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鉄火の魔女王  作者: 8D
鉄火の魔女王編
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九話 敵対勢力分析

 ビルリィ教、王都支部の大聖堂。教皇専用礼拝堂にて。


 ティラーは己が信じる神への祈りを捧げていた。


「教皇様……」


 そんな時、粛々とした空気に満たされた礼拝堂を静かな男の声が震わせる。

 囁くようでありながらしっかりと耳に残る不思議な声の主は、礼拝堂内にある影へ身を隠し、姿を現すつもりはないようだった。


「モルドー。何かありましたか?」


 突然の呼びかけに驚く事もなく、ティラーは祈りを中断して呼びかけた。

「はい」という肯定の声が返ってきた。


「裁定場の各所に放っていました殺手の一人が、魔女達の中に紛れ込みました」

「ほう」


 小さく答え、ティラーは目を細めた。


「では、掴んだのですね? 魔女の巣を」


 確信をもって訊ね返すティラーであったが、返ってきた言葉は否であった。


「いいえ。その殺手が消息を断ちました。恐らく、消されたものと思われます」

「つまり、結果は出ていないのですね? では、何故報告に来たのです?」


 責めるでもなく、ティラーは純粋にその意図を量るために問うた。

 モルドーは、そのような無駄な報告をするために訪れる者ではない。

 ここに訪れる時は、必ず成果を持って現れる男だった。

 だからこそ、今ここに訪れた事が気になった。


「ただ、忠言を……」

「忠言?」

「はい。その殺手は暗殺衆で最も優秀な者。その者を難なく屠り去る相手、侮ってはなりませぬ」

「なるほど。わかりました。心に留め置きましょう」


 ティラーが答えると、モルドーの気配が礼拝堂から消えた。


「大丈夫だと思いますよ」


 と、すぐさま少女の声が答えた。

 ティラーが声の方に目を向けるとフォリオが柱に身を任せて座っていた。

 彼女の言葉は、先ほどの忠言に対してのものだった。


「何故だね?」


 ティラーが訊ねると、フォリオは楽しげに答える。


「学者として楽観はできませんけど。それでも、あなたにはその目と聖鎧があります。あれを破る方法というものが、学者として考えつかない」


 フォリオの答えに、ティラーは柔和な笑みを返した。


「なるほど。あなたが言うならば心強い」




「さて、ここに集まってもらったのは、そろそろ第一目的が達成できたんじゃないか、と思ったからだ」


 カオルコの自室。そこでカオルコは、部屋に集まった面々へと告げた。

 集まっているのは、クローフとエルネスト、そしてウーノだ。

 三人は用意された椅子に座り、カオルコは三人と向かい合う形で立っていた。

 カオルコの背後には、前回の裁定場襲撃計画のブリーフィングに使ったホワイトボードが図面と文字を消されずに置かれていた。


 おもむろに、エルネストが手を上げた。発言する。


「あの、第一目的とは何でしょう?」

「魔女の育成だ」


 カオルコは答える。


「育成、ですか?」

「私達の最終目的はビルリィの殲滅だろ?」

「殲滅?」


 エルネストは驚いた声をあげる。


「そこまでしなくとも、私達は自分の安全を確保できれば……」

「根元を断たなくちゃ、安全なんて手に入らない」


 カオルコに言われ、一理あるとエルネストは黙り込む。

 その様子を見て、カオルコは続ける。


「でも、それをするには力も数も足りない。数はどうにもならないが、力はまだ何とかなる。だから最初に、魔女の戦力を底上げする事にしたんだ」

「それが、第一目的……。じゃあ、第二目的は?」

「ビルリィ教幹部の排除、だな」


 カオルコの代わりにクローフが答えた。

 カオルコは首肯によって答える。

 やり取りを見たエルネストは、自分達の活動が本格的な攻勢へ向かう事を悟って息を呑んだ。


「だから、その作戦を考えるために集まってもらった」


 言いながら、カオルコはホワイトボードを叩いた。

 ボードが反転し、裏にあった物が見える。

 ボードには四枚の写真がマグネットで横並びに貼られていた。


