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Vol.14:メイドおさわがせします(6)

アイズの狙いはミミミ達と同じ写真集。さて、手にするのはどちらか。

「ご主人様~~~~! 起きて下さいご主人様~~~~!」

 激しく体を揺さぶられ北之上義成は目を覚ました。うっすらと開いた目には見覚えの無い黒髪のメイドの姿が映る。

「ご主人様~~~~~! 朝です! 起きて下さいまし~~~~!」

「ふぁ……ふぁい、おふぁようほあいましゅ」

「! ご主人様! ようやく起きやがり……おほんっ起き上がりましたね!」

 彼女は嬉しそうに笑みを浮かべてぐいと義成の体を無理やり引き起こした。彼はまだ寝ぼけたままふらふらとしている。

「さあさあさっさとお食事をお召しやがって……もといお召し上がりになって下さい!」

「ふえ? ああ、うん。そうだね……」

 眠気の取れない目をこすりながら彼はメイドの少女を見る。はて、こんな顔の使用人がいただろうか。

「やっ……嫌ですわご主人様! そんなにまじまじと見つめられると照れてしまいます!」

 彼女はしおらしく顔を手で隠した。ふむ。

「……萌える。そんな仕草をするメイドがこの現代日本にいたなんて……俺は君を気に入ったよ。しっかりと顔を見せてくれないか」

「ま、まあご主人様ったら! 恥ずかしいですわ!」

「そんな事を言わずに。さあさあ」

「や、やめて下さいましよ! もう!」

 義成が少女の手を無理矢理顔から離そうとすると、彼女は更に恥ずかしがり急にプラスチックのバットで頭を打ってきた。

「ふぎっ!」

 彼の意識はそこで途絶えた。


「……やっべえぞ」

 ミミミはバットを持ったままその場に立ち尽くしていた。先ほどまで鼻の下を伸ばして嬉しそうに話していた男が、今はぴくりとも動かない。まさかたったの軽い一撃(ミミミ比)で気絶してしまうとは思わなかった。シドを見習えシドを。

「……まあいいか。今の間に写真集を探そ」

 メイド体験講座二日目の朝。昨日の打ち合わせ(?)通り彼女はひとりこっそりと義成の部屋へと赴いていた。彼を起こして無理やり退室させた後室内を調べるという算段だったのだ。少し予定は狂ったがまあ大丈夫だろう。

 しかしその時ノックの音が聞こえてきた。予想外。誰かがこの部屋を訪ねてきた。そうか、使用人がいつも通り起こしにきたのかもしれない。

「これはまずいな。早く死体を隠さないと」

 補足するが義成は気絶しているだけで死んではいない。

 ベッドから落ちて床に倒れている彼の体を引きずり急いでクローゼットの中に隠し、ミミミ自身もすぐにベッドの下に隠れた。しばらく様子を窺っているとノックの主はドアを開け、室内へと入ってくる。

「……いない、の?」

 その人物は戸惑いの言葉を口にした。聞いた事がある声だ。

「……まさかあんたも同じ事を考えてたとはね」

 ミミミは自ら姿を現した。義成の部屋に入ってきたメイド、それはアイズだった。彼女になら姿を見られても問題は無い。いや、むしろ同じターゲットを狩る者として飛び出さなければこちらが不利になってしまう。

