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Vol.16:メイドおさわがせします(8)

シドの力でハントに成功したミミミ。しかしアイズは引き下がらず……。

 北之上家のメイド体験講座から数日が経った後、ミミミとシドは古詠堂書館にて再び紀伊國と対面していた。ハントの報告、ターゲットの引き渡しである。紀伊國は嬉々とした表情で興奮して話し始めた。

「いや~ミミミ氏ならやってくれると信じていたでござるよ」

「それはどうも……これが紀伊國さんが買いたかった写真集ですよね」

 ミミミはリュックの中から先日手に入れた石動メイルの写真集を取り出す。それを見た紀伊國は目を見開き、腕を伸ばしてきた。

「まっ、間違い無いでござる! それそれ! 紛れも無くそれでござるよ!」

「おっとちょっと待って下さい」

 彼に取られそうになった写真集を急いで彼女は引っ込めた。

「……実は、ちょっとしたご相談がありまして……」

「……相談? 相談とは何ぞ」

「この写真集をどうしても欲しいと言って引かない輩がいてですね……」

「む、まさか北之上にバレたでござるか?」

「いえいえ、ハントは北之上にはバレずに100(パー)パーフェクトに遂行しましたよ。何てったってブックハンターミミミですからね。ただその途中で出会った女狐にハントの事を知られてしまって、どうやらそいつもこの写真集をずっと探してたみたいなんですよ」

「……だけど拙者もその本をずっと探してたでござる」

「ええはい! もろち……もちろんそれはわかってますよ! なんせわざわざボクに依頼してきたんですから! けどですねえ、その女がなかなか諦めてくれなくって……」

「……どんな人でござるか」

「ええと……とにかく直接会ってもらえますか。今ここに来てるので」

 ミミミが話し終えるのと同時にシドが立ち上がり、店の入口まで歩いていく。そして扉を開けて外で待機していた人物を店内へと連れ込んだ。

「……!」

 その人物の姿を見て紀伊國は絶句した。なぜなら、自分が探し続けていたあの写真集の表紙に写っていた青い髪のメイドその人が今目の前に突然現れたのだから。

「……あ……あ……!」

 うろたえて口をぱくぱくさせている彼に対していけるなこれはと確信したミミミは話を再開した。

「彼女が石動メイルの写真集を欲しがっているアイズさんです」

「なっ……ま……まさかのご、ご本人登場パティーンでご、ござるか……!?」

「いえ、すいませんが本人ではありません。双子の姉です」

「ふ、双子の姉……ど、どうりで瓜二つな訳でござる……!」

「ほら、話があんだろ? 言えよ」

 ミミミに小突かれてアイズはゆっくりと口を開いた。

「あ、あの……無理なお願いなのはわかってるけど、メイルちゃんの写真集をわ、私に譲って下さい!」

「ぐふおうっ! そっ! そんな赤面した状態で頭を下げられたらせ、拙者が断れる訳無いじゃないでござるか! お、おのれミミミ氏、これは見事な策略でござる……!」

「紀伊國さん、ボクはプロのブックハンターです。一度依頼を引き受けた以上依頼人を裏切る訳にはいかない。当然それが信条なもんで、結構悩んだんですよ。しかしアイズにもアイズの事情がある様で……もちろんタダでとは言いません。もし写真集をこいつに譲ってくれるんだったら、これから思う存分こいつの写真を撮ってもらって結構です。ハントのお代ももちろんいりません」

「ぬなにっ!? こ、この方の写真を撮り放題……だと……!? ち、ちなみにお時間の方は……」

「ナッシング」

「……ふっ」

 紀伊國は眼鏡をくいと正すとややうつむき加減で小さく笑った。

「負けたぜミミミ氏……この勝負、お主の勝ちでござる」

 交渉成功という意味なのか、そっと握手を求めてきたが前回の事があるのでミミミはそれをさりげなく無視して続けた。

「ありがとうございます! さ~アイズちゃん、それでは撮影タイムいってみようか」

「カメラを持って来いとはこのためだったでござるね……みwなwぎwっwてwきwたwww」

「……ちょ、ちょっと、何か目が怖いんだけど……」

「おら怖じ気付くんじゃねえよ女狐。ここまできたらもう黙って紀伊國さんの被写体になるしかないよ」

 ミミミは物凄く悪い笑みを浮かべている。

「わ、わかってるわよ……そ、それじゃよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いしますでござる! そ、それじゃ早速撮っていいでござるか!」

