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鉄火の魔女王  作者: 8D
アルカ国革命編
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十三話 報告と方針

 魔女の巣。

 そこの中央に建つ作戦会議用の小屋には、カオルコ、クローフ、エルネスト、ウーノ、そしてフォリオの姿があった。


 クローフが口を開く。


「先日、北の港町においてオラフ商会と取引を行う事となった。物資の購入もそこで行なうつもりだ」


 クローフの言葉にエルネストが質問を投げる。


「オラフ商会ですか……。結構有名な所ですね。信用はできるのでしょうか?」

「正確には、そこの三男坊との個人的な契約になるが……。実際に話をした所感からすると、まぁ大丈夫だろう。条件を満たせれば、という但し書きは必要だが」


 クローフが答えると、エルネストは首を傾げた。


「条件?」

「そうだ。それについても話しておこう。

 この取引で買い入れた物を栽培、加工して彼に市場へ流してもらう事になっている。

 その手数料として、売り上げの何割かを向こうへ差し出す予定だ。

 つまり、この取引は向こうにも利益を与えるわけだ。

 その利益が向こうの満足する物であれば、裏切られる事もないだろう」

「向こうを満足させる事が条件ですか」


 クローフは頷いた。


「とはいえ、俺の所感だけでは何とも言えない。経験豊富な俺でも、人の心を読めるわけじゃないからな。念のため、彼の事はウーノに詳しく調べてもらうつもりだ」


 クローフが言ってウーノを見ると、彼女は小さく頷いた。


「栽培物に関してはカカオと……それから煙草を考えている」

「あったのか、煙草」


 クローフが言うと、カオルコは呆れたように呟いた。


「倉庫においてあった。もう煙草を吸う文化というものがこの世界にあったらしく、流石にこれはカカオみたいに捨て値とはいかなかったが……。無理を言って値切って買った」

「そんなに吸いたいか」

「吸いたい。自分で栽培した煙草を吸うというのは、なかなかのロマンだ」

「わからないな」

「だが、俺の夢を差し引いたとしてもこれを栽培して損は無い。既に扱い方を見出され、価値の確定したものだ。栽培に成功すれば、カカオよりも安定して売り上げが見込めるだろう」


 煙草のにおい、嫌いなんだけどな……。

 とカオルコは思いつつ、口に出さなかった。


「あとは、鉄を買ってきた。あまり量は揃えられなかったが、これを元にAKの製作に取り掛かってもらいたい。フォリオ」

「はいはい」


 クローフが呼ぶと、白衣を着たフォリオが返事をする。


「構造が単純だから、作り方に関してはそれ程難しいものじゃない。俺が一度レクチャーしておこう」

「だいたい把握したけど、参考までに聞いておくよ」

「その作り方から、生産するための設備も考案して欲しい。大量に早く作りたいから、できるだけ生産の効率化を図ってほしい」

「わかったよ」

「クロムメッキについても頼みたいが、それは後ほどエルネストも交えて話したいと思う」

「はい」


 エルネストが了承の返事をした。


「あとは……」


 クローフは言葉を切り、一同を見回す。


「戦略的な部分か」

「アルカにどう勝つか、って事だな」


 カオルコが言う。

 クローフは頷いた。


「カオルコとは少し話し合ったんだが……。冷静に考えて、かなり不利な状況だ。天地人、全ての要素で俺達はアルカに劣っているからな」

「天地人?」


 クローフの言葉に、エルネストが聞き返す。


「天の時、地の利、人の和。天は有利なタイミング。地は地形による有利不利。人の和はチームワークという所かな」

「なるほど」

「今の俺達は、そのどれにも恵まれていない」

「確かにそうですね」

「とはいえ、地の利と人の和だけはあるほうか。少なくとも、この山での戦いなら負けないだろうし、魔女達の結束も固い。一番重要だと言われる人の和に恵まれているのは幸いだがな……」

