星明
残暑が厳しい夏の昼下がり、クロちゃんは、必死で夏休みの
宿題をしていた。
クロちゃん神社の隅の桜の木の下で、宿題の絵を描いて
いた。
「ふう、暑いわ。」
汗を拭いた。
すると、向こうから星明がやって来た。
「やあ、クロちゃん、夏休みの宿題かい。」
「今日は、星明。今頑張ってるんだけど・・・。
始業式に間に合いそうにないわ。」
「宿題教えてあげようか?」
「絵日記とは、間に合いそうなんだけど。
他に、夏休みの思い出の工作と、絵が出てるの。」
「ほら、妖怪御輿とか、盆踊りとかあったじゃないか。」
クロちゃんは、ため息をついて、
「妖怪御輿は、描くものが多くて、半分も描けてないわ。」
クロちゃんは、描きかけの絵を見せた。
「確かに、沢山の妖怪が参加していたからね。
ま、テキトーに省略してもいと思うよ。
ここ来て描くより、写真見て描けばいいのに。」
「・・・その手があったわ!ウッカリしていた。
家で描こう。
工作も作らないと、困っていたら、留が手伝ってくれたん
だけど。」
「だけど?」
「留が作ると、竹ひごと、紙で作った車、動くのよ。
妖怪に手伝ってもらったのがバレバレだわ。
パパは、チョコ兄ちゃんと、セヒ兄ちゃんの工作を
手伝っているから、クロちゃんの分まで手が回らないし。」
クロちゃんは、ため息をついた。
「大変だね、俺が手伝ってやるよ。
今から家に来ないかい?」
「いいの?」
「任せとけ!」
星明は、笑った。
星明は、近くの古本屋「佐藤古本店」に住んでいる。
古本屋の主は90歳を迎える老人だった。
「爺さん、今帰ったよ!」
「ああ、お帰り星明。」
「お帰りなさい!あら、クロちゃん。」
「美咲さん、どうしてここに?」
「星明が、お出かけしてる間、おじいちゃんを見てたの。」
佐藤老人は、最近は床につく事が多いのだった。
星明は、人間の学生に憑りついて、大学で勉強したり、
店の古本やネットオークションで仕入れた、古本を売ったり
しているのだ。
最近は、床に就く爺さんの代わりに店番したりするので、
自分が留守する時は、美咲コケシを留守番で雇うのだった。
「あ、美咲ちゃん、ありがとね!アイス買って来たよ。」
星明は、アイスの袋を差し出した。
「あ、鶴屋のアイス最中ね!美味しいのよね。」
アイスを見て美咲は、喜んだ。
皆で、アイスを食べながら、星明は、竹ひごと、紙で
車を作ってくれた。
「どうだい!俺あんまりうまくないから、小学生が
作った感じ出てるだろ?」
「うん、ありがとう星明。
じゃ、そろそろ帰るわ。」
「あ、クロちゃん、美咲ちゃんがドライカレー
を作ってくれたんだ、食べていかないかい?」
ドライカレーには、目玉焼きがのっかって
とても美味しそうだった。
クロちゃんは、ゴックンと唾を飲み込んだ。
「残念だけど、家にご飯用意してあるから、帰るわ。」
クロちゃんは、玄関に向かった。
帰り際に、
「じっちゃん、具合悪そうね。」
クロちゃんが言うと、星明は、難しい顔をして、
「ああ、もう歳なんで、そろそろ寿命なんだ。
息子が大阪にいるんで、会いたがってるんだけどさ、
階段から落ちて、骨折して、しばらく動けないらしいんだ。
・・・会わせてやりたいけどな。」
「会えるわよ、大丈夫。」
クロちゃんは、言った。
クロちゃんを玄関先で見送った、星明は、テーブルに
ついた。
ドライカレーと、ツナサラダをパクついた。
「旨いな、爺さん、カレー大好きだろう。」
「ああ、旨いな、ドライカレーとか初めてだよ。
洒落てるな。」
爺さんは、美味そうに食べた。
「沢山食べてね。」
美咲コケシは、言った。
最後にデザートのぶどうを食べて、美咲コケシは、
帰る事にした。
「あ、これ今日のバイト料!ありがとな。
明日も来れるかい?」
「朝ご飯の支度は来れるわ、2時から4時までは鶴屋さんで
バイトするけど、空いてる時間でよければ。」
「それじゃ、明日も頼むよ。
朝、大学の気になる講義があって、行きたいんだ。」
「じゃ、明日ね。
それから、明日、歳さんに来てもらって、おじいちゃん
診てもらった方がよくない?
