小話 おおきくなったな
ちょっとした日常の話。
短いです。
アルカ国の王城。
その中庭にて、魔女達の訓練が行われていた。
徒手における格闘訓練だ。
魔女達を監督するのはカオルコである。
彼女は肩にARKをかけて、仁王立ちで魔女達を見ていた。
「おい、十六番! そういう場面では退くな! 距離を詰めて押し倒せ! 三十五番! 強引すぎるぞ! もっと相手の重心を意識しろ! 自分より大きな相手と戦うつもりでやれ!」
二人一組になって訓練する魔女達へ、カオルコは的確な言葉を投げている。
「カオルコ」
そんなカオルコに声をかける人物がいた。
クローフである。
魔女達に目を向けたまま、カオルコはクローフに声をかける。
「どうしたんだ、ドクター? こんな時間に。サボりか?」
今の時間、彼はエルネストの補佐で書類仕事の手伝いをしているはずだ。
「休憩だ。今日は他国の人間と会談があってな。それが今さっき終わった」
「そういえば言っていたな、そんな事。上手くいったのか?」
「ああ。うちと向こうで同盟関係を結ぶ事になった。本格的な調印は半月後、国境付近で行われる。今日の会談はその段取りと国境付近に緩衝地帯を設けるという内容だ」
「ふぅん」
「正直、お前にも手伝ってほしいんだがな」
「私は戦士だ」
「俺は医者だぞ」
会話が途切れる。
クローフは魔女達を見た。
格闘訓練に勤しむ魔女達は理に適う格闘術を習得しているようだった。
かつて、ビルリィから助け出され、怯えを隠しながら戦っていた時とは違う。
確かな戦意と技術がそこにはあった。
彼女達もまた強さを獲得し、戦士になったという事だ。
人は成長する。
クローフはカオルコに目をやった。
彼女もまた、色々な意味で成長した。
人間的な意味でも、肉体的な意味でも……。
「大きくなったな。カオルコ」
「ん? そうだな。背も高くなったし、筋肉も前以上についた。もう銃撃のリコイルにも負けない」
「そうか。それは良かった。しかし――」
クローフはカオルコの胸元を見た。
「カシムが泣くな」
「どういう意味だ?」
カオルコは怪訝な顔でクローフへ訊ねた。
「……立派になったからさ」
「そうか。喜んで泣くって事か。だったら、嬉しいな」
カオルコは無邪気な笑顔で返した。
まぁ、そういう意味じゃないんだけどな……。
クローフはその言葉を飲み込んだ。
「……あいつ、ちょっとたるんでるな。ドクター、預かってくれないか?」
「いいぞ」
カオルコは肩のARKをクローフへ渡すと、魔女達の方へ歩いていった。
「おい! 二十三番! 直々に叩き直してやる!」
怒声を上げながら魔女達へ近付いていくカオルコ。
クローフはその背中を見送った。
「ビヤンコ。お前はどう思う? 愛娘の成長は嬉しいか? あんなに綺麗な娘になったんだ。ちょっと心配してるんじゃないか?」
クローフの言葉へ応えるように、ARKはほんのりと熱を帯びた。




