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鉄火の魔女王  作者: 8D
鉄火の魔女王編
27/46

二十四話 聖櫃に相応しき者達

 一応、主人公はカオルコですよ。

 どれだけそうしているだろうか。

 クローフとオルクルスの戦いは未だに続いていた。

 互いに痣や肉の腫れを作り、口元や頭から血を流して、二人ともボロボロの様相だ。


 しかし、そんな様になってもお互いに戦意を失わず、むしろさらに燃え上がらせてしまったかのように拳での応酬は苛烈さを極めていた。

 大振りの右フックを避けさせ、下がった顎にクローフは左のアッパーを叩き込む。

 負けじと打たれた右ストレートがクローフの顔面真ん中へ炸裂する。

 百キロを超える巨体が宙を舞い、ドロップキックが放たれる。

 助走をつけたラリアットが喉に食い込む。

 すでに研究室のあらゆる器具は破壊しつくされ、机という机はすべて叩き折られ、時に凶器として使用された椅子はことごとくが着席するという要をなせない形状となっていた。

 同時に突き出した右ストレートを互いに左手で受け止め、二人は組み合った。


「アレニアは……蜘蛛の足を持つ女はどこにいる?」


 クローフは静かに、しかし聞く者に強い怒りを悟らせる声音で訊ねた。


「ほう、あの女の事か」


 思い当たった人物に、問われたオルクルスはにやりと笑みを浮べた。

 オルクルスはクローフよりも先んじて右手を引き、素早くクローフの顔を殴りつけた。


「うおっ!」


 声を上げて、クローフはたじろぐ。

 そんな彼にオルクルスは体当たりで追撃をかけた。


「知りたければ己が目で確かめるがいい!」


 体当たりでクローフを運び、そのまま別室への扉を突き破る。

 部屋へ飛び込んだ二人は、勢いを殺せぬまま床を転がった。


「くっ……」


 うめきながらクローフは立ち上がる。


「先生!」


 そんな彼を呼ぶ声があった。

 クローフはすぐさま声のする方を見た。


 アレニア。探していた人物がそこにいたのだ。

 その姿を見て、彼は安心する。

 しかし、それは束の間の事だった。

 アレニアの脇腹に走る赤い筋。

 そして、恐怖で涙を湛える瞳を見た時、カッと赤熱する感情が彼の精神を占めた。


 何かが切れた。


 それはエルネストとの魔力的な繋がりであり、彼の心情的な何かでもあった。

 怒りと共に、純粋な彼の魔力が体を巡り始める。


「会わせてやったぞ? どうだ? 嬉しいか?」


 オルクルスは薄い笑みを浮かべて言った。

 そんな彼の声が耳に入った瞬間、クローフの体が見るからに一回り大きくなった。

 それは彼の魔力が感情に作用された結果だった。

 怒りに呼応した魔力は、その意思を汲み取ってクローフに力を与えたのだ。

 エルネストとの繋がりが切れた今、不純物の無い魔力は彼の意思に完全な同調を果たした。

 意思に作用されて成されたその効能は、聖術と呼ばれる類の力に近いものである。


「な……!」


 思わぬ事に、オルクルスは驚いて目を見開く。


「お前か……? お前が彼女を傷付けたのか?」

「だったらどうした!」


 クローフの巨体が沈むように動いた。

 深く下がった場所から、渾身のアッパーが放たれる。

 オルクルスは両腕をクロスさせ、防御する。

 が、防御したはずの彼の腕が跳ね上がり、威力を殺しきれずに体が浮き上がった。

 拳の威力で、オルクルスの太い腕の骨が複雑に砕けた。


「何っ!」


 オルクルスは浮き上がった体を着地させる。

 そんな彼にクローフが迫っていた。


「うおおおおぉぉぉっ!」


 雄叫びをあげ、クローフが突っ込んでくる。


「くおおおおぉぉぉっ!」


