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Please remember me.

5月の終わり、明るい若緑色が、段々と濃い緑色へと

深まっていく頃。

セヒと、チョコが女の子を連れて来た。

お向かい家の美子ちゃん、よっちゃんである。

「クロちゃん、今日はよっちゃんと遊ぼう。」

よっちゃんは、大きな目をクリクリさせて、

「今日は、よっちゃんね、『ありがとうクロちゃん』の

大ファンなの。」

あ、あれか・・・。

「あの、あの番組クロちゃん嫌いよ、クロちゃんは、

神様のお使いじゃないわ、妖怪も率いてないわ。」

と、クロちゃんが言うと、

よっちゃんが困ってしまった。

「でも、神様の操り人形で、妖怪は、友達でしょう!

傍から見れば一緒です!」

と、チョコが言いきった。

・・・違うと思うけど。

「お前、大きな犬から、よっちゃんを助けたらしいじゃ

ないか。」

・・・え??そういえば、大きな犬が寄ってきて、

この子泣いてたな。

「あ、あれは、あの大きなワンコは、じゃれてただけ

だから、クロちゃん頭なでただけよ、あの子大人しい子

だもの。」

クロちゃんが言うと、

「だから、この子は、大きな犬が怖いんだよ!それを

助けたんだから、惚れちゃうだろ。」

セヒが言うと、

「ほ、惚れる!・・・。」

クロちゃんは、ドギマギしてしまった。

「あ、苺クリーム最中食べる?鶴屋で貰ったの。

最中がね、しけらないように、ホワイトチョコで内側を

コーティングしてあるので、パリッとしているの。」

クロちゃんは、苺クリーム最中をよっちゃんに

渡した。

「ありがとう、美味しい。」

可愛いなあvv・・・でも、美代ちゃんの方がいいな

・・・なんでかしら。


クロちゃん神社は、賑わっていた。

クロちゃんは、みっちゃんと、花壇を見ていた。

クロちゃん草の隣に、花嫁人形が刺してあるが、

昨日より減っている???あれ??

「みっちゃん、昨日より花嫁人形減ってない?」

クロちゃんが言うと、

「だって、花嫁人形レンタルって書いてあるもん。

朝一で全部回収するらしいよ。」

みっちゃんが、言った。

「え!それで3000円!ぼったくりじゃないの!」

思わずクロちゃんは、叫んだ。

「でもSNSで、恋が実ったとか、婚約したとか

で、大評判だよ!櫻子ちゃんのパソコンで見たもん

。」

みっちゃんは、おばあちゃんがパソコン教室に行った

時ついて行って、覚えたらしい。スマホも扱える。

「嘘じゃない、クロちゃん本人は、失恋してるのに

。」

クロちゃんが呟くと、

向こうから、若いカップルがやって来て。

「私ここで、花嫁人形をクロちゃんにあげたの、

そしたら、貴方が彼女の浮気を見つけて別れた

って聞いて告白したのよね。

こうして貴方と付き合るのは、クロちゃんの

おかげね。」

と、女性は言った。え?

