ホワイト3
「じゃあお会計お会計と。・・・・・・・あっ」
思い出した。お金持ってないんだった。なんで忘れてたんだろう。
「やっべ、お金ないんだった」
「あっ、そーだった」
のんも忘れてたみたいだ。
「やばいやばいどうしよう」
「これ使っていいよ」
後ろから手が伸びてきた。その手には、確かに黒っぽい青の財布が握られていた。
「な、何でここにいるの津也!」
後ろに立っていたのは、津也だった。
「俺も一緒に抜けたかったからねぇ」
すぐに言ってることが嘘だと思った。なにせクラス一のまじめ君が、学校を抜けるわけがない。
「先に言っとくけど、俺は学校に戻んないよ」
のんが津也を見ながら言った。二音より身長が上の津也なので、『見る』と言うより『見上げた』というべきかもしれないが。
「そんなことを俺は求めてないよ。」
えぇ!っと二音は思ったが、さっき抜けたいから抜けたとか言ってたのにここで戻ろうとかいうのもおかしいかと思った。
それにしてもよくここまで付いてきたものだ。後を付けてきたとしても、俺らがそこまで気づかなかったとは……よほどうまいのかもしれない。
「本当に…おごってくれるの…」
「もちろんだよ。あまり友達と遊んだことないからねぇ」
これも嘘だ。なにせ津也は毎日といってもいいくらい誰かと遊んでんだから。
それくらい誰でも知ってる。それくらい俺でも知ってる。
「はい、じゃあこれで。あっ、あと俺のカレーパンも頼んどいて」
「おっおう。あ、ありがと」
や、やさしい。津也とはあまりしゃっべたことないけれど、こんなに人のいい奴だったとは。
「じゃあこれでとりあえず支払っといて」
「ありがとうございました」
このお店は安いから4個頼んでも600円くらいだ。
パン屋の支払いが終わって、店を出ようと出口に向かった時に、誰かが入ってきた。
*****
それは鳥居屋泉だった。
この時間に泉がいるということは、泉は、学校を休んだのか。
それほど何かショックなことを…
まぁそれもそっか。のんの死ぬ予告を見たんだから。
「い、泉もここに」
「おお、二音、のん、それに津也もみんなここに。でもなんで制服着てるの?」
泉は、僕らも学校を休んだと思っているのか。
「実は、僕らさっき学校を抜けてきたんだ。」
「ええ?二音が!学校を抜けてきたの。めずらし!」
前と変わらない泉
それか、平然を見せてるだけか。
どちらにしても、変わらないなぁと、二音は思った。昔から人一倍騒がしい泉は、この仲間の中で最も調子ものだ。あののんよりも上だ。
その分昔からめんどくさいところもあった。中3年の終わりに行った修学旅行では、ベットの上で飛びまくりすぎて下のフロアの人から注意されたこともある。
そんな、落ち着きがないというより落ち着いていられない性格の泉が見た予告なんて逆に想像もできない。
泉は、それを見てどう思ったのか。
なんを考えたのか。
「じゃあ泉の分も買ってこよう」
のんが、やたら元気よさげに言った。
「そうだね。お前もカレーパンかい?」
「うん。じゃあカレーパン1つよろしく」
「よーーしっ、120円だよ。」
「はい。津也、お金渡すから買ってきて」
「了解!」
これでカレーパン4つ目。やはり、ここのパン屋ではカレーパンを頼むのか。
「はい。カレーパン買ってきたよ。三ツ星公園に戻ろう」
「そうだね」
出身中が同じ4人は、さっきまで二音たちがいた公園に戻ってきた。
この三ツ星公園は、遊具が全然おいてないから人も来ない。だから、二音たちは幼いころからここで遊んでた。
いつ来ても人がいない
ここに公園建てた意味はあるのだろうか。
「うんめぇ~」
「やっぱあそこのカレーパンはほんとに美味いな。」
1年ぶりに食べたカレーパン。辛さの中に少しだけある甘みがくせになりそうだ。
「この後俺んち来ない?」
泉がはきはき言った。
顔は元気だがその言葉に気持ちはこもってなかった。
何かに少し戸惑ってるみたいだ。
「わかった、そうしよう。」
のんも納得した。自分の予告について語られるとは思えぬほど元気そうだ。
この時にでも気づいていればあんなに落ち込むことはなかっただろうに。のんがなぜこんなに自分のことじゃないように話してたがわかっていたら……。
