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ホワイト-white-  作者: サクラダファミリア
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ホワイト8


 そしてここに二音がいることを知っているかのように莉亜が現れる。

 田島晴も一緒に。

 写真とは全然違かった。髪は長くぼさぼさしていて身長は思ってより低い。目は大きく、丸い。眼鏡はかけてない。

「久しぶりに会ったね」

 莉亜は、さっきと全く変わらない。けれど声のトーンが明らかに低くなっている。さっきの莉亜からは心が2年分変わったんだ。

 この2年何があったんだろう。二音も経験したように挫折や成功だけじゃないだろう。

「晴、そろそろ話そうと思ってたんだけどね、実は、晴を助けるのはかなり大変だったんだ。」

 それから莉亜は、2年前の出来事を語った。2年経っても鮮明に覚えているんだな。晴に話し終わった辺りから雑談に変わっていった。2年前に今でも残る大怪我を腕にしたとか、泉には電話番号を教えてもらえるほどの仲になったとか、二音にしてみればどうでもいい話だ。

「えっ、そうだったの?じゃあ命の恩人だ。ははぁ~」

「ちょっと、私もでしょ。ちゃんと私にもお礼を言いなさい」

「あんたには耳にタコができるほど言ったでしょ。」

「私はできてないですよ~」

「うるさいな、言えばいいんでしょ、ありがとね」

 まさにのんと同じだ、ホントに似ている。

 こう見えてもこの2人は高3だ。きっと受験勉強に忙しい中で僕と会っているんだろうな。

「二音、もし今から暇だったら近くの喫茶にでも行かない?」

 昨日、二音が莉亜を誘った時と同じような言い方だ。

 もちろん二音の答えは、

「うん。いいよ、そっちこそ大丈夫?」

「もちろん。晴も大丈夫だよね」

「うん。じゃあ僕が喫茶店を紹介してあげる。」

 莉亜も晴も二音も同じくらいの身長だからみんな同い年のような感じだ。

 喫茶についた。こんな近くにあったんだな。もう2人は18歳だし立派な大人だからこういう喫茶にもよく出入りするのかな。

 かなり立派な喫茶だ。「グレート・リーフ」というらしい。木造の造りになってる。いかにも喫茶という感じの喫茶だ。

 実は、喫茶に来たのはこれが初めてだ。別にコーヒーは好きじゃないし、のんも二音ももっと子供っぽい店に行く。

 マスターが笑いながら莉亜に話しかける。

「今日もいつものコーヒーですか?」

「うーん、とりあえずそれ2つと、二音、何にする?」

 莉亜はよくここに来るのかな?マスターともかなり仲がいいようだ。

「じゃあ、僕もそのコーヒで。」

「了解。じゃあ初めての人にはこの自家製プリンをプレゼントしちゃお」

「わー嬉しい」

 なぜか莉亜が答える。

「しょうがないなー君たちには本当はあげないけど今日は特別に・・・」

「やったー、嬉しい嬉しい」

 晴に同意を求める。それに気づき晴も嬉しそうな顔をする。

 思った以上にプリンは美味しかった。やわらかさとあんみつの濃厚さが絶妙だ。

「うーーん、おいし~い」

 いつの間にかさっきまでの図書館にいたようなピリッとした緊張から解き放たれた。その表れか、昨日までは絶対に口にしないような言葉が出た。

 そしてプリンとは裏腹にコーヒーは昨日までのような味がした。

「にがっ、コーヒーってこんなに苦いの?」

「そりゃあ苦いさよ。1週間に1回はコーヒー飲むのにいまだに苦いと感じるもん。」

 莉亜が答える。

 1週間に1回とか多すぎるよ。1杯600円くらいするからかなりの失費になっちゃうな。 

 ここはこの町で唯一、店内での勉強がオーケーの喫茶なので人がたくさん来るしおまけに賑わっている。喫茶としてはかなり常識外れらしい。喫茶というとおしとやかでゆっくりと楽しんでいられるのが常識らしい。でも最近はこういう喫茶も増えてきてるらしい。