向こうから高校生くらいの女の子が5人やって来て

「ここで、花嫁人形をクロちゃんにあげたら彼に

告白されて付き合う事になったの。」

「A組の子も彼できたらしいわ。」

「私もB組の友達が花嫁人形をクロちゃんにあげて、

彼氏できたって言ってた。」

等と、きゃわきゃわ話している。

あちこちで恋が成就した話が、飛び交っている。

・・・え、御利益ある?あ、3000円かあ、クロ

ちゃんの三か月分のおこずかいだわ・・・。

どうしょう?クロちゃんは真剣に考えだした。

すると、男の人がクロちゃん草の隣に花嫁人形を

刺した。

あれ、男の人が花嫁人形を刺してる、珍しい。

ふと、その男の人と、クロちゃんは、目が合った。

「あ、君ひよっとして、クロちゃん?」

男の人は、聞いた。

「クロちゃんよ。兄ちゃんも恋のお願いなの?」

クロちゃんが尋ねると、

「恥ずかしながらそうなんだ。三ヶ月前いきなり

彼女から、好きな人が出来たって言われて、

別れたんだけど。

...変なんだ、彼女仕事辞めてしまって、

大好きなテニスクラブもやめている。

家の人に聞いても遠くの親戚の家に行ったって

言うんだけど、腑に落ちないっていうか。

彼女の友達に聞いても、よく知らないって

言うし、なんのかな。」

困ったように、男の人は、言った。

「あのね、悲しい事になってもいい?」

クロちゃんは、尋ねた。

「悲しい事、どんな?」

男の人が尋ねると、

「解らないけど、会える気がするの。兄ちゃんの

名前と、彼女さんの名前教えて。」

クロちゃんは答えた。

「俺は、山野誠、彼女は、小島美咲と言うんだよ。

これ、俺の携帯の番号だよ。

何かわかったら教えてね。」

誠は、ボディーバッグから手帳を出して、携帯番号を

書いてページを破って、クロちゃんに渡した。

「何か解ったら連絡するね。」

クロちゃんは、言った。

クロちゃんが背を向けると、誠はクロちゃんの

スヌーピーリュックのフタを開けた。

「・・・誠さん何しているの?」

クロちゃんが、尋ねると、

「あ、わかっちゃた?失敗 したな。SNSで、クロちゃ

んを見たら、リュックに解らないようにお金入れたら、

願いが叶うって書いてあったから、試そうかと。」

振り向くと、誠は一万円札を持っていた。

「子供にそんな大金危ないでしょう!

だから、最近いつの間にかリュックが、お金一杯に

なってるのね!」

クロちゃんが言うと、

「ごめんね、金額が多い程願いが叶うって書いて

あったんだよ。」

誠は答えた。

・・・クロちゃんは、眩暈がした。

さっきもリュックのお金に手を出して、人形を買うか

悩んだのだけど、やっぱり使えなかった。

おかしな事が独り歩きして、クロちゃんは、ついて

いけなくなっていた。

つまり、大金入れる人程切羽詰まっているという事。

願いはかなったのかしら?

