ホワイト19
二音へ、
まず、今までありがとうございました。
僕の中で二音は一番大切な存在となりました。
次に、あまり心配なさらないでください。
僕が自殺したのは二音のせいでも誰のせいでもありません。ただ単に自分が弱かっただけです。
気づかなかったでしょう。
あの予告のことをきちんと調べましたか。
あの予告は、徒ではないのです。それなりの代償がありました。
あの予告を防げないと、その予告を受けている人が1番信用している人の目が白黒でしか色を区別できなくなります。。これではどんな景色を見ても白黒テレビを通して見ているくらいにしか写りません。
秦が殺されたとき、その対象は僕でした。
正直、この生活は苛苛するし、ストレスも溜まります。
でも、こんなことになったのは、二音が僕を1番信用していたからなんだと思い、不思議と安心できました。
そしてこのとき、初めて気づきました。色の必要性に。
それからまもなく月日が経ち、時間は今に至ります。
僕は最近、本当に二音は信じてくれているのかなと疑いました。
別に二音が悪いわけではないですよ。ただ、色覚を失うというのは思っていたよりもかなり辛いことでした。
僕が自殺しようと思い始めたのは至って最近です。
こんなことを言うのもおかしいですけれども、ここ最近、僕は何をやっても面白いと感じなくなりました。
面白みのない世界にいるのはつまらない。だから僕は、あの事件からちょうど2年という区切りに二音たちにもう1度あの事件の犯人を探ってもらうためにもこの時期、この日に自殺しました。
あなた達はよく事件について調べてくれましたね。
本当に嬉しかったです。
追記、あの日、理科室で話したことを忘れないでください。
二音は白いノートを机に置いた。
すると急に自分がいる場所が揺れているような感覚を覚えた。目がくらくらしてきた。
二音は、改めて思った。自分は大切なものを無くしたんだということに。
僕は心配しなくてもずっとのんのことを信用していたのに。信用しすぎていたのに。
これから僕はどうすればいいんだろう。
なにを、どうすればいつもの生活に戻れるのだろう。
二音はのんを見つめた。二音はのんが羨ましかった。その頭が、その人間性が、その必要性が・・・・・。
全てが嘘だとは思わない。これまでの生活が全て楽しくなかったはずがない。
20分後、のんの祖母がのんの部屋に来た。祖母はいつもみたいに暴れないで「私が守るべきだった」と言い、すぐにその場にもたれた。
「あんた達もそろそろ帰りなさい。そんにゃに悲しまれちゃのんもかわいしょうじゃぞ。それに今日は夏祭りじゃないけん。ほら、さっさと行ってこい」
二音たちはおのおのその場から離れ、のんの家を出て行った。二音は「守れなかったのは、僕達もです」と祖母に言い、のんの家を後にした。
*****
わたがしを食べていた。
あんな場所に1時間以上居たらそれはそれは、糖分が足りないと体から忠告された。
わたがしの味は変わらない。2年前も1年前もこの味だった。
莉亜と晴とは、のんの家で別れた。あの2人もそれなりに衝撃を受けただろう。
二音達もそれから全く喋ることはなかった。いつもならここにのんがいた。そしていつも場を盛り上げてくれた。もっと言うと、秦もいるはずだった。
何で僕達はこんなにいなくなるのだろう。僕達はこうなる運命だったのかな。
二音はあの占い屋に並んでいた。ただただ普通な流れで。そしてただただ普通な流れでくじを選んだ。ただ、中身を見る気はしなかった。
ぴゅーーーー・・・・・・・ドーン!
今年も花火が上がった。
そういえばよく、1番始めに上がる花火の色を当てたりなんかしたな。
今年の色は・・・・濃い青色だ。
濃い青。今の二音の気持ちにぴったりとも言える。
二音はその花火の色に減り込んでいった。
この色・・・・・・・・・・・濃い青・・・・・・・・・二音の気持ち・・・・・・・・、
どこかで見たことがある色。
理科室での話。
『夏色や 昔に戻る 海の色 時の流れやその花の名は』
全てが繋がったとき、二音はわたあめを落としてしまった。
二音の中でこの1週間の出来事が思い出された。のんが最後に残したメッセージ。それがようやく分かったような気がした。
そして二音はこれが全てのんが用意した作戦なんだと理解した。
「泉、これからあんたの家に行くけれどいいよな」
そう言うと二音は泉の手を引っ張って無理やり泉の家に行かせた。
泉の家はこの前来たときと何も変わっていなかった。二音は失礼しますと言いつつ、玄関の扉を開けた。
そこにはやはり、莉亜が食べたと言うユークリッドと言う花がが飾られていた。そしてその隣にブルースカイがあった。
「僕は今からこの花を食べるけれども、泉も食べる?」
泉は明らかに戸惑っている。外では2発目の花火がようやく打ちあがった。窓からまぶしい光が入り、二音の持つ花を照らした。二音は泉を待つことはなくその花を飲み込んだ。