「それでも、勝てないのですよね」

「まぁな。総合的な戦力から見ても勝てる見込みは無い。現に、今も負けが込んでいる」

「確かに、この山と魔女の巣の魔女達だけでは一国全てを相手にできませんからね」


 ミリーク山を舞台とした防衛戦において、魔女達の勝率は今の所100%である。

 ゲリラ戦に特化した戦闘魔女が、地理を熟知した山間での戦いに滅法強いためだ。

 なおかつ、ビルリィによって魔女と貶められた者達にとって、この戦いに勝利する以外生きる道はない。そのため裏切る者はおらず、士気も高い。


 これらが、二人の言う地の利と人の和だ。


 しかし、その範囲はアルカ国全土に比べて微々たるものだ。

 規模という点において、圧倒的に劣っていた。


「天の時はどうなんだ?」


 カオルコが訊ねる。


「この国においては、常にアルカへ傾いている……。というより、魔女には傾かないようになっている。俺達が魔女と呼ばれる限り、大義は得られない」


 この国はビルリィという国教を拝している。

 その教義には魔女を滅ぼす事がある。

 その教義がある限り、この国で魔女に利する者は現れない。


 例外があるとすれば、他国の人間か、多様な価値観を持つ北の港町の人間くらいだろう。


「だから、考えられる手段はなんとかアルカ国の攻撃をいなしつつ、商売によって資金を増やし、他国の傭兵を雇って戦力を増強する。それくらいだ」

「途方もないな……」


 カオルコの呟いた言葉どおり、それは途方も無い遠大な計画だった。

 そもそも、今の状況でアルカ国の攻勢を防ぎきる事は至難の業である。

 その上で傭兵を集め、物資を調達し、アルカ国と渡り合うための勢力を作り上げるまでには長い時間が必要となってくる。


 それはあらゆる苦慮に耐え続ける厳しい時間だ。


「でも、やるしかない。それに、もしかしたら時間が経てば他の方法が視野に入るかもしれない。それまでは、雌伏の時をしのぐ他ないだろうな」


 会議室に沈黙が下りる。


「そうだな。なら、頑張ろうか。幸い、そういう戦いには慣れてる」


 カオルコが口を開く。


 思えば、彼女の人生の半分以上は一つ長い戦いの中に終始していた。

 物心ついた時から彼女は戦場にいて、いつ終わるともしれない戦いを続けてきたのだ。


 自由を勝ち取るための戦いを……。


 その戦いは家族の死と共に終わったけれど。

 今度こそは、家族を守りたい。

 死なせたくない。


 彼女はそう思っていた。


「俺もさ」


 クローフも答え、笑みを作る。

 カオルコも笑みを返した。


 そんな時である。


 会議室へ、一人の魔女が入って来た。


「大変です!」


 扉を開けるのと同時に、彼女は叫ぶ。

 とても慌てた様子だった。


「どうした?」

「潜伏地の一つが、アルカ国軍に襲撃されました!」

「どこだ!?」

「ハイネの町です!」


 カオルコはその報告を聞いて、エルネストを見た。


「ハイネはここから北西に位置する町です」

「今から行って間に合うか?」

「そう遠くはありません。間に合うと思います」

「じゃあ、行ってくる。おい」


 カオルコは報告に来た魔女へ声をかける。


「はっ!」

「すぐに出られる奴を集めてくれ」

「はい! その事なのですが、ミカさんの部隊がついていくとの事です」

「ミカ……。欠落ロストピースの連中か」

「腕は確かだ」呟く彼女に、クローフが口を挟む。


 カオルコは答えず、魔女へ続ける。


「わかった。三分以内に用意を整えられる連中を広場に集めてくれ。参加は自由。主な目的は仲間の救出だが、相手の規模によっては徹底抗戦も視野に入れる。武器弾薬は持てる限り多めに用意してくれ」

「はっ! 行ってまいります」


 報告の魔女は、声を張り上げて外へ出て行った。


「カオルコさん」


 エルネストが声をかける。

 カオルコは振り返った。


「お気をつけて」

「ああ」

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