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永遠の愛を刻む  作者: 美雪


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10/20

本編 ロデウス視点 ⑦

 僕達は病院を退院し、王都に戻った。また元の生活に戻ることになった。いや、違う。本当の夫婦になれるよう、やり直すことになった。


 いきなりすぐにというのは、色々あったために難しい。気持ちの整理もつかない。そこで、結婚式を挙げることにした。


 僕達は非常に簡素な結婚式だった。証人の見守る中、夫婦としての誓いの言葉を述べ、婚姻誓約書にサインするだけ。レティはウェディングドレスも着ていない。結婚指輪でさえ、右の薬指にしていた指輪を、左の薬指に移しただけだ。その後、新しい指輪を買うこともなかった。


 レギも共に受け入れると言った以上、新しい結婚指輪を買い、レギから貰った指輪を外すようにとは言えなかった。僕なりに配慮しているつもりだった。


 レティは指輪を海に投げ捨ててしまったため、もうない。僕はレティに新しい指輪を贈ることを約束した。僕の愛情を示すためにも、物凄い指輪を贈ることを決意した。




 青騎士団の宿舎に戻り、しばらくはぎこちない生活が続いた。なぜなのか、怪しまれた。目ざとい者は、レティが指輪をしていないことにも気付いた。不仲、離婚危機と思われたかもしれないが、何も言わないままでいることにした。


 しかし、一部の者は知っている。僕がオークションで宝石を高額で落札したことを。そして、その宝石を指輪にするよう特注していることも。


 なぜか、王太子がそのことについてうるさく聞いてくる。宝石の値段は知られている。何かの記念日か、どんなデザインにしたのかと、細かく質問してくる。教えるわけがない。プライベートなことだ。


 ようやく、宝石商から連絡が来た。指輪が完成したのだ。僕は王太子の許可を取り、すぐに指輪を取りに行った。おかげで、レティよりも先に王太子に指輪を検分されることになった。そして、贈る理由を説明するよう命令された。僕の上司は時々権力の使い方を間違える。本当に困った上司だ。


 王太子は、レティがレギと一緒に行かない選択をしたことを知っている。僕はレティと本物の夫婦になるため、真の愛情を示す証として、特別な指輪を贈ることにしたと話した。


 週末。僕は青騎士と家族達が夕食に集まった際、レティの前に跪き、プロポーズをした。


「僕達が結婚したのは、戦争が起こり、互いに不安だったこともある。愛情だけで決めたといいきれるかはわからない状況だった。今は戦争も終わり、生活に関する不安もない。もう一度気持ちを確かめ合うためにも、きちんとした結婚式を挙げたい、そして、僕はレティを妻にすることだけでなく、永遠の愛を神の前で誓う。君を一生愛し、守り続けると」


 僕はポケットから特注の指輪を取り出し、レティの薬指に嵌めた。


「レティシア、僕と結婚して下さい」


 レティはうつむいていた。そして、小さな声で返事をした。 


「はい」


 僕はレティを抱きしめた。もう離したくない。ずっと一緒だ。


 盛大な拍手が起こり、その後、夕食会は、僕達を祝うための祝宴に変更となった。何度も乾杯すると共に、大量の酒が消費され、僕は当然のごとく、青騎士達に酔い潰された。




 僕達が結婚式を挙げることを、早速王太子が聞きつけた。青騎士の誰かが話したに違いない。間違いない。僕はまだ何も言っていないからだ。


「任せておけ」


 バンバンと痛いほど、背中を叩かれた。わざとだ。


 相手は上司。しかも、王太子だ。断れるわけもない。


 王太子は側近達を呼びつけ、集合させた。


「よく聞け。ロディがレティシアと結婚式を挙げる。青騎士の結婚式だ。相応でなければならない。ロディはこの国について、まだよく知らない。本人に手配させるのは不安だ。そこで、私が仕切ることにした。全員に命令する。お前達で手配しろ。派手にするぞ」

「わかりました」

「了解」

「ド派手にしてやるからな!」

「破産させてやる!」


 側近達が盛り上がった。破産とか、冗談でも酷い。僕は嫌な予感をたっぷりと感じた。




 この国の結婚式は、非常に派手にするのが主流らしい。勿論、お金がかかる。


 僕を囲んだ側近達がまず確認したのは、お金のことだった。


「お前の財産はどの程度ある?」


 凄く嫌な質問だ。


「その質問はおかしいと思います。結婚式の予算はいくらかと聞くべきでは?」

「お前の感覚では、この国の風習にあわない結婚式しかできない。恥をかくことになる。公爵の息子で、王太子の側近だ。貧相にするわけにはいかない。借金してでも、豪華な結婚式を挙げないと不味い」

