがとう。」
歳さんは、言った。
「うん、歳さん頑張ってね。」
そう言ってクロちゃんは、家路についた。
テレビをつけると、中国風邪の感染者のニュースの後、
クロちゃん神社の豆まきのニュースがあっていた。
キント雲に乗って、流を追いかけるクロちゃん達は、
漫画みたいだなと、ぼんやり思った。
「クロちゃん、孫悟空みたですね!今度乗せて下さい
キント雲!」
チョコが言った。
「あれは、いつの間にかでて来て、イベントが終わったら
消えたから乗せられないわ。
それより、中国風邪が蔓延するらしいわ。
とっても怖い風邪で大変な事になるわ。」
クロちゃんが心配そうに言った。
「そうですか、風邪でしょう?それより豆袋を
又べえと沢山広いました、食べましょう。」
チョコは、沢山の豆袋を見せた。
「沢山拾ったのね、全部食べるの?」
クロちゃんが聞くと、
「受験生のお兄ちゃん達に売ります。」
「え!売るの!?」
「一つ千円でどうでしょうか?」
チョコが言った。
「ぼったくりじゃないの!」
クロちゃんが叫ぶと、
「無駄無駄、コイツはサンタさんから貰った
一年間テストの点が30点上がるチョコレートを
一欠けら5千円で受験生の兄ちゃんに売ったんだぜ。」
セヒが言うと
「その兄ちゃんのお友達も欲しがったので、売りました。
みんな5千円で30点が買えるなら安い!
と大喜びでした。
人助けは、いいものです。」
クロちゃんが二の句を付けないでいると、
「ちなみに、みんなで遊んでいるケームソフトと、
Nintendo Switchはその金で買いました。
そう、おまえのお気に入りの『あつまれどうぶつの森』
です。」
「え、そうだったの?よくママは怒らなかったわね?」
クロちゃんが言うと、
「クロちゃん神社に、届いたクロちゃんへのプレゼント
と、言っときました、内緒ですよ。」
チョコは、しれっと言った。
「中国風邪が蔓延するかもしれないのに、
チョコ兄ちゃんは!」
クロちゃんが怒ると、
「あれ、クロちゃんの水で、治るんでしょう?
患者来たら、どんどんクロちゃんの水を
売ればいいでしょう?
ガバガバ飲まして治せばいいです。
クロちゃん神社は、お金がザ~ク、ザ~ク、ザック、
ザック~♪」
と、能天気にチョコは言った。
確かに、そうだけど、大変な事になるのに・・・。
能天気なチョコを見て、なんだか腑に落ちないクロちゃんだった。




