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永遠の愛を刻む  作者: 美雪


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本編 ロデウス視点 ②

 隣国に行くのは簡単ではなかった。大勢の者達が、戦後の不安を感じ、脱出しようと国境に殺到していた。しかし、国境には軍がいる。無理に国境を越えようとすれば、銃殺されても文句は言えない。


 僕とレティは国境で足止めされた。そこで、クライスター公爵家に手紙を出した。なんとか出国できるように便宜を図って貰えないかと思ったのだ。


 返事がなかなか来ない。手紙が無事届いたかどうかもわからない状況だ。それでも、僕とレティは国境の町に留まり、待った。そして、ようやく返事が来た。正確には使者だった。クライスター公爵が僕とレティのために、国境まで迎えをよこしてくれたのだ。


 僕とレティが本国民の貴族の血族であることが証明されたため、僕とレティは出国することができた。そして、クライスター公爵家の馬車に乗り、隣国の王都を目指した。


 王都に向かう途中、野盗の襲撃に会い、宿屋では強盗に遭遇した。


 今は併合地と王都をつなぐ街道の治安が相当悪いらしい。物資や金目のモノを持って移動する者達が多いため、それを狙う犯罪者が非常に多くなっているのだ。


 僕達は命の危険を何度も感じながら、なんとか王都にたどり着くことができた。クライスター公爵家が迎えだけでなく、屈強な護衛つけてよこしてくれたおかげだ。その配慮に、心から感謝するしかない。


 クライスター公爵は祖母の兄の息子になる。初めて会ったが、非常に厳しそうではあるものの、好感の持てる人物だった。


 公爵は僕を養子にすることを了承してくれた。但し、無償ではない。現在、クライスター公爵家が管理している父の財産、正確に言えば、僕名義になる財産について、一部の権利を放棄し、クライスター公爵家の名義にするのが条件だった。


 僕はクライスター公爵と、血族として、誠実に本音で話し合いたかった。だからこそ、なぜかと聞いた。もしかすると、クライスター公爵家の経済状況がよくないのかもしれない。


 クライスター公爵は少し考えた後、理由を説明してくれた。


 クライスター公爵家の方で管理しているのは、基本的には不動産だ。その中には共同名義のものがある。クライスター公爵との共同名義になっている。


 共同財産を活用、あるいは売却する場合、権利を持つ全員の承諾が必要だ。重要な書類を郵送するのは危険だ。伝令と護衛を送るには、相当の費用が掛かる。結局、何もできず、無駄になっていた。


 権利を持つ僕が来たため、共同名義の権利を買い取るチャンスだ。権利を買い取り、個人名義にできれば、面倒は無くなる。


 権利を買い取るつもりだったが、養子の話が出たため、交換条件にした。権利を買い取る場合は、養子にはしない。血族として、この国で生きていけるよう、できるだけの支援はしてくれるが、僕が単独で本国民の資格を得られるかはわからない、審査次第ということだった。養子の方が、審査が通りやすいだろうと説明された。


 僕は共同名義になっている広大な私有地の権利を放棄し、養子になることを選んだ。


 クライスター公爵は良心的だった。いくら養子になることで、この国で生きやすくなるとはいっても、僕の手放す私有地の権利は、金額に換算すると相当なものになる。クライスター公爵が権利を手に入れ、活用するために開発することを考えると、よりその損益が増えてしまう可能性が高い。


 そこで、やはり共同名義になっている屋敷、小さな土地などに関し、クライスター公爵の方が権利を放棄し、僕個人の名義にしてくれることになった。共同名義の財産を、互いの個人財産として整理するということだ。


 僕には職がない。財産はそれなりにあるが、食いつぶすような生活はしない方がいいに決まっている。今回の共同財産整理で手に入れた屋敷などを賃貸に出し、その収入で生活費を賄うのはどうかと提案してくれた。


 僕はレティと二人だけであるため、大きな屋敷に住む必要はない。大きな屋敷を貸し出せば、それなりの収入になる。慎ましい生活をすれば、問題なく暮らせるのではないかというわけだ。


 勿論、自分がその屋敷に住み、何か別の職につくのもいい。この国に慣れる間、数年ほどは公爵家に滞在し、家賃収入を得ながら、今後についてゆっくり考え、子供ができた時に、独立して屋敷を構えてはどうかなど、細かく相談に乗ってくれた。


