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盗賊にはご用心

ながくなってもた。

森の中にヒッソリと佇む孤児院、いつもならば子供たちの騒がしくも平和な声や大人たちの優しい声で溢れている筈のその場では今場違いなほど緊張に包まれていた。それもそのはず、孤児院の周りには大勢の盗賊が囲んでおり、孤児院側はたった一人ふっくらとした熟年の女性が木の杖を構えて守っていた。

その中の一人の如何にもな子悪党が声を荒げる。


「さっさとあきらめんかい!! そこをアジトとして明け渡せば殺しゃあせんわい!!! 」


「信じられるもんですか! 私たちを殺して子供は売り払うつもりでしょう! 」


お互いに啖呵を切りながらも話は平行線だった、これ以上子悪党は埒が明かないと判断したのか直ぐ近くにいたボスと思わしき男に耳打ちする、その直後男が手を挙げて合図をしたと同時に子悪党と共に走り出した。


「っ! 」


女性が杖の先から火球を飛ばし攻撃をする、男たちは分かり切った風に二手に分かれるように横に飛び交わしたその瞬間



ゴボン!!!



子悪党の足元から弾けた様に炎が舞い上がり体を包んでいく。


「ひぃああああああああああああああああ……あが……ぁ……」


そのままフラフラと二、三歩動いたところで体を胎児の様に折り曲げ消し炭になってしまった。


男は部下の惨状を目の当たりにしてすぐさまスキャンの魔法を使い、理解し、手を横に振り上げた。


「……成程、魔法陣を隠し描いていたか、しかもスケルの透明化とリモートの遠隔操作でその場から動かずにばら撒くとはお主、ベテランだな? 」


「答える義理はございません! 」


女性が粗暴に答えると杖の先を二三回地面に突き刺し威嚇した。それに対して男の方はゆっくりと手を顔の横に上げ合図をした。


「やれ! 」


男のその声に反応して女性の後ろ、孤児院の屋根から二人の男たちの影と大きな影が女性めがけて飛び掛かる。


「女のいるところには魔法陣は無い! 切り殺してやるぅ!! 」


飛び掛かった男たちは勝利を確信していた、踏んだ衝撃で起動する簡素な魔法陣は戦いにおいて基本的な魔法の使い方でそれ故に弱点もわかっていた。それは簡素故敵味方の識別がつかないことだ、たとえ術者であっても解除しない限り魔法陣は敵であろうが味方であろうがその務めを果たすだろう。だからこそうっかり自分で踏まぬよう魔法陣とは少し離れた位置に居なければならないのである。男たちはそう考えてこそ女性の立っている位置目がけて飛び掛かったのだ大きな影以外は。


「あがっ! が」


その場にいた者たちは皆驚愕していた、男たち盗賊は居る筈のない大きな影に、女性は敵だと思っていた大きな影が男たちの頭蓋を鷲掴みにしていることに。


───

──



少し前。


「状況は分かるか? ヒア」


「大勢の男が建物をかこっている、建物の方は女の魔法使いが魔法陣を使って守っているが屋根を登ろうとしている奴がいてそいつに殺されるだろうね」


森を風の様に大きな男、デスマスクと妖精、ヒアが突き進んでいきながら会話していた。


「じゃあまずそいつから倒さねばな」


「あ、一人死んだ。気を付けてね魔法陣を踏んだら大やけどしちゃうから」


「忠告有り難い、とりあえず男どもを何とかして女の方からこのあたりの事を聞こう」


「ついたよ隠れよう」


ヒアの合図で木の陰に隠れる、殆どが孤児院の前面にいるためか屋根に登っていく男二人以外誰一人いなかった。

男二人は小声で話していたが自分達以外誰も裏側にいないと思って居たのだろう、しっかり近くで隠れていたデスマスクたちにも聞こえていた。


「前でボスの腰ぎんちゃくが殺されたの見たか? あんなの踏んじまったらと思うと足もすくむよ」


「馬鹿め、だからこそボスの作戦通り上から女を襲うんだろうが。罠を仕掛けたやつの近くには無い、殺した後は使えないガキどもを歩かせて処分する。ただそれだけの事よ」


「ひー、残酷な事」


屋根の上に上りボスの合図を確認したと同時に屋根を蹴り剣を女に振り下げる、後ろに飛び掛かる存在に気づかないまま。


──

───


「あがっ! が」


デスマスクが空中で男たちの頭を鷲掴みにしたと同時にそのまま頭を握りつぶした、空中で広がる血しぶきはまるで腐り堕ちたトマトの汁の様に空中を汚していった。

その直後、手を放して背中に腕を叩きつけて地面に叩き付ける、鈍い音を出して地面に叩き付けられた二体の死体の片方は魔法陣にぶつかりそのまま火葬に、もう片方の死体はつぶれた蛙の様に四肢を投げ出していた。

