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パンデミックは秋風に  作者: 千弘
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怒れる女神

 シャンという金属音を鳴らして彼はひょいと天板から飛び降りた。

 着地と同時にシャン!と大きな音が鳴る。雨宮は長谷川の横に立つ。

「達人さん、こいつら縛り上げるしかないと思う」

 雨宮は大柄の革ジャンの男にそう言った。

 達人と呼ばれた長谷川は延髄に一閃の太刀を放ちながら驚きの表情で答える。

「私も同じ事を考えていたよ」

「そりゃ気が合うね。達人さん」


「なるほど、一発で沈むな」

 長谷川は沈む暴漢を見ながら言う。にやりとしながら雨宮は言った

「でもこれは誰でも出来るわけじゃない」

 それを聞いて長谷川もにやりと笑った。


「そこから奴らを見ててくれ。もし近くに奴らが来たら教えて欲しい」

 雨宮は上を見上げ凛子に言った。

「わかった。任せて!」

 凛子は棚板の上でしっかりと応える。凛子の言葉に雨宮は何故か安心した。彼女に任せておけば大丈夫だという感覚。何故か彼女を信頼している事が本当に不思議だった。

 距離の近い暴徒を鉄のパイプで弾き返して長谷川が言う。

「綺麗な方ですね、先ほど天使に見えましたよ」

「え!やっぱり!?」雨宮は長谷川を見ながら興奮して続ける。

「そう!俺も見えたんだよ!天使に!」そう言って雨宮が暴徒の胸元を蹴る。

 すかさず長谷川がバランスの崩れた後頭部に太刀を振るう。

「ほう。こちらの女神さんも登るようですよ」今度は長谷川が視線を上に向けた。

「これまた綺麗な女神さんだな」雨宮の言葉に長谷川は首を縦に振っていた。

「ええ。お綺麗な方です」彼はそのまま目前の暴徒の首筋に太刀をお見舞いした。


「私は雪乃。よいしょっと。あなたは?」

 雪乃は棚の上に登りながら凛子に尋ねた。凛子は手を差し伸べて雪乃を引き上げながら答える。

「凛子です。如月凛子。よろしく」

「ありがとう。あたしは早乙女雪乃よ、よろしくね」

 雪乃は膝の埃を手で払いながら言う。

「ところで、男前な彼氏ね、凛子ちゃん」にっこり微笑むと雨宮のほうを指差しながらそう言った。

「いえいえ!今さっき会った人なんですよ」凛子は手をぶんぶん振り慌てて否定する。

 思えば、さっき会ったばかりの男性と当たり前の様に行動を共にしている事に今更ながら驚いた。

「あら、美男美女でお似合いよ?」

「やめてくださいよ、雪乃さん」

 雪乃はほんの少しだけ考え込むとある提案をしてきた。

「ちゃんか呼び捨てで行かない?凛ちゃん」

「はい。では、雪乃ちゃん」

 天使と女神は共に微笑んでいる。お互いの自己紹介は済んだようだ。

「凛子っ!」

 悪魔が呼んでいる。余りにも唐突に名前を叫ばれ思わず「はい!」と答えてしまう。

「足のサイズいくつだ」

 雨宮の言葉に24センチと答えようとした瞬間だった。

 棚の上にいる凛子の足元めがけてジョギングシューズが飛んできた。

「確かにそれじゃあねぇ」凛子のサンダルを見ながら雪乃が笑う。

「マジックテープ嫌だとか言うなよ」雨宮はショッピングカートで暴徒を押し返しながら言った。

「ありがとう」

 凛子はそう言い終わる前にサンダルを脱いでいる。マジックテープで履くのは楽だ。この際、デザイン性は言うまい。


「こっちだっ!いたぞーっ!」

 数人の騒がしい足音と共に警備員が走って来る。

「大丈夫ですか!お怪我はありませんか?」体格の良い警備員の一人が声を掛ける。

 雨宮は無言で頷きながら手をあげて応えた。

 長谷川も黙って一礼するかの如く頷いている。

「これでひと段落かな」雪乃が口角を上げて言う。

「うん良かった」同じ表情で凛子が返事をした。


 その時だった。凛子が少し離れた場所での異変に気付く。

