ホワイト17
二音の指がページをめくる。少ししてからまためくる。4ページ目は特に衝撃的なことが書かれていた。ちょっと内容に驚いたものの次のページのことを考えれば大丈夫だ。
5ページ目。
昨日見たあんのノートにはそこに「2厳島秦」と書かれてあった。時間的には秦のほうが1年前だが多分これは次に狙われている人なのだろう。もしも犯人がタイムスリップできるならば正しいだろう。確かネットにはそういう人をモノクロって言うって書いてあったが。
二音も二音の頭の隣から眺めている泉もついに覚悟した。
ページをめくった。
ラスト倉土二音
「二音??」横から泉が声を上げる。あれ?のんじゃないのか。
ひょっとするとこれも時空のずれにより、ずれているのかもしれない。ただ、気がかりなのが「ラスト」と書かれていることだ。
もし、あんが「1」ならば今回の二音は「3」となるはずである。そして「4」がのんになるであろう。しかし、これは「ラスト」と書かれている。ではのんはなんなのだ。時空のずれではないのか。
「のんは関係無いのか?」隣から泉の声がする。単に二音がただの夢を予告と勘違いしたのかもしれない。それだったらばどれだけ気が楽なことだろうか。二音は後になってこのときに気づいていれば・・・・と後悔した。
もう終わりかけていたのに。
30分は経過した。のんは未だにトイレから出てこない。あれから二音も泉もあのメッセージについて考えていた。
あの予告には確かに間違いは無いはずだ。無論、2年前のあの事件がそれを証明している。それではなぜ、なぜのんはリストに載っていない。のんは本当に殺されたのか。あの予告は本当に犯人が送ったのか。のんは何で殺されたのか。
二音はこれまでの出来事を思い出した。そういえばのんはあの図書館であったとき以来から全然はなさなくなったな。のんはまるで未来でも見ているかのように独り言を喋っていたな。
ふと、二音の頭に一つの出来事が流れた。
2年前、あの事件により捕まってしまったのんの父の裁判の日の夜、心の準備のために結果は母だけに知らされ、のんには伝えられなかった。
そしてその日、のんは二音の家に泊まった。
のんはどうせ免れるだろうと思っていたらしく、かなり機嫌がよかった。いや、無理やりテンションを上げているというような感じだった。二音に合わせているような感じで。テレビを見てもどこが面白いのか分からないようなところで笑い、本当に面白いところでは笑わなかった。その4日ほど前には秦が殺されているのだ。二音にしたってのんにしたって心の中では多分笑えていなかった。だからのんの笑い方が不自然すぎて音も聞こえなくなった。
のんの事を見ていつもと違うと思ったのは他にもたくさんあった。いつもならばどんな服だってお菓子の袋だって自分の1番好きな赤にそろえていたはずなのにあの事件以来、全くの統一性を持たなくなった。
今までは、のんというと赤のイメージが強かったのにここ2年ほどでそのイメージは無くなり何の色も持たない無色となっていくようだった。
他にものんはとにかく別人のように変化した。
今思うと、何でのんはあんなに変わったんだろう。
何であんなに元気があったんだろう。何で統一性が無くなったんだろう。のんに何があったんだろう。
そして二音はついにその意味を見つけた。
のんは本当に殺されたのか。・・・・・・・二音の推測ではこの答えは「NO」だ。
のんは殺されたんじゃない。殺したんだ。自分を殺したんだ。あの自殺は本当に自殺で意思を持ってしたことなんだ。
ではなぜこんなに長い間トイレにいるんだ。
もしかしてその間に自殺したとか・・・・・
考えている時間はない。トイレに行って確認しなければ。
「泉、すべての謎が解けた。のんを助けるためにもトイレを開けるぞ」
自分でも何を言ってるか分からなくなった。こんな根拠も無いこと言ったって泉は信じてくれないだろう。
その考えは見事に外れた。「うん。分かった。」泉は答えた。「二音、お前の言ってることが俺にも理解できた。のんが自殺でもしたと思っているんだろう。のんはそんなに弱い子じゃないと思うが心配になってきた。」
泉は「行くぞー」と声を張り上げトイレに向かった。そしてありがたいことに浩さんも着いてきてくれた。
トイレの鍵のタイプはお金で回す系だった。そのため、二音はポケットに溜まっていたお釣りの中からちょうど良さそうな大きさの形をしたコインを取り出した。ポケットから出された100円は無駄なく鍵を解いた。カチャっと音がして色が赤から青に変わった。
タイミングよく泉がトイレの壁を蹴る。
どんっと響いて扉が開く。
いない。
のんがいない。それにスリッパも無くなっている。窓が開いている。
逃げた。どこかに逃げた。
泉も浩さんも口を大きく開けている。そんなことしている場合じゃない。今はとにかく早くのんを探さなければ。
「浩さん、車あります? すぐにこの近くを探しましょう。」
浩さんもその意味が分かったらしく鍵と少量のお金を持って外に出た。二音は丁寧に秦のノートを持ち出し、浩さんに続いて外に出た。
考えが甘かった。
