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永遠の愛を刻む  作者: 美雪


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13/20

本編 レギウス視点 ③

 俺はアークレインの駐屯軍の拠点らしき場所に移送された。


 馬車から降ろされると、一列に並ぶように指示された。

 書類を持ったアークレインの兵士と共に、一人の男性が並んでいる者達を確認し始める。


「銀」


 言われた者の左腕に銀の腕輪がはめられた。

 恐らく、捕縛者の仕分けをしているのだろう。


 その男性の姿がよく見えるようになった瞬間、俺は終わったと感じた。

 

 その男性には見覚えがあった。外務省の……確か、ユーベントだ。


 ユーベントは俺を見ると言った。


「黒と赤」


 俺の左腕に黒、右腕に赤い腕輪がつけられ、すぐに別室に連行された。


 俺は床に座るように言われた。


 俺を連行した兵士達はすぐに部屋の外に出た。


 俺は部屋を見渡した。普通の部屋だ。汚れている形跡はない。処刑室ではないかもしれない。

 但し、訊問室というには、何もなさすぎる。通常、取り調べをするような部屋には、机と椅子がある。ここには何もない。ただ部屋があるだけだ。


 やがて、アークレインの上官と思われる制服を着た者とユーベントが来た。


 部屋に入るのは二人だけで、護衛と思われる兵士達が全員出た後、ドアが閉められ、鍵がかけられた。

 俺が抵抗し、二人をうまく殺しても、逃げるのは難しい。ドアの外にいる兵士達を相手にするのは、銃を奪ったとしても、非常に難しく思えた。


「確認する。この者は誰だ?」

「第三王子のレギウス殿下です」


 ユーベントが答えると、アークレインの上官はため息をついた。


「王太子がマレージュに向かったという情報は嘘だったか」

「レギウス殿下が囮になり、追手をこちらに誘導しようとしたのでしょう。王太子はマレージュではなく、南に向かった一行の方ではないかと思われます」

「残念だ」


 上官は苦笑した。


「レギウス殿下にご挨拶申し上げる。私はアークレイン王国軍、第四師団の第二部隊長デメルート。現在、第四師団はセレスタインからマレージュに逃亡を図る者達を全て捕縛している。抵抗する者は容赦なく殺せと命じられている。レギウス殿下に関しても、捕縛を優先するものの、最悪の場合は死体でも構わないことになっている」


 王子とはいえ、俺の命はさほど重くはない。わかってはいるが、希望がすり減るのを感じた。


「レギウス殿下には捕虜になっていただく。但し、断固として拒否するということであれば、銃殺する。それが最も楽に死ねる方法だ。レギウス殿下、捕虜になるか? それとも処刑を望むか? それ以外の選択肢はない。レギウス殿下の意志を尊重する」


 俺は答えた。


「捕虜になる」

「王子としての名誉を守るため、死を望まないのか?」

「俺は王子ではない。王子としての名誉などない」

「養子なのは知っている。王の庶子として生まれたこともだ。それでも、王の息子としての義務があるはずだ。戦場に出ることもなく、国や民を捨てて逃げるとはな」

「俺がどのような立場だったのかを知っていれば、多少は違う言葉になっただろう」


 俺の言葉に、デメルートは眉をひそめた。


「ユーベント、どういうことだ?」

「王子になったことで王妃に強く敵視され、腹違いの兄王子達に冷遇されていました。王は単に生活の面倒を見ていただけで、手厚く庇護していたわけではありません。王子とは名ばかりで何の権限もなく、非常に苦労されていました。王家や国のことには関心がないでしょう。むしろ、絶対に関わらないように厳命されていたのです」


 ユーベントは俺を見て言った。


「このようなことになり、大変申し訳ございません。レギウス殿下が王か王太子であれば、結果は違っていたことでしょう」

「お前が謝って何になる? 無意味だ」


 俺は質問した。


「それよりも、俺の同行者がどうなったか知っているか? 生存しているかどうかだけでも知りたい」

「わかりません。少なくとも、私はロデウス様を見ていません。この周辺で捕縛されれば、いずれここに連行されると思います。負傷している場合は医療拠点に移送されますが、死亡している場合はそのままになるかもしれません。高位の身分だとわかる場合は、死体が回収されます」

「俺は要望を出せる立場ではない。だが、言わずにはいられない。誰が見ても、力の差は明らかだ。無益なことはすべきではない。抵抗しない者達、特に一般市民、女性子供老人には、寛大な処置と慈悲を与えて欲しい」

「私はただ逃亡を図った者達の中に、重要人物がいないかどうかを調べる手伝いをしているだけです。何の権限もありません」

「ユーベント、そろそろ行くぞ」


 デメルートが退出を促した。


 俺はドアに向かうユーベントに叫んだ。


「もう一つ聞きたい。お前はアークレインに協力し、何を得る?」


 俺の問いに、ユーベントは立ち止まった。ゆっくりと振り返る表情は歪んでいた。


「言い訳でしかないのはわかっています。ですが、正直にお答えします。私には臨月の妻がいます。戦争中であっても、無事出産できるよう、アークレインが占領した病院に保護されています。私はどんなことをしてでも、妻と生まれて来る子を守りたいのです」


