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ホワイト-white-  作者: サクラダファミリア
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ホワイト13


 ここから一番近い警察署は紀伊町中央警察署だ。この警察署はたぶん、この間莉亜を捕まえた警察もいるだろう。

 また、この「グレート・リーフ」からもとにかく近かった。マスターに行き先を聞いたらここの道を左に曲がってすぐだというのだ。

 紀伊町中央警察署は立派だった。この田舎にビルみたいに大きいとまではいえないが一目置く存在となっていたのは確かだろう。

 実は、事件前までここは紀伊町警察署だったのだが、連続事件のあと莉亜達が通っている富岡高校辺りにも警察署ができた。紀伊町東警察署と言うらしい。それならば、中央ではなく西にすればいいと思うのだがそこには事情があるのだろう。

「着いた。本当にすぐ近くだったね。」

「これから警察署に行くとなると緊張するぜぇ」

 泉が茶化した。二音はすぐに「行くというか訪れるという感じだけどな」と訂正する。のんは笑顔で署の門を眺める。

「あなた達は何の用だい?」

 たくましい制服を着た男に話しかけられる。

 たくましい制服とはよく刑事ドラマなどで見る警察の姿だ。腰にはしっかりと銃が掛けられている。本物だ。ちょっと驚く。

「実は、警察の方とお話したいんです。」

 たくましし制服の方は、むむっとした顔で「私も警察の方なのだが」と呟く。

「それで用件はなんだい?」

 優しそうな喋り口調だ。

 だが顔をみるとどこかで見たことがあると思った。

 莉亜を捕まえた人だ。いや、性格には捕まえても何もしてないのだけど。

「実は僕達、2年前に起きた厳島君の殺人事件について調べているんです。」

 警察の方が肩をすくめた。

「君達はあの事件の関係者かい?」

 警察の方も対応がすばやい。ぱっぱと質問してくる。

「はいそうです。」

「と言うことは、秦君と同じクラスメイトの子かな。」

「お見事です。少し気になったことがあったので来ました。中に入ってもいいですか?」

「もちろんだよ。さぁ、中に入りたまえ。」

 のんも泉も丁寧に靴を脱ぐ。しっかりと後ろから靴をそろえて脱いだ。

 応接間は思った以上に綺麗だった。シンプルな木製のテーブルの横に、それと同じ色の椅子が置いてある。テーブルにはあの情熱色によく似たテーブル引きが載っている。机の色と相性がいい。

 机の上のガラスの花瓶と窓辺にある黄色い花瓶の中に入っている花は同じだった。これもブルースカイだ。

「署の中に入ったの初めてだよ。」

 泉がテンション高く言った。

「署長の方にも来てもらえるようにお願いした。っと、その前に、まずは私の自己紹介から始めましょう。私は小笠原と言います。係長をしているので係長と呼んでくれれば幸いです。そして私は2年前の秦君の事件の担当刑事でもありました。」

「えっ!」

 よほど驚いたのか、のんは声を上げる。

「署長が来るまでに、私が知っていることは全て話そうと思います。」

 とても信頼できる口調だ。

「君たちは事件当日のことを知っているかね。」

「いいえ。少ししか・・・・・」

 そうかーと係長は深く息をつく。

「事件当日、すなわち2年前の7月17日、その日はこの町の夏祭りが行われた日だったよな。あの日秦君はお友達と遊ぶ約束をしていたため、5時頃には家を出たはずなんだ。しかし、殺されたのは9時だったと言う。ではこの時間、何をしていたのだろうか。」

 そこまで言うと区切って、あなた春手のん君だよね。と言った。本当のことなのでこれには頷く様子ののん。

「知っていると思うけど、あの日の夜6時から10時近くまで秦君の父親と、あなたの父は飲んでいたんだよね。」

 これは事実だ。のんも知っている。

「この間に秦君は自宅の自分の部屋で首を吊って死んでいた。しかしおかしいと思わないか。いくら酔っていたとは言え、誰かが家に入ってくるのに気づかなかったのだろうか。」

 のんの目は赤くなっている。かなり真剣だ。

「さらに、どういう訳かその部屋からのん君の父の指紋が見つかっている。実のところ私はそのことに対して証拠不十分だと何回も訴えた。しかし現実は残酷で町長が認めてくれなかった。1人の人生やその周りの人よりも町の風評被害を優先したみたいだ。これに関しては私もすまないと思う。もう少し私の身分が高くて、偉かったら聞いてもらえたかもしれないが。」

 のんは赤い瞳で係長のことをじっと見つめている。

「それと君達はあの事故が発生した後に送られてきたメールの意味が分かるか?」

「メール?」

 泉とのんは首を傾けている。二音はそれが何なのか分かった。

 秦の自殺後、秦の携帯には「被害者」と言うものからメールが来ていた。ちょっと内容を忘れてしまったので、この前自分の勉強机の上においてあった莉亜からもらったノートを見る。秦は再挑戦と言う言葉が送られてきていたみたいだ。香苗の握り締めていた携帯には「未来の」のメッセージが残っていて、今は防がれた晴の携帯には「justiceで」と言う言葉だ。