 また今度、のんや津也を連れてここに来ようかなとも思った。

「ところでさ、あと4日なんでしょ。のんの自殺まで」

 賑わっているからと言っても、莉亜の声は目立つ。

 そして晴が異常に食いつく。「そうなのぉー!」、目立つだけだからやめてほしい。

 案の定、喫茶の中の目はこっちを向いてる。マスターさえもこっちを見てる。

「しーーっ。」

 莉亜が晴を黙らせる。莉亜も十分うるさかったからどっちもどっちなんだけど…。

「あんたは、うるさいだけだから深入りせずに黙って聞いてなさい。」

 莉亜がこの2人の中では当たり前の会話らしいがかなりきつい言葉で叱った。これじゃあ晴が犬みたいじゃないか。

「がんばってね。私はこの通りちゃんと晴を救ってやんたんだよ。今となっては救わなくてもよかったような気もするけど…」

 何言ってんだ。あのとき、夜遅くまで起きて頑張って救おうと努力してたじゃないか。

「次は二音の番だよ。きっと泉や亡くなった秦もそして私と犬みたいな晴も応援しているからね。」

 白々しく勇気をつけてくれる。こう言われると頑張れる気がする。

 横で、ついには莉亜までにも犬みたいと言われた、犬みたいにしてる晴が、がんばれーと言ってくる。

 そこから僕たちは、2時間近く喋った。時計を見ると9時と書いてある。閉店の時間だ。

 僕たちはあの眼鏡をかけた30代くらいのマスターに言われて外に出た。あれだけ賑わっていた店内もついには僕たちだけになっていた。

  帰る際にちょっとコーヒーを溢しちゃってYシャツの裾にシミをつけちゃった

 僕たちはマスターに、コーヒーおいしかったです。と言ってお会計をした。実際学校帰りだったので、お金を持っていなかった。なので二音の分は命を助けてあげた晴が払った。

 マスターに笑顔でさよなら、また来てね。と言われて手を振りながら外に出た。

 店を出ると莉亜の顔が急に強張った。

「実は、私過去に戻ってから六木あんの所在地を見つけようと探したんだ。でも、さすがに8年前だから誰だかわからなくて救えなかった。あんに関しては、私は救えなかった。ごめんなさい。」

 過去に戻った莉亜は、あんのことまで調べてくれたのか。それだけで十分すごいことだ。だから僕は、

「いやいや全然莉亜がしたことはすごいことだと思うよ。でもこれからは、僕らに任せて!絶対犯人を捕まえて見せるから。」

 すごい自信だ。

 きっと莉亜にそう思われたに違いない。

 でも二音は、きっとできると思った。

 きっと救えると思った。

「じゃあね、すごく楽しかったよ。また事件が解決してから遊ぼうね。あっ、それと晴さん、コーヒーありがとうございました。」

「いやぁ、命にとっちゃコーヒーなんて安くて安くてお礼なんかいらないよ。また遊ぼうね。」

「確か二音の部屋にこれから使えそうな物を置いてきたからぜひ使ってね。あっ、それと素晴らしい冒険ありがとね。家に帰ったらお母さんの料理おいしかったよって言っといて。じゃあね」

 莉亜と晴は笑顔で帰っていった。

 それに続いて二音も家のほうへ歩いて行った。


       *****

 家の前には、のんがいた。

 辺りをずっとぐるぐるしてる。よく見ると、靴下の色が両方違う色になってる。

 相当焦って来たのかな。

「二音!なにしてるの。今日、お前の家に行くって約束したじゃん。何考えてんだよ、家の鍵を空けないで。」

 なに言ってんだ?今日は、図書館に集合したらその後はどこにも行かないぞ。

「えっ?なに言ってんの。さっき集まったじゃん。」

 すると、今度はのんが何言ってんだというような顔をした。どうやらのんの記憶では今日は1度も二音と会っていないらしい。

 これも、シャイン橋崩壊事件が無くなったことと関係があるのか。

 あるか。そもそも、図書館に行こうというのは莉亜が言ったことなのか。莉亜が言ってないと図書館にも行ってないのか。

 っていうか、なんでのんからはその記憶が消えてて二音からは消えないんだ?二音とのんになんか違いがあったか?

 怖くなったので泉にも聞いた。しかし、即答で「知らない」と言われた。

 どうやら、莉亜と僕以外の人間や、物からそのことに関するものが消えたんだ。

 でもどうして?莉亜は分かるけど、なんで僕まで?

 ついによく分からなくなってきた。

 なぜ僕にあの記憶がまだ残っているのか。

  

 神様からもらった全てのものには理由がある


 不意に2年前のくじで引いた言葉が思い出された。

 

 あの時、秦は生きてたかな。

 2年前の夏祭り。

 僕達は正月でもないのに、おみくじを引いた。

 そのおみくじは、何のことを言っているのか分からないが、未来になればその意味が分かるということで評判のおみくじだ。

 たぶん、そのおみくじはこの祭りで1番売れているだろう。店の前にはいつも行列ができている。

 僕らは毎年そこでおみくじを買う。

 ただ、このおみくじは何年も後のことなので覚えているだけで大変。

 僕はここ5年くらいずっと引いているので5枚は保管してる。

 中でも1番大切にしているのは2年前に引いたくじだ。この言葉の意味はすぐに分かった。

 


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