 ユーベントが得るのは、愛する家族の命と安全だった。国を裏切ることは許されない。だが、家族を守りたい気持ちを理解できないわけではない。


 いや。非常に理解できた。


 俺がユーベントであれば、同じ選択をした。国や自分のことはどうでもいい。愛する者を守る方が優先だ。


「レギウス殿下、どうか、アークレインに従ってください。養子であることが、きっと有利に働くはずです」

「ユーベント、余計なことを言うな」

「はい」


 ユーベントはデメルートと共に部屋を退出した。


 その後、部屋に訪れたのは医者とその護衛だった。


 俺は軽症と判断されたものの、本当に軽症なのかを確認するために来たらしい。


 医者は傷口が化膿しないように消毒をして薬を塗り直し、更には飲み薬もくれた。

 本当にただの薬だと示すため、医者も同じ薬を飲み、安全であることを証明した。


「アークレインは歯向かう者には容赦しませんが、従う者には寛容です。だからこそ、腕輪はしても拘束用の鎖はしません。但し、一度でも抵抗すれば、即死刑です。どうか、お命を大切になさって下さい」


 医者はそういうと、護衛の兵士と共に部屋を出て行った。



 更に時間が過ぎると、ドアが開いた。顔だけをのぞかせた兵士が尋ねて来た。


「しばらくはこの部屋に監禁されます。この部屋にはトイレがありません。ご利用されたい場合は、ドアをノックしてください。トイレまでご案内します。食事はここに運ばれます。寝るのもこの部屋です。毛布は一枚しか支給されません。一人一枚というのが規則なので、どんなに寒くても、それ以上は用意できません。何か質問などはありますでしょうか? お答えできる範囲であれば、お答えします」


 俺は驚いた。兵士の態度が親切だったからだ。王子だからだろうか。


「配慮に感謝する。質問がある。この腕輪は捕虜の印なのか?」

「そうです。平民の捕虜は銀、貴族の捕虜は黒、重要人物や危険人物は赤の腕輪もつけられます。その腕輪を見れば、すぐに捕虜だとわかります。逃亡しても、すぐに脱走者だとわかってしまいます」


 王族の腕輪はないようだった。


「腕輪には記号と番号がある。捕虜番号だと思うが、俺は二つの腕輪をしている。どちらが俺の番号になる?」

「黒の番号です」

「いつまでここにいることになる? 明日にでも処刑されるのか?」

「……私にはわかりません。ですが、重要な決定は師団長がします。師団長の判断次第ではないかと思います」

「ここにいるのは第四師団の第二部隊だと聞いた。マレージュに向かう者達を捕縛していると。戦火を逃れるために、マレージュに向かう一般市民も多くいるだろう。全員、捕縛対象なのか? 正直にいって、捕縛しきれないのではないか?」

「私にはお答えできません。ですが、わかることもあります。アークレインに従わない者には容赦しません。即時、処刑の許可が出ています。お命を大切にされたいのであれば、絶対に大人しくしていて下さい。反抗や逃亡を疑われるような行動もしないで下さい」

「抵抗する気はない。だが、鎖などをしなくていいのか? 腕輪をつけられたが、手も足も自由だ」

「それがアークレインのやり方です。人権を尊重しています。ですが、反抗しやすくもあります。だからこそ、いざという時には容赦しません。逆らった者は、すぐに処刑します。それに、捕虜全員に鎖をつけるのは大変です。鎖を用意しなければなりません。輸送物資が増え、経費もかかります。できるだけ無駄を省いているのです」

「賢いな」

「軍事大国なので、軍も色々と工夫をしています。あくまでも個人的見解ですが」


 兵士はそういって笑った。

 

 俺は思った。こいつはかなりの下っ端だ。でなければ、このようにベラベラと話すわけがない。


「俺と話しているのは不味いだろう。特に用はない。もういい」

「出血されたと聞きました。気分はいかがですか?」

「医者が診たばかりだ。問題ない」

「水でもお持ちしましょうか?」

「いらない」

「飴はどうですか? ミント味の飴ならあります。眠気や空腹を紛らわせるためのものですが」


 俺は眉をひそめた。


「空腹? 食料が不足しているのか?」

「食事は三食支給されます。ただ、普通の量です。大盛やお替りは原則できません。どうしても、小腹が空きます」


 補給物資は十分にあるようだった。兵士の言葉を信じればだが。


「悪いが、少し寝たい」

「そうですか。では、何かあればノックして下さい。私が交代して、別の者になっても大丈夫です。丁寧に接するよう指示されています」


 兵士はにっこりと笑うとドアを閉めた。


 嘘くさい笑顔だと思いつつ、少しでも体力と精神力を温存するため、俺は仮眠することにした。

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