「借金はしたくありません」

「だからこそ、聞いている。財産があれば、借金しないで済むだろう?」

「予算を言うので、それでやって欲しいのですが」

「取りあえず、予算はいくらだ?」


 僕が予算を言うと、全員が呆れる様な顔をした。そして、文句を言う。少なすぎる。ありえないと。


 僕は自分の屋敷に住んでいるわけではないため、自宅で披露宴をするという選択はない。そこで、最高級ホテルでの披露宴にかかる費用を調べて決めた予算だ。駄目出しされるとは思わなかった。一体、どれほどかかるというのだろうか。


 理由を聞くと、予算の額がレティに贈った指輪よりも低いのが駄目らしい。普通は指輪以上の費用をかけて、結婚式をするべきだと主張された。


 それはわからないでもない。ただ、レティに贈った宝石は、オークションの品だっただけに、物凄い金額だ。特別な指輪にしたくて、特別な宝石を探した。正直、無理をして購入したのはある。だというのに、結婚式でそれ以上というのは、微妙だ。


 はっきりいって困る。僕の財産はすぐに現金化できるようなものばかりではない。預金にも限りがある。本当に借金や破産させる気なのだろうかと不安になった。


「仕方がない。こちらで調べておく」


 僕は予算内でどんな結婚式ができるのか調べる、という意味だった。しかし、違った。


 後日、王太子も出席する会議が行われた。僕の結婚式に関する会議だ。資料が配られる。僕はそれを見て驚いた。僕の財産リストがあったからだ。側近達は自分達に与えられている特別な特権を駆使し、僕の財産を調べ上げたのだ。職権乱用過ぎる。この上司にしてこの部下だ。


「ロディの財産が判明した。隠し財産以外は、リストにある通りだ。正直、ムカつくほど持っている。実家の父親が結婚を理由に、併合地以外にある資産を、すべてロディ名義にしたせいだ」


 進行役のディックがそう言った。


「本来なら、これらの財産を売り、現金化し、それで結婚式の費用に充てるべきだ。しかし、すぐに現金化できるものばかりではない。また、花嫁が可哀想だ。財産を失っても、夫を見捨てるタイプではない。自分のせいだと自身を責め、一生、献身的に夫に尽くすタイプだ。ロディはむしろ喜ぶ。これ以上、ロディを幸せにしてやる義理はない」


 酷いことを言われている。でも、僕は我慢した。非常によくない状況だ。恐らくこの中に僕の味方はいない。敵だらけだ。何か言ったら、完全にやり込められる。


「また、ロディは青騎士、王太子の側近ではあるが、新人だ。公爵家の出自であることからも、それなりにする必要はあるが、爵位がないことを考慮し、できるだけ抑えてやることにした。王太子の寛大なる配慮だ」


 ディックは次のページをめくるようにいった。


「結婚式は大聖堂。これはもう絶対だ。招待客は二千人程度。そして、披露宴の会場は三択だ。これらのいずれかを貸し切りにする。一、王立歌劇場、二、王立美術館、三、王立植物園。招待客は四千人から七千人の間。会場で異なる。王立歌劇場は五千、美術館は四千、植物園は七千人程度が上限だ」


 その後、推定予算が発表される。僕はめまいがした。他人事であって欲しい。僕のことだとは思いたくない。どこにそんなお金があるというのか。少なくとも、現金はない。


「では、多数決でどの会場かを決める。王立歌劇場がいいと思う者は挙手して欲しい」


 僕意外の全員が挙手した。終わった。即決だ。


「では、王立歌劇場にする。招待客は五千人まで。ロディに聞いても無駄であるため、クライスター公爵に誰を招待するか相談する」


 結婚式は凄いことになりそうだった。僕は恐ろしくなった。




 王都で最も格式が高い大聖堂で、僕達の結婚式は執り行われた。招待客は約二千人。結婚式の後は王宮に行く。国王と王太子に謁見し、結婚式を挙げた報告をした後、国王と王太子が主催する昼食会に出席。約六百名の重臣や高位の貴族が招待されていた。僕の席の隣は宰相夫人と、外務大臣の妻だ。レティの席は宰相と外務大臣に挟まれていた。宰相も外務大臣も顔が緩んでいた。デレデレだ。二人とも、レティの美しさを褒めちぎっていた。僕はそれを眺めつつ、宰相夫人と外務大臣の妻の機嫌取りをしなければならなかった。拷問だ。


