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パンデミックは秋風に  作者: 千弘
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 白いニット帽子の女性が微笑みながら弾むように話し掛けた。

「ゆず、ありがとうね」

 大きなトートバッグを担いだ明るい髪色の女性が答える。

「ホント良かったねぇ、退院出来てさ」

 ゆずと呼ばれた女性は微笑みながらそう言った。


 白い帽子の女性はとても嬉しそうな笑顔で言う。

「うん。ありがとね」

「凛は世話が焼けるよ、まったく」

 柚も嬉しそうに凛子に言った。


 二人は病院の正門をくぐり広い国道に出る。

「凛、時間ある?そこのテラスモールでお茶しない?」

 細く長い二本の指を唇に当てながら言う。

「うん!お茶しよ」

 凛子も待ってましたとばかりに片目を瞑った。


「あー。ケーキセットみたいの食べるかな。ほら、この間のやつ」

「あたしも食べたーい」

「あ。そういえば凛、少し太った?」

「……」

 冗談半分でむくれる仕草をする凛子。

「大丈夫、太っても可愛いよ凛」

 そう言って抱きしめようとする柚。

「きゃー。やめてー!お風呂入ってないんだからっ!」

 ケラケラ笑いながら楽しそうにテラスモールへ歩いて行く二人。

 時計は13時を少し回っていた。


 このモールは若者向けの商業施設が立ち並ぶかなり大規模な商業施設で数年前にオープンした。

何と言ってもエコに力を注いでいるらしく太陽光や風力で電気をまかなえるらしい。

モールの入り口のプレートにそう書いてあるので本当なのであろう。


 モール内にはお洒落なカフェが数軒あり、いつも行列が出来るほど賑わっていた。その中でも特に人気の店が偶然にも空いている。まさに奇跡だった。

「えっ。ちょっと!なんでこの店が空いてるの!?」

「行くしかないでしょ、これは!」

 神の思召しとばかりに二人は店へと駆け込んだ。


「ラッキーだわ」

「神様ありがとう」

インテリアや衣服がある一階を抜けて二人は二階のオープンデッキに座る。この店はカフェであり家具や衣服も売っている店だ。


 この席はいつも混んでいて絶対座れないと思っていた席だった。

「うわ。嬉しいな」

「ここ来たかったんだよねっ!」

 若い女性店員がメニューを渡しおしぼりを置く。

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びくださいませ」

 お決まりのセリフを言うと足早に去って行った。


 柚はポーチからタバコを取り出し、ちらりと凛子を見てから火をつけた。

 凛子は灰皿をテーブルの中央に持ってきてメニューを広げる。

「あ、ごめん吸いたくなる?」

 柚の問いかけに凛子は答える。

「……ううん。全然大丈夫」


 凛子の小さな舌打ちは柚には聞こえていない。


「あたし何にしようかな。柚は?」

「カフェモカ」

「……。苦いの飲めないしなぁ」

「前になんか飲めるって言ってた珈琲あったじゃん」


「あ……あれ、何だったっけ?」

 柚は笑いながら、まったくもうという表情を浮かべる。


 凛子はひとつ前のテーブルで新聞を読んでいる男性へ何気なく目を向ける。

 その新聞の見出しを見た後、思い出したように彼女は言った。

「アフリカ暴動まだ続いてるんでしょう?」

「らしいね、かなりの騒ぎみたいよ。テレビで言ってた」

 更に柚は続けた。

「結構前から騒いでたよね」

「入院中観てたよ。人種差別がどうのこうのってやつでしょ?」

「前もあったよね。メキシコだっけ?ブラジルだっけ?」

 店員がこちらに向かって来たので凛子は手で『まだです』

 とジェスチャーし目くばせする。


「君が帯状疱疹で入院してる間も世界は動いていたんだよ」

 柚は冗談まじりにそう言ってふざけた。

「でもすごくない?帯状疱疹で入院ってなかなかいないよ?」

 自慢げにふざけ返す凛子。


「その前はインフルだしね。しかも夏にさ」

「ありえなくない?」

 二人とも実に楽しそうに笑顔で冗談を言い合っている様に見える。そんな中、はっとした表情で柚は凛子に言う。


「いいから早く決めなよ」

凛子は舌を出して首を傾げて言った。

「同じのでいいや。あたしも」

二度目のウェイトレス登場にはジェスチャーはしなかった。柚はメニューを重ね手渡しながら注文を告げる。

「アイスカフェオレを二つ」

女性店員が去ったあと彼女は言った。

「好きだったでしょ?カフェオレ」

凛子は笑顔で頷きながら言う。


「うん。ありがとう」


しかしその目は笑っていなかった。


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