・・・なんか、よくない気がするの。」
「わかったよ、ありがとうな。送って行こうか?」
「大丈夫よ、クロちゃん神社は、目と鼻の先だし、
誰もコケシ襲ったりしないから。
それに、私案外強いのよ!エイ!」
美咲コケシは、力こぶしを見せた。」
「ハハハハ!頼もしいね。」
星明は、美咲コケシを送り出した。
家の中に入ると、
「美咲ちゃん帰ったかい、いい子だね。」
「ああ、とってもいい子だ。」
「星明の嫁になってくれんか頼んだら、四十九日に成仏
するから、ダメだと言われたよ。
妖怪じゃなかったんだな。」
「嫁・・・。そんな事言ったのか。
美咲ちゃんは、死ぬ前に恋人がいて、今でも時々クロちゃん
神社や、鶴屋に、美咲ちゃんを訪ねてくるんだよ。
美咲ちゃんが、『死んだ彼女』に似てるって言うんだぜ!
今でも好きなんだよ、そいつの事。
でも、四十九日に成仏するから内緒にしとくんだって、
また、悲しい思いさせたくないって、言ってな。」
星明は、寂しそうに言った。
「・・・そうか、せつないな。」
爺さんは、言った。
「あ、明日綾小路の御隠居さんがくるんだ。
お茶菓子買っといてくれないか。
亀屋のカステラを頼むよ。」
「わかった。」
星明は、そう言って、ぶどうを食べた。
翌日、おばあちゃんとママ達は、ピーチフラワーのヨーグルト
ムースケーキを作っていた。
ヨーグルトムースの上に、ワインで赤く煮込んだ薄切り桃
を重ねてクルクル巻いて作ったバラの花を綺麗に並べて、
ミントの葉を散らし、透明感のあるアガーのゼリーで
コーティングした。
とっても綺麗なケーキができた。
「わあ~綺麗。」
「素敵ね~涼しそうで、夏にぴったりね。」
「本当にバラの花みたいですね。」
ママ達は大絶賛だ!
「佐藤古本屋の御主人へのお見舞いよ。
今日、相談事があるっていうの。」
おばあちゃんは、そう言って、ピーチフラワーのヨーグルト
ムースケーキを持って、出掛けた。
佐藤古本屋では、歳さんが佐藤老人を診察していた。
「どうですか?」
「ああ、ありがとう。
大分いいですよ、本当に先生は腕がいいですね。
・・・儂は、あとどれぐらい生きれますか?」
「・・・先が長くない事は、わかりますか?」
「先生が診てくれなかったら、とっくに痴ほうが出て、
寝込んでるんでしょう?
感謝してます、なんらかの形で、治療代を払いたいの
ですが。」
「そうですか、じゃ、星明が寂しがるから、できるだけ
頑張って長く生きて下さい。
治療代は、たまに、星明をこき使うから、気にしないで
下さい。」
歳さんは、言った。
「先生、ありがたいんですが、そういう訳にも・・・。」
と、歳さんと話していると、
美咲コケシが、おばあちゃんを連れて来た。
「今日は、あら、歳さん、診察?
