ホワイト14
「そう言われるとは思っていた。実は、今私達はそれを持っていない。あれには警察は見ないようにと書かれていたし、私達が持つべきではないと判断したため秦君の父親に渡した。」
秦の父。会社に言っているとの一点張りで見たことがない。写真では見たことがあったが、秦が幼い頃のだったので今の顔とは違うだろう。
「少し何か覚えていませんか。」
「それがね、まったく覚えていないのよ。今になると、もうノートの色さえ忘れてしまった。」
ノートの色は、あんが見せてくれたものと同じならば黒だ。いかにも会社に人や刑事さんが使いそうなカッコいい色をしていた。
署長さんも40代前半だ。物忘れが激しくても2年前に見た相当重要なものは忘れないだろう。
「あれ、メールのことは話したんだっけ?」
いや、ありえる。
「ところで刑事さんは事件当日に2回も六木さんの家を訪ねたんですか?」
一番気になっていたことだ。というかこれが目的だ。
「さて、どうでしたっけ。」
署長さんには聞いてない。
「1回です。この辺の警察は現場検証は1回しかできません。」
そんなルールあったっけと署長が言う。そんなに物忘れが激しいなら署長を辞めたほうがいいのではと思う。よくこの人にこの町は守られてきたな。小さい村でもさすがにもっと頑張ってくれないと。
「なぜそんなことを聞くの。」
「ここに来る前にあんさんのところを訪れてきたんだよ。そしたら、警察が2回来たって言うので。」
署長も係長も驚く。
「となると、その2回目に来た人が犯人ですね。そしてその人が私達が帰ったあとにノートを机の中に入れたんですね。」
係長が僕の言いたいことを全て言ってくれた。
「そうです。その通りです。」
「それじゃあ私達はその2回目に来た人を探そう。その人が香苗さんの父じゃなければお父さんの無実が証明される。」
「教えていただきありがとうございます。」
泉がお辞儀した。それに釣られて二音ものんもお辞儀をした。
「いやいや、教えていただいたのはむしろこっちだよ。本当にありがとね。私達は早速、その人を探すけど、君達はどうするんだい。」
目線を泉に託す。泉は当たり前じゃないかといわんばかりの笑顔で頷く。
「僕達は、秦の父を探します。」
「それならば住所を教えてあげよう。お父さんは今、野目神町4丁目にいるみたいだよ。詳しいことは分かんないけれど、そんなに広くないし、1軒1軒見ていけばすぐに見つかるんじゃないかな。」
「野目神町。隣町じゃん。なんだ。意外と近くにいたのね。」
ここ紀伊町の隣は野目神町だ。野目神町は決して近くはない。隣町とは言え電車かバスを使う必要がある。
「おい、小笠原くん。お金を持ってきなさい。これは、野目神町に行くための交通費だ。さすが高校生と言えどもこの用件を頼んだのは私だ。この署の予算を使う。」
お金を持ってきた係長が落ち込んでいる。
「署長!まだ今年半分あるのにもう3分の2は使ってますよ!次からはちゃんと節約してください。」
「分かってるよ。次からはするから。」
始めて見たときは怖そうだと思った署長さんも今になるとだいぶ打ち解けてきたみたいだ。最初に言ってた「所詮高校生」に少し打撃を与えられただろうか。
係長がお金の入っているであろう封筒をこちらに差し出してきた。二音は躊躇していたが、のんが迷いもなく受け取ってしまった。
「ありがとうございます。」
のんが笑顔で答えた。のんが笑顔になったのも嬉しかったが、警察からお金を貰ったのにはかなり迷いがあった。
そのままのんがお金を持つような形で警察署を出た。もう夕日もだいぶ落ちてきた。多分今、6時くらいだ。
「じゃあ今日はここで解散とするか。」
「今日は長かったなー。明日は、野目神町に行こうね。」
いつも通り、解散した。しかし、今日は7月16日だ。
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僕が弁護士になろうと思ったのは、僕の母の無実を果たすためです。僕の母は、今から3年前に警察に捕まりました。僕は母が何もしていないことを知っています。3年前、皆さんはご存知ですよね。銀行強盗が入った日です。僕の家は知っての通り貧乏で、給食費を出すのがやっとなくらいです。そんな僕をかわいそうに思った母が銀行強盗をしたと僕は警察に言われました。証拠は分かりません当時僕は幼かったのでまだこの事故に関する情報は知らない方がいいとのことで何も教えてもらえませんでした。僕はそのためにここ紀伊町に引っ越されてきました。でも僕は知っているんです。あの事故当日の同時刻に、僕は、母と出かけていたんだ。証拠がそろっていてもこっちにはアリバイがあるんだと。母は、どういうわけか8億円も盗んで、そのうち4億円を燃やし、3億円をどこかに埋めて9999万を父に、1万を僕の通帳に入れたと言われています。確かになぜか分からないがその日に1万円僕の通帳に振り込まれました。お父さんは自分の通帳を変え、元の通帳はどこかに隠したらしいです。母は、懲役30年の罰が与えられました。しかも面会もいけません。こんなかわいそうな母を、僕は助けてあげようと思い、弁護士になり訴えてやります。
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夏色や 昔に戻る 海の色
時の流れや その花の名は
今から大体1200年前の平安時代。
時は短歌や和歌が広まった。
それから日本では、1200年間忘れられずに誰かが毎年名作を生んだ。
有名な歌は「不朽の名作」として現代でも多く知られているものもある。