 同じく叫び、オルクルスはクローフと真っ向から組み合った。

 しかしオルクルスは勢いに押され、体が後ろに押し出される。

 足が床をずり下がっていく。

 クローフはオルクルスの鎖骨を掴んだ。

 肉に指が食い込み、骨ががっちりと掴まれた。

 オルクルスが痛みで顔を歪める。

 そうして固定した相手の顔に、クローフは連続して殴打を加えた。

 その一撃一撃が、今までとは比べ物にならないほどの強打であり、直撃するごとに骨の軋む音が頭蓋に直接響く。

 抵抗を試みるオルクルスだったがそれは叶わず、なすすべなく殴られ続けた。


「おおぉぉっ!」


 クローフは雄叫びを上げ、最後に渾身の一撃をオルクルスの顔面へと叩き込んだ。

 拳が当たった瞬間オルクルスは痛みを感じ、共に頭蓋の砕ける音を確かに聞いた。


 意識が遠退き、そして消える。


 オルクルスの体は後方へと飛び、部屋の壁へ激突する。

 そのままずるりと体を落とし、尻を付いてそのまま動かなくなった。


「ふん」


 オルクルスの様子を見て、クローフは鼻を鳴らした。


「先生……」


 躊躇いがちに、心配を強く滲ませたアレニアの声がかけられる。

 クローフは振り返り、アレニアへ向いた。


「大丈夫か? 傷は痛まないか?」


 強張っていた表情をほぐし、クローフはかすかに笑んで訊ねた。


「はい。大丈夫です。それより、先生の方が……」

「俺も大丈夫だ。これくらい、たいした事は無い」


 言いながら、クローフはアレニアの方へ近付く。

 彼女の体を拘束する物を外し、彼女の体へ手をやった。

 アレニアの背中と甲虫のような下半身へ手を回すと、そのまま持ち上げた。


 プリンセスリフト。お姫様抱っこなどと呼ばれるものだ。


「きゃっ」


 思わずアレニアは声を上げ、顔を紅潮させた。


「わ、私はちゃんと歩けます」

「いいじゃないか。俺がこうしたいんだ」

「でも私……重いじゃないですか……」


 恥ずかしそうにアレニアは言う。


「いや、全然。軽いもんさ」

「そうですか……」


 そんなはずはない。


 思いながらも、アレニアはそれ以上言葉を続けなかった。

 自分を抱き上げる彼の腕はとても力強く、その言葉も本当なんじゃないかという説得力があったからだ。

 何より彼が、自分が前に語った夢を覚えていて叶えてくれた事が嬉しかった。

 だからできるなら、ずっとこのままでいたいと思った。




 自分を取り巻く、あらゆるものが変わった。

 その変化を、ティラーは肌で感じていた。

 それは視覚的なものでなく、視覚以外の感覚が感じ取ったものだ。


 気温が高くなった。

 それもただ暑くなったわけでなく、じっとりと熱が肌へ纏わりつくような暑さだ。

 奇妙な臭いがする。

 今までの清涼な森の香りとは明らかに違う、形容しがたい奇妙な臭いだ。

 聞いた事のない動物の声が聞こえた。

 まるで魔界の底に住まう奇怪な悪魔が放つような、甲高くも不気味な声だ。

 魔界にでも着たか、と思ってしまう。


 しかし、それらは全て錯覚だ。

 彼の見る世界は、何も変わっていない。

 今までと同じ、森の風景が広がっている。

 さきほど感じた物は、全てそんな気がするだけ、というものだ。


 これはカオルコが発する魔力による作用だった。

 彼女の放出する魔力がここには充満していた。

 それもエルネストの魔力が混じっていない、純粋なカオルコの魔力だ。

 彼女の魔力を呼吸し、体内に取りこまれた事でカオルコの有する記憶が伝播したために起こった感覚である。


「何だ、この感覚は……」


 ティラーは顔を顰め、不安を吐き出すように言葉を漏らした。

 そんな時、彼の視界に動くものが過ぎった。

 温度を見る目で、赤く表示されたその動体はまぎれもなく生物であるという事の証だ。