佐藤さん具合はどうかしら。」
「ああ、いらっしゃい。見苦しい姿ですいません。
すいません、御足労願って、
相談できるのは、綾小路の御隠居さんしかいないんですよ。」
「何でも、相談にのるわ。話してちょうだい。」
おばあちゃんは、言った。
クロちゃんは、必死で絵を描いていた、が、今日中にできそう
に無かった。
「間に合わないわ。」
ため息をつくと、
「クロちゃん、宿題は、始業式に全部提出しなくてもいいです
よ。」
チョコが言った。
「え、そうなの?」
「持ってこれなかったとか、忘れたとか、なんとなく引き延ば
しながら提出すればいいんです。」
チョコが得意げに言った。
「多少は、先生も察しが付いてるから、そんなもんだ。」
セヒが言った。
「そうなのか・・・。」
すると、星明が入ってきた。
「今日は、クロちゃん。
今日は、万福商店街に来ないから、来たよ。」
「何の用かしら?」
「あのさ、じいさんの息子をどうにか連れて来たいんだ。
車椅子に乗せて、飛行機に乗るとか。
でも、俺、妖怪だから、いきなり行っても一緒に来てくれるか
どうか。」
「クロちゃんに、連れて来て欲しいの?」
「ダメかい?」
「前、飛行機に乗った事あるけど、搭乗手続きとか大変
だったわ。
新幹線の方がいいかも、でも、クロちゃんみたいな小さな
子が一人で乗るのは、周りが変に思うかも。
カダ兄ちゃんは、宿題で身動きとれないし。
パパか、おばあちゃんに頼んだ方がいいかしら。」
クロちゃんは、考えこんだ。
「星明は、妖怪だけど、元々人間だったから、結構
人間には、近いから、帽子で、角隠して、マスクで
口元隠したら、人間に見えるんじゃない?」
クロちゃんは、言った。
「電話でその息子に、迎えに来るって先に言って、
迎えに言ってもいいかも。」
クロちゃんが、そう言うと、クロちゃんの頭の中から
たっちゃんが、ゴソゴソ出て来た。
「ふぁ~ああ~ねむ~。」
あくびするたっちゃんを見て、
「あ、星明!たっちゃんに乗せていってもらおう!」
「なる、龍なら一飛びだ!」
星明は、うなずいた。
「俺、爺さんの息子に電話してみるよ。」
星明は、爺さんの息子に連絡して、3日後クロちゃんと、
迎えに行く事になった。
3日後・・・たっちゃんが目を覚まさない。
「昨日、『ムーラン』を見て、ちびドラゴン出てて喜んで
たから、夜更かししたのが悪かったかしら。」
鏡を見て、クロちゃんは、つぶやいた。
「ごめんなさい、星明、今日は始業式なんで、学校
行ってくるわ。」
クロちゃんは、学校に行った。
「皆さん、夏休みは楽しく過ごせましたか?」
先生が教室で、話を始めていた。
「夏休みの楽しい思い出を話して下さい。
はい、クロちゃん。」
「はい、妖怪御輿に乗って、パレードしたわ!盆踊りで
妖怪達と、踊ったり、水神様の所に遊びに行ったの、
楽しかったわ。」
ぶっとんだ事をすらすらと、クロちゃんは、言った。
「凄いですね、楽しかったですね。」
先生が引きつりながら、そう言うと、
「先生。」
外から声がした。
皆外を見て驚いた。
水神様がクネクネと、上空を舞っていた。
「うわ~!!」
みんなは、水神様を見て驚いた。
「先生、クロちゃんが宿題を出来なかったのは、色々
事情があったので、大目にみてくれんかの~。」
ぽか~んと、見ていた先生は、
「あ、はい。」
と、生返事をした。
「あ、水神様ありがとう、あ、そうだ!実は、たっちゃんが
目を覚まさないの、クロちゃん乗せて行ってもらおうと
思っていたのに。」
「たっちゃんは、赤ん坊だからの~、儂は、もう帰らんと
いかんから、コレをやる。」
水神様は、ウロコをクロちゃんに投げた。
「それは、空を飛ぶ龍の力を込めた。
妖怪に飲ませて、連れて行ってもらえ。」
「ありがとう、水神様!」
クロちゃんがお礼を言うと、
「また、遊びにくるんじゃぞ~。」
と言って、消えてしまった。
・・・良かった、誰につかおう?
ふと、気が付くと、周りは、水神様を見た興奮で
盛り上がった。
「初めて水神様見た!」
「私、スマホで写真撮った!」
「俺、動画撮った!」
「流石、クロちゃん大明神だね!」
・・・なんか凄い騒ぎだわ・・・早く家帰れるかしら・・・。
クロちゃんは、家に帰りついた。
もう、クラスのみんなに、質問されたり、祀り上げ
られたり、疲れてしまった。
「ただいま~。」
「お帰り、クロちゃんご飯食べる?
