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永遠の愛を刻む  作者: 美雪


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本編 ロデウス視点 ① 

 僕達の国は隣国の侵略にあった。隣国は大国であり、軍事国家でもある。その侵攻は早く、あっという間に王都が包囲された。


 僕は親友であり、この国の王子であるレギとその恋人のレティを逃がすため、追手を食い止めることにした。


 追手の数は多い。レギが王子だからだ。なんとか逃げ切って欲しいが、成功率が低いというのは、最初から覚悟していた。


 僕は足を撃たれた。動けない。それでも痛みに耐え、銃で応戦したものの、弾が切れた。


 僕は自殺用の弾を残していなかった。そのため、敵兵に捕まった。


 僕は降伏し、捕虜になった。名誉の死にこだわるつもりはない。僕がこだわるとすれば、それは意味のある死だ。今ここで死んでも、何の意味もないと思った。


 僕は病院に送られた。隣国はこの国の者達を皆殺しに来たわけではない。人道的な者達が甲斐甲斐しく治療してくれた。時間はかかるものの、足の傷は治るらしい。但し、きちんとリハビリをする必要があった。僕はきちんとリハビリすることを決意した。




 僕の隣のベッドに、新しい患者が運ばれてきた。頭を打ったという女性は、レティだった。


 僕の心は動揺した。


 レティはレギと一緒に逃げた。しかし、レティはここにいる。それは、二人が逃げ切れなかったということだ。


 ここにいないレギのことが気になった。王子であるため、殺されはしないはずだ。しかし、レギは武術に長けている。激しい抵抗をすれば、止むを得ないとして殺されてしまうかもしれない。レギが名誉の死よりも、降伏を選ぶことを祈るしかなかった。


「レティ、大丈夫?」

「ロディ、ここは?」

「病院。敵のだけど」


 レティは黙り込んだ。


「レギは?」

「それは僕が聞きたい。レギと一緒に逃げたはずだ。レギは?」

「レギは……撃たれたの」


 レティの瞳から涙が溢れた。


「私を庇って……私は倒れた時に、頭を打って、気を失ったみたい」

「そうか」

「レギはここにいないの?」

「わからない。もし、レギが生きて捕虜になっていれば、別の所で治療を受けている可能性がある」

「見てくるわ!」


 レティはそういって起き上がった。でも、それは阻まれた。警備兵がいたからだ。


 そこで、様子を見に来た医者と看護婦に、レギのことを聞くことにした。心当たりがないというものの、他の者にも聞いてくれるという。そして、しばらくした後でわかったことは、死亡者リストの中にレギの名前が載っているという事実だった。


 レギは死んでしまった。信じられない。だが、抵抗したのであれば、ありえる。


 僕の心は親友の死に動揺すると同時に、もう一つの想いが駆け巡った。


 レティのことだ。


 僕はレティのことが好きだ。その気持ちをずっと隠してきた。


 僕がレティへの想いをレギにこっそり打ち明けると、レギもレティに好意を持っていることがわかった。同じ女性を好きになってしまったのだ。そこで、一人ずつ告白し、レティがどちらを選んでも恨まない、祝福するという約束をした。


 レギは王子にふさわしい人物だ。どこからみても、完璧にかっこいい。能力もある。レギに告白され、断る女性などいるわけがない。僕は自信がなかった。だから、レギが最初に告白するようにいった。


 レティがレギの告白に応えれば、僕は何も言わないまま、ただの友人として、二人を見守り続けることができる。はっきりと告白し、断られて失恋したら、自分が壊れてしまいそうに感じた。僕は弱い人間だ。レギとは違う。


 結果、レティはレギの告白を受け入れ、恋人になった。


 レティは平民だ、身分違いの恋ではあるものの、二人の交際は真剣で、だからこそ清い関係だった。レギはレティを恋人にしたいのであって、愛人にしたいわけではなかった。


 しかし、二人は運命によって引き裂かれた。レギが死んだ以上、レティはどうしようもない。このままだと、レティが後を追いかねないため、僕は必死に説得することにした。


「レティ、僕の恋人になって。でないと、こうやって一緒にいれないし、この先も守っていけない」


 どんな理由でもいい。とにかく、レティには生きていて欲しい。僕のそばにいて欲しくもあった。自分勝手であることは百も承知だ。


「捕虜になった僕達がどうなるのかわからない。あまりいい状況ではないけど、僕が君を守る。レギが自分の命をかけて、君を守ってくれたということを忘れてはいけない。レギの行為を無駄にするようなことはしちゃいけない。レギも望まない」

「でも、レギがいない世界なんて」

「レギはいる。君の心の中に。君はレギと一緒に生きていく。そして、この国がどうなるか、見届けよう。僕が側にいる。君とレギを守るから」

「ロディ……」


 何度も話し合った。レティはなかなかいい返事をくれなかった。


 それでも、僕は諦めなかった。そして、ついに僕の熱意に負けたレティは、僕と結婚することを了承してくれた。


 何も代償がなかったわけではない。レティはレギを愛している。他の男性を受け入れることなどできない。だからこそ、僕たちの結婚は偽装結婚のようなもの、白い結婚になった。


