ホワイト15
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今日は、目覚ましに起こされなかった。
これから隣町の野目神町に向かう。たまたま近所からそこ行きのバスが出てたのであまり時間はかからなそうだ。
「よっ、二音」
泉だ。9時なのにテンションが高い。おうっ。と、少し戸惑ってしまった。
少ししてのんが来た。テンションが低い。
「大丈夫。今日を乗り越えれば時間が変わるよ。」
二音が優しく声を掛ける。今日はいつもと違って少し大事な日だ。
どうせ食い止められるだろうが、予告の中では今日、のんは殺されるのだ。
いや、食い止められるとは断言できない。事実、2年前はできなかった。
今年はそのリベンジだ。秦の死を無駄にはしていられない。なんとしてでも今回の予告は成功させなくては。
昨日の夜にこんなことを考えていた。少し恥ずかしいが。「のんがいなくなったら、俺は何になるんだろう。」
二音はなんとなく自分は、のんがいるからこそここにいるのだと思っていた。
もし1年前にのんが日光中に行っていたら今二音は何をしていただろう。
ちゃんと友達はできただろうか。
ちゃんと学校に行けていたのだろうか。
二音は「のん」という強力な切り札を持っていたからこそ今こんな感じで遊べているのではないか。熱中してのんを守ろうとしているのではないか。
もしも、この予告がなかったら、僕はちゃんとのんを守れたのだろうか。守れたのだろうか・・・・・・・答えはすぐに見つかる。
「おい、何ボーっとしているんだ。早くしないともう出発しちゃうぞ。」
泉の声が頭の中を横切った。
紀伊高校の入試でこんな作文問題が出た。「心が通じ合える人とは、長い時間を共に過ごした人でしょうか。」
二音は、「はい」の方で書いていた。
果たしてのんは、どっちで書いたのだろうか。幼い頃から共に過ごした自分をのんは「心が通じ合える人」と思っているのだろうか。思っていないのだろうか。
1年前の高校入試、国語の大門6には毎年のように作文が出ていた。そして今年も例によって作文が出た。
「心が信じ合える人とは、長い時間共に過ごした日となのでしょうか。」
僕の答えは決まっていた。「いいえ」。
心が通じ合うには、まず、心からその人と通じようと思はないといけないと思う。そんな単に長い時間一緒にいるだけでそんな人になれるわけではない。僕がそう思える人は長く共にいた人なんかよりも全然少ない。
テストが終わった後、僕は二音と一緒に帰った。二音はその問いに「はい」と答えたみたいだ。
僕はひどく心が痛んだ。僕は今まで勘違いしてたみたいだ。二音は僕のことを1番の親友だと思っていると思っていた。それなのに、僕は所詮、「長い時間を共に過ごした友」位にしか思われていないのだと思った。
考えすぎかもしれない。やっぱり、1番の親友と思っているかもしれない。
俺ももう少し二音から離れないといけないのかな。僕は単にもう、二音がいないと生きていけないなんて妄想しているだけかもしれない。
いや、でも実際に生きていけないんだな。
バスの中は涼しかった。7月17日だからもうほぼ真夏だし、これくらい涼しくないと長い時間運転している運転手さんは持たないのだろう。
野目神町にはあっという間に着いた。署長さんの言うとおりならば野目神町4丁目にいるみたいだ。ここは、野目神町1丁目なのでまだまだ遠い。まずは、手ぶらで上がるわけにもいかないので近くのスーパーで1500円くらいのチョコのギフトを3人で分割して買った。ほのかに香るイチゴ味がおいしそうだ。3重にも包装されているのに香る。
4丁目は意外と遠かった。40分近くかかってしまい、なんやかんやでもう11時だ。11時にもなるとお腹がすいてきたので早めの昼食を摂った。さっきのスーパーで1人3つずつおにぎりを買っていった。
これからが本題だ。この20軒くらいの家と、10棟ほどのアパートの住民を確認しなければならない。万が一迷わないようにも3人で共に行動した。
まずは、20軒の1軒屋からだ。多分40歳以上のおじさんが1軒屋に住んでいるとは相当思えないが、それでも1番近かったので探してみた。
案の定、20軒の1軒屋には、「厳島」と書かれた家はなかった。次は隣のアパートに移る。
アパートはかなり年季が入っているみたいで壁が緑色に変色し始めている。
「この階段折れちまいそうだ。」
泉が怖いこといってくる。二音は以前に1回、階段から落ちたことがあるのでそのことを思い出させる話はあまりされてほしくない。
そういえばさっきから、本当にのんの存在感がなくなってきた。話しにも入ってこないし、それにしても本当に探す気があるのだろうか。
