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Vol.11:メイドおさわがせします(3)

シドは新たな扉を開いたのでした。

 メイド体験講座受講者は先ほど紙袋を渡された大広間に集まっていた。長机と椅子が綺麗に並べられており、ホワイトボードも用意されている。まずはここでメイドの歴史を学ぶのである。

 参加者は十五人らしい(当然ながらひとりを除いて全員女性である)。ミミミとシドは遅れて入室し、全員の視線を浴びながら隣同士の席に着いた。隅で待機していた中年のメイドの女性がミミミの背に負っているバットを見て何か言いたそうだったが見逃してくれた。確かにバットを背負しょったメイドなんて聞いた事が無い。

 ふたりの着席を見届けた後彼女は立ち上がり、ホワイトボードの前まで移動すると話を始めた。

「皆さんおはようございます。北之上家婦長の馬場(ばば)です。この度はお集まり頂きありがとうございます。まずはこれから(わたくし)がメイドの歴史について皆さんにお話ししたいと思います。お手元の資料をご覧になって下さい」

 シドは机の上に用意されていたレジュメに視線を移す。メイドの定義から始まり理念、メイド服の種類などがまとめられていた。授業かよ、と思いながら他の参加者を見回してみると皆熱心に目を通していた。こうして見ると色々な人が参加している事がわかる。二十代の女性もいれば馬場と同い年ほどの女性もいる。友達同士で参加している人もいればひとりで参加している人もいる。さらに日本人のみならず外国人までいるではないか。やっぱり日本のメイドと外国のメイドは違う物なんだろうか。

 ちなみに隣のミミミはもう寝ていた。

「お、今年も集まってますね」

 講義が始まって少し経った頃、突然飄々とした青年が顔を出した。

「おや義成(よしなり)さん。おはようございます。皆さん、北之上の子息、義成さんです」

「……あいつが……」

 メイドマニアの北之上義成。紀伊國が買う予定だった写真集を持ち帰ってしまった人物。

 彼は嬉しそうに大広間を見渡した。自分が好きなメイドがこんなにたくさん集まっているのだ。気分が高揚しているに違いない。

「うんうん。今年も皆さんとてもお綺麗で。どなたもメイド服が大変似合って……似合って……に……」

 ふとシドと目が合った所で言葉が途切れた。

「うわあああああああああああ何だお前えええええええええええええええ!」

「義成さん! 失礼でございます!」

「うわあああああああああああああああ!」

「義成さん!」

「うわあああああああああああああああああ!」

「ちょ、ちょっとあなた! 義成さんをお連れなさい!」

「うわあああああああああああああ!」

 恐ろしい物を見たかの様に絶叫する義成は大広間の前をたまたま通りかかったメイドに連れて行かれるのだった……すんません、メイドを汚してしまって。

 ごほんとひとつ咳払いをした後馬場は仕切り直して話を続けた。


 講義が終わった後、昼休憩を挟んでいよいよ本番が始まった。掃除である。紀伊國が言っていた様にこの体験講座の開催側の目論見は大掃除の手伝いをさせる事である。広い屋敷全てを掃除するには普段働いているメイドだけでは人数が足りないためこうしてヘルプ要員を募っている訳だ。

 快眠し、北之上家メイド特製サンドイッチを平らげた後のミミミは案外乗り気で張り切って掃除を始めていた。

「ミミミ流掃除じゅちゅ(・・)……猛虎双竜の舞い! ホワア~~~~~~ッ!」

 違った。ふざけてモップを振り回してるだけだった。そしてその水全部僕にかかってるから。

「ミミミ流掃除じゅちゅ動の型其之弐! 疾走(はし)れジャガーの様に! ヒャウッ!」

 その後水気をほとんど失ったモップをようやく床にかける。毎回「術」を噛んでるのは聞き流そう。

 夕方になるとお料理教室が開かれた。確かに使用人ならば掃除だけではなく炊事能力も必要になってくる。グループを作ってお題の料理を作り、それが今夜の夕食になるという物だった。

 そして、夜。

 一日目のプログラムは終わり、受講者は各々自分の時間を過ごしている。シドはエロ子の私服に着替え、リュックを背負うと隣の彼女の部屋を訪ねた。彼女の指示である。

「来たか」

 ミミミはいつも通りに髪を結んでサイドテールを作るとドレッサーの前から立ち上がった。

「そんじゃ一狩り行きますか」


 ふたりはこっそりと宿泊部屋のある館を抜け出し、人目を気にしながら静かにすっかり暗くなった敷地内を移動し始めた。館の使用人達もおそらくとっくにくつろいでいるはずだ。

「いやー、にしてもまんまと騙されたよ」

「何が?」

「まさか晩飯が自分達で作った料理だったとは……ただの自炊じゃん! 普通に家事しただけじゃん!」

「でも美味かったじゃねーか」

「まあ、それは確かに……あーあ、ハントなんてさっさと終わらせて早く風呂に入りたいよ」

 それには完全に同意である。大浴場を自由に使っていいそうだ。

「はっ! しまった! ボクの入浴する姿をシドに想起させてしまった! 童貞には刺激が強過ぎる! この暗闇もあるしシドが欲情してしまう! 浴場だけに!」

「あれ? 何か急に寒くなってきたな。もう5月なのに。いやーほんとさっさと風呂に入りたい」

 シドはバットで叩かれた。

 そうこうしている内に他の三つの館の内のひとつにやって来た。ミミミが扉を開けようとするが施錠されていた。

「……やっぱりね」

 しかし彼女は動じる事無く館の側面に回り込んだ。シドも後ろから付いていく。館側面には廊下に沿って窓が張られている。

「えーとどこだったかなー」

 彼女は次々に窓をガタガタと動かしながら歩いていく。すると何個目かの窓が音を立てる事無くすーっと開いた。

「お、あったあった」

 昼の掃除の時にひとり持ち場を離れて全ての館を訪れ、写真集がありそうな部屋に目を付けると一階の窓の鍵を予め開けていたのである。

 おかげであっさりと忍び込む事が出来た。第二関門突破である。

今回もミミミにやらせてますけど、女の子が髪を結ぶ時ってドキッとしません?

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