クロちゃんは、頭が痛くなった。


「ただいま!」

家に帰ると、クロちゃんは、貰ったお菓子をテーブルに

おいた。

「まあ、今日も沢山もらったのね。」

ママが嬉しそうに言った。

そして、スヌーピーリュックをひっり返した。

沢山の一万円、千円札が出て来た。

「まあ、今日も沢山貰ったのね。お賽銭箱に入れて

くれれば、クロちゃん助かるのにね。」

ママは複雑な顔をした。

「明日銀行に入れてくるわね。」

ママは、貰ったお金を銀行に預けている。

クロちゃんが、将来必要な時に仕えるように。

だから、バレないけど、使い込みはできないと、

思ってしまう。


「じゃ、このお菓子みんなに持って行ってあげて。」

ママにお菓子のお盆を渡された。

それを持ってクロちゃんは、庭のカッパに菓子を

あげて、おばあちゃんン家に向かった。


おばあちゃんン家に着くと、

「皆!お菓子貰ったわよ!お茶にしょう!」

みっちゃんが、叫んだ。

親方、又べえ、ゴンベエ、歳さんが集まって、

お菓子を食べ始めた。

白玉を桜羊羹で包んだ、桜玉は上品な甘さで

ほんのり桜の香りがした。

亀屋万年堂の自信作だ。

最中の皮にカスタード、生クリーム、苺を挟んだ

苺クリーム最中は、サクサクの最中の香ばしさ

に、カスタードと、生クリームのトロトロと

苺が合わさって、シュークリームとまた違う

美味しさである。

お茶を飲んで、クロちゃんは、今日会った誠の

事を話した。

「どうしたのかしら美咲さん。」

クロちゃんが言うと、

「神威病院の患者に、小島美咲という女性が入院

しているが、その人かもしれん。」

徐に歳さんが言った。

あ、神威病院確か、クロちゃん神社の裏手の方に

あった総合病院だ。

「歳さん詳しいのね。」

クロちゃんが言うと、

「あそこは、元々は私の診療所だったんだ。

息子と、弟子が頑張って病院にしたんだ。妖怪に

なってからも、ずっと影で病人を治していたんだ。

・・・でも疲れてきてね。

病気は、治っても寿命の無い患者は、やっぱり死ぬ。

何なんだろうと思って、万福商店街をさ迷って

いたら、みっちゃんが、この家に連れて来てくれたん

だよ。」

歳さんが言った。

「そうだったんだ。」

クロちゃんが言うと!

「あ、今は毎日楽しいよ。やる事やったら、どんな

結果が出ても運命だって!わりきれるよになった

よ。

ここで他愛のない病を治したり、神威病院に行って、

患者治したりしてるよ。

出来る事は、限られているからね。」

歳さんは、クロちゃんの頭をなでて、

「美咲さんは、癌で先が長くないんだよ。

だから、関わるとクロちゃんは辛い思いをするかも

しれないよ。

聞かなかった事にしてもいいんだよ。」

歳さんが尋ねると、

「え・・・でも・・・約束したもの。」

クロちゃんは、言った。

「いいんですか、関わらせて、こんな小さな子

に。」

歳さんは、苺クリーム最中をパクついている大黒

のおっちゃんに言った。

「クロちゃんが、いいならいいんじゃないか。」

大黒のおっちゃんは、パクリと桜玉を食べて

言った。


クロちゃん神社の裏手に「神威病院」は、ある。

忙しく働く看護婦、患者や見舞客がうろついて

いる、美咲の病室は、15階だった。

歳さんと、みっちゃんに連れられ、クロちゃんは、

小島美咲に会いに行った。

部屋をノックすると、

「はい、どうぞ。」

若い女性の声がした。

クロちゃんは、部屋の中に入った。

中には、痩せた若い女の人がいた。

「今日は、クロちゃんといいます。」

美咲は、驚いて

「え、クロちゃんって、あのクロちゃん?え、

お見舞いに、来てくれたの?」

「あの、山野誠さんが心配していたので来ました。」

クロちゃんが困ったように言った。

「誠さんは、私の病気知っているの?」

美咲さんは、尋ねると、

「知らないわ、美咲さん、何で病気って言わなかった

の?

