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鉄火の魔女王  作者: 8D
アルカ国革命編
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十一話 港町

 魔女の巣から北へ向けて進むと、弧月形の港を持つ町がある。


「あそこがそうか」


 馬車の窓からその港町の入り口を目にし、カオルコは呟いた。


「そういえば、お前は初めてだったな」

「ああ」


 隣に座っていたクローフが言い、カオルコは答えた。

 馬車の中には、カオルコの他にクローフとクリスタニア、そして戦闘魔女が二人。

 戦闘魔女の一人は御者台で馬を操っていた。

 その五人が馬車に乗っている。


 皆、目立たないように変装していた。

 武器も馬車の床下に隠している。


 彼女達は、資金源となる栽培物、そしてAKと弾薬の材料となる金属類を調達するために港町へ訪れた。

 この港町には様々な国から品物が集まり、それらを持ち寄った商人達による市が立っていた。

 カオルコ達の望むものを調達できる可能性は十分にあった。


 たとえ、今日手に入らなくとも市に並ぶ品揃えは毎日変わる。

 数日滞在すれば、その可能性も上がる事だろう。


 かつてはミリーク山の山中に港町へ通じる崖の抜け道があったが、先の戦いでその道は塞がれたままである。

 よって彼女達は変装し、馬車で街道を利用する正規のルートで港町へ赴いたのだ。


 町に入ると、一度この町の潜伏地へ足を運んだ。


「は! これは! カオルコ様……!」


 潜伏場所の家屋へ入ると、一人の戦闘魔女が出迎え、その相手がカオルコであるとわかると固い動作で敬礼した。


「確か、インテグラだったか?」

「は、はい! 名前を覚えてくださっていたのですか? 感激であります」


 彼女、インテグラは前の戦いの時にクリスタニアと共に、この港町への脱出計画を指揮した指揮官を務めた魔女だ。

 短い金髪の生真面目そうな女性である。

 体格は大きい方だ。


「仲間の名前は忘れないさ」

「ありがとうございます!」


 ちなみに、ちょっと声が大きい。


 家屋の中へ入る。

 テーブル席へ案内され、それぞれに水を振舞う。

 そんなカオルコ達を家屋に詰めていた魔女達が整列して見守っていた。

 時折、ヒソヒソと魔女達は内緒話をしている。


「あれがカオルコ様……」

「初めて見たわ。ちっちゃくてカワイイ!」


 居心地が悪いな、と思いつつカオルコは水を一口飲んだ。


「何か変わった事はないか?」

「はい。クローフ様。毎日、退屈なくらいであります」


 クローフの問いに、インテグラが答える。


「ならいい。もう聞いているかもしれないが、ハリントが落ちた。ここは大丈夫だと思うが、警戒は怠らないようにな」

「はい。胆に命じておきます!」


 それから二、三注意事項をやり取りすると、長旅の疲れを落とすために休憩する事となった。


「クリスタニア。よくぞ無事でありました。心配したのでありますぞ」

「ありがとう。ごめんね、インテグラ。心配かけて」

「またこうして会えて、本当によかったであります」


 互いに指揮官適正を見出された人間であるからか、クリスタニアとインテグラは仲が良いようだった。


 少しして、市へ出かける事となる。

 人員は、カオルコ、クローフ、クリスタニア、インテグラの四人である。


 インテグラが案内するように先導し、道を進む。


「何か、雰囲気が違うな。この町は」


 カオルコが、街並みを見ながら言う。

 他の町は、魔女との戦いのためかピリピリとした雰囲気があった。

 よそ者を注意深く見る目は多く、それどころか町の住民同士で互いを見張っているようでもあった。

 これは、魔女狩りによって生じた習性なのかもしれない。


 けれど、ここにはそれがなかった。


「だろうな。ここはアルカ国内で、ビルリィの影響力が一番少ない」


 クローフが答える。


「ここにはいろんな人間が集まる。国も宗教も思想も違う人間だ。そんな多種多様な人間同士がやっていくには、ある程度の許容が求められる」

「だから雰囲気が違う?」

「違うと感じられるなら、その違いがこの町を成り立たせているんだろう。そして、アルカとしても、交易の拠点となるこの町を失うわけにはいかない。だから、黙認しているわけだ。まぁ、一種の治外法権だな」

