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そっと静かな片隅に/
そっと静かな片隅に/
美しい旋律が
コンテンツとして流れる
確かにそれは再現され
感動すら覚えるけれど
悔しいのは
その場に居合わせて
一体化して感じていないということ
そして
始まりの一音を待つひと時を
持ちえないということ
演奏の最中でさえ
表現の昇華が進んでいく
クライマックスは
いつも未確定のままの頂点
約束のない場所へと
高みへと遂に達した瞬間を
聴衆は共感するのだ
それは速やかに失われるのではない
ホール全体へ響き
檀上の演奏者にも指揮者にも
聴衆の男女にも
満ち足りた満月の光を浴びるように
しんしんと降り積もり
染み込み
残照となって奥底へ残る
プログラムが終わり
アンコールも終えて
ホールを出
家に帰り
寝て
ふと目覚める夜明けに
身体の響きを思い出す
日常の緩みを離れ
確かにあの場にいて
あの響きを浴びたのだと
あの実感の名残が
まだ耳にあり
景色が瞼にあり
そっと静かな片隅に
共にあろうとしていることを