大好きな人が死んじゃうなら、死ぬまでそばにいたい

わ、クロちゃんはそう思うわ。」

クロちゃんは、一生懸命言った。

「知られたくなかったの、闘病生活は辛かったし、

何よりほら、痩せてこんなに醜くなったの。

大分髪もはえたけど、放射線治療で、随分抜けたし。

そういうの見てて辛いと思ったの。

・・・醜い姿を見られるより、綺麗な私を覚えていて

欲しかったの。

・・・家族は、醜い私を最後まで支えてくれると思う

の・・・。

もし、醜い私を嫌だと思ったら・・・辛い。」

・・・クロちゃんは、何も言えなくなった。

「クロちゃんでも、私の病気は治せないでしょう?」

美咲さんは尋ねた。

「ごめんなさい、クロちゃんには無理だわ。」

申し訳なさそうにクロちゃんは、言った。

「・・・いいの、噂のクロちゃんに会えて嬉しかった

わ、ほら、ここから『クロちゃん神社』『万福商店街』

がよく見えるの、とっても賑やかで楽しそう。

気分がいい時一度行ってみたいな。

こけしと、二ポポ人形に餌をあげたいな、クロちゃん

草や、ジューンブライド草も見てみたいな。」

美咲さんは、言った。

「明日、こけしと、二ポポ人形を連れてくるね。」

クロちゃんが言うと、

「本当!楽しみ!」

嬉しそうに美咲は、言った。


おばあちゃんン家で、お茶を飲みながらクロちゃんは、

ため息をついた。

「誠さんに言うべきかしら?言わない方がいいかしら

?」

クロちゃんは、親方、歳さん、ゴンベエ、又べえ、

みっちゃんに尋ねた。

「クロちゃん、聞かなかった事にしてもいいんだよ。

子供なんだから。」

歳さんは言った。

「歳さんは、女房が死んだ時どうだった?」

親方が尋ねた。

「女房の時、私は、はやり病の村に泊まり込みで

手当にあたっていたから、女房は、自分の具合

が悪いのを知らせなかったかったんだよ。」

歳さんは、答えた。

「帰れたら、帰っていただろう?」

親方が尋ねると、

「そりゃ、帰ってそばにいたかったよ。

でも、私達は長年連れ添った夫婦だし、どんなに

闘病で醜くなっても、そばいてやりたと思う。

でもね、誠さんはどうかな?家族じゃないからね。」

歳さんは、答えた。

「クロちゃんは、どうしたいの?」

みっちゃんは、言った。

「・・・解らないの。どうしよう・・・。」

クロちゃんは、言った。

「クロちゃんは、誠さんとの約束を守りたいんだ

ろう?言っていいよ。」

大黒のおっちゃんは、苺のロールケーキをパクつき

ながら言った。

「え、美咲さんは、醜い姿を見られたくないのよ。」

クロちゃんが言うと、

「見てもそばにいたいと、思うかもしれないよ。

明日、こけしと、二ポポ人形を連れて行った時、

誠に、遠くから見てもらったらどうだ?明日は、

日曜だし、休みなんじゃないか?」

大黒のおっちゃんは、苺ムースを食べながら

言った。

「そうしたらいいよね、クロちゃん。」

みっちゃんは言った。

・・・そうね、誠さんに言うべきね、約束だし。

くろちゃんは思った。

クロちゃんは、電話の受話器を持って、誠さんに

電話をした。


翌日、クロちゃんは、誠と、みっちゃん、歳さんと

美咲さんに会いにいった。


「もし、痩せてしまった、美咲さんを見ても、最後

まで一緒にいたいと、思ったら入ってきてね。」

クロちゃんは言った。

病室のドアをノックして、クロちゃんは病室に入っ

た。ドアを少し開けたまま、誠さんが中を見れる

ように。

「今日は、こけしと、二ポポ人形を連れて来たわ。」

クロちゃんは、スヌーピーリュックを降ろして、中

から、こけしと、二ポポ人形をだした。

こけしと、二ポポ人形は、ピョン!と飛び出して

お辞儀をした。

「まあ!不思議!可愛いわね!」

美咲さんは、笑った。

「これが『クロちゃん神社』で売られている餌なの

中身は、鶴屋千年堂の和風クッキーなの、食べても

美味しいの。」

そう言ってクロちゃんは、餌の袋を渡した。

美咲は受け取って、こけしと、二ポポ人形に餌を

あげた。

こけしと、二ポポ人形は、大きな口を開けて、パック

ンと食べた。

「可愛いわね。」

嬉しそうに笑う美咲を見ながら、クロちゃんは、ドア

の外の誠の様子を伺った。

誠は、たまらないという顔をして、一呼吸おいて、中に

入ってきた。

「美咲ちゃん!」

「誠さん!クロちゃん話したの?」

美咲さんが言うと、

「ごめんなさい、どうしても、誠さん会いたいって言う

から。」

クロちゃんが、気まずそうに言うと、

「私こんなに痩せて、ドンドン見苦しくなっていくの

・・・もう会わない方がいいと思うの。

会いに来てくれて、ありがとう、もう充分よ。」

美咲さんが言うと、

「最後まで、看取らせて欲しい。頼む。」

そういって頭を下げた。

美咲さんは、ポロポロ泣き出した。

くろちゃんは、そ~と病室を抜け出した。

「とりあえず、良かったね!」

みっちゃんは、言った。

「これからが、辛いところだ・・・癌は治してやる

事はできる。」

歳さんは、そう言った。

「え!じゃ治してあげて!」

クロちゃんが言うと、

「でも寿命は、あと二月くらいだ。それは、変えられ

ない。治しても納得できるかな?」

歳さんは言った。

クロちゃんは、困ってしまった。

・・・どうなんだろう?