「ふぅん」


 一行は、市に着く。

 市は、港近くの広い通りに沿って開かれていた。

 主に、屋台のような簡素な店が並び、中には敷物の上に商品を無造作に並べただけの店もある。

 市は賑わい、人通りは多かった。


「さて、片っ端から見ていくか」


 クローフの言葉に頷き、解散してそれぞれ市を見回り始めた。

 何が有用なものであるか、それを見極められる人間がクローフしかいないため、皆クローフに声をかけられる距離を維持している。


「クローフ様、これはどうでありましょうか」

「今行く。……これは栽培に向いていない」

「クローフ様。こちらは……」

「うん……。一考の余地はあるかもしれない。一応、買っておこう」

「ドクター。これなんだが」

「ああ。待て」


 クローフは、呼ばれるたびにその場へ赴き、確認作業を行った。

 いくつか有用そうなものを見つけて、買い取っていく。

 主に栽培物となるであろう野菜などだ。


「大変だな、ドクター」


 呼ばれる度にあちこちを行き来するクローフに、カオルコは言う。


「ああ、カオルコ。……せめてお前が前の世界で、もう少し勉強していてくれればなぁ」

「それでも、まだ他より物を見る目はある」


 カオルコはムッとして言い返す。


「じゃあ、これが何かわかるか?」


 そう言って、クローフは露店に並べられた果物を無造作に掴んで言った。


「わからん」

「だろうな」


 クローフは溜息を吐いた。


「お前の大好きな物なんだがなぁ」

「そうなのか?」


 カオルコは小首を傾げる。

 果物を注視する。よく見れば、その正体がわかるかもしれないと思っての事だ。

 表皮がゴツゴツとしている。


 やっぱりわからない。


「やっぱり見た事がない。何なんだ、これは?」

「それはあとで言おう」


 クローフは答えを後回しにした。


「しかし、やっぱり勉強は必要だったな」


 呆れた様子でクローフは言い、カオルコは眉根を寄せた。

 少しばかり悔しい。


 何か見返す事はできないか、とカオルコはカカオが置かれていたのと同じ露店を見る。


 どうやら露店の品は、種類の統一がなされていないようだった。

 果物もあれば雑貨もあり、貴金属や宝石もある。

 混沌とした店だ。

 唯一統一されているのは値段だけだ。


 敷物の上に置かれた商品の値段は一律同じである。

 それもさほど高くない。

 要は、用途のあまりないガラクタ売りというわけだ。


 そのためか、先ほどから店先でやり取りするカオルコ達を前に、歳若い店主は接客する素振りを見せない。

 寝転がって眠そうにしていた。

 それでも商品から決して目を離さないが。


「なぁ、ドクター。これって……」


 カオルコはクローフに声をかけ、店先で見つけた金属の塊を指した。

 金属は光沢の少ない灰色だ。


「ほう。これは……」


 クローフは目を細めた。


「店主。この二つなんだが」

「ん?」


 クローフは、先ほどの果物と金属を店主に見せて言う。


「現品限りなのか?」


 店主は、黙ったまま眠たそうな目で二つを見る。


「無い。……事もないぞ」

「この料金で他も譲ってくれるなら、あるだけほしいんだが」

「……」


 店主は起き上がって座る。

 クローフの目を真っ直ぐに見た。


「構わねぇけど……。その代わり、何に使うのか教えてくれねぇか?」

「……ダメだと言ったら?」

「二つ目以降は値上げする」

「……教えてもいいが、その前に契約書を書いてもらいたい。教えた後も、先の取引内容で売買を約束する、と」

「それどころか、そこからさらに半額で提供してやるよ」

「断れないな……」


 クローフは苦笑し、店主はニヤリと笑った。


 そのやり取りに参加できず、カオルコと魔女二人は男二人を見守っていた。


「いったい、何なのでありましょう?」

「わからない。ただ、高度なやり取りに違いない」

「ただの商談ですよ?」


 インテグラとカオルコのやり取りに、クリスタニアは答えた。


「いいだろう。で、話はここでしていいのか?」

「いや、うちの店でしよう。せっかくの儲け話だ。不用意に知られなくないからな」

「ここが店じゃないのか?」


 クローフは訝しみ、聞き返す。


「これは俺の趣味だ。お前ら、露店を片付けておいてくれ。一人は店へ帰って、準備を整えろ」


 店主がどこへともなく言葉を発する。すると、どこからか男達が現れた。

 言われた通り、露店を片付け始める。


「うちの店の従業員だよ。さぁ、ついてきてくれ」


 言われて、クローフは一度カオルコを見る。


「ドクターに任せる」

「わかった。じゃあついていこう」

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