 それでも僕は嬉しかった。レティを妻にし、夫としてそばにいることができる。


 僕は貴族だ。それなりに身分が高い。普通に考えると、反対する者が多くいるだろう。しかし、チャンスだった。ここは敵の病院だ。反対する者はいない。僕が次男だということもある。跡継ぎの長男でないため、厳しい制約は受けない。なんとかなると思った。




 戦争が終わった。


 僕たちの国の王と王妃、重臣の一部は処刑された。降伏しなかったからだ。抵抗する者には厳しい処遇となったものの、降伏し、支配を受け入れるのであれば、寛容な処分にするということから、多くの者達が降伏していた。そのため、予想よりも処刑者の数は少なく、戦争をした割には犠牲者が少ない方だったらしい。


 僕の父親は大貴族だ。そして、その母親、つまり僕の祖母が隣国の出身だった。降伏し、支配を受け入れ、祖母の実家のコネを駆使した結果、大きな処罰はされなかった。


 それどころか、併合された国を王に代わって統治する総督の補佐に選ばれた。爵位が降格されたものの、併合後に権勢が強まった。そのため、裏切り者、売国奴と陰で悪く言う者達もいた。




 僕の足は順調に回復していた。これからどうするか考えなければならない。


 そんな時、僕は父に呼び出された。


 僕は緊張した。すでにレティと結婚したことは告げているが、国や家の存亡がかかっている時だけに、特に何も言われなかった。少し状況が落ち着いた今、そのことで話があるといわれてもおかしくない。


「ロデウス、重要な話がある」


 父は重々しい口調でそう言った。


 書斎には母と兄、姉もいる。まさに家族会議だ。


「この国は属国になるのではなく、併合される。国の制度、法律が変わり、隣国と同じになる。平民はさほど問題ない。しかし、貴族は違う。降格は決定事項だ。貴族でなくなってしまう者も大勢出る。それだけではない。これから徐々に、本国から統治に関わる官僚が続々と来る。この国のことを隅々まで調べていく。そして、反抗する者達の勢力をそぐために、なくてはならないものを奪う。それは金だ。戦争による出費を回収する。それが隣国のやり方だ。裕福で財産がある者ほど、搾取される。貴族はいいカモだ」


 父はそういうと、机の上にある箱を開けた。


「取りあえず、用意できそうなものだけ用意した。これはお前に分与する財産だ」


 僕は驚いた。そういう話になるとは思わなかったからだ。


「結婚しただろう。通常はその際、財産分与する。お前は次男だ。そのため、爵位や領地などに関わらないようなものになる。だが、この国の資産は、今後どうなるかわからない。そこで、他国にある財産をお前に分与することにした」

「他国の?」


 父は頷いた。


「わかりやすいのは、私の母の財産だ。隣国から嫁いできたため、隣国に財産があった。持参金は全て銀行に預けてあるため、利息がついている。不動産の管理は母の実家であるクライスター公爵家がしている。それをお前の名義にするため、自分で管理する名目で、隣国に行くのはどうだ?」

「隣国に?」


 僕は更に驚いた。


「本国、といったほうがいいかもしれない。ここに残っても、身分も立場も低くなる。本国の者達から低く見られ、肩身の狭い思いをするだろう。だが、お前は次男だ。ここに残る必要はない。思い切って、クライスター公爵家を頼り、できれば養子になって、本国民の戸籍を手に入れろ。そうすれば、お前は差別されない。財産も保証される。もし、万が一私達に何かあったら、お前が頼りになる。一番重要なことは、血を絶やさないことだ。私達もできるだけのことをするが、どうなるかはわからない。クルリラは平民の商人に嫁がせる。そして、同じく財産分与をし、万が一の際に備えておく。カーミルとも離婚する。連座で処刑にならないようにするためだ」


 まさか、両親が離婚するとは思わなかった。今は家族をバラバラにしてでも、生き残ることが優先だということだ。


「私は総督の補佐に選ばれた。一部の者から、うまく取り入ったなどといわれているが、そうではない。併合後は必ず問題が起きる。その責任を取る者が必要だ。総督は本国の者だが、副総督、補佐役などは全て旧他国の者が選ばれた。つまり、何かあったら、副総督や補佐に責任を取らせるということだ。その際、爵位や財産も堂々と奪える。だからこそ、奪えそうな者達を要職につけている」


 隣国の狡猾なやり口を父は見抜いていた。


「レティシアのことは知っている。王宮で働いていたからだ。平民だが、容姿も性格もいい。王子に見初められただけあると思える女性だ。大切にしてやればいい。但し、あまり時間がない。現在は国境が封鎖されているものの、抜け道がある。貴族は国境を越えることができないが、平民は可能だ。レティシアの姓になれ。そして、平民として国境を越え、クライスター公爵家に行くのだ」


 僕は内心、父がレティとの婚姻を認めたのは、国境を越えるために平民になる必要があるからではないのかと思った。


「行きたくないといったら?」

「それでもいい。だが、お前に分与した財産は他国のモノであるため、この国で全ての手続きをすることができない。他国に行く必要がある。どうするかはお前次第だ」

「レティと相談したい。僕は問題ないけど、レティが嫌がるかもしれない」

「わかった」


 僕は財産分与や国境を越えるために用意してくれた書類が入っている箱を受け取った。そして、レティと話をした。


 レティは僕についてきてくれるという。このままここにいても、見通しはよくない。僕達は新しい人生を切り開くため、隣国に行くことにした。


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