 それもあの大きさならば、間違いなく人間のものに違いなかった。


「そこだ!」


 ティラーは叫び、剣をそちらへ放った。

 剣は動体を捉え、胸を貫いた。

 仕留めたと思った。

 が、その動体は剣を受けた瞬間、幻覚であったが如く霧散する。


 そんな事はありえない。


 彼の目は、そこにあるものならば全てを見通す。

 幻覚になど囚われるはずがない。

 今貫いたものには、確かな実体があったのだ。

 動体は女性に違いなかったがカオルコではなかった。

 しかし、それを吟味する時間はなかった。

 すぐさま、横合いから飛び出した動体がティラーを銃撃した。

 剣で銃弾を防ぐ。

 次いでその剣を放った。

 剣は命中せず、動体は木々の影へと隠れた。


「どうした事だ……。一人ではない」


 ティラーは自らを内包するこの空間、その状況に思わず震えた声を出す。

 彼の目には今、複数の動体が認識されていた。

 相手の援軍が来たのかもしれない。

 思い、身構えていると、動体の一つが彼の横合いから現れた。

 何かが動体の手によって投げられる。

 丸いその物体が足元に転がり、危険を感じ取ったティラーは剣で壁を作って防御姿勢を取る。

 同時に物体が爆発し、ティラーの体を剣の壁ごと吹き飛ばした。


 地面を転がるティラーは、しかし致命傷に到っていなかった。

 体中は痛むが、ダメージらしいダメージは無い。

 ただし、多くの剣が爆発で砕けてしまった。


「何だ? 何がいるというのだ?」


 呟くティラーに、背後から容赦のない銃撃が加えられる。

 ティラーは予めわかっていたように剣の壁で銃撃を防ぐと、残った剣で銃撃してくる動体へと攻撃した。

 動体は避けるでもなく、剣を受けて霧散する。


「あれは援軍ではない。そもそも、人間ですらない」


 剣には銃撃による凹みができている。

 しかし、放たれた銃弾は一切見当たらなかった。

 まるで実体のない幻と戦っているようだ。

 そしてその幻は、それぞれが聖鎧を貫く力を有していた。

 ティラーは絶望的な気分に陥った。

 遠方から、一発の銃弾が飛来する。

 ティラーは剣で防ぐが、その剣は先程の銃弾によって脆くなっていた。

 実体が無いはずのライフル弾は剣を易々と貫き、ティラーの肩口を穿った。


「ぐうぅう……」


 ティラーは痛みに呻く。

 もう一発、ライフル弾が発射される。

 ティラーはそれを目によって感知していたが、防ごうとせずに転がって逃げる。

 森を走っていると、そこに一つの動体が飛び出してきた。

 動体は手足の長い男で、手には短刀の白刃が煌めく。

 男は短刀で突いてくる。

 ティラーは剣で防ごうとするが、男は巧みに突く手の軌道を変えて剣の防御をすり抜けてきた。

 それでも何とかその動きを捉えて避け、剣の一つで攻撃を返した。

 剣は男の体を肩口より袈裟に切り裂いたが、男は霧散する間際に短刀を投げる。

 短刀はティラーの太腿に深く刺さった。

 男が完全に消えると、ティラーはその場で膝を付いた。

 顔を俯け、足からは血が流れ出る。


「はぁはぁ……」


 私は何を相手にしているのだ?

 言わずと知れている。

 魔女だ。


 しかし、あまりにも度を越しているではないか。


 聖鎧を突き破り、剣の防御もすでに三本だけだ。

 ここまで自分を追い詰めるものは果たして、ただの魔女なのだろうか?


 彼は今までに幾度か魔女と戦い、その命を地獄へと落としてきた。

 だが、その中で一度も傷を負った事などない。

 神より賜った聖なる鎧が、邪悪の全てを防いでいたからだ。

 その神の鎧を以ってしても、かの魔女の攻撃は防げない。

 ならばそれは、如何なる力であろうか?

 神の力以上に、強いものとはいったい?