 僕はクライスター公爵に、レティのことを話した。


 僕が公爵の養子になるということは、貴族出自に戻ることになる。妻であるレティは平民だ。身分が釣り合わないとなるかもしれない。僕は離婚したくない。レティを心から愛している。公爵家もレティを認めて欲しい。平民が一族に加わるとして、冷遇して欲しくない。もし、無理だというのであれば、できるだけ早く公爵家を出て、独立して暮らすと打ち明けた。


 クライスター公爵はすぐに返事を言わなかった。厳しい表情だ。普通に考えれば、養子とはいえ、公爵家の者となるのだ。平民との身分差は相当だとし、駄目だと言われても仕方がない。だからといって、僕が黙っているわけがない。レティを守らなければならない。


 僕は訴えた。そもそも、僕が元の出自のまま、貴族籍であれば、国境を越えることはできなかった。併合地の貴族を国外逃亡させないため、貴族は絶対に国境を通過させないとなっていたからだ。僕がレティと結婚し、平民籍に変更できたからこそ、国境を越えられた。レティのおかげで、僕は新しい人生を手に入れることができ、クライスター公爵家も莫大な益を得られることになった。レティを利用するだけ利用し、見捨てるなどありえない。醜聞になると力説した。


 クライスター公爵はため息をつくと、了承してくれた。しかし、公爵以外の者がどう思うかわからない。そのため、その件についてはあえて触れずにおき、詮索されて知られる前に、公爵家を出て、生活することになった。一緒に暮らしていると、相手のことを知りたくなる、元他国の話を聞きたくなる。レティの出自の話にもなるかもしれない。離れて生活すれば、会う機会も少ないため、色々と詮索されにくいのではないかとなったのだ。


 但し、これはあくまでも念のための処置だ。この国は軍事国家ということもあり、実力、能力が重視される。国に貢献すれば、褒章として爵位が与えられることもある。平民から貴族になれることもあるのだ。世襲ばかりの貴族ではなく、一代限りの貴族も多くいる。元平民の当主も多くいることから、平民の妻を持つ者もいる。


 僕は貴族出自だが、元他国のだ。併合されると、貴族の身分は軽視される。平民扱いだ。僕個人でこの国の国民籍を手に入れる場合も、平民籍になる可能性が高い。養子にならなければ平民のため、平民の妻がいてもおかしくはない。身分相応となる。


 とはいえ、公爵家の養子になるため、気にする者がいるかもしれない。普通に考えれば、せっかく貴族籍や本国民の戸籍を手に入れたため、それをより確固たるものにするためにも、本国民、できれば貴族と婚姻するのが望ましいと思っても、おかしくないからだ。むしろ、そうしたほうがいいと薦めるべきとなる。平民妻を捨て、貴族妻に乗り換える者もいるのは事実だ。


 ただ、この国は一夫多妻だ。王族は側妃を持てる。貴族や平民も妾を持てる。妾は正妻に劣るものの、法的にもその権利が保障される。


 レティを妾にしたらどうかという者も出てくるだろうと言われたが、僕はそのつもりはない。僕の失われた祖国は一夫一妻だった。愛人を持つ者は多くいたが、この国のように妾として法的な権利は一切ない。法的に保証される女性は妻一人だ。


 僕はそういう価値観で育った。妾を持てるようになる、妾は法的に保証されると言われても、レティを妾にする気などない。僕にとって、レティこそが唯一の女性、妻だ。


 レティは今もレギを愛している。レギが死んだ今でも。レギは親友だった。一緒に受け入れるとしたが、本音は辛い。レティには僕だけを見て欲しい。自分勝手な言い分だとわかっている。


 レティはレギと恋人になったが、身分差がある。一夫一妻制の元では結婚は絶望的だ。二人ともそれをわかっていたからこそ、清い交際だったのかもしれない。いずれ、レギは相応の女性を妻にしただろう。レティは愛人になるか、レギの元を去るかだ。


 戦争になったからこそ、身分を捨て、逃げ延び、どこかでひっそり暮らすという選択が生まれた。戦争がなければ、愛し合っていたとしても、一時だけだった。希望もなかった。


 僕はもう一度心に誓った。レティのことを守る。絶対に。一生をかけて。唯一の妻として。




 僕は公爵家に滞在し、財産に関する手続きや整理をして過ごした。


 レティは何も言わないが、不安であるのは間違いない。僕がしっかりしないといけない。夫として妻を支え、守っていかないといけない。


 僕は自分を弱い人間だと思い、それに甘んじていた。これからは、その甘えを許さず、懸命に努力し、克服する。レティのために。そして、僕自身のためでもある。


 強くなる。そして、どんなことがあっても、レティと共に生きていく。これが僕の人生最大の目標であり、果たすべき使命だと思った。


 僕はこの国について学ぶことにした。多少の知識はあるが、本国民としては不足すぎる。自分名義の財産がいきなり増えた。それに関しても、きちんと運用し、管理しなければならない。


