悪魔と契約したからと言って必ずひどい目に合うとは限らない
処女作です。
俺には記憶が無い。
気が付いた時にはトラックの荷台みたいなところにいたことは分かった。
内装は奇抜で出来の悪いキャラクターのヌイグルミにサーカスの様な絵柄の飾りつけをされていて、トラックは夜道の道路を走っているのか一つしかない窓から規則的に光が荷台の中を嘗め回すように照らしている。
完全に意識が戻った時に奴は現れた。
「気分はいかがですか」
そいつはやせ細ったピエロの様な風貌でこちらを見ていたのだ。
「すまないがまずは一つだけ答えてくれ、ここはどこだ? 」
「ああ、すみませんね。公の場でできるような話ではないので場所は明かせないのですよ。でもご安心ください、どちらにせよあなたに不利益はございません」
「わかった、次に移ってもいいか? 」
「どうぞ、答えられないこと以外はすべて答えましょう」
「じゃあ、あなたに甘えよう。あなたは誰だ? 」
「悪魔です」
ピエロはあまりにもあっさり答えるので俺は拍子ぬけしてしまった。
悪魔がこうも正直に答えるのか? いや先ほど此処の場所は明かせないと言った。
ならば悪魔であることを明かしてしまってもよいのか? 俺は頭をフル回転させて考えたが納得できる考えは浮かばなかった。
「あー、うん……じゃああなたが悪魔として何の用だ? 」
悪魔は貼り付けたような笑顔をして言った。
「なに、簡単であなたにしかできないことですよ? ほんの少しお手伝い頂ければいい話なんですから」
「あなたが悪魔だとすれば勿論『契約書』の類はあるんだろう? 」
「おー、これは……話が早いと助かります。約束事には付き物ですからね」
ピエロが全身をまさぐる仕草をしたと思ったら突然何かを思い出したように指を鳴らし、次の瞬間には
頭の上に軽いものが落ちてきた感覚がした。
ポスっ
軽い音がして目の前に落ちてきたものを見る。
どうやら紙を筒状にしたものらしい、しかし良いのだろうか大事な物のはずなのに。
ふとピエロを見るに早く確認しないかと待っていた。
仕方がないので拾って中を確認する。
「中身はずいぶん見づらいじゃないか、一番下の四角にサインすればいいのだろうが……残念ながら自分の名前は覚えていないんだ。どうしたらいい? 」
「別にサインするという気持ちさえあればいいんです。たとえあだ名でも偽名でもなんでもね」
しかし悪魔と契約するなんて危険極まりない、大体の昔話じゃ最後はひどい目に合うじゃないか。
……そうだ之くらいならしてもかまわんだろう。
ちょいちょちょい
よし、あとは名前だけど近くに参考にできるものはないだろうか例えばトラック内のポスターとか。
『デスマスク~VSマッドフェイス~』
こいつでいいか、丁度目の前に本物もいるし。契約書に『デスマスク』……と。
「これでいいか? ほらよ」
書いた契約書をピエロに差し出したらロクに確認せずに放り出してしまった、やはりあまり大事にしないらしい。
「そういやあんたの名前は? 」
「聞かれたからにはお答えしましょう『スケェアリィ』です。いい名でしょう? 」
スケェアリィ……恐怖か。
そのままそいつは笑顔のまま口を開いた。
「契約は成立だ、やって欲しい事についてはまたメモを渡しておくから君だけでも先に行っといてくれ」
「ところで俺は何所に行くんだ?魑魅魍魎の動物園や地震雷火事親父のバーゲンセールなんて御免だ」
「それは安心してくれ流石に死ぬようなことはないさ。そんなことになったら君を連れてきた意味はないからね」
それを聞いてまた少し不安になった、やることやったらその後はどうなるのだろうか。そんなことを思っているとピエロが指を鳴らすように構えた。
「そろそろ時間だ、またお話しする事があればその時会うだろうね」
そういうとピエロは指を鳴らしたのを最後に気が遠くなったのを感じ、眠ってしまった。