ドライカレーよ、美咲さんから習ったの。
美咲さん来てるわよ。」
台所に行くと、テーブルに美咲コケシが座って待っていた。
「お帰りなさい、ご飯食べたらクロちゃんを連れて
来てって、星明さんから頼まれたの。」
「わかったわ、食べたら行くね。
わあ!美味しそう!食べたかったの。」
クロちゃんは、目玉焼きのきみを潰して、ドライカレー
パクついた。
カレーに卵がトロ~っと、混ぜ合わさって、とっても
美味しかった。
昼ごはんの後、佐藤古本屋に行くと、星明がすぐ出てきた。
「たっちゃんが、起きないの。」
「えええ!!じゃ、どうやって行くんだ!」
「それは、水神様が、空を飛ぶ龍の力を込めたウロコをくれたの
これ妖怪に飲ませると、飛べるらしいの。」
星明は、考えて
「誰に飲ませる?」
「誰がいいかしら?」
二人で考えてると、
「又べえにしょう。」
突然みっちゃんが現れて言った。
「何で又べえなの?」
「どうなるか解らないからね、巨大な龍になって、
戻れなくなっても、元々又べえは、タンポポだから
外で暮らせるよ。」
「・・・でも、可愛そう、お布団で寝れないし、テレビも
見れないわ、みんなでご飯や、おやつも食べれないわ。」
「いいよ、どうせロクに味も解ってないよ。
どっかの川か、沼の主にでもなればいいよ。
タンポポからすると、大出世だよ。」
みっちゃんは、ケロッと言った。
・・・いいのかしら・・・。
「ほら、又べえ飲みなよ、空飛ぶ龍になれるよ。」
みっちゃんは、又べえにウロコを渡した。
「そうか、凄いな!」
又べえは、ウロコを飲み込んだ。
すると、又べえの体は、ドンドン大きくなり、
ひょろ長く伸びて、龍になった。
顔だけは、又べえで、なんとなく間抜けである。
「凄~い!」
皆は、又べえをみやげた。
「乗れ!」
又べえが言った。
「行こうか、場所わかるの?」
「息子の手紙に住所が書いてあった、グーグルマップで
確認しながら行こう。
あ、待っててくれ。」
星明は、そう言って、向こうに走って行った。
そして、車に乗って来た。
「星明、車の運転できるんだ。」
「ああ、練習したよ、人間に化けて教習所に通ったんだ。
無免許だけど、息子怪我してるからな、車に乗せるよ。
落ちたら大変だ。
又べえ、この車も運んでくれ。」
「いいぞ!」
又べえは、車を掴んだ。
そして、みんなは、又べえに乗り込んだ。
「美咲ちゃん、爺さんを頼むな!」
「任せて!気を付けてね!」
みんなは、爺さんの息子の義男の家に向かった。
義男の家の前では、義男と、息子、奥さんが、待っていた。
皆ぽか~んと、龍を見ていた。
「初めまして、クロちゃんです。」
クロちゃんが言うと、
「本当に龍っているんだね、驚いた!
ああ、君がクロちゃんかい、いつも親父がお世話になって
いるね、ありがとう。」
そして、星明を見て
「君が星明君だね、親父が世話になったね。
介護までしてくれているんだって、何てお礼を言っていいか。」
「え!俺を知っているのか!?」
「親父が、写メを送ってくれてたよ。ほら!」
義男のスマホには、星明が映っていた。
「爺さん、写メできるようになってたんだな。
急がせて悪いが、この車に乗ってくれ。」
三人は、車に乗り込んだ。
そして、空高く舞いあがった。
佐藤古本屋に着いた。
みんな降りて、家の中に入った。
「親父久しぶり。」
「お前達、来たのか!足はどうした?」
「ああ、まだ完治してないけど、星明君と、
クロちゃんが龍で迎えに来てくれたんだ。
いや~空を飛ぶのは、爽快だったよ。」
義男は、興奮気味だった。
「そうか、一度お前達に今後の事を話しておこうと
思ってな、遺言状は、書いたんだが、
後でトラブルにならんようにな。」
爺さんは、枕の中から通帳を出して、義男に渡した。
「三億!親父こんな金どうした。」
「星明が、家の古書や、ネットで古書を売り買いして
稼いだ金だ、お前達にやる。」
「おい、爺さん!それ・・・。」
それを見て星明は、慌てた。
「何も言うな、それで、この家は、儂の死後は、クロちゃん
に譲ろうと思う。」
「えええ!」
三人は、驚いた!
