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永遠の愛を刻む  作者: 美雪


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本編 レギウス視点 ⑦

 数カ月が過ぎた。月日が経つのは早い。


 村にいる者達は、戦争捕虜ではなく、ただの貧しい村人同然だった。俺もそのうちの一人だ。


 非常に従順な態度を見せていた捕虜の数名が管理役に抜擢され、監視役であるラゼル達は全員引き揚げた。村にいるのはセレスタインの者達だけだ。


 解放許可が出ていないため、腕輪はつけられたままだ。解放許可を与えに来る者がはずすことになっている。

 

 農作業に従事し、慎ましい食事を取って寝るだけの日々。


 いずれは村にいる全員が解放されるのだろうと思っている者達もいたが、実際には違った。解放許可が出て村を離れる者もいれば、伝令部隊と共に、新しく村に来る元セレスタインの者達もいたからだ。


 戦争が終わった後でも、捕縛者の数は増えている。なぜなら、セレスタインから国外脱出しようとする者達が後を絶たないからだ。その者達は捕縛され、捕虜の腕輪をつけられ、収容所送りになるようだ。


 俺は解放されない。この村に一生幽閉するつもりだろう。そう思いつつも、わずかな希望を捨てきれず、生きていた。


 会いたい。レティに。そして、ロディに謝りたい。


 その願いが神に届いた。




 村にアークレイン正規軍の護衛を伴い、いかにも身分の高そうな者が乗るような馬車が来た。


 その馬車に乗っていたのは、ロディだった。


「レギ!」

「ロディか?」


 思わず、目を疑った。


 ロディが駆け寄り、俺に飛びついて抱きしめてくる。


「レギ! やっと会えた!」


 俺はロディを抱きしめ返した。強く。奇跡だと感じながら。


 ロディは子供のように泣きじゃくった。俺も目頭が熱くなったが、大注目をされている中、泣くことはできなかった。


 俺はロディと二人だけで話をすることになった。


 ロディは私を逃がすために囮になり、足を撃たれた。捕縛された後は病院で過ごし、終戦を迎えた。

 セレスタインにいる者達は、アークレインに完全に投降し、忠誠を誓えば、手荒なことをされないと知り、大人しく従う者達が多かったらしい。

 元々、国力の差は歴然だ。反抗したところで、無駄死にするだけとわかっている。


 ロディの祖母はアークレインの貴族だ。血筋が断絶することを恐れ、父親と兄はセレスタインに残り、ロディは祖母の実家クライスター公爵家の養子になり、アークレインの国籍を手に入れたということだった。


 ロディは元セレスタイン人であることで受ける差別をできるだけ緩和しようと考え、アークレインの官僚になった。

 これは、本国民の身分があるからこそ可能なことだ。元セレスタイン人の国籍はアークレインとなるものの、本国民ではなく、併合民となる。


 併合民は本国民に劣る国民という扱いになり、属国民のように格下として差別を受け、本国内を自由に移動することなどができず、特別な許可がなければ、旧セレスタイン王国である併合地から出ることができないようだ。他にも違いがあるらしい。


 ロディは私がこの村で農業に従事していることに驚いた。そして、食料不足で餓死しかけた話をすると、また泣いた。


「泣くな。命があるだけでもましだ」


 俺はロディを励ました。


「今も食料がないの?」

「前よりはある。作物を収穫できているのが大きい。配給もある。小麦や塩などだ。一日二食は食べることができている。十分とは言えないが、餓死はしない」


 ドアがノックされ、アークレインの兵士が声をかけてきた。


「クライスター卿、滞在時間は限られています。視察を全くしないわけにはいきません。話を切り上げていただきたいのですが」

「わかった」


 ロディはごしごしと腕で涙を拭った。


 相変わらずだ。普通はハンカチで拭う。だが、ロディはいつも服で拭う。

 そのことで、何度もレティに注意されていた。服を洗濯するのはハンカチを洗濯するよりも大変であるため、ハンカチで拭うべきだと。


 ロディはレティの言うことはほぼ何でも聞いていたが、これに関しては譲らなかった。


 昔、ロディはハンカチで涙を拭いていた。それを、女々しい行動だ、男なら服で拭うと嘲笑されたからだった。

 それからロディはハンカチではなく、服で拭うようになった。男としてのプライドの問題なのだ。


「僕は仕事で来ている。だから、仕事をしないといけない。ごめん」

「お前のなすべきことをすればいい。俺のことは気にするな。再会できただけで嬉しい」

「僕も嬉しい。言葉では言い表せないぐらいに」

「ロディ、一つだけ聞きたい。レティは無事か? 生きているのか?」


 ロディは固まった。しばしの沈黙が流れる。


「生きているよ」


 その言葉にほっとしたのはつかの間だった。


 ロディの様子がおかしい。明らかに動揺している。何かを隠している。知りたかった。

 しかし、ある程度は予測できた。恐らく、俺にとって、あまりよくないことなのだろう。


「そうか。良かった」


 俺はできるだけロディの負担にならないように言葉を発した。


「俺は死んだことになっている。実際は生きているが、この村に囚われたままだ。死んだも同然だ。レティは若く美しい。これからの人生は、別の者と歩んだほうがいい。すでに歩いていたとしても、構わない。むしろ、その方がいい。俺はレティに幸せになって欲しいだけだ。もしそうでないなら、お前が力を貸してやって欲しい」


 ロディはまた泣きそうな顔になった。


「クライスター卿、この村に長く滞在することはできないのです。お察し下さい」


 兵士が声をかけて促す。


「ごめん……僕、もう行かないと」


 ロディは足早に部屋を出て行った。


 その後、ロディはこの村を管理する者達と軽く会話をしつつ、村の設備や農作業地を簡単に視察し、帰って行った。できる限りの食料や物資を残して。


 別れの挨拶はできなかった。


 ロディはアークレインの本国民、貴族だ。この村で生きて行くしかない俺とは違う。


 俺は遠ざかる馬車を見送りながら、ロディについて、思いを巡らせた。


 ロディは優しい。レティに何かあったものの、言えなかったのかもしれない。

 俺の心に大きな痛みと悲しみが押し寄せたが、希望が失われることはなかった。なぜなら、ロディと再会できたからだ。


 レティは生きているようだが、どうなったのかはわからない。

 せめて、ロディだけでもこの厳しい世界を生き抜き、幸せになって欲しい。


 俺は心からそう願った。


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