デスマスクはもえなかった方の死体に向かって腕を振り姿勢をくねらせ空中で無理やり変えて死体の上に降り立つ。


「そこの女、助太刀しよう」


「あなたはいったい誰なの? …」


「話は後だ、いくぞ」


デスマスクがそう言った後宙を飛んだ、一足で魔法陣があると思われる範囲を超えて周りをかこっている盗賊たちの所に着地すると腰に付けたマチェットを抜き近くで腰の抜けた盗賊首を切る。

切られた盗賊の頭は吹き出した血の勢いで吹き飛んでいった。


「こっこいつ! その巨体でなんて跳躍だ。切れ! 切れぇぇぇ!!! 」


焦った他の盗賊三人が剣を振りかざし叫びながらデスマスクに迫ってくる、だが相対するデスマスクはついさっき殺した死体を片手で持ち上げブン投げる。投げられた先にいた盗賊三人のうち二人は仲間の死体を物凄い勢いでぶつけられて思わず倒れこむ、そのすきに身を屈め残りの一人の懐に飛び込んでみぞおちに拳で貫く。

やっとのことで仲間の死体から逃れた盗賊二人は身を起こそうとしているところにマチェットで二人同時に首を切られた。


その場に居たものはデスマスクの流れるような動きに恐怖した、熟練の料理人が得意な料理を作るが如く一切の迷いなく人を殺していったのだから。


「落ち着け! 固まらずに周りを囲え! 」


男がそう合図した直後火球が男に向かって突っ込んでくる、狼狽しながらも剣を抜き火球を切り裂きかき消す。


「支援するわ、なるべく当てない様にするけど気を付けて」


「おのれぇ……先に男の方から殺せぇ! 」


現時点ではすでに五人殺しているとはいえ今この瞬間にまた魔法陣が増えているかもしれない女性に向かって攻撃するより、周りを取り囲み優位地の利を得ている状況であるデスマスクに戦力を回して攻撃を仕掛けた方がまだ勝算がある。盗賊たちはそう計算してデスマスクを取り囲んだのだ。

だが、それは余りにも愚策だった。


目の前から迫る盗賊の頭をカウンター気味に蹴り潰し、後ろから来た盗賊の腕を掴み高く放り投げ、着地をする前に火球に丁度当たり炎上しながら地面にぶつかってバラバラになった。横から来たら切り捨て、前から来たら左足で足で相手の足を踏みつぶしてからその左足の膝で頭を打ち砕く、左右から来た盗賊二人の攻撃をかわしマチェットを上に投げ両手で二つの頭をつかみお互いにぶつけて潰した。

その後ろから不意打ち気味に盗賊が襲いかかってきたが火球が近くに着弾した拍子によろけたところを落ちてきたマチェットを掴んでそのままの勢いで振り下ろし真っ二つにする。

業を煮やした盗賊たちはお互いの目を見て合図し、前後左右一斉に襲い掛かった。デスマスクは特に動揺もせずマチェットを収め丸太の様な剛腕を振り回す。剣がデスマスクの首を切りつける前に吹き飛ばされ地面に叩き付けられる様は巨象の鼻に振り回される子猫のようであった。

盗賊の一人が叫ぶ。


「槍だ、槍で刺してしまえ! 」


叩き潰された盗賊を飛び越えて長槍を構えた盗賊が突進してきた、しかし刃に近い棒の部分をつかみ強引に奪い構え直して片手で振り回し少し離れた位置にいる盗賊を切りつける。それを見て逃げ出した槍を持った盗賊に向かってデスマスクは全力で槍を投げ胸を刺し貫く、余りの勢いで人の身の丈以上の長槍の頭から尻まで通り抜けて木に突き刺さってしまった。

そうしていくうちにいつの間にか恐れをなして逃げ出してしまう者が出て何時しかボスである男しか居なくなってしまった。


「後は頭であるお前だけだ、最後までやるか? 」


男は眉間にしわを寄せて内心激高していながらも考えていた。



(いきなり現れたと思ったら、部下を次々と殺していったこの男は一体何者だ? あいつの実力はおそらく俺よりも上だろう……逃げ出すとしても後ろには女と魔法陣群に孤児院、前にはこいつ。よしんば魔法陣を避けて女を切り捨てたとて、その間に追いつかれて殺される。だとしたら道は一つだ)



女性もデスマスクの強さに圧倒しながらもその正体を推測していた。



(あの男、魔法を使わず十数人の盗賊と互角以上に戦うなんて一体何者……? あれほど戦えるなんて都市部の騎士団か名の売れた賞金稼ぎか傭兵くらいだけど。紋章が無いし男だから騎士団ではないはず、だとしたら賞金稼ぎか傭兵かだけど聞いたことがないし……、遠くから来たのかしら? )



