表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄火の魔女王  作者: 8D
アルカ国革命編
34/46

四話 敵意の眼差し

「な、名前を憶えていてくださっていたのですか?」


 クリスタニアはカオルコに名前を呼ばれ、その嬉しさに顔を上気させた。


「当たり前だ。仲間の名前は忘れない」

「そうですよね!」


 そうだ。

 彼女は誰よりも仲間を大切にする方だ。

 改めてその事実を認識し、クリスタニアは心に込みあがってくる感情を覚えた。


「それより、早めにここを離れるぞ」

「はい。この拠点は惜しいですが、所在がばれたアジトに意味はありませんからね」

「ああ。それに……ここは敵が多すぎる」


 カオルコは周囲の建物へ目を向ける。

 家屋の中から、こちらを見る目があった。

 それも一つ二つではない。

 怯えと憎悪を含んだそれらの視線は、この街に住む人々の物だ。


「……指揮官はお前だな、クリスタニア」

「はい。私です」

「この後は本拠に戻るのか?」

「はい。報告もしなくてはいけませんし、そうなります」

「なら、本拠地に着くまで指揮下に入らせてもらう」

「え? よろしいのですか?」

「問題はないはずだが?」

「はい。もちろんです! えーと、まずは敵に鹵獲された武器と仲間の遺体を回収する。その後、本拠地に向かう。という事でよろしいですか?」

「いいんじゃないか? 何故聞く?」

「はっ、失礼しました。速やかに準備いたします」




 クリスタニアの用意した兵員輸送用の大型馬車に乗り、カオルコ達は本拠地へ向かう事になった。

 荷台にて座り込む、カオルコにクリスタニアは声をかけた。


「あの」

「何だ?」

「カオルコ様は今までどこにいたのですか?」

「聞いていないのか?」

「療養中という話は聞いていましたが、居場所に関しては極秘でしたので」

「そうか。メルニッツという町だ」

「西方ですね」

「本拠地へ向かう途中、ハリントを経由する予定だったんだが……」

「そのハリントが丁度襲撃されていたわけですか。私達は、運がよかったのですね」

「やりようによっては数の不利も覆せる。もう少し、戦い方を覚えるんだな」

「はい、それは今回で痛感いたしました……」


 クリスタニアはうな垂れた。


「そういえば「敵が多すぎる」とはどういう事でしょう?」


 ハリントの町で、カオルコが言った言葉だ。

 アルカの兵士は殲滅した。あの場に敵はいなかった。

 それでも彼女はそう断言した。

 クリスタニアにはそれが気にかかっていた。


「敵はみんな武器を持っているわけじゃない。作戦の始めに、こちら側の見張りが排除されたのは何故だと思う?」

「え? それは……前もって、こちらの情報を得ていたという事ではないでしょうか?」

「そうだな。なら、誰が情報を漏らした? 魔女の誰かか?」

「それはありえません」


 クリスタニアはきっぱりと言い切る。


「私達は異端です。帰る場所などどこにもなく、魔女以外に信じられる者はいない。裏切る者は、どこにもいません」

「私も同意見だ。魔女の居場所は魔女の下にしかない。ならば、情報を流したのは街の住人だろう」

「街の住人が?」

「魔女は連中にとって平和を脅かす敵だからな」

「私達は、ただ潜伏していただけです。何も手は出していません」

「そこらは、ビルリィの教義のせいとしか言えないな。奴ら曰く、魔女は滅するべき邪悪な存在だからな」

「気付かれるような事もしていません」

「ビルリィには週に一度の礼拝があるらしいな。参加していたか?」

「……いいえ。魔女なら誰も、近付こうとすらしませんよ」

「ある日を境に街で見かけるようになった女だらけの集団。その誰もが礼拝に来ない。どう考えても怪しいだろう」

「……言われてみれば、そうですね」


 カオルコは溜息を吐いた。


「しかし、この国には相変わらず魔女の居場所がないらしいな」

「いえ、そうとも言い切れません」


 否定の言葉が返され、カオルコは意外そうな顔でクリスタニアを見た。


「あなたのいる場所。そこが私達の居場所です」

「……好かれたもんだな」


 カオルコは苦笑いで応じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