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鉄火の魔女王  作者: 8D
アルカ国革命編
36/46

六話 現状の確認

 魔女の巣へ帰還したカオルコは、ウーノの案内によってクローフの診療所へ案内された。


 診療所へ足を踏み入れたカオルコを見て、椅子に座っていたクローフは笑みを向ける。

 クローフはカオルコのリハビリが終わる少し前、一足先に本拠へ帰り着いていた。


「無事に着いたようだな」

「ああ。ドクターのリハビリメニューのおかげだ。久し振りの戦いでも遅れをとらずに済んだ」


 クローフの顔色が変わる。


「戦闘があったのか? どこで?」

「ハリントと、それから魔女の巣の手前だ」

「ハリント? それに魔女の巣の手前だと? そんなに近くまで連中が来ているのか?」

「あー、ちょっと違うな」


 座っていた椅子から腰を浮かしかけたクローフを制し、カオルコは訂正する。


「ハリントでの戦闘は確かだが、本拠の手前というのはウーノだ。遊びに付き合わされた」


 それを聞いて、クローフは椅子へ座りなおした。


「ならよかった。ずいぶんと熱烈な歓迎を受けたじゃないか」


 含み笑いを浮かべてクローフは軽口を返す。


「まぁな。本拠地に入ってからも凄かったぞ。顔見知りの魔女が寄ってきて、揉みくちゃにされた」

「ああ。騒がしかったのはそれか。古参の魔女は、お前の事が好きな奴ばかりだからな。崇拝していると言ってもいいくらいだ」

「私はあくまでも、一戦士でしかないんだがな」

「強い戦士というものは、時に崇拝の対象となる物だ。英雄としてな。それより、ハリントで何があった?」

「ああ」


 カオルコは、ハリントであった事をクローフに話した。


「あそこが落ちたか……」

「代わりに、相手は全滅させてやった」

「保護者として、ここは病み上がりの無茶を叱るべきなんだろうがな。正直、助かった。襲撃に備えるにも、本拠地の場所を変えるにも、時間稼ぎにはなった、か」



 クローフは深く溜息を吐いた。

 疲れを多分に含んだ溜息だ。


「……なぁ、カオルコ。お前の目から見て、どう思う? この戦況は」


 勝てると思うか? その言葉が後に続きそうな声色だった。

 カオルコはその噛み殺された言葉を察しつつ答える。


「難しい。民間人からの支持がないのは痛いな」

「そうだな。革命、それもこういったゲリラ活動の成否を大きく左右するのは民衆の支持だ。国の要は人だ。その人々の力を以ってせねば、国という大きな物は倒せない」

「情報も物資も期待できない状態だからな。でも、仕方がない。この国で現状を変えようとする人間が少なすぎるんだ。現状の支配構造を不満に思い、打破する意欲が民にはない。むしろ、不満に思われているのは、私達魔女の方だからな」

「ああ。そして、もう魔女が増える事はないだろう。少なくとも、魔女の巣の魔女達が淘汰されるまで。人的戦力の増強はもう期待できないわけだ」

「その点だけを見れば、絶望的だな」


 カオルコの言葉にクローフは苦笑する。


「ふっ、それだけじゃないぞ」

「?」

「人もいないが、武器もないし金もない」

「それはまた……」

「魔女の銃器は時間を追うごとに減り、同時に敵の手へと渡っている。

 金がないから作戦行動のための物資などが揃えられない。

 本拠の連中は山にある物で何とか凌げるが、街に潜伏している魔女達は潜伏地で働いてどうにか調達してもらっている。

 それもかなり厳しい状態らしい。撤退を視野にいれなければならない程だ」

「笑いしか出てこないな」


 カオルコは苦笑する。


「それで、その現状を聞いて改めてどう思う?」

「忘れたのか、ドクター?」


 カオルコは笑みを消し、真剣な表情でクローフを見る。


「私達はずっと、そういう戦いを続けてきたんだ。勝てるかどうか、そんな確実性を重視して戦いに挑んだ事なんてない。父さんはいつも、弱い立場の人間を解放したいと願って、戦い続けてきたんだ」

「忘れちゃいないさ」

「だから私も、父さんみたいに戦う。どんなに絶望的でも、勝つ事だけを考えて戦う。そのつもりだ」

「そうだな。わかった」

「それでドクター。あんたはどうなんだ?」

「どう、とは?」


 カオルコの問いを察する事ができず、クローフは訊ね返す。


「この現状、あんたなりの考えもあるだろう。次はそれを聞かせてくれ」

「ああ。わかった」

「というより、もう何か手を打っているんじゃないか? あんたがただ手をこまねいているだけだとは思えない」

「まぁいくつかの案を試験的に実行してはいる」

「だったら、私に聞く必要はなかったんじゃないか? あんたの方が、こういう場合の対応に詳しいだろう」

「俺もこんなピンチは初めてだ。どうすればいいのか、正直言ってわからん。なら、アイディアは多い方がいいだろう?」

「そんなもんか」

「で、俺の考えだったな。まず情報については、民間の情報提供者を作ろうと思っている」

「無理だろう。誰も協力しない。いたとしても、スパイの可能性が高い。金で釣る方法もあるが、肝心の金もないんだろ?」

「そもそも、そんな人間は信用できない。金で動く人間は金で裏切るもんだ。そんな方法は取らないさ。協力を仰ぐのは、魔女の身内だ。魔女の中でも、比較的家族仲の良かった者の身内に打診している」

「うまくいっているのか?」


 カオルコは懐疑的な様子で問う。


「まあまあだな。一応、偽の情報を意図的に流して試してみたんだが、殆どが情報を国へ渡していた。おかげで、いくつかの敵部隊を罠に嵌められた」

「まぁ、そんなもんだろうな。だが、教えに逆らってまで協力してくれる人間もいるわけだ」

「少数だがな」

「で、他の問題は?」


 カオルコは続きを促す。


「人員の補充については今の所、諦めてる。銃器に関しては、実の所使う人間の方が少ないありさまだからな。今はまだ考えなくていいだろう」

「今の所という事は、時がくれば人員不足を解消できるかもしれないという事か?」

「金をどうにかできれば、他国の傭兵を雇おうと思っている。この国の隣には、魔術師だけが住む国があるらしいからな。そこに目星をつけている」

「なら、今一番必要なのは金か……」

「そういう事になるな」

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