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Vol.12:メイドおさわがせします(4)

義成さんにトラウマが出来ました。

 館内に忍び込んだふたりは月明かりを頼りに廊下を進んでいった。ここは三号館と呼ばれ、ジムや倉庫といった設備が集中している館に当たる。ちなみに一号館(本館)が北之上家の人間の住まい、二号館が住み込みの使用人の住まい、ミミミ達受講者が宿泊している四号館が来客の宿舎である。

 彼女らは二階の書庫を目指していた。外から見た時どの階も電気がついていなかった事から館内にはふたり以外に誰もいない様である。

「しっかしただの一直線の廊下とはいえこうも暗いと歩きづらいな……ひゃっ! ちょっ、ちょっと変なとこ触んないでよ!」

「触ってねーしそのネタ前もやったし」

 シドがミミミのラブコメのお決まりの台詞(二度目)に淡々とツッコミを入れた所で書庫に着いた。静かに戸を開けるとミミミは持参していたペンライトを灯す。

「とっとと見付けてずらかろう」

「ほんとにこんなとこに写真集なんかあんのかよ」

 シドは小さな光で照らされた書棚を見る。小説や学術書、経済などについての専門書ばかりでとても写真集がある様には見えない。

「まあ付いて来な」

 言われるがままミミミの後を追うと、奥の方に収蔵されている物は薄い雑誌の様な物ばかりとなっていた。

「な?」

「なるほど……ここら辺は全部あの義成とかいう奴のパーソナル・スペースみたいなもんなのか。自分のコレクションをここにまとめてんのね……にしても恐ろしい数の写真集だな……」

 写真集スペースの書棚は十個以上あり、収蔵冊数は5000は越えていそうであった。写真集自体が薄い分ひとつの書棚にかなりの数が並んでいるのである。

「お前の部屋のエロ本もこんなもんだろ」

「ここまではねえよ。せいぜい50冊あるか無いかだっての」

「引くわ」

 ミミミはペンライトをもう一本取り出しシドに手渡した。

「手分けして探すぞ」

「うげえ……マジかよ」

 渋々受け取り彼はハントの手伝いを始めた。手がかりは青い髪のメイドが載っている表紙、そしてそこにある「石動(いするぎ)メイル」という恐らくそのコスプレイヤーの名前と思われる文字だ。写真だけだと特定が難しそうだがコスプレイヤーの名前も判明しているのならかなり楽である。

 黙々と探し続ける事一時間。目的の写真集は一向に見付からなかった。青い髪のメイドの表紙はちらほらと出てきたが、肝心の「石動メイル」という名前がどこにも無い。もう収蔵されている写真集の内八割は探り終えている。

「ほんとにここにあんのかよ。全然見付かんねえぞ」

「うーむ……こんだけあるのに無いのもおかしいはずだけど……見落としって事は無いよね?」

「石動メイルなんていう名前は全く出てこねえ」

「まあまだ残ってるし、最後まで見てみるしかないだろ」

「くそっ、五十音順で並べるとかしろよ……見返したい時どうやって探し出すんだよ」

「なるほどそうすればその日のおかずにするエロ本も探しやすくなるな」

「ウチの店の商品の話だよ! 昭和とか平成初期のアイドルの写真集もちょっと売ってんのお前知ってるだろ! あそこら辺は人名で並べてんだよ」

「でも自分のエロ本もそうしてんだろ」

「してるよ!」

「引くわ」

 これが書店員の性癖……もとい性である。

「ふ~……ちょっと気分転換に様子見も兼ねて1回廊下に出てくる」

 そう言うとミミミは一旦退室した。まさかあいつこのままバックれて風呂にでも行くつもりじゃねえだろうな……とついシドは彼女を疑ってしまう。うーん全く否定出来ない。

 五分経っても戻って来なかったら僕もとっととずらかるか。そう考えているとドアが開く音がした。彼女が帰ってきたのである。

「おいシド! ライト消せ!」

 ミミミは開口一番小声で叫んだ。

「誰か来る!」

「は!? マジかよ!」

 彼は慌てて消灯したペンライトをポケットに入れた。書庫には明かりが無くなった。身動きを取らずにそのままじっと耳を澄ます。微かに、廊下を歩く足音が聞こえてくる。だんだん、だんだんとこの書庫へと近付いているではないか。ごくりと唾を飲み込んだ。

「なあ、ここってどっか隠れられる場所あるのか?」

 ミミミに尋ねるが返事は無い。

「……ミミミ?」

 名前を呼んでもやはり返事が無い。気付けば彼女の気配は完全に消えていた。

 あいつひとりでいつの間にか隠れやがったな!