「ひゃ! ひゃい! お、お手柔らかに……」

 こうして時間無制限の撮影タイムが始まった。


「いや~、満足したでござる。何かのイベントに足を運ぶ予定は無いでござるか?」

「無いわよ! あんたみたいな奴等に囲まれると思うとゾッとするわ。まったく、メイルちゃんはよくこんな事出来てたわね……」

「むほ~、そのツンさがまたたまらんでござる」

「引くわ」

 撮影は三時間に及んだ。初めの方こそ恥ずかしがっていたアイズだったが途中から慣れてきたのか、表情が緩んでいった様にシドには思えた。紀伊國の欲望に妥協しないオーダーに疲れと呆れを見せつつもしっかりとポーズをこなしていった辺り、何だかんだ文句を言いながらも楽しんでいたのではないかと勝手に推測している。

 ちなみに今日アイズは撮影用の見えてもいい下着ではなく普通の下着を着用しているためポージングの際その事を度々気にしていた。それを知って興奮する紀伊國に蔑む様な視線を浴びせていたが、その視線すらも彼にとってはご褒美らしく、余計に喜ぶ彼を心底気持ち悪がっていた。

「それじゃあアイズ氏、何かのイベントに出たりコスプレをしたくなったりした時には遠慮無く連絡をして欲しいでござる」

 紀伊國は惜しみつつもこれから用事があるからという事で古詠堂書館を後にした。約束通りメイルの写真集はアイズに譲ってくれた。しかし思う存分写真を撮れたので満足そうな様子だった。夜にでもデータをパソコンに取り込もうと意気込んでいた。

「紀伊國さん怒らなくてよかったな」

「いい人でよかったよほんと……こっちは価格破壊ですがね」

 ハント代はアイズが立て替える事になった。ただし下限の半額で。

「あ~はいはい文句ならいくらでも聞いてやるわよ……ただし後でね。今はちょっと疲れてるわ……」

 アイズはぐったりと机に突っ伏していた。三時間の撮影でかなりの疲労が溜まっている様だ。

「メイルちゃんもこんな風にくたくたになりながら撮られてたのね……」

「でも途中からノリノリだったじゃん」

「うっさい。まあ、確かに、楽しくなかったかと言われるとそうでもないとは言えるかもしれないわね……」

「やっぱり姉妹なのかね」

「……そう、かも、しれないわね」

 今は亡き妹メイルとの共通点、似た所を見付けられたのが嬉しかったのか、アイズは微笑を浮かべた。

「こないだお前から教えてもらったメイルちゃんの知り合いのひとりに聞いたんだけどさ」

「?」

 ミミミの言葉にアイズは顔を上げた。実は先日のハントの後、ミミミはもしかしたらメイルのコスプレ関連の知り合いが彼女の写真集を持っているかもしれないと思いアイズから彼らの連絡先を教えてもらった後、その内の何人かに話を聞きに行っていた。結局写真集は誰も所持していなかったため今日の交渉に至った訳であるが。

「メイルちゃんは自分にどこか自信を持てないでいたんだって。自分と正反対で活発な姉の事を羨ましく思ってたらしいよ」

「! え、え……?」

 突然そんな事を聞かされたアイズは困惑している。

「な、何それ……」

「そんな自分から少しでも変わりたくてコスプレを始めたって言ってたみたい。お姉ちゃんみたいになりたいってさ」

「……ち、違う……逆よ。私が……私だって、言葉遣いも乱暴で、全然おしとやかじゃなくって、だから、だからメイルちゃんが羨ましかった。何で……何でそんな……」

「やっぱり姉妹だよ」

 ふたりは互いを羨ましがり、互いに憧れていた。そういう事だ。

「そりゃ恥ずかしくってコスプレをしてる事をお姉ちゃんには言えない訳だ。アイズ、メイルちゃんが自分から離れて遠くに行った気がしたって言ったよね。逆だよ。メイルちゃんはあんたに近付こうとしてたんだ」

「……っ! ……私って、ほんと馬鹿……馬鹿なお姉ちゃんだよ……」

 少女の顔が涙で濡れた。




 「話題のコスプレイヤー・石動メイルインタビュー」。そんな見出しが目に留まりシドは思わず雑誌を手に取った。該当のページには今ではすっかり有名になった石動メイルことアイズの写真と共に彼女とインタビュアーとのやり取りが載せられていた。ざっと流し読みし、にやりと笑うと彼はそれをそのままレジまで持っていく。

 インタビューの最後に彼女はこう語っていた。

「私がコスプレを始めたのは少しでも妹に近付きたかったからなんです。このままコスプレを続けていけば、私達はきっとお互いに近付き続けて、そしていつかひとつになれるから」

今回でメイド編はお終いです。次回、待ちに待ったあの人がいよいよ本格的に登場します。お楽しみに。

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