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Vol.15:メイドおさわがせします(7)

義成の趣味は和物らしいです。

〈あ、そっち抜け出せそう? 義成の部屋中探してんだけどここにも無さそうなんだよ。こうなったら手当たり次第に屋敷中を調べ回るしかないんだけどさあ〉

「うるっせえええええ! こっちは今それどころじゃねえんだよおお!」

〈? 何か必死だね〉

「ったりまえだ! 犬に追っかけられて貞操の危機なんだよ! 何を言っているのかわからねーと思うが僕も何を言っているのかさっぱりわからねー!」

〈童貞卒業出来そうでよかったじゃん〉

「犬相手は嫌です! ていうかオスだし!」

〈ちょっと待って、情報量が多過ぎる……お前めちゃくちゃ面白い事になってんな。草〉

「生えねえわ! とにかくお前と話してる暇はねえんだよ!」

 乱暴に言い放ちシドは一方的にミミミとの通話を終えた。突然着信が来たものだから写真集を見付けた報告なのかと出てみたが、どうやらまだ見付けられていないらしかった。

 北之上のペット、ダウニィはスピードを落とさずに追いかけてくる。もう目の前にある小屋に逃げ込むしか道は無い。ダウニィの犬小屋だ。スケールが明らかに人間サイズだが、しかし先ほどダウニィは間違い無くこの小屋から出てきた。

 小さなスロープを経て小屋内に足を踏み込んだ。すぐに開けっ放しになっている扉を閉めようとしたが、何たる事。そもそも扉自体が無かった。ダウニィが自由に内外を行き来出来る様、元から付けられていないのだろう。

「ああくそっ! 予定が狂った!」

 眼前には上階へと続く階段(何だよ犬小屋のくせに二階建てかよ)。一方背後には迫り来る発情犬。ここで立ち止まっていてもまた押し倒されるのが目に見えている。

「自分からどんどん追い詰められにいってるのがわかってるんだが!」

 独り言ち、階段を駆け上がる。上り切った頃にはダウニィが同じく一階から階段を上ろうとしていた。

【ムフーーーーーーーーッ!】

「サッ、サカキアライズしとる!」

 思わずたじろいだ時、シドの足が何かを弾いた。床に転がっていたボールだ。

「と、とりあえずこれで……!」

 それを拾い上げると一直線にダウニィ目掛けて転がす。少しでも足止めになれば……と思ったのだが。

 ダウニィは軽々とジャンプし、あっさりとそれを回避した。

「ですよね!」

 無駄な足掻きに終わってしまった。二階にはもうこれ以上奥へ続く通路は無い。今いるロフトの様なスペースだけで完全なる行き止まりである。

「くっ……ここまでか……!」

【もう逃げ場は無いぜ、奥さあああん!】

「……!? 待てよ!?」

 この時彼ははっとした。そうだ、単純な事を見落としていた。

「……っ! 来いダウニィィィィィ! 僕は男だけどなあああああ!」

 勢いよくウィッグを取り床に投げ付けた。その素顔を目に焼き付けたダウニィはぴたりと動きを止める。

「…………くぅん……」

 今まで追い求めていたのが同じオスだと知ってショックを受けたのか、一度悲しそうに鳴いた後ダウニィはくるりと踵を返しとぼとぼと階下へと下りていくのであった。

「……はあ……はあ……助かった、のか……」

 気が抜けたシドはがくりとその場に座り込んだ。何とか、貞操の危機は去った。

「い、犬相手に何をしてんだ僕は……」

 ほんとにである。

 落ち着くまでここで休んでいようと何気なく辺りを見回す。するとやたらとある物が散乱している事に気が付いた。

「……! な、こ、これは……!」


 正午を過ぎメイド体験講座は終わりを迎えた。ミミミとアイズは結局大掃除に参加する事無く必死にターゲットの写真集を探し続けていたが、ついに見付け出す事は出来なかった。