 万が一の事を考えてシドも隠れる事にした。書棚の陰に潜もうか、それともカーテンの裏側に張り付いとこうか……どこか見付からなそうな場所は無いものか……と暗闇に目を凝らして探していると、隅に置かれている読書机が目に留まる。学習机の様な作りで入口側から見るとちょうど椅子を収納するスペースの中が見えなくなっているのだ。ここしかない! と急いで潜り込むが、すでに先客がいるのだった。

「なっ! ここはもう満員だぞ!」

 ミミミである。それはそうだ。隠れるならどう考えてもここが一番安全なのだから。

「お前は変態らしく段ボールにでも隠れてろ!」

「そう都合よく毎回毎回んなもんある訳ねーだろ! 何だよお前余裕で片肘突いて寝てんじゃねーかあとひとりくらい全然入るだろここ!」

「嫌だよ! わりと心地いいんだぞここ! ふわっふわしてんだぞこのマット!」

「変なとこに居心地求めてんじゃねえよ大体足の下に敷くマットだぞそれ! いいから早く中に入れさせろ!」

「ちょっ! 中はらめえっ! あっ! いやっ! ちょっとそんな強引に入れたら……アッー! 奪われちゃう! ボクの大事な場所がシドに()されるー!」

「さっきから人聞きの悪い事言ってんじゃねーよ字が違うわ!」

 その時書庫の扉が開く音が聞こえた。机の下でどたどたやっていたふたりはぴたりと動きを止めて息を殺す。最悪だ。万が一が起こりやがった。

「……」

「……」

 取っ組み合っていたふたりはそのままの姿勢を維持していた。気付けばシドは先ほどまでミミミが寝そべっていた所に同じ様に仰向けになっている。頭から尻までふわっふわのマットの感触が伝わってきて、確かにとても心地がよい。どうやらスペースの都合上曲げている膝の辺りにミミミの顔がある様だ。彼女は彼とは真逆の体勢になっているのだ。

 入室してきた人物は書庫の電気をつけた。瞬間シドの視界がふっと明るくなる。彼の目は光を取り戻し、同時にミミミのピンクのパンツが目前に現れた。

「……」

 真逆の体勢、という事はつまりミミミは彼に覆いかぶさる様な体勢という事である。彼の顔は彼女の太ももに挟まれていた。

 謎の人物はゆっくりとこちらの方へと歩いてくる様だった。彼の顔の両隣にあるミミミの脚が早くもぷるぷると震え始めていた。堪えろよミミミ。じっとしとけば気付かれないかもしれねえんだ。

 人物Xの足音が聞こえなくなった。書棚の本を読み始めたのかもしれない。あれ、結構長期戦になりそうな感じかなこれ。

 三分も経たない内にミミミの脚がぐわんぐわん揺れ始めた。見ていてとても不安になってくる。そろそろやばいかもしれない……。

 突如シドの顔が圧迫された。ミミミが太ももで挟んできたのである。なるほどこれで体勢を安定させるという事か。

 と思ったのも束の間、彼の顔はそのまま右に90°捻られた。ミミミはその勢いで気合いを上げながら机の下から飛び出していく。

「だらっしゃあああいっ!」

「きゃっ!」

「へぐっ!」

 シドの首がごきりと悲痛な音を出した。

「……っ! いってえな何すんだよ! あいた!」

 首を撫でながら彼は体を起こしたが、すぐに机の角に頭を打ってしまう。

「ただ寝ながらパンツ見てたお前にはわかんないだろうよ! こちとらめちゃめちゃきつかったんじゃい! 脚がぷるぷるなんじゃい! 生まれたての小鹿なんじゃい!」

「だからって首捻る必要ねえだろ!」

「うっさい! 死なばもろともじゃ!」

 見付かるのなら彼も道連れにしようという魂胆だったらしい。そういえばさっき飛び出した時に女性の悲鳴が聞こえた様な気がしたが……。

「あ、あなたは……」

 シドが見上げた先には体験講座受講者の中にいた、金髪の外国人の少女の姿があった。

さて、お待たせしました。次回はいよいよあのシーンがあるぞ!

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