 ティラーは顔を上げた。

 周囲の感知によって、動体を見つけたのだ。

 動体は二つ。

 ここから程遠くない位置に二つ固まっている。

 ティラーはそちらへ目を向けた。

 そこにはカオルコと壮年の男性がいた。

 カオルコは木にもたれて座り、銃を構えてこちらへ向けていた。

 もう一人の男も片手で銃を構え向け、空いた手をカオルコの肩へかけている。


「やっと気付いた……」


 誰にともなく、カオルコは囁くような声で呟いた。


「ホームはもう、ここにあったんだ。この手の中に……」


 カオルコの手にあるAKがほのかな輝きを放っていた。

 それは魔力を帯びた物体に起こる現象だった。


「父さん……」


 カオルコの言葉に応え、動体は頷いた。

 同時に、二つの銃口から銃弾が発射される。


 ティラーは三本の剣を重ね、壁を作る。

 動体の放った銃弾が先に着弾する。

 銃弾は一本を貫通し、二本目の半ばに食い込んで止まった。

 その部分を狙い済ましたかのように、カオルコの銃弾が穿つ。

 二本目の剣を貫通し、三本目も貫通する。

 そして、銃弾はティラーの右目に命中した。


 赤い宝石が砕け、眼窩を貫き、頭蓋すら貫通して、銃弾は頭を突き抜けた。

 ティラーの体が、意思を失ってその場で仰向けに倒れた。


 その様子を見届けると、カオルコの体から力が抜けた。

 そばにいた動体も魔力の消失と共に姿を消す。


 聖櫃《ARK》の名を冠したその銃は、柩という名の通り七つの魂を内包していた。

 この銃は、カオルコと絆を育んだ七人のための聖櫃だ。

 中にある魂は、カオルコの記憶を含んだ魔力の中のみで体を得る事ができる。

 そして、かつてのようにカオルコと共に戦地を駆ける事ができるのだ。

 それが彼女の「聖銃・ARK for7」の力だった。


「この中にあるみんなが、本物なのか幻なのかわからない。でも、かまわない。大事なのは、みんながいるって事だ」


 父に、ハサン、カシム、ロゼ、シュットライヒ、バルサム、エミリオ。

 みんながいるのなら、そこはカオルコにとってホームだ。

 ホームというものは場所ではなく、家族のいる場所なのだ。

 カオルコのホームは……家族達は、その手の中にあったのだ。


 だからそれを知って、カオルコは嬉しかった。

 とても安らいだ気分だった。

 このまま死んでしまっても、怖くなかった。


「よかった。また……、みんなと一緒だ……」


 その言葉を最後に、カオルコは目を閉じた。




「クローフ様! エルネスト様が……っ!」


 焦った様子の魔女が、クローフを見つけて走ってくる。

 その魔女の報告を受けたクローフは、アレニアに断りを入れてからその体を下ろした。

 そして走り出す。


 報告に来た魔女に案内されて向かった場所、廊下の真ん中には力なく倒れるエルネストの姿があった。

 その左胸……、服の布地には赤い染みが広がっている。

 目には光がなく、すでに息はしていない。

 どんな医者が診ても、彼女は手遅れだと判断するだろう。


 しかし、クローフは躊躇う事なくすぐに行動した。


「医療魔女はいるか!」

「はい!」


 数名の魔女が返事をして手を上げる。

 そんな彼女たちにクローフは声を張り上げる。


「エルネストの体を修復しろ。胸の部位修復でなく、体全体の修復だ」


 クローフの言葉に、医療班の魔女達が驚きの声を上げる。

 その中の一人が、おずおずと言葉を挟む。


「しかし、エルネスト様はもう亡くなっています。亡くなった者は修復しても……」

「構わない。体組織の崩壊だけ食い止めてくれればいい。特に、頭は優先的に……。一人は優先して頭だけを重点的に修復してくれ」


 クローフの強い口調に、魔女達は頷いた。

 エルネストの修復を始める。

 心停止した人間を蘇生するには、五分以内の蘇生処置が必要だと言われている。


 エルネストの体はすでに体温を失い、冷たくなっている。

 すでに、手遅れの段階だ。

 人が死ねば、その体はすぐに組織の崩壊を始める。

 たとえ、五分より過ぎて蘇生できたとしても、どこかに欠損が残る。

 脳などに障害が残り、今までのように思考できなくなるだろう。

 しかし、それはクローフが今まで生きてきた世界での話だ。