結局ほとんど何も話さぬままカレーパンを食べ終え泉の家に向かった。
泉の家に上がるのは久しぶりだ。
けど、家の周りを見る限り内装は変わってなさそうだ。
「お邪魔しまーす。」
3人同時に言った。
思ったとうりに内装はあまり変わってなかった。少し変わったと言ったら、玄関にやや高級感ある花瓶が飾られていたことだ。
飾られてていた花は二音達もよく知るブルースカイと、美しい白い花だった。
後で知ったことだが、この花はユークリッドという花だった。
ここに、ユークリッドが飾られてるのにも意味があったのかもしれない。そのことを後で二音は知ることになるのだ。次にここに来る時に…
そんなこととは知らないで、二音やのんは、リビングのほうに入っていった。
「お前の家ってこんな広かったっけ。」
ここの家には1年くらい入ってなかったが、1年でここまで部屋の様子をすっかり忘れるとは。
「こっちが俺の部屋。」
入った瞬間に以前との変化が一目瞭然だった。
そこには、テレビがあった。
ソファーやベッドもありすごく快適そうだ。前来た時は布団と少量のおもちゃしかなくすごくさみしい部屋だったのに。
「はぁ、立派になっちゃって」
そう言ってのんはソファーに座る。
「それにしてもこのソファーは、なんてやわらかいんだろう」
のんのとなりに津也も座る。
ピッ
泉がテレビを付ける。
のんと泉がなんか話してる。
ここはあえて聞かない。気にはなるけど、気まずい雰囲気になるのはやだし。
ここで僕達は何時間遊んでたのだろうか。結局、津也が帰ろうと言い出したのは、外はすっかり暗くなっていて、久しぶりに会った泉とも気が合うようになってきた。まるで1年前に戻ったみたいだ。
この家もすっかり慣れてきて、のんも機嫌を取り戻してきたみたいだ。このままずっといてもいいとでも思った。
「さぁ帰るかぁ」
この楽しい雰囲気も、終わりの時間が来た。
「よーし、帰ぞぉ」
泉が言った。ここは泉の家だから、どこに帰るのだろうと思った。
と、ここであまりにもびっくりすることを告げられた。
「ちょっと二音、来てくれる。」
いきなり泉に手をつかまれてとなりの部屋に連れてかれた。
泉は、津也には見つからないように見てねと白い紙きれを渡してきた。そして何事もなかったかのように津也やのんの前に戻ってさよならを繰り返している。
二音も、泉にさよならという意味を込めて手を振り、紙切れをポケットの中に入れてのんたちのほうに向かってった。
家に帰ってきた。
ここだったらあのメモを見ても大丈夫だろう。と、二音は思ってポケットに手をつっこんだ。
どれどれ… えっ?
なんだこれぇ
【二音へ
ここに書いてあることはすごく衝撃的だと思う
実は、二日前の夜の寝ようとしたとき変な夢を見たんだ。
それが多分お前の言う『予告』というやつなんだと思う
そして僕が見た予告の内容を教えるよ
7月21日の9時くらいのシャイン橋を歩いていた二音が、後ろから黒いジャケットを着た不審な人に殺されるという予告だった。詳しいことはわからないけど、ちょっと気を付けたほうがいいよ。】
衝撃を受けた。俺が殺されえる?なぜ?だれに?どうして?
でもあまり詳しく書かれてないからそんな真剣に考えなくてもいいのかなぁ
それにしても、やはり泉の字は特長がありすぎる。カクカクしていて字が下手だ。今まで見た中でもほんとにひどい。けれどその2倍くらいのんの字は汚い。それも2年位前からだろうか。まるで目を閉じながら字を書いてるような字だ。
話がそれた。
でもここまでのヒントがあれば、7月21日にシャイン橋を渡らなければいいだけだろ。これくらいならばできる。何だ、今回の予告は簡単に防げるじゃないか。
こんなに簡単な予告もあるのだなぁ
と、二音はこんなに浅く考えてしまっていたが、本当はこの予告は今後大きく二音の生活を変える予告だった。
「まぁ今日はもう遅いし寝るかぁ」
そんなことも知らない二音は10時には寝てしまった。
*****
次の日は、やはりのんは学校に来ていなかった。
あの青のリュックも見られなかった。