「これは、ウーノに撮ってきてもらった教団幹部の写真だ」


 写真はそれぞれ、右目に宝石をはめた男性、髭面の男性、幼い少女、険しい顔つきの老人を写したものだった。


「差し当たって、こいつらを標的にする。ウーノ、こいつらの事で知ってる限りを話せ」


「うん、わかった」


 ウーノはカオルコに返事をする。


「これがティラー」


 右目が宝石の男性を指差して、ウーノは言った。


「ビルリィ教で一番偉い人。会った事がないから、どんな人かは知らない。神様が好き」


 ウーノは言い終わると、黙ってカオルコに顔を向けた。


「それだけ?」


 あまりにも漠然とした淡白な説明にカオルコは聞き返した。

 ウーノは黙って頷く。


「……誰が何をするか、それを決めてるのはこの人」

「つまり最高権力者だな。……じゃあ、次だ」


 これ以上、情報は出ないと判断して次を促す。


「オルクルス。殲滅兵団の団長。一度手合わせさせられた。強かった」


 ウーノは髭面の男を指して答えた。


「殲滅兵団……。それはなんだ?」


 ウーノの説明にクローフが口を挟む。


「ビルリィ教の権威を象徴する軍団、という所です」


 ウーノに代わって、エルネストが答えた。

 クローフはそちらに向き、エルネストは言葉を続ける。


「対魔女を念頭にして作られた部隊で、魔女への対処は勿論、暴徒の鎮圧にまで駆り出されるビルリィの実質的な主力部隊です。彼らの鎧は全て鉄で作られ、あらゆる魔法を受け付けません。規模はそこまで大きくありませんが、実力ならばアルカ国軍を凌ぐと言われています」

「なるほど。戦い続ければ、いずれこいつらが出張ってくるわけだな」

「はい」


 答えるエルネストの声色はやや緊張に強張っていた。


「こっちはフォリオ。神学研究者」


 次に少女の写真を指差してウーノが言う。


「彼女がフォリオですか……」


 ウーノの説明にエルネストが呟いた。その声は硬く険しい。


「知っているのか?」


 カオルコが訊ねるとエルネストは頷いた。


「魔女に対する兵器や裁定場における審議の方法は、全て彼女が考え出したものだそうです。でも、こんなに若い女の子だとは思いませんでした」

「ある意味、魔女にとって一番の敵というわけだな」

「そうですね……。魔女達の苦しみを生み出しているのは、間違いなく彼女です」


 エルネストは眉間に皺を寄せ、苦々しい声で答えた。

 彼女が一番倒したい相手は、この少女なのかもしれない。


「モルドー」


 次にウーノはその名を告げた。

 彼女の声音が、若干強張った事にカオルコは気付いた。


「暗殺衆の頭領。私にカオルコを殺せと言った人」


 そう言葉を続けた時、ウーノの声は普段と同じ響きに戻っていた。


「暗殺衆っていうのは、要は暗殺者の集団という事か?」

「表向きには殺せない人を殺すための集団」

「どこにでもあるものだな、そういう集団は」皮肉を滲ませた声音でクローフは言った。

「アジトが見つかれば、ここに差し向けられる可能性もあるだろうな」


 カオルコが言うと、ウーノは首を左右に振る。


「私が失敗したから、無理だと思われてる」


 ウーノは暗殺衆で一番優秀な暗殺者だ。

 そんな彼女が失敗した以上、暗殺衆の誰を送った所でカオルコを暗殺する事はできない。

 ウーノは暗殺集の判断をそう解釈し、それは事実でもあった。


「でももしモルドーが来たら、私じゃ勝てない」

「そうなのか? そんなに強いのか?」


 ウーノは首を振って否定する。


「私の方が強い。でも私は、モルドーを殺せないようにされてる。モルドーを攻撃しようとすると、動けなくなる。そういうふうに教えられた」

「恐らく、催眠や暗示の類だろう。ある種の行動を制限されているんだ」クローフが言う。

「なら、警戒だけしていてくれ。ここに来るようなら私に知らせろ。私が相手をする」


 カオルコが言うと、ウーノは頷いた。


「こんなもんか。以上を踏まえて、幹部の暗殺を第二目的に据える。これからはそのように行動するから、そのつもりでいてくれ」

「おう」

「はい」

「わかった」


 それぞれの返事を受けて、会議は終わった。

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