しかし反対にいい歌も時と共に薄れてきて今まで残らなかった歌もある。
短歌や和歌は今と昔を繋ぐものだ。
こんなに長く愛され続けてきたものは数少ない。その中でもお手軽で、自分の気持ちをここまでしっかりと伝えられるものは唯一ともいえる。
この歌もそうだ。
歌われた時代は平安ではないが、教科書にも乗るならばそれはまさに「不朽の名作」であるだろう。
しかしこの歌の伝えようとしていることは単純。
青の花を食べたら、昔に戻ったよー。
分かりやすく訳せばこうなる。
そしてご存知の通り、この青い花と言うのは「ブルースカイ」と言う花のこと。
しかし、作者が読んでいる花は、「ユークリッド」と言う白い花。
この花は、泉の家や六木家や警察署にも置いてあった花だ。
そして、莉亜はこの花を食べてタイムスリップしてきた。
つまり、この花には未来にタイムスリップさせる力があるのだ。
ブルースカイって過去に戻る奇跡の花なんだって・・・・
今と過去。繋がって産まれる軌跡。それは未来とも同じで、奇跡が生まれる。つまり過去と今と未来は、『キセキ』によって結ばれているのだ。
二音・・・・・、今から7日前、理科室でのんが話したことを忘れないで。
今年の花火大会は7月17日。
明日でもあり、この3人にとっての運命の日でもある。
果たして1番始めに上がる花火は何を意味するのか。
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7月10日、その日の夜に二音には予告が流れた。
そこには見慣れた姿の部屋にこちらも見慣れた男の人が首を吊っているのだ。
その頃僕はそのことを事実だと思っていなかった。どうせいつもの夢だろうと思っていた。
しかしいつもの夢とは明らかに違うことがあった。
普通夢と言うのは見たらその日の目覚めるときにはたいていのことは忘れる。覚えていたとしても多少一部分だけだ。しかしこの夢は、はっきりと。且つ、鮮明に覚えていた。
その子が殺される17日まで、僕は毎晩のようにその夢が繰り返し流れてきた。
16日目でやっと思った。
―これは本物なんだ・・・―と。
僕はその日の前日、その子を家に泊めた。なんかあったら大変だからだ。
もちろんその内容のことは誰にも伝えなかった。例えその子にも、親にも、先生にでさえ。
後になって思うとあの時誰かに聞いといた方がよかったと思った。
僕はその日なにも起きなかったから、もう終わったと勘違いした。あれは夢だったと勘違いした。
翌日、彼は死んだ。
予告どおりに自宅の部屋で荒らされた形跡もなく、そのことを一言で言うならば『神秘的』だった。人の死を神秘的というのはおかしいが、でもその言葉しか合わないだろう。
最初、この事件は自殺として扱われていた。でも僕は始めてこの現場を見た時点から思った。
これは殺されたのだと。
後にこの事件の犯人として、のんの母が捕まった。
しかし、のんも、のんの父も、そして二音もその理由はきちんと分からなかった。
警察に行ったときにあわせてこのことも聞けばよかったかな。そうすればこのもやもやした気持ちはなくなったのかな。
のんの父のことでは、1回しか裁判されなかった。それは1回目の裁判の後すぐにのんの父が自殺してしまったからだ。これには母も驚き、悲しんだみたいでのんが報告しに行った後、41・0度もの大熱を出した。
のんはそれから、様子がおかしくなった。
いつも以上に僕に話しかけてくるし、その異常な明るさには心が痛んだ。そしてそんな彼を見ている限りあの時何で僕が守ってやれなかったんだろと、後悔ばかりしている。
「絶対にお前は、僕が守る」
7日前にのんが僕に「未来か過去、行けるのならばどっちに行きたい?」と聞かれた。
僕は後悔している。
後悔しているから過去に戻りたかった。
でも僕は未来と答えた。もちろん本当に未来に行きたいわけではなかった。でも、未来には行きたくなくても行かなければならない。
この質問がのんから出たときに、のんはあの事故のことを引きずっているんだと思った。
ここで僕も過去に行きたいと言えば僕もあの事故を引きずっているようになってしまう。僕はのんにそのことを伝えたかった。
後悔先立たず
のんが自分で見つけ出した言葉だ。
1年前の夏祭り、僕達はみんなくじを引いた。この夏祭りで1番当たると言われているくじだ。僕もいい言葉を見つけた。しかし、この言葉だけは本当に的を射ていると思う。
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パラレルワールド
タイムトラベルなどが起こったとき、その世界は今の自分の世界とならずにその世界と矛盾したもう一つの世界ができる。
平行世界とも呼ばれるこの現象。もしかしたら私達の気づかないところでもう起こっているかもしれない。
莉亜が未来に来たとき、あれはパラレルワールドに来たと言うことになるのだろう。
つまり莉亜はパラレルワールドの中で晴を助けて生きている。たぶん現実世界では今はもう晴は死んでしまっていることだろう。
それでは、二音はどうなのだろうか。
そもそもパラレルワールドって何なのだろうか。
パラレルワールドはどこかの頭のいい連中がアインシュタインみたいに派動力学や、量子力学に基づいて立てた仮説に過ぎないだろう。
二音は午後11時ごろ、布団に入りながらそんなことを考えていた。
もしここが平行世界なら・・・・・・
二音がそんなことを本当に考えているのなら今後、二音はどういう行動をとるのだろうか。
まもなく二音は寝た。




