小話 カオルコのサービス
広場を歩いていると、カオルコは一人の魔女から声をかけられた。
身長が高く、カオルコより年上の魔女だ。
表情が柔らかく、おっとりした印象のある女性だ。
「はい。カオルコ様、どうぞ。チョコレートです」
魔女はチョコレートをカオルコへ差し出した。
定期的に慰労のため支給される物だ。
それを取っておいたのだろう。
受け取ったカオルコは、普段からは想像できないほどの無邪気な笑みを魔女へ向けた。
そして、口を開く。
「ありがとう、お姉様! 大好き!」
魔女は蕩けるような表情でその言葉を受け入れた。
その様子を目の当たりにして、エルネストは驚愕に口を開き、目を見開いていた。
「あれ何ですか?」
隣で同じようにカオルコを見ていた、クローフへ問い掛ける。
「カオルコがチョコを貰ってる」
「そうですね。私にもそう見えます。でも、私が言っているのはあの対応は何かって事です。ていうか、誰ですか? あれは本当にカオルコさんですか?」
「ああ、あれな。昔からの癖みたいなもんだ」
「癖?」
「あいつの周りには、大人ばかりいてな。そいつらにカオルコは可愛がられていたわけなんだが……」
クローフは言いにくそうに言葉を切った。
「それで?」
口の重くなったクローフに、エルネストは続きを促す。
「その中の一人がカオルコにお願いをしたんだ。「お菓子あげるから、お兄ちゃんって呼んでくれ」ってな。そしてそれが部隊内で流行った。それ以来、カオルコはお菓子を貰った相手に相手の言われたい言葉でお礼を言うようになった」
「なんてしょうもない癖を着けられているんですか」
「まったくだ」
クローフはやるせない声音で同意する。
そんな二人の見る前で、カオルコに身長の低い魔女が近付く。
見るからにカオルコより年下の魔女だ。
「あの、カオルコ様。これ、どうぞ……」
俯きがちに、モジモジと照れた様子でチョコレートを渡す。
カオルコはそんな魔女の顎を手で摘み上げ、自分と目が合うように顔を上げさせた。
「可愛い子だね。ありがとう。後でおいしく食べさせてもらうよ」
さっきとは違う、凛々しい笑みと声音でカオルコは礼を言った。
それを見た魔女の顔が、瞬く間に赤く染まった。
「あれもですか……」
「いや、始めてみるパターンだ。そもそも、部隊には年下がいなかったから、ああいう場合の事には慣れていないはずなんだが……」
クローフはじっくりとカオルコを観察する。
カオルコがあんな態度を見せた事はなかったが、どこかで見覚えのある表情の作り方だ。
「あっ……」
「どうかしました?」
「あれは……ロゼだ!」
カオルコの仕草は、彼女に接するロゼと同じだった。




