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永遠の愛を刻む  作者: 美雪


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本編 レギウス視点 ⑤

 一週間が経った。


 朝礼の際、監視役が告げた。


「非常に残念なことを伝えなければならない。脱走者が想像以上に少ないため、食料の配分を少なくする。でなければ、次の配給まで食料が持ちそうにない。自給自足ができるようになれば、配給に頼る必要はなくなるが、今の時点では配給が命綱だ。我慢して欲しい」


 宣言通り、食事が減った。量ではない。回数だ。朝食はこれまで通りだが、夕食がない。つまり、一日一食だ。元々昼食はない。朝食の量も十分ではない。


 捕虜たちは監視役の食事が豪勢なのではないかと考えたが、監視役の食事は捕虜と全く同じだった。

 但し、監視役の補助作業にあたる者達からの情報によれば、監視役には夜食としてコーヒーとビスケットが支給されるらしい。つまり、二食だった。


 正直に言えば、多くの者達が落胆した。監視役でさえもこれほど質素であるという状況は、それほど食料問題が深刻だということだからだ。


 もし、監視役に何かあれば、この村への配給自体がなくなってしまうだけでなく、捕虜は皆殺しとなる可能性もある。だからこそ、監視役が死なないように優先されるのは仕方がないようにも思えた。


 空腹を理性で抑えるにも限界がある。しかし、農作業などをしなければならない。動けば余計に腹が減るが、働かなければ食事はない。食料も増えない。多くの者達が飢えの苦しさを味わった。


 更に二週間が過ぎた。


 ついに、我慢しきれなくなった一部の者達が食糧庫を襲った。


 食料庫にある食料を食べ、あるいは奪って脱走した。ほぼ空になった食料庫を見て、監視役は言った。


「諸君、聞いて欲しい。このままでは、全員が飢え死にするしかない。配給は一週間以上先だ。食べられてしまった食料は戻らないが、食べられていない食料は取り返すことができる。脱走者の持つ食料を奪い返すのを手伝って欲しい。私達は監視役ではあるが、君たちを不当に扱うつもりはない。なぜなら、共に力を合わせなければ、この村で生きて行くのは難しいとわかっているからだ。この困難は、今ここにいる者達全員が共有するものだ。アークレインもセレスタインも関係ない。どうか、力を貸して欲しい」


 食料奪還部隊が組織された。内訳としては、アークレインの兵一名に対し、捕虜が十人。村の外で活動する。


 俺は食料奪還部隊ではなく、村に残って農作業を続けることになった。


 奪い返せる食料がどの程度になるかはわからない。誰もが口をつぐんでいるが、あまり期待はできない。


 育てている農作物は、一、二週間すれば収穫できるものもある。更に待てば、より多くの農作物が収穫できる。絶対にこの作物を駄目にするようなことはできない。それこそ、餓死する可能性が高まるだけだ。


 俺はひたすら井戸から水を汲んで運び、畑に水を撒く作業をした。食事はない。水だけだ。しかし、水があるだけましでもある。食料奪還部隊は、簡易水筒に水を入れて持って行っただけだ。水さえも満足に飲めないような状況で、三日間、脱走者を探さなければならない。


 

 二日後、俺はアークレインの管理の建物に呼ばれた。


 人払いとすると、この村で最も階級の高い隊長のラゼルが小さな声で言った。


「体調はいかがか?」


 その時、俺は初めて、ラゼルが俺の素性を知っていることを察した。でなければ、体調はどうだ、と聞くはずだ。


「良くないに決まっている」

 

 ラゼルはため息をついた。


「本来はもっと食料があるはずだった。しかし、補給物資を管理する部隊に問題があったようだ。そのせいで、予定よりも少なくなってしまった。脱走者が多ければ調整できると思ったが、なかなか増えなかった。このままでは食料がなくなる。強制的に調整するしかなかった。我々は本来、調整をする対象ではないが、自分達だけ普通に食事をしていては、反感を買うだけであり、食料があると誤解されると思った。そこで、我々もあえて同じ食事に合わせていた。なんとか作物が収穫できるようになるまで、持ちこたえたいと思っていたが、食料庫が襲われてしまった。食料庫が襲撃されるのは時間の問題のため、それとは別の隠し食料庫があった。我々は初日に食料を保管する作業をしただけだ。その日以外、隠し食料庫に入ってはいない。食料庫が襲われた後も、隠し倉庫は無事だと思っていた。しかし、実際にドアを開けると、隠し食料庫の中も空だった」


 ラゼルは俺を見つめた。


「隠し食料庫の存在を知っていたか?」

「知らない」


 俺は正直に答えた。


「食事時間以外に、食べ物を口にしている者を見かけなかったか?」


 俺は尋ねた。


「隠し食料庫にあったのは、保存食か?」

「そうだ」

「どのような食料があったのかはわからないが、それらしきものを食べている者、普段とは違う怪しい行動をする者を見たことはない。少なくとも俺はだが」

「そうか。わかった」

「あまり言いたくはないが、捕虜が犯人とは限らない。少ない食事で我慢していたのは、監視役も同じだ」


 俺は思い切ってそう言った。


 ラゼルは苦い表情をした。


「その可能性もあるが、証拠がない。内密に調べてはいる」


 ラゼルは机の引き出しを開けると、小さい箱を取り出した。ビスケットだ。


「情報料と口止め料だ。受け取って欲しい。そして、ここで全て食べて欲しい。他の者に見つかると不味い。これは私の夜食分だ。余分にあるわけではない」

「遠慮なく貰う」


 俺はビスケットの箱を開けた。未開封のため、毒入りの可能性は少ないが、一応、ラゼルに差し出した。


「一枚やる」

「空腹過ぎて、申し出を断るのは無理だ。遠慮なく貰う」


 ラゼルはそういうと、一枚ビスケットを取って食べた。俺も残りのビスケットを食べる。


「礼として教えておく。素性を知っているのは私だけだ。他の者は知らない」

「そうか」

「殺せとは命じられていない。他の捕虜と同じに扱えばいいと言われている。贔屓すれば、必ず目立つ。私にできるのは、食料奪還部隊にしないことだけだ」

「本当に食料を奪還できるのか?」

「……わからない。だが、できるだけ軍事拠点に近い場所で、のろしを上げるように命令してある。拠点にいる者が気が付き、何かあったとして調べに来てくれれば、こちらが拠点まで歩いて伝えに行くよりも早く事態を報告できる。だが、危険ではある。一緒にいる捕虜は、村の外に出ている。私が緊急事態だとして許可を出したとはいえ、見つけ次第、殺していいという命令になっていることから、処刑だと判断されるかもしれない。村にいた方が安全だ」


 ラゼルの説明に俺は納得した。


「長居は無用だ」

「わかった」


 空のビスケットの箱を、俺はラゼルの机の上に置いた。


「これは返す」

「私の個人的な意見だ」


 ラゼルは言った。


「我慢し、生き抜いて欲しい。食料さえ収穫できれば、少しは状況が変わる」


 最初に収穫できるようになるのは、葉野菜だ。腹の足しになるか疑問だった。根菜類は三か月はかかる。遠すぎる。

 しかし、その前に配給があるはずだった。予定通りであればだ。補給部隊に問題があったとなると、期待できるのか怪しい。


 俺は不安に思いつつも部屋を去り、井戸水を飲みに行くことにした。


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