「美咲さんに聞いてみるわ。」

クロちゃんは、言った。


二人の対面が一区切りしたところで、クロちゃんは、

病室の中に入って行った。

「あの、クロちゃん帰るわ。」

クロちゃんが話しけると、二人は、振り向いて、

「ありがとう、クロちゃん御蔭で彼女に、会えた最後

まで付き添うよ。」

誠は、言った。

「ありがとう、クロちゃん、彼に会えたわ。

私を看取ってくれるって、本当に何でお礼を言っていい

か。」

美咲もお礼を言った。

「あの、歳さんって妖怪がいるの。

人間だった時は、お医者さんで、美咲さんの病気を

治せるらしいの。

でも、美咲さんの寿命は、あと二月くらいなの、

それは、変えれないけど、それでよければ...」

そうクロちゃんが言いかけると、

「お願い、治して!死んだら魂あげてもいいわ!」

美咲さんは、言った。

「悪魔じゃないから、魂は取らないわ。治っても、

二月それでいいの?」

クロちゃんは、聞いた。

「願ってもない!頼むよ!」

誠は、言った。

「それじゃ、洗面器か、バケツある?」

「テレビの下の棚に洗面器あるけど。」

クロちゃんは、テレビの下の棚のドアを

開けて、洗面器を取り出した。

「ちよっと、痛いけど、がまんしてね。」

そう言うと、美咲は、体を切られるような

痛みを感じた。

「痛い!!」

目を開くと、洗面器に肉片のような物が入っていた。

クロちゃんも気分が悪くなった。

「病気の元取ったわ!」

まんまり、シュールな出来事に、皆沈黙した。

「あ、先生を呼んで診てもらっていいかしら

?」

美咲は、尋ねた。

「いいわよ、クロちゃん帰っていい?生ごみ

どこに捨てたらいいかしら?」

クロちゃんが言うと、

「先生に見せたいから、そのままでいいわ。

後で捨てておくわ、ありがとう。

もし、退院できたら、お礼に行くわね。」

美咲は、言うと、

「大丈夫!気にしないで。治したのは歳さん

だから。

気にしなくていいって、沢山デートしなさいだって。」

そう言って、クロちゃんは、こけしと、二ポポ人形を

スヌーピーリュックに入れて、帰って行った。


「誠さん、美咲さんの事を嫌いにならなくて良かった

わ。」

クロちゃんが言うと、

「その事は良かったんだが、あの二人にはあんまり

関わらない方がいい。

今は、治った事で満足しているが、そのうち命を助けろ

と言ってくる。

それは、できないからね、困るだけだ。

いつもは、寿命のある患者しか治さないが、クロちゃん

の為のサービスだ。

あの二人の幸せな姿を見たいと、思っただろう?」

歳さんは、言った。

「そうなの。」

クロちゃんが複雑な顔をした。

「みっちゃん達は、いつも、クロちゃんが幸せでいるよう

にって、思っているの。」

みっちゃんが言った。

「ありがとう、みんな大好き。」

クロちゃんは、笑った。


それから二月後、蝉の声が響き渡る夏の暑い日、クロち

ゃんは、お祭りの打ち合わせに来ていた。

クロちゃん神社では、新しくお御輿を作って、クロちゃん

を乗せて、万福商店街を行くので、リハーサルなのである。

お御輿は、新しい木の匂いがする。

「クロちゃん、お御輿乗るの初めて。」

クロちゃんが言うと、

「楽しみだね、みっちゃんも一緒に乗るね。」

と、みっちゃんも嬉しそうに言った。

すると、

「クロちゃん!やっと会えたね!」

誠が声をかけた。

「あ、誠さん、今日は。」

「美咲ちゃんと、お礼に行きたかったけと、

電話取り次いで貰えなくて、いけなかったよ。」

誠がそう言うと、

