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パンデミックは秋風に  作者: 千弘
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瞳の奥に宿すのは

「美女お二人で楽しそうですな」

 この気が狂いそうな世界に墜ちてしまった天使と女神。その不運を少しでも和らげようと長谷川は精一杯の笑顔で言った。

「二人で少年とご老人を助けたんですよ!」

 凛子は嬉しそうに言う。

「あの若造は許さないけどねっ!」

 雪乃は怒った素振りでそう言った。

 二人は長谷川に身振り手振りで今あった事を話した。

「それは凄い。良い事をしましたな」

 長谷川に褒められご満悦な様子の二人。


 不意に警備員の一人が拡声器で叫んだ。


「ご来店中の皆さん、只今二階の安全が確保されました。二階にて待機のほうをお願いします。尚、お怪我されている方につきましてはこのフロアにて応急処置を致しますのでお待ちください」

 言葉使いがおかしいのは、店員ではなく警備員だからであろう。


「あたし、向こうで飲み物とか買ってく……あっ」

 そう言いかけて凛子は財布すら持っていない事に気付いて表情が曇る。

「どうしたの?」

 雪乃の問いに凛子は悲しそうに答えた。

「お金、持ってないんだった」

「貸してあげるよう!まっかせなさい」

 そう言った雪乃の顔が次第に青ざめていくのがわかる。

「あっ!え!あれーっ?」

 身体中を触りながら、か細い声でこう言った。

「ヤバい。お財布どっかいっちゃった……」

 困った顔の美女達に長谷川は颯爽と紙幣を差し出す。

「これをお使いください」

「こちらのお嬢さんは何か着る物も買うといい」

 長谷川はそう言いながら凛子を見た。

「すみません、お言葉に甘えさせていただきます」

 凛子は深々と頭を下げ礼を言う。

「ありがとう!長谷川ちゃーん。いっその事カードちょうだい」

 雪乃は長谷川の逞しい腕に飛びつき色仕掛けを装う感じでふざけている。

「長谷川さん……ですね、あたしは凛子と言います。如月凛子です」

「ええ、長谷川です。凛子さん……凛とした女性。まさにピッタリの素敵なお名前です。あ、先ほどの男の方は?」

 長谷川に名前を褒められて凛子はお辞儀をしながら雨宮を思い浮かべた。

「あ、あの人は……」

「あの色男ね!イケメン」

 雪乃が合いの手を入れる。その表情は明るい。

「雨宮ひいろと言うそうです」

「ヒーローみたいね」

 雪乃が自分と同じ事を思ったという事が嬉しく凛子はつい微笑んでしまっていた。

「緋色だそうです。赤い色だとかなんとか」

「ちょっとその緋色ちゃん紹介してよ!凛ちゃん」

「あはは。もちろん紹介しますよ」

 凛子はそう言いながら続ける。

「あ、緋色さんはどこに?」

「あら。長谷川ちゃん一緒だったんじゃないの?」

「凛子さんの声を聴いてすぐに走りだしたまでは……」

 長谷川は申し訳なさそうに答えた。

 不思議と凛子は置いて行かれてしまったと言う概念は微塵もなかった。出入り口がロックされているのもあったが、心地良い安心感に包まれているような気がしてならなかった。

 しかし、心の隅で一瞬だけ…。


『また裏切られるのかな』


 そんな言葉が浮かんでしまった。



 ――「やばい!助けなきゃ!!」


 先ほど凛子の声を聞き、真っ先に走り出したのは雨宮だった。しかし、すぐに立ち止まってしまう。

 凛子と雪乃の向かった方向に更なる警備員が三名走っていくのが見えた。ここにも暴徒を取り押さえる警備員が三名いる。恐らく他にも数名はいるだろう。

 自分がここから駆け付けるよりあの警備員達の方が断然早い。それに凛子には靴を履き替えさせている。

 もう一人の女性もしっかりしていた。そして、ここにいた剣道の達人も駆けて行った。


 ならば彼女らは心配ない。


 目の前では三人一組で暴徒を拘束し取り押さえる姿。雨宮はその三位一体の様子を見つめる。

「危ないですよ!安全な場所まで下がって!」

 二人が片方づつ腕を持ち、一人が口に布のような物を咥えさせる。その後で大きな結束バンドで迅速に拘束。そして土嚢袋を被せ上から縄で縛った。ここまでを極僅かな時間でやってのける。

「随分と手際いいんだな。まるで訓練されてるみたいだ」

 雨宮がそう言うと三人の警備員は鋭い目つきになった気がした。

「お客様、お怪我はありませんでしたか?」

 三人の中の小柄な警備員が優しい目で言う。

「あんたらいったい何者なんだ?」

 雨宮の問いかけを無視して小柄な警備員は続ける。

「もうそろそろ二階の安全が確保されるでしょう。お二階へどうぞ」

 不信感を露わにして雨宮は言う。

「あんたら警備員じゃないだろう?」

「では急ぎますので、我々はこれで」

 小柄な男はそう言って雨宮に背を向けた。

 三人の中で一番大柄な男が近づいて来ると


「あんたこそ何者だ?」


 雨宮の耳元でそう言い残し、三人の警備員はすぐに走り去って行った。



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