「いや、失敗じゃない。これは断じてハント失敗なんかではない。そうだ、ターゲットを見付け出すまでハントは続いてるんだ。見付かるまで探せば成功なんだ……」

「あんたさっきから何言ってんの」

 ふたりは庭の隅にいた。先ほどからひとりでぶつぶつと呟くミミミを横目に、アイズは花壇の縁に腰を下ろし溜め息をつく。

「私も見付けられなかったのはショックよ」

「お、こんなとこにいたのか。どうしたんだよふたりとも、そんな落ち込んで」

 そんな彼女らの前にぼろぼろのエロ子が現れる。だがどこか機嫌がよさそうだ。

「何だよお前、ハントも手伝わないで何やってたんだよ」

「普通に大掃除手伝ってたけど」

「それで童貞は卒業出来たの」

「残念ながら留年になりました」

「またここに来ないといけないよ……帰る前に次忍び込みやすい様にどっか細工してくか」

「何でまたここに来る必要があるんだよ」

「は? ターゲットを見付けられなかったからだよ」

「失敗か」

「失敗じゃないやい! また来るからハントはまだ続いてるんだい!」

「……そう、そうだな、失敗じゃないな」

 彼は突然不気味に笑い出した。適当な女装も相まって素直に気持ち悪いな、とミミミは思った。

「なぜなら僕達が探していたターゲット……石動メイルの写真集はここにあるからな!」

 ば~ん! といった擬音が聞こえてきそうなほどに仰々しく彼は写真集をふたりの前に掲げた。

「……! あ! メ、メイルちゃん……!」

「!? なっ……!? 何でお前それ持ってんの!?」

「ここで飼われてるペットのダウニィの犬小屋だ。あそこにも結構写真集が散乱しててさ。義成がダウニィの相手をしながら見ていたのか、何かの時に外に持ち出してるのをダウニィが拾ってきたのかは知らねーけど」

 彼が持つ写真集の表紙には青い髪のメイド姿のコスプレイヤーが載っている。そして「石動メイル」という文字。紛れも無く紀伊國が秋葉原の店で見付けた物だ。石動メイルの姉であるアイズの反応を見ても間違い無い。表紙に写る少女は彼女と瓜二つであった。アイズとメイルは双子の姉妹だったのだ。

「でっ……でかした童貞! よっしゃー! ハント成功じゃー! 見たかアイズ! これがブックハンターミミミの実力じゃい!」

「見付けたのは僕だけどな」

「そう! お前の手柄はボクの物! ボクの手柄もボクの物! お前のミスはお前のミス! ボクのミスもお前のミス!」

「僕損しかしてなくね!?」

「よーし! だったらとっとと着替えてずらかろうぜ!」

「ま……待って!」

 上機嫌で自室に戻ろうとするミミミを慌ててアイズが呼び止める。

「……お、お願い……写真集を私に譲って!」

「…………はいー?」

 ぴたりとミミミは足を止め、わざとらしくゆっくりと彼女に顔を向けた。

「あれー? おっかしいなー? 確か見付けたもん勝ちって誰かが言ってたよーなー……はて誰だったかなー」

「うぐ……じ、自分でも恥ずかしい事をしてるのはわかってるわよ」

「同情してもらう気は無いって言ってたよね」

「そ、それは今でもそうよ……でも、実際メイルちゃんの写真集を目の前にすると何もせずには引き下がれなくって……」

「……なあミミミ、今回はアイズさんに譲ってもいいんじゃねーか? 紀伊國さんに事情を説明してさ」

「駄目だね。依頼人を裏切る訳にはいかないよ。契約違反になっちゃうし。こちとらプロのブックハンターやってんだよ」

「……わかったわ。じゃあ諦めるわよ……それにあんたに依頼をした人もメイルちゃんのファンだもんね……」

「そうそう。この場は諦めな」

「けどよ、アイズさんにとっては肉親だぜ。確かに仕事だからってのはわかるが……」

「は~あ、だからこの場は(・・・・)諦めなって言ってるっしょ? 言ってんじゃん、プロのブックハンターだって」

「……? どういう事……?」

「メイルちゃんが出した写真集はさー、これ1()だけだけど、刷ったのは何もこれ1()だけじゃないんでしょ? イベントで頒布したんだから……依頼をくれれば見付け出してやるよ。ブックハンターミミミの名にかけてね」

「ほ、ほんと!? タダで!?」

「タダでやるかボケ! プロのブックハンターって話聞いてなかったんかい! お安く3万円からで承るわ!」

「……っじ、じゃあ無理! そんなお金無いもん!」

「ずこっ! 人がせっかくかっこよくキメたのに……」

「じ~~~~~~~~~」

 シドが視線で圧をかけてくる。何これ、アイズに譲らないといけない空気なの? 今回ターゲットを見付けたのは彼である。その点が若干、本当に若干ではあるがミミミの心にブレーキをかけている。

「……うぐう……」

 彼女は腕を組んでしばし考えを巡らせた。

ずいぶんと長くなっちゃいましたが、次回でこのエピソードもお終いです。

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