「ごめんなさい、命は助けてあげられないから

会わない方かいいって、歳さんが言ったの。

でも、週末よくクロちゃん神社でデートして

るのを見かけて幸せそうだったから・・・。」

クロちゃんが言いにくそうに、言った。

「え!いたの?毎週週末に、クロちゃん神社と、

万福商店街に来て、クロちゃんを探していた

のに!」

誠は、言った。

「ごめんなさい。」

クロちゃんがあやまると

「責めているんじゃないよ。

美咲ちゃん、生きているうちに、お礼をしたか

ったんだよ。」

そう言って、近くのベンチに背負っていたリュック

をおろして、中から包を取り出した。

それをクロちゃんに、渡した。

「美咲ちゃんが、亡くなる前に二人で旅行に行った

んだ。お土産だよ。」

包を開くと、スヌーピーのオルゴール。

中央にスヌーピーがいて、周りをメリーゴーランド

みたいに飛行機が飛んでいた。

クロちゃんは、オルゴールを回してみた。

曲は、いきものがたりの「ありがとう」

飛行機が周りながら、上下に動く。

「わあ!可愛いvvv大好きなスヌーピー!

大事にするね。」

クロちゃんは、添えられいた手紙に気が付いた。



『クロちゃんへ


この手紙を読んでいるという事は、もう私は、

この世にはいないのでしょう。

癌がみつかり、日に日に体も弱り、このまま

弱って死んでいくだけの灰色の日々でした。

自分で決めた事なのに、誠さんの事を思わない

日は、ありませんでした。

もう、健康な体で、デートするなんて事はないの

だろうけど。

そう思っていた時、クロちゃんが会いに来て

くれました。

誠さんを連れて来てくれて、私の病気を治して

くれてました。


検査してもらったら、癌の病巣も綺麗に無くなった

うえに、転移していた手術できない部分も修復

していました。

先生と、看護婦さんも奇跡としか言いようがないと

、驚いてました。


体力が回復して退院した後は、誠さんと、旅行したり、

デートしたり、万福商店街や、クロちゃん神社で、

クロちゃんを探したり・・・。毎日楽しかったです。


できる事なら、またクロちゃんに会ってお礼を

言いたかった。

本当にありがとう、貴方は、神様が使わしてくれた

銀髪の天使でした。

健康な体で、綺麗なままで、愛する人に看取られ

て逝く事ができます。

ありがとう、私のところへ来てくれて、

本当にありがとう。

                 美咲   』


手紙を読んで、クロちゃんは、ポロポロ泣き出した。

「美咲さん・・・最後は・・・どんな風に・・・。」

クロちゃんが泣きながら聞いた。

「美咲ちゃんは、最後は心臓麻痺だった。

俺は、最後の3日は休みを取って、ずっと一緒にいた

よ。

最後まで一緒にいれた、クロちゃんのおかげで、

看取る事ができた。ありがとう、本当に。」

誠は、言った。

そして、スマホを取り出して、美咲と撮った沢山の

写真をクロちゃんに見せた。

どの写真も二人は、幸せそうに笑っていた。

・・・良かった幸せそうに笑っているわ。

「この写真は、クロちゃんの御蔭で撮る事が出来た。

あのまま何も知らずに後で、彼女が死んだ事を

後で知ったら、ずっと後悔していた。本当に感謝

しているよ。

彼女の事を忘れないでいて欲しい。

だから、オルゴールに刻印したんだ。

『I thank sincerely.

(心から感謝してます)

Your life, Kouta exhaustion.

(あなたの人生に幸多かれ)

Please remember me.