「いきなり、何言い出すんだ!」
義男は、驚いた。
「お前が仕事で大阪に転勤になって、大阪で嫁さんもらって、
帰って来なくなった後、母さんも死んだが、
寂しかった事は、なかったんだ。
星明が、いたからな、いつの間にか一緒に暮らしていてな。
気のいい奴で、息子か、孫みたいに、世話してくれたよ。
星明が、妖怪の医者を連れて来てくれてな、ボケもせず、
この年まで元気にやってこれたんだ。
だが、流石にそろそろ寿命だ。
お前達も大阪に家を建てたから、もう戻ってこんだろう。
この家は、星明に譲りたい。
でも、星明は、妖怪だから法律上譲れない、
それで、綾小路の御隠居さんに譲ろうと思ったんだが、
綾小路の御隠居さんも、自分も先は短いから、クロちゃんに
譲ったらどうかと、おっしゃってね、そうする事にしたよ。
クロちゃん、儂が死んだ後は、頼むよ。」
爺さんは、クロちゃんを見た。
「え!クロちゃんに!」
クロちゃんは、驚いた。
三人は、顔を見合わせて、
「親父の好きにしたらいいよ、今までほっといて悪かったな
。」
義男が言った。
「本当に親父が、世話になってたんだな、ありがとう。」
義男は、星明に心から礼を言った。
それから、一緒に、美咲コケシが作った夕飯油淋鶏
と、中華スープ、エビチリを食べた。
食事の後、義男達は、クロちゃんと、又べえに乗って、帰って行った。
舞い上がった又べえを見送った後、
「なあ、爺さん、俺の稼いだ金は、後10億くらいあったよな。」
星明が聞くと、
「何で、全部くれてやらなきゃならん?
星明が稼いだのんだぞ、ただ、金を渡しとかないと、
儂が死んだ後、家は確実に売りに出される。
だから3億渡しただけだ。」
星明は、目を丸くして、
「いいのかい?爺さんの唯一の身内だぜ、普通全財産
残したいんじゃないのかい?」
「お前も儂の家族だよ、孫みたいに思っている、
いやそれ以上だ。
それに、儂で5代続く古本屋なんだが、
息子は継がなかった。
時代に合わないから仕方がないと、思っていたが、
お前は、ネットでバリバリ売ったよな。
次の佐藤古本店の主人になってくれるな。」
「俺は、本が好きで、ここに転がり込んだんだ。
願ってもない。
ここが、大好きなんだ。
爺さんとも、気が合って楽しかったよ。」
「とにかく、星明にこの家を残してやれて、ホッとしている。
残りの金は、儂が死んだら、クロちゃんに譲る。
通帳は、好きに使えるよう、綾小路の御隠居さんと、
クロちゃんのママが手続きしてくれるよう頼んだよ。」
「・・・あんまり手際がいいんで吃驚してるよ。」
星明は、目を丸くして言った。
「・・・後は、星明に嫁さんの世話してやれたら
良かったんだが。
一人は、寂しいだろう?」
「大丈夫だよ!俺200年一人で生きてるんだぜ。」
星明は、言った。
「そうか?花子ちゃんはどうだ?」
「だから!もう、いいって!」
星明は、ばつが悪そうに言った。
クロちゃんと、又べえと、みっちゃんは、家に帰った。
「又べえ、そんなに大きいと、家に入れないわ。」
クロちゃんが困って言うと、
「水神様の所に行って、お仕えできるように、
頼んであげようか。」
みっちゃんが言った。
「え!又べえとは、お別れ・・・。」
「仕方ないよ、タンポポが、水神様にお仕えできる
なら、大出世だよ。」
みっちゃんが、言うと。
「でも、可愛そうな気がするわ、こっちの都合で。」
「クロちゃん、でも、力みなぎって、大妖怪だ!