そして男は決断した。デスマスクに向かって不意打ち気味に突っ込みガムシャラに剣を振り回して攻撃しようとする。それに対するデスマスクは再びマチェットを構え居なそうとした……その時、



カッ



突然男とデスマスクの間から光が爆発した。


「目くらましか! 」


デスマスクが叫んだその直後、男の姿がなくなり何かが突き刺さる衝撃が襲った。


「後ろからの攻撃は分かるまい! 」


上斜め後ろ、男が小剣で背中を突き刺したのだ。そのまま背中を蹴りデスマスクから離れ逃げようと走り去る。


男は確信していた、このまま逃げ切れると。小剣とはいえ深くまで刺さったのだから気を失ったとしても可笑しくはないだろう、よしんば体を魔法で直したとして目が覚める頃には山の向こう海の向こうどこだって逃げ出せると。



それは間違いであった。


────

──


着の生い茂る森の中で道なきけもの道をひた走る、自らの足音とひどく荒い心音だけしか聞こえない……筈だった。



自らの足音とも心音とも違う音が聞こえた。その音に気づくころにはあまりに小さくきっと違う、俺の気のせいだ、と男は必至で思い込もうとしていた。だが段々音が大きくなっていくにつれてその思い込みの力も反比例して小さくなっていってしまった、そしてつい後ろを振り向いてしまい目にしてしまったのだ。



そこには地面に轟音を響かせながら鬼神の如く走り迫るデスマスクの姿があった。


「ぎがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


孤児院から遠く離れた森の奥でかき切れるような悲痛な叫びが一つ木霊した。


──

───





「戻ってきたぞ」


森の奥から首の部分がねじ切られている男の首をつかみながら出てきたデスマスク。

それを孤児院の玄関で二人は待っていたようだ。


「お帰り、君が追いかけて行っている間に自己紹介は済ませておいたよ」


「おかえりなさい、さっきは大丈夫だった? 思い切り刺さっているように見えたけど……」


「大丈夫だ、それよりすまないが濡れた布は無いか? 返り血がひどくて……それとこのあたりに来たばかりでな、近くの村とか都市とかの事も教えてもらえると嬉しい」


「ええわかっているわ、感謝もしているしそれにもうすぐ日も暮れるから泊まっていきなさい」


「ありがたい」


「ありがとねー」


デスマスクとヒアが孤児院の中に入ると部屋の中には子供達とシスター服を着た妙齢の女性、それとなんとも形容しがたいモンスターがいた。

子供たちの方は3~4歳くらいの小さい子から13歳くらいの少し大きめの子供までいたがそれだけでなく異様に毛深い者、羽の様な物が生えている者、肌がうろこ状になっている者まで様々居た。

シスター服の女性は半ば20代くらいの見た目で肌が薄ら白く、顔色は余りにも悪そうに見えていた。小さい子のあやしながら周りに気を配っている様子だった。

最後にモンスターはその肌は乾いた分厚い皮でできていてなおかつその姿は巨大なナメクジの様な姿であった、頭部と思わしき部分に長く太い二本の触手とその真ん中に一つ飛び出た目玉と乾いた洞窟の様な口をしていた。その二本の触手を巧みに使い一本は走り出そうとしている子供を制し、もう一本は子供との手遊びに使われていた。


「随分と沢山いるものだな」


デスマスクは飛び掛かる子供を軽くいなしながら魔法を使う方の女性に話しかける。話しかけられた方の女性は奥の部屋から明るい笑顔で濡れた布を差し出しながら答える。


「孤児院ですからね」


「こんなところで孤児院をやっているの? 」


疑問に思ったラスカルが質問をするが女性は子供と話をするように答える。


「森の近くなら広いし安全だと思ったんだけどね、わざわざ此処まで来るなんて盗賊も誰かに追われていたのかしら? 名にはともあれあなたたちには感謝しているわ。あのままじゃみんなの家を捨てて逃げることになっていたのだから」


デスマスクは濡れた布を受け取ると体をふき始めた。


「あれくらい軽いものだ」


「あれはすごかったわよ、なんせ魔法を使わずにあそこまで飛んで走って行ったりするもの」


「……あーすまない、私は魔法の使い方がわからないんだ」


「デスマスクは自然と魔法を使えるんだ」


「そんな事……遠い所から来たのかしら? 」


「ああ、だいぶ遠いところからきてなだからこのあたりの事を聞こうと寄ってきたんだ」


「僕はついさっき知り合っただけさ」


デスマスクとラスカルは事情を説明すると女性は納得したような表情を見せある提案をした。


「それだったら、ついでに軽く教えるわ」



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