 この世界の魔法という技術があれば、その崩壊を食い止めるどころか巻き返す事もできるはずだ。

 クローフは両手を合掌の形に合わせ、魔力を込める。


 今までの魔術行使の難しさが嘘のように、すんなりと魔力へ意思が伝わる。

 それはエルネストの魔力の影響が体から消えてしまったからだった。

 彼は今、純粋な自分だけの魔力で魔法が使えた。


 クローフの合わさった手の平の間に、パチリと電気の線が走った。

 一つだけだった電気の線が、次第に幾筋も走り始める。

 クローフは胸の傷を確認する。

 すでに、修復されて塞がっていた。


「よし、みんな離れろ。エルネストに触るなよ」


 魔女達が離れるのを確認して、クローフは両手をエルネストの胸に当てた。

 その瞬間、エルネストの体が生きているかのように跳ねる。

 しかし、手を離すとすぐに動きは無くなる。

 それ以上の反応は無い。


「起きてくれ……」


 クローフは懇願するように囁く。

 もう一度、電撃をエルネストの胸に与える。エルネストの体が跳ねる。


 反応は無い。


 もう一度、電撃が与えられる。


 やはり反応は無い。


「クソっ! 帰って来い!」


 クローフは怒鳴り、エルネストの胸に電撃を纏った両の握り拳を叩きつけた。


「かはっ……」


 何かを吐き出すような呼吸音が、エルネストの口から漏れた。

 次第にエルネストの頬に赤みが差し、目にも光が戻ってくる。

 その様子に、クローフは安堵の表情を作った。

 他の魔女達も、エルネストが生き返った事を知って、喜びの声を上げる。


 多くの人間が自分の顔を覗き込む状況にエルネストは少し驚いたが、大仰に驚く程の元気がなかった。

 頭を動かすのも億劫で、呆然と視界にある物を享受するだけだ。


「なんだか、魔導の真理を見ていたような気がします」

「そうか。それはよかった」


 エルネストの言葉に、クローフは嬉しそうな声で答えた。




「施設内の制圧、完了しました」

 魔女の一人が、敬礼してエルネストへ報告した。

 彼女は毛布を膝にかけ、座り込んでいた。

 場所は教会の中庭である。

 そこかしこに信徒達の骸が転がっていて、動いているのは勝利を収めた魔女ばかりだ。

 例外的に生存したビルリィ信徒は、中庭の隅にまとめて縛られている。

 数名の魔女が銃口を向け、厳しく見張っていた。

「そうですか。ご苦労様です。引き続き、周囲の警戒。それから、撤収の準備も」


 報告に来た魔女を労い、ついでに命令する。


「撤収、ですか?」


 魔女は不思議そうに訊ね返した。

 何がおかしいのだろう?

 一瞬思ったが、よく考えればもう帰る所がない事に気付いた。

 山にあったアジトが燃えた事は、捕らえられていた魔女達から聞いた。


「どこにも帰る場所は無い、か。でもそれは、どこにでもいけるって事でもありますね」


 エルネストは顎に手を当てて黙考する。

 魔女はそんな彼女の様子を見守る。


「どうするのですか?」


 魔女は問い掛けた。


「だったら、ホームを作りましょう。私達が造る、私達だけのホームです」


 きっとそれがカオルコの望んでいた事。

 魔女達を導きたかった結果のはずだ。

 ボマスの教会を潰す事ができたとしても、ビルリィとの戦いはまだ続く。

 総本山がまだ残っているし、ティラーもいる。

 教会の支部も各町に多く残っている。

 教会の教義から、和解の道はありえない。

 なら、全部叩き潰すまで魔女に安息はないだろう。

 そして戦い続けるためには、羽を休めるための止まり木が必要だ。

 安心して休むためのホームが必要だ。


「……はい! そうですね」


 エルネストの言葉に、魔女は興奮した様子で答えた。


「帰ってきたカオルコさんがすぐに安心して休めるように、いますぐにでも候補地の選出をしましょう」

「はい! すぐに召集をかけます」


 魔女は言うと、すぐに背を向けて駆け出した。


「さ、忙しくなりますね」


 エルネストは背伸びをして独り言を呟いた。

 和訳がおかしい?

 そうですね。

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