 祖母が銀行に預けていた持参金は、利息も含めるとかなりの額だった。当分の生活費としては十分過ぎるほどだ。


 僕は公爵の長男であり、義理の兄になるトビーにも相談することにした。


 トビーは公爵家の跡継ぎであるだけでなく、投資家でもあった。僕も財産を活かして、同じように投資などをして稼ぐのもいいのではないかと思った。しかし、トビーの意見では、止めた方がいいと言われた。


 なぜなら、この国は戦争が多い。戦争によって、様々に何かの価値が変動する。それを見極めるのは難しい。ハイリスクハイリターンが多い。トビーも投資家となったが、公爵家の財産を守るために勉強した結果、そうなったというだけのことだ。かなり堅実にやっているつもりではあるものの、うまくいかないこともある。


 トビー個人の資産だけでやりくりしているため、全てを失っても、公爵家の財産には一切手をつけることはないらしいが、公爵家の財産は父親が管理し、やはり投資や運用をしている。


 共倒れもあるかもしれないとし、互いに同じことに投資するのは避けているらしい。そこに僕も加わるのはよくない、誰かが損をする確率が増えるかもしれないというのだ。


 トビーは本国民の戸籍を利用し、公的な職業についたらどうかと薦めてくれた。公的な職業に就くと、信用度が上がるからだ。


 僕は公爵の息子だが、調べれば元他国の者だとわかってしまう。商売や取引をしようとしても、嫌がる者がいるかもしれない。差別されることもありえる。公爵家の庇護があるため、表立ってではないかもしれないが、何かしらの悪影響が出てくる可能性がある。


 本国民の戸籍があれば、元他国民でも、公的な職業につける。採用されれば、本国民と同じだと国が保証したことになる。信用度がかなり上がる。そこで数年だけでも勤務し、信用を上げつつ、知り合いや友人を増やし、縁をつなげ、この国での立場を確固たるものにしたらどうか。財産が相応にあるのであれば、金を稼ぐよりも、信頼を得る方がが重要であり、最終的には益となると教えてくれた。


 僕はトビーのいう通りだと思った。さすが公爵家の跡取りで、やり手の投資家でもある。利口だ。


 僕はトビーにいくつかの公的な職業の求人について調べて貰い、応募することにした。


 その結果、臨時募集の官僚試験に合格し、採用されることが決まった。王都内にある小さな役所か何かで働くのだろうと思っていたが、違った。配属先は国土省だった。国の重要な省庁の一つだ。僕はかなり驚いたが、クライスター公爵やトビーは驚かなかった。僕がよくわかってなかっただけで、元々そういう募集だったらしい。


 戦争により、一国が併合された。本国と同じ制度、法律などにすべく、本国から大量の人員が送り込まれる。僕が応募したのは、それによって出てしまった欠員を埋める募集枠だった。


 欠員場所は国の様々な機関だ。中央省庁も含まれる。試験の成績がよく、しかも公爵家の者という身分を考えれば、国土省のような重要な場所に配属されてもおかしくないというわけだ。しかし、別の理由で公爵もトビーも不満だった。国土省は公爵家の屋敷から遠い場所にある。通勤時間を考えると、職場の近くに家を借りたほうがいいのだが、この国にまだ慣れていない僕やレティだけで生活するのはどうかと心配したのだ。


 僕とレティは公爵家を出ることにした。いつまでも公爵家の世話になっているわけにはいかない。自分達で自立し、この国でやっていけるようにならないといけない。このまま公爵家にいると、甘えてしまいそうだった。僕達は勤務先である国土省の近くに、平民が住むような小さい家を借りて住むことにした。レティは家のことをしながら、すぐ近くにある聖堂で慈善活動をしつつ、この国について学んでいくことになった。公爵はどうしても心配だといい、屋敷で雇っている者を家政婦として通わせつつ、夜は護衛を二人派遣すると言い出した。僕とレティは断り切れず、一年だけは、公爵の好意に甘んじることにした。


 


 官僚になって一カ月過ぎた頃、僕は宰相府が主催する企画会に応募した。これは官僚達が、国が行う新規事業などを提案、あるいは、問題点や改善すべき点、様々に意見を出す催しだ。