「! あ! あんたは……! ……ったく、つくづくよく会うわね」

「ちっ。写真集はあんたには渡さないぞ」

「私だって! メイルちゃんの写真集は私の物よ!」

 キッと睨み合うとどちらからともなく室内を物色し始めた。先に大きな反応を見せたのはアイズだ。

「きゃあっ!」

「! 何!? もう見付けたの!?」

「……な、なななな何も見てないわ……!」

「嘘つけ! 明らかに動揺してんじゃん! こうなったら力尽くで奪い取ってやる!」

 ミミミは彼女のそばに急いで駆け寄った。

「F〇ccccccccccck!!!」

 しかし、とんだ見当違いであった。決して女子高生が口にしてはいけない言葉を思わず口にしてしまった。

「何だよただのエロ本じゃん! ……しかも着物ばっかり。和モノかよ! そこはメイドじゃねーのかよ!」

「なななな何であんたはそんなもん平然と見れんのよ!」

「世の中にはもっとハードな嗜好を持つ古書店主の孫の男子高校生がいるんだぞ! 馬鹿にしてんじゃねーよ!」

 乱暴に和モノのエロ本を投げ捨てミミミは写真集探しを再開した。


「へっくし! ……ふふ、どこかの美少女が僕の噂をしているのか……」

 一方シドは北之上家のメイドに案内され庭を歩いていた。他の受講者が大掃除の続きを行う中、彼ひとりだけがこうして呼び出されたのである。

「エロ子さんにはこれからダウニィの遊び相手になって頂きます」

「ダウニィ……? 誰デスカソレハ」

「この屋敷で飼っている犬です」

「ハア……犬ト遊ベバイインデスカ?」

「とても元気な子で相手をするのに結構疲れるんですよ。エロ子さんなら体力がありそうだから適任だと義成さんが」

「ヘエ……」

 四つの館の奥にある広大な庭。その一角に柵で囲まれたスペースが存在した。恐らくダウニィが出てこれない様に設置された物だろう。

「この先にダウニィがいますので、柵の内側に入って頂けますか」

「ハ、ハイ」

 通用口になっている柵の一部を開閉し、彼は内側へと入った。それを見終えるのと同時にメイドは持ってきていたらしいハンドベルを唐突に鳴らした。

「それでは30分ほど経ったら戻って来て下さい」

 そう言い残して彼女は館へと戻っていく。

「……犬と遊ぶだけ?」

 ま、ひとりにしてもらえるなら女っぽく振る舞うのに神経を使わなくて済む(バレバレらしいが)から楽だし、こっちとしてもありがたい。

 とりあえずダウニィに会いに行くか、と前へ歩き始めると奥に見える小屋から何かが素早く飛び出してきた。犬だ。ゴールデン・レトリバーだ。

「おー、あれがダウニィか」

 先ほどのハンドベルがダウニィへの人の来訪を告げる合図だったのだろう。そういう風に習慣付けられているに違いない。

「よーしダウニィ来い来い。遊んでやるぞー」

 両手を広げる彼にダウニィは勢いよく飛び付いた。ハッハッと舌を出し、遊んで欲しくてたまらない様子である。

「よーしよしよし元気だなお前……おっと!」

 体重に負けてシドはその場に押し倒されてしまう。なるほど、確かに力が強い。

「落ち着け落ち着け。今から遊んでやるから」

「ハッハッハッハッハッ」

 嬉しそうにシドの顔をべろべろと舐めてくるダウニィ。一目見て気に入られたのだろうか。動物に好かれて悪い気はしない。

「ちょっ、くすぐったいってお前」

「ハッハッハッハッハッ」

「はははやめろよ」

「ハッハッハッハッハッ」

「いやあモテる男は辛いなあ……ん?」

 それにしてもやたらとこの犬、体を揺らしてくる。ふと視線を落としてみればダウニィがしきりに腰をがくがくと動かしているのが目に入った。

「…………ちょ……ダ、ダウニィお前……」

 腰を、激しく振っている。前後に。

「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」

 息も何だかどんどん荒くなっている様に聞こえる。

「………………」

 これって、あれですよね……もしかしなくても。

「ペロペロペロペロペロペロペロペロ」

「………………」

 間違い無い。ダウニィは発情している。

「ちょ……ちょっと待てダウニィ、お前僕を何だと……」

「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ【いいじゃねえか奥さん、これから一発楽しくいこうぜ】」

 目がマジだ。

「ゾッ……」

 シドは生まれて初めて貞操の危機を感じた。

 義成だけが知っているのだが、シド扮するエロ子がダウニィの遊び相手に選ばれた本当の理由はずばり彼(女)の顔がダウニィのストライクゾーンど真ん中だったからである。

「……っ、お、落ち着け犬よ……」

「ガクガクガクガクガクガクガクガク」

「落ち着けっつってんだろエロ犬がああああっ!」

 覆い被さるダウニィを力づくで蹴飛ばし、彼は急いで柵の外へ逃げようとした。だが通用口を開けようとしている間にダウニィは立ち上がりまたすぐそこまで迫っていた。

「キャウゥン!【逃げられると思ってるのかい? 奥さん!】」

「うおおおおおおお!」

 辛うじてそれを避ける。ダウニィは踏ん張れずにそのまま柵へと激突した。しかしすぐに彼に振り返り、口を開くとよだれを垂らした。まるで笑っているかの様にも見える。

【これでもう、外へは出られなくなっちまったなあ。ぺろり】

「くっ……出口を塞がれた……」

 逃げるなら奥しか無い。

【楽しい時間にしようぜ……】

 ダウニィは改めて獲物に狙いを定め地を蹴った。

「いやああああああああああああああああああっ!」

 どうなる、シドの貞操!

今回推敲三十分もかかってません。すいません。

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