力になれるぞ。」
又べえは、言った。
「それで、いいの?」
「・・・何かを得るには、何か無くす事もあるぞ。
・・・そういうもんだ。
・・・確かに大出世だからな。」
又べえは、力なく言った。
「又べえ・・・。」
クロちゃんは、ちょっと悲しくなった。
・・・又べえにとっていい事なのなら仕方がないわ・・・。
クロちゃん神社のカッパ池で、水神様のお出ましを待った。
「お~い!クロちゃん!」
向こうからパパと、おばあちゃんがやって来た。
「あ!パパ!おばあちゃん!」
「又べえ、随分立派な龍になったな。」
上を見上げてパパは、言った。
「パパ、さよならだ、水神様に仕える事になった。
もう、酒盛りできない、寂しい。」
「そうか、寂しくなるな。」
パパが残念そうに言った。
「又ちゃんにとっていい事って、聞いたけど、
嫌なら行かなくていいのよ。」
おばあちゃんは、言った。
「又べえからしたら、凄い大妖怪になれた。
だから、仕方ない。」
又べえは、寂しそうに言った。
「この間みたいに、体が壊れないから、龍の体が
安定しているよ。
又べえがここまでなるには、200年以上かかるから
とんでもなくレベルが上がってるんだよ。」
みっちゃんが言った。
すると、向こうから、親方と、歳さん、ゴンベエ、留が
やって来た。
「又べえ!立派になったな!」
「しっかりお仕えしろよ!」
「達者でな!」
「おい、又べえ、お前もう庭師にならないなら、
ハサミと、小箱は、儂にくれ!
神社の花を咲かせんと、いかん。」
親方は、言った。
「ああ、クロちゃんに預けている。
親方にやってくれ、
黒ダイヤのペンダントは、クロちゃんにやるよ。」
又べえは寂しそうに言った。
「クロちゃん、ありがとな、又べえは、初めて家族できた、
2百年生きてて一番たのしかった、
でも、みんな百年も生きない、後の長い年月を
生き抜かないといけない、強い妖怪になれた。
仕方がない、さよならだ。」
又べえの声は、震えてた。
クロちゃんは、涙が頬を伝わった。
「又べえ。」
すると、カッパ池の水が盛り上がり、水神様が現れた。
「水神様、わざわざありがとう、又べえが龍になって、
戻れないの、水神様にお仕えできないかしら。」
水神様は、クロちゃんを見て、
「クロちゃん、泣いとるのか?こんなへっぽこでも
別れるのは、悲しいか?」
「うん、又べえは、家族だもの。
でも、大妖怪になれたから仕方ないわ。」
クロちゃんが悲しそうに言うと、水神様は、
又べえの背中をドン!と叩いた。
又べえは、水神様のウロコをぺっと吐いた。
すると、縮んで元の又べえに戻って、
ボッチャン!と、カッパ池に落ちた。
「お前は、クロちゃんが生きている限りは、
クロちゃんに仕えろ!わかったな!
じゃ、又遊びに来いな!待っとるぞ!」
と、言って、水神様は帰って行った。
「又べえ!大丈夫?」
「・・・また、へっぽこに戻った・・・。」
又べえは、力なく言った。
「何言ってるんだよ!みんな頑張ってレベル上げて
大妖怪になるの!お前も頑張るの!」
みっちゃんは、言った。
又べえは、ショゲていたが、クロちゃんは、ホッとした。
「あ、親方、小箱と、ハサミを返してくれ・・・。」
「え!もう貰ったから、かえ返さんぞ!」
「えええ!・・・踏んだり蹴ったりだ。」
又べえは、べそかいた。
「又べえ、ママが待ってるから、帰ろう。」
クロちゃんは、又べえの肩を叩いた。
それから、一週間後、佐藤古本店の爺さんは、眠るように
亡くなった。
星明は6代目佐藤古本店の主人になった。
「爺さん、コケシになって、どっかにいないかな。」
星明が言うと、
「おじいちゃんは、この世に何の未練もなさそうだから
多分成仏してるんじゃない。」
美咲コケシが言った。
「そうだな。安らかな死に顔だったし。」
星明は、ぼんやりと言った。
「それでね、私は、おじいちゃんに頼まれたの。
成仏するまでに、星明さんのお嫁さんをお世話してやって
くれって。」
美咲コケシが言った。
「え・・・何だそれ!」
「私が、出来る女と見込んでの事なんで、くれぐれも
頼まれたの。
で、初七日明けたら、お世話するようにって、
今際の際の頼みだもん、頑張るわ!」
美咲コケシが言った。
「え~!!」
星明は、複雑な顔をした。
それを見て、世の中はままならないなと、思うクロちゃん
だった。