 非常にいい提案をした場合は、報奨金が出る。提案が採用され、実際にそうなることになった場合、担当者などに選ばれることもあり、出世の道が開けることもある。


 僕はこの国について、まだまだ知らないことが多い。官僚にも採用されたばかりだ。しかし、この国のために尽くす気がある、やる気があると思われたくもあったため、企画会に意見を提出することにした。


 考えに考えた結果、レティと共に王都に向かう途中に通った街道について、改善した方がいいという内容にした。


 まず、治安が良くない。これでは人や物資が安全に移動できない。経済活動に悪影響が出て、ひいては国力低下につながるとした。


 更に、道が悪い。重要な街道は大きく、ある程度は舗装したり、水はけなどをよくしたりするなど、整備されているべきだ。王都から離れるほど、道が細くなり、整備されなくなるのは仕方がない。よくあることだ。しかし、酷すぎた。これまで、よくこんな小さな街道ばかりでやりくりできたと思えるほどだ。


 恐らくは小さな街道を複数使うことで、物資を手分けして運んでいたのだろう。一つの街道が混雑しすぎないものの、街道沿いの発達もしにくい。また、整備しなければならない街道が増えてしまう。予算がない、小さな街道だとして、整備がされない。小さな街道は、大きな街道に比べると、治安が悪くなる。どこかが裏街道になるからだ。悪い部分が連鎖しあっているように思えた。


 この国は軍事国家だ。軍が国中を移動する可能性がある。軍が素早く移動するには、軍が通れる道がないと困る。現存する道は、商業的な目的で使われることが多いため、できるだけ多くの場所を回るようになっていることが多く、国境行くのに近いとは言えない。かといって、道を無視して最短距離を狙うと、整備されていないため、歩きにくく、移動が遅れる、馬車が通れないなどとなりかねない。


 併合したことからも、余計に国が大きくなった。いかに端から端まで、人と物の流れが円滑であるかが重要になる。大きな街道を整備した方がいい、そして、商業利用だけでなく、軍用に考慮すべきという結論にした。この国は軍事国家なので、その方がウケるのではないかと思った。


 僕の案は予選を通過した。本選があるとは思わなかった。本選は自分の案に対する様々な質問に答える形式だった。


 意地悪な質問を沢山された。僕が元他国の出自であることも言われた。他国の者に何がわかるというのか、そんな意見も出た。僕は負けたくなかった。強くなると決心した。だからこそ、冷静に対処した。実際に僕が見て来たことを話し、訴えた。


 自分がこの国来たのは、この国の者になるためだ。敬愛すべき祖母の国に行き、妻と共に暮らす。それだけではない。この国に尽くし、認めて貰いたい、受け入れられたい。だからこそ、公職についた。この国がよりよくなるように、意見を提出した。僕の提案が良くないと評価することや、微妙だとして意見するのは構わない。しかし、僕がこの国に来て、懸命に尽くし、働き、努力していることを否定するのはおかしい。それこそ、僕の何を知っているというのか。何も知らないくせに、僕の名誉と忠誠を汚すことは許さないと叫んだ。


 僕は必死だった。そして、審査員の一人が拍手した。すると、他の者達も拍手した。僕の番は終わりだということだ。僕は一礼すると、他の者と交代した。


 僕は言い過ぎたかもしれないと反省したが、公爵家の者として、自分の言動はおかしくなかったはずだとも思った。強くなりたいと思っても、すぐに強くなれるわけではない。不安だった。


 その後、僕の提案は落選したという通知が届いた。残念としかいいようがない。この国は鉄道の整備に力を入れているため、道の整備よりも、その方が優先されるからだろう同僚に言われた。鉄道はまだ新しい技術で、僕の祖国にはなかった。この国は軍事国家だからこそ、様々な技術が発達している。銃の開発と普及も早かった。技術大国でもあるのだ。


 しばらくすると、人事部に呼び出された。焦ったのはいうまでもない。企画会の件で、生意気なことを言ったとして、クビになるかもしれないと思った。


 人事部に行くと、異動通知を手渡された。解雇通知ではないため、少しだけ安堵したものの、左遷かもしれない。緊張しつつ、封を開けた。


 僕は一瞬、何が起こったかわからなかった。そこには、宰相府に異動する内容が書かれていた。しかも、王太子付補佐部。


 人事部長が言った。栄転おめでとうと。


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