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永遠の愛を刻む  作者: 美雪


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本編 レギウス視点 ⑥

 翌日。村に残っている者達は、ただ生きているだけなのに、なぜこんなに腹が減るのかと感じていた。

 俺もその一人だ。まさにこれほど窮乏し、餓死する危険性を感じたのは生まれて初めてだ。

 

 飢饉になれば、こういった思いをする者達が数えきれないほど出る。干ばつであれば、水さえない。恐ろしいことだと実感した。


 食料奪還部隊が戻る日だったが、何時に戻るかはわからない。もしかすると、戻らない可能性もある。誰もが必ず戻る、食料を持って、そう信じたい気持ちでいた。


 予想はいい意味で外れた。村にアークレインの部隊がやって来たのだ。


 この部隊は補給部隊ではなく、伝令部隊だった。この村に向かう途中、食料奪還部隊の者と遭遇し、村の食料庫が襲われたこと、現在、監視役と従順な捕虜たちが協力し合い、脱走者を捜索、食料を奪還回収する作戦を展開中だと知っていた。そのため、携帯食を提供してくれた。


 温かいお茶と保存用のクッキーが配られただけで、補給部隊の者達の心象がよくなった。


 戦争相手はアークレインだが、俺達を窮地に追い込んだのは同じセレスタインの脱走者達だ。

 監視役たちは俺達に従うようにはいうものの、人としての尊厳を傷つけるようなことはしない。命令通りにしなければ処刑するが、それは秩序と規則を守らせるためだ。アークレインに限らず、どこの国も、軍も一緒だろう。そのため、アークレインへの敵意は一気に低くなった。


 伝令部隊の上官は、全員にお茶とクッキーが配られたのを見計らい、言葉を発した。


「諸君。緊急事態に対し、協力してくれたことに感謝する。今回のことは、一部の者達が起こした問題であり、ここにいる者達、さらに監視役に協力して捜索を手伝う者達のせいではない。我々はすでにこの件についての伝令を送った。近日中に対応がされ、補給物資が届くのではないかと思う。我々も帰る際に食料がないと困るため、全ての食料を分け与えることはできないが、できるだけ置いていく。もう少しの間、辛抱して欲しい」


 伝令部隊は俺達を見捨てる気はないようだった。


「他にも伝えることがある。それは、戦争が完全に終結したということだ。王都が陥落し、地方軍も鎮圧、次々と投降した。王族は死亡した」


 俺は無表情を貫いた。王子は死んだことになったのだ。つまり、俺の存在は無用だと宣言されたも同然だった。


「セレスタインには二つの選択が示された。一つはセレスタインがアークレインの属国になること、もう一つはアークレインと併合し、国ではなくなることと引き換えに、相応の配慮をされること。生き残った重臣達は、併合を選んだ。そのため、君たちはもう戦争相手ではない。アークレインの者だ。同じ国の者だということだ」


 生き残った重臣達が属国化ではなく、併合を選んだということがわかり、大いにざわついた。


 どちらがいいのかは考え方による。属国になれば、これまで以上に不平等な関係を強いられ、搾取されることは間違いない。しかし、セレスタイン人のままでいられる。

 併合を選べば、同じ国だとして配慮されるが、対価とし、国がなくなり、制度も変わる。セレスタイン人はいなくなり、アークレイン人になる。


 名を取るか、実を取るか。


 重臣達は実を取った。だが、恐らくは大した配慮はされない。期待するだけ無駄だと俺は思った。


「諸君がセレスタインの決定に従うかどうかはわからない。そこで、非常に簡単な質問をする。アークレイン人になるか、それとも、セレスタイン人のままでいたいかだ。今後の人生を大きく左右する出来事になるため、慎重に判断して欲しい」


 アークレイン人になる者は、このまま広場に残るように言われ、セレスタイン人のままでいたい者は、農作業地に移動することになった。


 俺はアークレイン人になることを選んだ。


 戦争は終わった。生き残った重臣達が併合を選んだのであれば、それに従うのが筋になる。

 セレスタイン人のままでいたいということは、アークレインの統治を受け入れない、反対するということだ。不穏分子になる恐れがある者と判断される。生かしておくのは危険だとなり、処分されるに決まっていた。


 ほとんどの者達は広場に残ったが、数人が農作業地に移動した。

 セレスタイン人であることを選ぶことがいかに危険なことか、わかっているのか疑問に思うしかない。但し、セレスタイン人であるという名誉を失いたくないというのであれば、話は別だ。


 暫くすると、銃声が響いた。何回も。農作業地で処刑が行われたのだろうと俺は推測した。


「アークレイン人となることを受け入れた者達を、我々は歓迎する。これからは同じ国の民だ。しかし、戦後処理は始まったばかりだ。戦争捕虜だった者達を、すぐに全員解放することはできない。ここから移動するだけでも手間になる。そこで、順次、解放許可が出た者から、解放するということになった。すでに解放許可が出ている者達の番号を発表するため、左腕の腕輪の番号をよく見ていて欲しい。一度しか言わない。番号を呼ばれた者は、我々と共にこの村を出れる。番号が呼ばれなかった者は、解放許可が出るのを待って欲しい」


 当然だが、俺は番号を呼ばれなかった。


 かなりの番号が呼ばれたが、名乗りでる者はほとんどいなかった。該当者は食料奪還部隊として外にでている者か、脱走者だろう。


 しばらくすると、農作業地に行った兵士たちが戻って来た。

 持っている袋がガチャガチャと音を立てている。恐らくは処刑した者の腕輪だ。これまでに処刑された者達の腕輪も回収していた。


 この村にいる者は全員、両手に腕輪をされている。銀か黒の腕輪と、赤い腕輪をつけている者達ばかりだった。


 結局、解放許可が出ている者は四名だった。


「移動中に必要な食料などの関係上、一度に多くの者達を解放し、移動させることはできないとなったのだが、想像以上に該当者がいない。残念だ。このことも考慮し、次回はより大勢の者達に解放許可が降りるように願っている。だが、連れ帰る者が少ない分、戻る際に必要な食料は少なくて済む。できるだけここに食料を置いていくことにする。我々は伝令部隊のため、これで退去する」


 伝令部隊は宣言通り、食料の一部を置いて村を去った。日が暮れる前にできるだけ移動したいのだろう。

 飢えている者達ばかりの村にいるのは危険だというのもある。いつ、食料を奪うために襲撃されるかわからない。


 食料は豊富とは言えなかったが、ないよりましだ。ただ、ここにいる者達だけで分け合えばいいとはならない。外に出ている者達が戻って来るはずだ。それにより、どれほどの食料が増えるのか、疑問に思えた。


 むしろ、外に出た者たちが戻らないほうがいいと思う者達もいるだろう。


 ラゼルが言った。


「諸君、仕事ができた。セレスタイン人として死んだ者達を弔って欲しい。また、夕食の準備をすぐにする。数人だけ手伝って欲しい」


 お茶とクッキーを全員食べたばかりだが、それで満足するわけがない。

 食料事情から考えると、すでに一食食べたとなり、夕食はなしという判断でもおかしくなかった。


 だが、ラゼルは夕食の準備をすぐにするという。飢えている者達に、理性的になれ、我慢しろといっても限界がある。また食料を襲撃されるよりは、すぐに食料を与えるとして、問題が起こるのを未然防いだ方がいい。


 ラゼルの判断は正しいと俺は思った。


 俺は農作業地に行き、セレスタイン人として一生を終えた者達を弔った。


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