*****
今、自分がいるところが時空に沿っていないことは分かっていた。
二音は泉の家の近くにある三ツ星公園にいた。
どうやって来たかは覚えていない。だが、どうしてここにいるのかは分かった。
二音はとりあえず、近くのコンビニに寄った。コンビニは近くのパン屋の隣にある。そこは二音にとって、いや、のんや泉にとっても思い出の場所となっていた。
二音は新聞コーナーに立ち寄った。
新聞を手に取り日付を確認してみる。
日付は7月16日だ。そして年号は・・・・・2年も前の世界になっている。
二音は全てを悟った。莉亜はこのタイムスリップの効果で晴が殺された後の世界に来て、晴の事件の全貌を知り、それを未然に防いだ。
ブルースカイを食べたことで二音にもタイムスリップが起こるのだということは分かっていたが、のんが自殺する前に戻り、そこでこの自殺を食い止めるのかと思った。
しかし、どうやらそういうことでは無さそうだ。
2年前の7月16日。秦が殺される1日前だ。
つまり僕はのんの自殺を防ぐのではなく、秦の殺害を防ぐようだ。そして、それは自動的にのんの自殺を防ぐことにも繋がる。
そうすると、のんが自殺した理由も分かる。このタイムスリップは、きっかけがないと訪れない。のんは自殺してきっかけを作ってくれていたのだ。
のんは僕が秦を助けること、そして自分も助けてくれると信じて死んだのだと思う。これが正しい信じ方なのか。
コンビニに設置されていた時計を見た。時刻は午後の9時半。ブルースカイを食べたのと同じ時刻だ。
少しだけジャンプをした。これから忙しくなるぞと、自分の体に言い聞かせるためだ。
まず、ルーズリーフとボールペンを買った。そしてコンビニを出て秦の家に向かった。ここから秦の家まではさほど遠くない。
「余分遅くに失礼します。秦の友達の二音と申します。これからとても重要なことを秦に伝えなくてはいけません。お手数ですがこの手紙を秦に渡してくれないでしょうか。」
二音はさっき買ったルーズリーフにボールペンで明日、学校が終わったらすぐに三ツ星公園に来るようにと書いた後、他に1文足して秦の母に渡した。いきなり来た友達を名乗る中学生に驚いている様でもあった。
その母親が秦にそれを渡したかあるいは、失礼しましたを言うよりも早く二音は秦の家から立ち去った。
二音は次にのんの家に向かった。ここからのんの家まではさほど遠くない。ただ、足取りはとても重かった。
チャイムを押すと、のん本人が出てきた。これでここに来るまでに書いた手紙は必要なくなった。念のため、全て話した後に忘れないようにと渡しておこうか。
のんはとても元気だった。
明日が夏祭りというだけでテンションがとても上がっている。
2年後の明日は自分が死ぬことも知らずに、ましてやそののんを助ける為に夜遅くに訪れてきたとも知らずに、のんはとても明るく笑っていた。
二音は元気なのんを見れただけで幸せだった。こののんがいつまでも心の中だけでなく生きていて欲しかった。そして、こんなのんを巻き込みたくなかった。
「おっ、二音。こんな時間にどうしたんだ?」
「えっ、あぁ・・・・・。あのさ、最近ね秦が殺されちゃう夢を見てさ・・・・。まさか違うとは思うけど・・・・・」
のんを見ると言葉が出てこなくなる。こんなことを言いたいんじゃない。これは夢じゃないんだ。これは本当なんだ。現実なんだ。
二音はのんの胸元にさっき書いた手紙を押し付けた。
「春手、これは現実なんだ。信じてくれ。実は僕は未来から来たんだ。ある目的を無事解決しないと帰ることができないんだ。その目的はここに書かれているが、大雑把に言うと明日、秦は殺されてしまう。明日、秦の家に来て、それを阻止しよう。お願いだ。」
正しい信じ方とは全てを信じないことだ。正しく信じていれば全てを信じなくても信じられるはず。前までの僕ならばのんに言われたことを100%鵜呑みにしていた。
それではいけないとは思っている。
ただ、今回ばかりはどんなに現実離れしている話でも信じてくれないか。
「分かった。僕はこれでも二音と長い間親友として関わってきたんだ。二音の目を見れば真実くらい分かる。只、少し驚いているけどね。」
純粋に嬉しかった。僕のことを親友扱いしてくれていることがとても嬉しかった。
「ありがとう春手。これからもずっと親友でいようね。あとさ、やっぱり僕は春手のことを疑えないよ。」
「信じるのは簡単でも疑うのは難しいんだ。自分が信じたいと思うならそれを信じ通すのも自分を信じることになるのかもね。」
7月の夜空に少し冷たい風が棚引く。夜空には天秤座が眩しく光る。「心」をさばく正義の天秤は僕の心も裁いてくれているのだろうか。
僕は寒くなってきたのでポケットに手を入れた。
ポケットに入れた手が何か紙切れを見つけた。
僕はそれを取り出し読んでみた。それは夏祭りで引いたくじだった。
正しくない正義だってある。正しい不義だってある。
二音はくじをポケットに戻してのんに別れを告げた。




