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鉄火の魔女王  作者: 8D
アルカ国革命編
32/46

二話 ハリント攻防戦 前編

 アルカ国南東に位置する街、ハリント。

 そこには魔女のアジトがあった。

 諜報や物資の調達のために、魔女達は国の各所へこういったアジトを点在させている。

 ハリントもその中の一つだった。

 そしてそのハリントのアジトは今、アルカ国軍の部隊に強襲されていた。



「「こちら、第二部隊。西部にて完全に包囲されました」」

「突破はできるか?」


 ハリントの責任者を勤める指揮官魔女は、魔石の通信機ごしに訊ね返した。

 彼女はクリスタニア・ベイカーという魔女であり、かつて魔女の巣より北の港町へ逃げる際に部隊の指揮を任された二人の魔女の一人だ。

 肩までの長さの黒髪、中肉中背の身体つきの女性だった。


「「不可能でしょう。初撃の強襲で多くやられすぎました。反攻しようにも、頭数が足りません」」

「諦めるな。今すぐ向かう」

「「いいえ、恐らくそれは無理でしょう。私は彼女達を置いていけない。ここで徹底交戦し、時間を稼ぎます。その内に部隊の脱出を……」」

「しかし……」

「「全滅するわけにはいきません。ここで起こった事をいち早くエルネスト様に報告しなくてはならないはずです」」


 通信機の相手が言う事は正しかった。

 このアジトへの襲撃はできるだけ早く伝えなければならなかった。

 敵部隊の情報から対応策を練り、他のアジトがここの二の舞とならぬよう注意の喚起をせねばならなかった。


 クリスタニアはグッと拳を握る。


「わかった。お前の命を無駄にはしない。魔女に自由を」

「「魔女に自由を……」」


 その言葉を最後に、通信機から慌しい雰囲気が伝わってきた。

 銃撃の音と怒声が聞こえてくる。


「「反撃しろ! …………死ねぇっ……うぁ…………魔女に死を……」」


 喧騒の後、相手の兵士らしき男の声を最後に、通信が途切れた。

 クリスタニアは一瞬だけ苦々しい表情を作り、すぐにその表情を消した。

 室内に身を隠していた部下へ振り返る。


「我々はこれより、このアジトを放棄する。

 敵の囲みを強行突破し、街の東から脱出するつもりだ。場合によっては囲みを破る事すらできないだろう。

 だがもし、そんな状況でも自分だけは生き残れると思ったなら、遠慮なく別行動を取れ。

 そして、敵の情報を少しでも多くエルネスト様へ伝えるのだ」

「はっ!」


 部下の魔女達は敬礼する。


「行くぞ」


 クリスタニアの率いる魔女の部隊は、アジトの家屋から出た。




 街には多くのアルカ国兵が侵入していた。

 彼らの兵装は、かつてより大きく変わっていた。

 前は鉄製の鎧兜で構成されていたが、今はむしろ革鎧と額当てだけの軽い物になっていた。

 武器も剣ではなく、新開発された連射式のボウガンを使っている。

 中には、魔女達から鹵獲された銃器を手にする者もいた。

 それら装備の変化は、魔女の戦い方が変わった事に対応するための措置だった。


 今までの魔女と違い、エルネストの率いる魔女達は魔法ではなく銃器による戦いを行っている。

 銃器という兵器は魔法とは違った強力さを持ち、しかし非力な女性であっても人を殺傷せしめるという部分は魔法と変わりなかった。

 問題なのは、これまで鉄の鎧で防げていた魔法に対し、銃器は鎧で防げないという点だ。

 しかも近付いて戦う事もできないため、剣では相手に攻撃を当てられないのだ。


 そのため、装甲で防ぐという考えを捨てて少しでも回避しやすいよう軽装になり、魔女の攻撃距離に対抗してボウガンを主力に据えたのである。

 性能の点では銃器に劣るボウガンだが、アルカ国軍は数でその不利を補った。

 そして、魔女への被害を与えられるようになり、相手の銃器を鹵獲できるようにもなった。

 当初、魔女の有利として始まったこの内乱は、今やアルカ国軍の有利に傾きつつあった。




 ハリントに展開するアルカ国軍をしのぎつつ、脱出を試みるクリスタニア。

 仲間の命をすり減らし、自らの体にも傷を負いながら戦う彼女の姿を家屋の屋根から銃のスコープで見る人物がいた。



「「止まれ、その先の角に敵が三人いる」」


 路地を進むクリスタニアの通信機から、警告が発せられた。

 女性の声だ。

 クリスタニアは立ち止まり、続く部下達にも止まるようハンドサインを出す。


「誰だ?」


 通信機越しの相手に問いかける。


「「魔女だ」」

「所属は?」

「「答える時間はない。敵はこちらに向かってきている。装備はサブマシンガン二人、ボウガンが一人だ。近くの別の道に四人。迎撃すれば音で気付かれるかもしれない。サイレンサーはあるか?」」


 有無を言わせない口調に、クリスタニアは悩む。


 この声の主を信頼してもいいのだろうか、と?

 彼女の言う事が、部隊を陥れる物でないと言いきれない。

 しかし……。


 部隊はもうボロボロだ。

 ここへ来るまでに何とか切り抜けてきたが、怪我を負っていない人間はいない。

 怪我で歩けない仲間に肩を貸す者も、腕に矢を受けている有様だった。

 こんなに追い込んだ相手を罠にかける意味などあるのだろうか?


 その考えに到ると、クリスタニアは腹を決めた。


「サイレンサーはない」

「「わかった。サブマシンガンの二人はこっちで始末する。お前達の前を奴らが通る時に仕掛ける。だから、ボウガンの奴だけナイフで殺れ」」

「わかった」


 疑念はある。だが、それでもその声に縋りたかった。

 それほどに、今の彼女達は追い詰められていた。


 クリスタニアは路地の壁にそって部下達を隠れさせ、前方の道の丁字路へ視線を向ける。

 ナイフを抜いて、その道を相手が通るのを待った。

 ほどなくして、アルカ国兵が姿を現す。


 兵士は曲がり角を警戒し、こちらへ目を向けた。

 サブマシンガンの銃口がこちらへ向けられる。

 その瞬間、兵士のこめかみを銃弾が貫通した。

 発砲音は聞こえない。兵士の倒れる音だけが聞こえた。

 こちらからは見えない角の向こうからもどさりと人の崩れる音がする。


 声の主が始末してくれたのだろう。


 彼女は信頼に足る。

 クリスタニアはそう判断した。


「何だ? 敵襲か?」


 声を出しながら、残った一人の兵士が丁字路の中央、クリスタニアの視界の中へ歩き出してきた。

 クリスタニアは兵士に接近し、そのまま相手に組み付いて喉を掻き切った。


「やった……」


 相手の血に濡れ、緊張から息を切らせて呟く。


「「いい腕だ」」


 通信機から賛辞があった。

 クリスタニアは辺りを見回す。

 どうやら、声の主は近くにいないらしい。

 今の銃撃も遠くからの狙撃だったようだ。


「ありがとう。あなたのおかげだ」

「「仲間を助けるのは当然の事だ。こっちは、お前達を見渡せる場所にいる。有利に動けるよう援護する」」

「ああ。すまない。あなたのおかげで、無事に脱出できそうだ」

「「脱出?」」


 不思議そうな声だった。


「「違うぞ」」

「何ですって?」

「「これから行うのは脱出じゃない。殲滅だ」」

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