 高齢者と少年。そして青年が数人の暴徒に追い詰められている。


「やばい!助けなきゃ!!」


 凛子と雪乃は雨宮達の反対側に素早く降りると疾風の如く駆け出していく。


「わわ…来るな!来るんじゃねえ!」


 その青年は迫り来る恐怖にどうする事も出来ず、追い詰められていた。

「うわ、おい邪魔だ、ガキ!どけ!」

 彼は自分の後ろにいた少年の襟首を掴み、自分の前に放り投げる。そのショックと痛みでその少年は床で固まってしまい動けない。

 無論、暴徒の関心はその少年に向く事になった。この隙に彼は逃げる算段のようだ。

 前方からは暴徒が少年に襲い掛かろうと歯を剥き出して歩み寄る。

「お、おじいちゃんっ!」

 少年の悲痛な叫びに年配の男性はその身を呈してかばった。

「大丈夫だよ、おじいちゃんが守ってあげるからね」

 老人は全身で孫を包み込んで背中を亀の甲羅のようにしている。

 二人まで1メートルと迫った暴徒は今にも飛びかかろうとしていた。

 万事休すと思われた時――

 旋風が吹いた気がした。老人は風を感じた。

 凛子の前蹴りが暴徒の脇腹に放たれ、襲い掛かるそれを吹き飛ばす。

 豪快な音で商品棚に衝突した暴漢は跳ね返って床に倒れる。

 続く雪乃はスコップでもう一人の暴漢の顔を叩いた。

 パン!という音と共に後ろに倒れる暴漢。

「ちょっとあんたっ!」

 雪乃は怒りを露わに子供を投げ飛ばした青年に詰め寄る。

「な。なんだよ、おめーは」

「なんだよじゃないわよ!よくもこんな酷い事できるわね!」

「おめーには関係ねえだろ、しゃしゃんなよっ!」

 倒れていた暴漢がゆっくりと起き上がり始め呻き声をあげながら歯を剥いている。


「早く逃げて!」

「今のうちに!」


 二人が同時に叫ぶ。


 起き上がろうとする暴漢に2発目のスコップを振り上げる雪乃。それと同時に女神の横を天使がすり抜けて走る。助走を付けた凛子の蹴りが三人目を吹き飛ばした。

未だ立ち上がる暴漢に追撃を掛けようとする二人。

 

その時、三人組の警備員が現れた。


「大丈夫ですか!」

「後は我々が処理します。皆さんは安全な場所へ」

 凛子と雪乃は胸を撫で下ろし安堵の表情で互いに顔を見合わせる。そしてすぐさま、二人同時に少年と年配の男性に駆け寄った。

「お怪我はありませんか!」

 天使と女神はそれぞれ声を掛ける。

「ぼく、大丈夫?さっき頭打ってない?」

 祖父と孫は立ち上がる。怪我はなく大丈夫な様子だ。

 泣きじゃくる孫を抱いた祖父は凛子達に何度も深く頭を下げる。

「そんな、いいですって」

「二人とも怪我がなくて良かったですね」

 祖父が手を合わせて天使と女神へ感謝の祈りとばかりに拝んでいる。

「……って拝まないでください!」

「拝むのはやめてください」

 孫も泣きながら手を合わせ真似るのが可愛らしい。凛子と雪乃は少年の頭を何度も撫でる。


 いつの間にか、あの青年の姿はなかった。

 少年を放り投げ、その隙に逃走できたようだ。

「しっかし、あの若いの…最低ねっ!」

 雪乃は怒りに震えながら我慢しきれない様子でそう言った。

 今、この場に彼がいたら間違いなく殴るであろう。

 もし、後で見かけたとしても殴るかもしれないぐらいだった。

「本当ね……でも、雪乃ちゃん。そのスコップってどこから持ってきたの?」

 雪乃の怒りを納めようとしているのだろう。凛子は面白おかしく尋ねた。

「走ってここに来る時よ。ちょっと曲がっちゃったし。弁償かしらね……これ……」

 雪乃はお道化た表情で笑っている。

「凛ちゃんこそ凄い蹴りねえ。格闘技か何かやってたの?」

 雪乃は先ほどの蹴りの真似をしながら言った。

「前に空手やってたの。ほんとサンダルじゃなくて良かったよ……」


 長谷川が彼女らの様子を見に来た時には、天使と女神は満面の笑みだった。



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