 係長はのんと泉にそのことを説明した。ただ、そこに晴に送られてきた言葉はなかった。

「私達はあくまで推測だけれどもその意味が分かったんだ。」

 泉が強く目を見開く。

 僕も今まで何回もその意味については考えていた。しかし被害者と言うものの考えは読み解けなかった。

「きっと再挑戦は、英語でリベンジ。つまり復讐だ。」

 復讐。俺らに。秦に、香苗に、晴に。そしてのんと僕に。

 僕たちが何したというのだ。

「そして「未来の」。これは単純に未来で起こる出来事だと予想できるが・・・・・。」

 未来で起こることを今、復讐。そんなことできるのは莉亜みたいに時空を越えられるやつしかいないな。そしてそんなことできるのは僕達と血が繋がっている人だけだ。

「いますよ。そんなことができる人。最近話題になっているじゃないですか。時空を超えられる人みたいなの。」

 二音の言葉に半信半疑の係長は深くはぁーーっとため息をつく。

「それは嘘でしょ。あまり根拠もないし、周りで目撃情報が出てないんだから。所詮、SF好きが考えた空想もんだよ。」

 今度は、二音がため息をつく。

「実は、僕がまさにそれなんですよ。僕はまだその前の段階の『予告』が流れるところまでしかなってませんが、確かに2年前にこの事件の時よりも早くその事件のことが夢に出てきました。」

「それだけで勝手に決め付けちゃいけないね。」

 この人、全然信じようとしないな。

「いいよ。信じてもらえないんだったらそれで。」

 確かに泉の言うとおりだ。別に無理してでも信じさせないと話しが始まらないわけではない。

 未来から来た人が過去の自分を操って殺人を行っているのなら、その犯人に自覚はないだろう。

 ただし、これも神様が理由があってそのようにしたというならば、神様に許された正当な理由がある殺人なのか。いや、人を殺すことに正当も不当で悩む必要はない。不当だ。

「それで君達は何で今になってこの事件のことを調べ始めたんだ?」

「ただ犯人を見つけたかったからです。」

 犯人が分かればのんが殺されるという心配が消える。また、犯人は僕たちしか捕まえられたいとも思ったのだ。

「署長は私よりも何倍とこの事件に詳しい。しっかりと話を聞くんだな。」

 係長がそういうと扉の向こうから「署長着きました」と聞こえてきた。

「それじゃあ私はここで。」

 係長はそういうと扉を開けて署長を中に入れて外に出た。

「始めまして。私は小笠原係長と同じく2年前の厳島秦君殺害事件の担当刑事、責任者を勤めた万里です。よろしくお願いします。」

 そう言うと、万里は名刺を出した。万里長治と書かれている。結構かっこよくデザインされた名刺だ。

「あ、ありがとうございます。」

 もちろん大人から本物の名刺を渡されたのは初めてだ。正しく取る方法なんて知らないが、片手では取らずに両手で取った。

 名刺には、紀伊町警察署長と書かれている。

 この人も見たことがある。40代くらいだがやはり莉亜を追いかけていた人だ。

「小笠原君、どこまで説明したんだい。」

「メールの内容と、大まかな事件当日の様子。」

「そうか。」

 果たしてこの署長は事実を全部話してくれるのだろうか。

「そうか。じゃあまだノートの話はしてないな。」

「署長、それは話しちゃ駄目では。」

「大丈夫だ。被害者の身内で、高2くらいならば知ったところでなにもできやしない。」

 ずいぶん舐められているみたいだな。と、隣で泉が笑う。

「君達はノートのことを知っているかい?」

「知りませんて。ノートは警察が今まで黙っていたんだから。」

 ノート。

 六木家で見つけたあのノートのことだろうか。でもあれは警察には見つかっていないといっていたけれども。それとも・・・

「知ってますよ」

 おいっ!

 あの時警察に言わないって約束したじゃねーか!

「あっ!」

「本当かい、それはまさか、香苗さんのノートかい?」

 やっぱりそうだ。あんの言っていることは正しく、香苗さんのほうのノートは見つかっておらず・・・・・・

「やっぱりあなた達は秦が殺されたときに見つかったノートを知っているんですね。」

 隣からえっ?っと聞こえてきた。泉達は気づいていなかったのだろう。僕は今日、香苗さんの引き出しからノートが見つかったって聞いたときから秦のノートもあるのではと思っていた。しかし、ノートに警察に見つからないようにと書かれていたから警察も知らないだろうと思っていた。

 それなのにどうして警察が知っているんだ?

「それ、見せてください。僕たちはそれを探していたんです。」

 署長も係長も俯いて黙り込んでいる。とても人には見せられないような内容だったのか。


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