「うーーん。このアパートは標識がないのが多いね。」
多分住んでいないところもあるんでしょう。いやいや、住んでいないとは限らないぞ。もうちょっと丁寧に探せ。
結局1つ目のアパートにはなかった。その後なんやかんやで5棟目のアパートまで、調べ尽くした。気づけば時間はもう3時を上回っていた。この辺は、紀伊町よりも断然と過疎だ。そのため、施設の備えも悪い。コンビニなんて少なくとも野目神町4丁目に入ってからは1度も見ていない。だから、全く時間を見ていなかった。
6棟目のアパート、「MAYA」を訪れたときだった。
「おっ、309号室に、厳島さんがいるぞー。」
ここまで来るとさすがに疲れてきた二音とは裏腹に泉は本当にあきれるほど元気だ。ここまで来て「ぞー」と言いながら笑顔でこちらを見られても戸惑う。
やっと厳島さんが見つかった。この人が本当に秦のお父さんかは別だが・・・・
「コンコン、失礼しますー」
元気な泉が尋ねる。もう、二音とのんはそれを見ながら付いていく事しかしてない。
「はいはい。どなたですか。」
困ったものだ。何て答えようと思っていたらその様子が全く伝わっていない泉が、紀伊中の頃に秦君と同じクラスだった泉と二音とのんです。と普通に答えてしまった。
「えっ、えー、えーーーー・・・・・・・・・・・」
中にいる厳島さんはとっても困っている様子だ。
「うーーん、とりあえず中に入るかい。」
そういって厳島さんは部屋の扉を開けてくれた。
思っていた以上に部屋は広かった。部屋の中には40インチほどのテレビと、普通の家庭にもありそうなほどでかいキッチンが着いていた。そして壁には、奇妙なほどたくさんの秦と誰か知らない女性が写った写真がたくさん額縁に入って飾られている。秦の隣でニコニコしている女性はたぶん秦の母親だ。そして秦の母親は5年前に警察に捕まっている。額縁の中の女性は秦の死を知っているのだろうか。
「汚いがこの辺に座ってくれ。」
汚いと言われるほどは汚くない部屋のテーブルの横に座った。テーブルは正方形だったので、1辺に1人ずつ座った。二音は厳島さんの左隣だ。
「ここに来たのには他でもありません。僕達は、2年前、いや、ずっと前から秦の友達でした。そして、今はその2年後。何が言いたいかと言うと、また同じような事件が発生するかもしれないんです。」
厳島さんは、「2年前」と言った辺りから目を閉じ、下を向いてしまった。
「あなたは、秦の父なんですか。」
みんなうすうす気づいていた。そして返事は予想どうりの「はい」だった。あんのように曖昧じゃない「はい」だった。
「私は、厳島秦の父親の厳島浩です。」
短い1文にたくさんの情報が詰められていた。とても顔は強張っている。
「そちらの青い服を着ている子は春手君だよね。春手君・・・・・本当にごめんね・・・・・。」
一瞬二音はなんで謝っているのかが分からなかった。しかし、そういえばこの事件の犯人が、のんの父だったことを思い出した。
「私はあなたの父が犯人じゃないことくらいは分かってたよ。でも私にそれを止める権力はなぜか無く、このとき初めて人って不平等だと感じたよ。」
浩の言葉は短いなりに説得力がある。
そして、その文章には恐ろしく共感できる。
1年前、僕達は受験勉強に明け暮れていた。僕は、暗記力が無いという欠点があるため人1倍勉強した。
泉なんか、勉強なんかどうでもいいといわんばかりにテニスの練習をしていた。あれ、まだ泉はテニス部を退部してないのだろうか。僕なんて2ヶ月くらい前からバスケットボールなんて触っていないのだが。僕は、テニスボールが打ち返されるコンッっと言う音を聞きながらいつものように数学の問題集を開く。
受験結果発表日、僕は神様に少しでも振り向いてもらいためにもお守りを2個も買って受験番号の書かれたシートに巻け付けていた。
結果はあんなにテニスばっかしてた奴に抜かされ、あと5点足りず落ちた。泉ものんも受かっていた。
「何でうちの子供が殺されたんだろう・・・・。何か悪い事したんだろうか。それなら別の方法で痛めつけてほしかった・・・・・。」
浩さんは独り言に用に呟きながら奥へと消えていった。そして、何かが入った箱を持ってきた。
「君達が探しているのはこれだろ」浩さんは箱の中から黒いノートを取り出した。あんの家で見たのと同じだ。これがそのノートなのだろう。
二音はそれを手に取った。思った以上に重かった。そして綺麗だった。手でページをめくった。
字はあのノートと同じ字だった。特に特徴のない字はたくさん書かれていた。そしてその一つ一つに重みがあった。
「僕ちょっとトイレ行ってくるね。」
のんが立ち上がった。二音は「うん」と答えた。