 王太子は国王と話していたが、その内容は、レティについてだった。


 レティは美人だ。内面的な美しさを感じるため、余計に魅力的なのだ。一見しただけでは、やや冷たそうに見えるものの、実際はとても優しい。笑顔の威力は計り知れない。


 王太子が側妃にしたかったと冗談を言うと、国王まで自分もだと笑っていた。本当に冗談であって欲しい。僕は心から願うしかない。


 昼食会が終わった後も、出席していた重臣達にお祝いの言葉を述べられた。それに挨拶をするだけで、たっぷり時間がかかる。


 なんとか切り上げて帰って来たものの、夜は披露宴だ。欠席するわけにはいかない。




 王立歌劇場での披露宴は大貴族の証と言われている。予約を抑えるのも大変だが、費用も相当かかるだからだ。貸し切りにするだけで、凄い金額がかかる。しかし、王立だけに、王族や王族の親衛隊である青騎士の場合、貸し切り料が無料になるらしい。僕は青騎士のため、それに関しては無料だ。倹約されているともいえる。


 しかし、会場の飾りつけ、招待客の飲食費など、費用はいくらでもかかる。本来は警備費用もかかるのだが、王太子がこっそり来ることになっているため、王太子を警備する者達が必要だ。騎士団と王都警備隊と軍が出動して、会場や周辺の警備に当たる。これは全て王太子のせいであるため、国が負担する。僕は警備費用も節約することができた。王太子も役に立つことがある。


 僕とレティは主役であるため、ファーストダンスを踊ることになった。これからダンスだという時、急に僕達は青騎士達に囲まれた。何が起こったのかと思うと、王太子が登場。そして、花嫁とファーストダンスをするのは自分だ、なぜなら、一番ここで偉いからだと主張。忠誠心を見せろと挑戦的に告げた。


 僕は記憶力がいい。王太子はいつか、何かするといっていた。これなのだ。本当に仕方がない上司だ。僕は大きく深いため息をつき、自分は王太子に忠誠を誓う青騎士だと述べ、レティを王太子に差し出した。


 レティはファーストダンスを王太子と踊ることになった。正直に言えば、相当ムカついた。しかし、前半部分だけだった。後半部分は僕に交代した。


 僕達はファーストダンスを無事踊り、拍手喝さいを受けた。驚くべき余興はこれだけではなかった。披露宴の演奏は全て王立歌劇場管弦楽団が演奏したのだが、非常に有名な歌手達が何人も呼ばれ、愛の歌を熱唱したり、王立バレエ団のトップダンサー達が、華やかな衣装で踊りを披露したり、様々な趣向が凝らされていた。


 はっきりいって、これは貴族の披露宴ではなく、王族の披露宴ではないのかと感じるほど、豪華絢爛、贅沢なものだった。こういった余興については、全く知らされてなかった。恐らく、裏会議をして決めていたのだ。


 僕が最終的に負担するであろう費用の見積もりは、かなり安かった。貸し切り料や警備費の節約だけでなく、招待客から貰えるご祝儀のせいだ。こういった余興の費用も含まれているのだろうかと不安になった。すると、余興は全部王太子からのご祝儀代わりであるため、王太子が負担するらしい。安心するようにと、ディックやサイモンが笑いながら教えてくれた。僕は王太子には散々にお金を遣わされている。主に高級娼館のせいで。この位は負担して貰っても、バチは当たらないと開き直ることにした。


 二十四時になると、時間を告げる鐘が鳴った。僕達は大勢の招待客に冷やかされつつ、結婚式後の初夜を過ごすために、最高級ホテルに向かった。青騎士団の宿舎は豪華であるものの、いつも生活している場所だ。そのため、初夜は別の場所でとなった。


 最高級ホテルでは、結婚式を挙げた者のために、様々なプランを用意している。最高級の初夜を過ごすための宿泊プランもあるらしく、それを利用することになったのだ。


 僕は相当緊張した。初夜。しかし、レティは緊張していなかった。疲れ切っていた。そのため、僕がシャワーを浴びている間に、眠ってしまっていた。


 僕が呆然としたのはいうまでもない。でも、レティを起こすわけにはいかない。この美しい寝顔を堪能できるだけでも、僕は世界一の幸せ者なのだ。


 焦ることはない。僕とレティは本物の夫婦になるのだ。ゆっくりでいい。


 僕はレティを起こさないようにベッドの中に潜り込むと、レティに毛布をかけた。レティが寝返りを打つ。僕に背を向けてしまった。僕は大きなため息をつくと、後ろからレティを抱きしめた。レティがまたもぞもぞと動き、僕の方を向いた。それだけで凄く嬉しい。


 胸にぴったりと寄り添うレティの姿に、僕は見惚れた。女神がいる。


 僕とレティは互いの墓標に愛の言葉を刻むと誓ったものの、それよりも前に、結婚指輪に永遠の愛の言葉を刻み、神の前で誓った。


 この永遠の愛の言葉、想いが失われないように、僕はこれからも全力でレティを守る。


 僕はレティの額にそっと口づけた。






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