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鉄火の魔女王  作者: 8D
アルカ国革命編
35/46

五話 魔女王の帰還

 カオルコ達を乗せた馬車はハリントより東へ進み、ミリーク山の中へ入った。

 ガタガタの馬車を弄んだ山道は途中で途切れ、馬車が停車する。


「ここからは徒歩です」


 クリスタニアが告げる。


「わかった。仲間の死体はどうする?」

「置いていきます。本拠地の人員と一緒に運ぶつもりです」

「その時は声をかけろ。私も参加する」

「はい」


 魔女達は道のない山の中へ分け入り、進む。


「それにしても、まさか前と同じ山に本拠を作るとはな。所在がバレないのか?」


 歩きながら、カオルコは訊ねる。


「前の本拠地と位置は変えてますし、同じ山と言っても広いですからね。罠も大量に仕掛けていますから、場所が解かっていても容易には攻めて来れませんよ。あ、固定銃座もあります。迎撃用に」

「なるほどな。しかし、知らない顔ぶれも増えたな」


 カオルコは、後に続く魔女達を一瞥して言う。


「ええ。残っていた裁定場から助け出した魔女達です。ただ、それ以降は一人も増えていませんが」

「らしいな」

「ティラーが死んでから、魔女の嫌疑をかけられる人間がいなくなりましたから」

「これ以上、魔女は増えないというわけだ」

「苦しむ人間が増えないなら、それはいい事なのかもしれませんね」

「……どうかな?」

「え?」

「恐らく、それは今だけの事だ。魔女の反乱が片付けば、また奴らは魔女狩りを始める。今は魔女の仲間を増やしたくないから、中断しているだけだろう」

「なるほど……。そういう事ですか」


 人員に限りがあるとは、厳しい戦いになりそうだ。カオルコは思った。


 その時である。

 カオルコの背負うARKがかすかに震えた。

 同時に、頭上の木の上から黒い人影が飛び降りた。

 カオルコは影を見上げ、繰り出される蹴りを一歩引いてかわした。


 それに反応した他の魔女が人影へ銃を向ける。


「止めろ! 撃つな」


 クリスタニアはそれを叫んで止めさせた。


 次いで来る拳をパリングし、カオルコは拳を振るう。当然のように防がれる。

 前蹴りからのジャブを潜り抜け、タックルを試みるが相手は一歩退く。肘落としで背中を狙ってくる。

 わざと体勢を崩して前転、肘を避ける。追撃の蹴りを両腕のクロスで防ぎつつ、相手の軸足を蹴りつける。

 倒れた相手に覆いかぶさるが、巴投げの要領で引き剥がされた。

 互いに地面に倒れた状態から、瞬時に立ち上がって向かい合った。

 そして、どちらともなく構えを解いた。


「久し振りだな。ウーノ」

「……うん。会いたかった。カオルコ」


 襲撃者の正体はウーノだった。


「腕を上げたな」

「ありがと」


 ウーノは表情を変えないまま礼を言った。


「ウーノ。驚きましたよ」


 クリスタニアが呆れた口調で言う。


「ごめん。でも、ちょっと試したかった。自分がカオルコに勝てるか。勝てなかったけど」

「やるのなら、こんな奇襲まがいの方法じゃなく、訓練場でやってください。これから、カオルコ様も本拠にいらっしゃるのですから」

「わかった。そうする」


 ウーノはカオルコに向き直る。


「着いてきて」

「ああ」

「お帰り、カオルコ」

「ああ」




 ミリーク山のある一帯。

 数時間前、そこにアルカ国の部隊が分け入っていた。

 目的は魔女の本拠を発見し、情報を持ち帰る事である。

 だが、今はもう彼らに軍隊としての形はなかった。

 もう今は、骸と敗残兵しか残っていないのだから。

 そして今、最後の一人が頭蓋を銃弾で撃ちぬかれて事切れた。


 五十人からなる偵察部隊は、今余す所無く命のともし火を消されたのだ。


「大当たり〜。最後の一人だな」


 赤い髪の少女が、双眼鏡を覗き込んで言った。その口元は楽しげな笑みに歪んでいた。

 その少女は片方の耳が欠損していた。


「流石はエルキオ姉ぇ。眉間ど真ん中だよ」

「ありがとう。ミカ。これくらいの距離なら、絶対に外しませんけれどね」


 そう答えた少女は、構えていたスナイパーライフルから顔を上げた。

 白髪の彼女は、ライフルを構えている間からずっと瞑目し続けていた。


「掃除はおしまいだね。さ、ガウリとウィリアに合流しなくちゃ」


 ミカと呼ばれた少女は、装着していた通信機を作動させる。


「こっちは片付けた。そっちは?」

「「終わったよ」」


 通信機から、物静かな声が返ってくる。


「「それより、さっき長距離通信が入ったんだけど」」

「どんな」


 しばらく、通信機に耳を傾けるミカ。


「ふーん、へぇ……。ハハハ」

「どうしました?」


 その様子を不審に思い、エルキオは声をかけた。


「帰ってきたんだってさ」

「え?」

「カオルコ様だよ。帰ってきたんだってさ! 魔女の巣に! ハッハハ! こんな楽しい事はないね、アッハッハ!」

「本当ですか!?」

「嘘なんか吐かないよ。ハハハ。うーれしーいねーっ!」

「そうですね。嬉しいですね」

「これは会いに行かなくちゃねぇ」

「ええ、そうですね。ふふふ」


 二人の少女の笑い声が、他に人のいない森林へ響いた。

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