(私を覚えていて)

                  MISAKI』


それを見てクロちゃんは、ポロポロ泣きながら、

「忘れない、忘れないわ・・・絶対。」

クロちゃんは、言った。

「ありがとう、会えて嬉しかった。」

誠と別れ際、クロちゃんが言った。

「誠さんは、他の人と結婚して幸せになるわ。

それは、悪い事じゃないから。」

誠は、驚いて尋ねた。

「それは、預言かい?」

「なんとなく、そう思うの。」

クロちゃんが、答えた。

「ありがとう。」

誠は、そう言って去って行った。

それを見送って、リュックに、オルゴールを仕舞おう

とすると、封筒が入っていて、『美咲の母』と

書いてあった。


『クロちゃんへ


丁度、病室を離れていて、お会いする事叶いませんで

した。

美咲の事、心よりお礼申し上げます。

あの子が、健康で幸せな最期を迎えたのは、貴方の

起こしてくれた奇跡の御蔭です。

心ばかりのお礼です、何かにお役立て下さい。

                    美咲の母』


封筒を開くと、10万円!・・・子供に、こんな大金!

「貰っておいたら?何かお礼をしたいんだよ。」

みっちゃんが言った。

「貰って、歳に酒でも買ってやれ。」

といつの間にか、大黒のおっちゃんが現れて言った。

「おっちゃん、いつの間にきたの?・・・そうするわ

。」

クロちゃんは答えた。


おばあちゃんン家で、クロちゃんは、酒屋さんで買っ

た、亀の甲 純米大吟醸 寿亀「神韻」 を歳さんに

渡した。

「美咲さんのお母さんがくれた、お礼のお金で買った

の。」

「これは、いい酒だ!今晩みんなで頂くよ。

・・・少しはいい事が出来たと思えるよ。」

歳さんは、言った。

「歳さんは、何で人を治すの?」

クロちゃんが聞くと、

「沢山人を救うと、末席ながら神になれるんだよ。」

歳さんが答えると、

「何で神になりたいの?」

クロちゃんが尋ねると、

「神になれば、もっと沢山の患者を治して

あげられるからだよ。」

歳さんは答えた。

「歳さんは、お医者さんが天職なんだよ。」

みっちゃんが笑った。

クロちゃんは、納得して頷いた。

歳さんらしいな、と思った。


それから一月後、夜家族でテレビを見ていると、

『ありがとうクロちゃん』が始まった。

家族は、皆喜んで見ている!?密に自分が出る

かもと、期待しているのと、ネタである。

アナウンサーの女性が、

「皆さん今日の『ありがとうクロちゃん』は、

クロちゃん神社の裏の神威病院の話です。」

え!・・・。

案の定、美咲と、誠の話だった。

美咲の前に、光をバックに、翼付きで、現れるのは勘弁

してほしい。

あの演出じゃ、まるでクロちゃんが歳さんに命令

したみたい!

クロちゃんは、眩暈がしたが、ママやおばあちゃん、

お手伝いさん達は、すすり泣いている。

男性陣も目をウルウルさせている・・・やめて!

番組が終わると、

「何よ!コレ酷いよね、クロちゃん!」

みっちゃんが怒って言った。

「そうだよ、ね!」

クロちゃんが共感すると、

「みっちゃんが、出ていない!ずっと、いたのに!

歳さんは、出ているのに!

ね、クロちゃん、テレビ局の人に言って!」

・・・怒っているのは、それ!?

「神威病院は、普通治らない病人が、いきなり治る

って、有名だったんだけど、今とんでもない数の

患者が来ているらしいわ。」

おばあちゃんが言った。

「きっと、クロちゃんの御利益って事になってるよ。」

カダ兄ちゃんが言った。

「・・・え!それで最近クロちゃん見て、拝む人が

いるの?」

クロちゃんが言うと、

「この辺じゃ、クロちゃん大明神って言われてますよ

。」

チョコが言った。

クロちゃんは、だんだん頭が痛くなってきた。

早く『ありがとうクロちゃん』が終わるといいのに

と、思うクロちゃんだった。





























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