もう40分も経っているのだ。この周辺にいるわけがない。周辺にいたとしたらもう死んじゃっているだろう。
二音は10分ほどこのアパートの近くを調べた。しかし、何の情報も出てこなかった。そしてここでやっと思いついた。
のんはもう遠くに行っているんだということ。ならばどこに行ってる、どこに行きそうだ。
冷静に考えろ。冷静になれ。冷静、冷静、冷静、冷静、冷静冷静冷静冷静冷静・・・・・・・
「わかったあああ!」
泉が大声を上げた。浩さんは驚いて急ブレーキを踏んでしまった。キィィーッっと轟が街に響く。
「のんの家だよ! 予告では自宅で首吊ってたんだろ、じゃあ自宅に行こう。」
「自宅って、ああ、ここに私が来る前まで住んでた所ね。できれば行きたくなかったけれどこればかりはしょうがない。全速力で行かせてもらうぞ。」
そう言うと浩さんは力強くアクセルを踏み込んだ。ぶるうっと音がする。
ここから紀伊町まではあまり遠くは無かった。しかし、それでも20分近くかかってしまい、間に合っているか、本当にここなのかが心配だった。
「着いたよ。ここが春手君の家だよね。」
「そうです。早く行きましょう。」
泉は急いで手袋を着けた。そしてそれを見た浩さんまでもが手袋をつけた。
「何で手袋なんかつけるの? 暑くない?」
「暑くないわけないだろ! でも、ここに僕達の指紋が残って俺らが殺人の罪を着せられる方が最悪だろ。俺らはもうそういう経験をしているんだよ。気をつけろよ!」
殺人の罪を着させられる? 何馬鹿なこと言っているんだ。二音はそう思ったがこれは違うと思った。2人とものんという分かりやすいお手本を見てきたからこそ言えるんだ。
二音も仕方なく手袋を着けた。浩さんの車にたまたま残っていた。青色の浩さんとお揃いの手袋だ。値札がまだついているらしくチクチクして痛い。おまけにこの真夏での手袋は手の中がサウナになっているようだった。
泉は赤の手袋で春手家の玄関口に手を掛けた。そして強く引いた。
カチャッ
鍵が開いている。単に祖母が閉め忘れただけかな。
「失礼します。」
二音が大声で叫んだ。奥の方から人影が見えた。
「誰だ! さっきかりゃいったいにゃに事にゃんだ。まさかあんたらまでもが家らの敵とは。私は命を掛けていぢぃずんにゃろうをお守りいたしゃましゅ。」
これが認知症の叔母か。隣から泉の意思が伝わってくる。
「私は行かない方がいいと思うので、車で待ってますね。」
浩さんが言った。二音ははいと答えた。
中に行くにはこの人をどうにかしてからだ。強引に中に突っ込むかそれとも・・・・・・・
「祖母さん、今春手が大変なんです。守りたい気持ちがあるならばぜひ僕達と共に中に来てくれませんか。」
なに、っと言う顔でこちらを見つめている。そしてしばらくしてから「特別な理由があるなら中入んな。と言ってくれた。
そして僕達は2階にあるのんの部屋へと向かった。
*****
まさか、またこんな目に遭うなんて。
トイレでドアを開けたとき、春手が逃げたと分かったとき、僕はどうすればよかったのだろう。
今僕は、キツキツな軽自動車に3人で乗っている。僕は二音の隣にいることになった。
気持ちいいくらいにサラサラと流れる風。僕はこのまま眠ってしまいそうだ。
久しぶりに友達と会ってから僕はまともに睡眠を取れていない。きっとそれは二音も春手も同じなのだろう。
ただ、僕にとってみんなと違うのは僕は春手の予告よりも二音の予告が不安だと言うことだ。いや、二音もそうかもしれないが。
二音も以前、秦の事件で予告の力を使えなかった。
しかしそれは僕も同じだ。
僕は1年前、受験勉強で少し忙しかったときにある予告を見た。
それは今くらい風がサラサラだった日の予告だった。
その頃はまだ出会ったことのない女子が土の中に埋められている予告を見た。
あれが僕の初めての予告だった。そして初めての予告はあっけなく、何の成果も無いまま無残に終わった。
僕に予告が流れたのはこれで2回目だ。僕は前回の予告がトラウマになってしまったせいでこの予告のことに関してはほとんど覚えていない。この予告の直後に書いたメモは二音に渡しちゃったし、記憶のファイルにはどこを開いても保存されていなかった。つまり僕は無力化されてしまった。
僕の力では二音は救えない。救えるのは、あのメモの内容を覚えているであろうのんだけだった。
そのためここでのんが死んでしまうと困るのであった。
のんはたぶんバスに乗っている。
この前に発車したバスはもう着いているはずだ。運が悪ければもう家に着いているかもしれない。
のんを救いたいのはたぶんここにいるみんながそう思っているはずだ。だが、その先の二音まで助けたいと思っているのは家に向かっているであろうのんでさえ考えてないであろう。
ちょっと欲張りすぎだろうか。
もっと言うと1年前の予告に出てきた少女も、2年前に死んだ秦も助けたかった。
2頭追うものは1頭も捕れず。のんも二音も何て2人も救おうなんて考えていると両方とも救えないのかもしれない。
だから僕はのんの方は二音に任せた気だった。本当なら僕ものんを救ってのんと2人で二音を救わなければいけなかったのだろう。




